スクウェア・エニックス和田氏が語る3つの事業戦略――「DQVIII」もコミュニティーを前提に作られた?:アジア オンラインゲーム カンファレンス2005
2月28日、3月1日にかけて、初となる「アジアオンラインゲームカンファレンス2005」が開催されている。開幕式を終え、トップバッターを飾ったのはスクウェア・エニックス代表取締役社長、和田洋一氏。同社のこれまで、そしてこれからのオンラインゲームに対する戦略とは?
コミュニティーを前提に作られた「ドラゴンクエストVIII」
「TVゲームが生まれてから10年おきに訴求する価値が変わってきた。」という言葉と共に始まった和田氏のセッション。この意味するところは、ゲームセンターや喫茶店でゲームをプレイしていた時代へと遡る。セーブを必要としない範囲でのゲームが存在していた時代だ。
そして20年近く前に家庭用ゲーム機が生まれ、ゲームは進化した。セーブという手段が生まれたことによる活性化、出すタイトルすべてが新鮮だった。そして10年前にプレイステーションやセガサターンといった機体へとなり、3Dグラフィックが進化。そしてどんどんリアルになっていった。
家庭のTVでゲームが動いたという10年、そしてグラフィックがどんどん進化していった10年。そして今を含む10年は、コミュニケーションが取れるということがテーマになっていく、逆に相手がずっとコンピュータ相手だったこの20数年間が、非常に特殊だったかもしれない、と和田氏は語った。
とは言え、コンピュータ相手だったこれまでにコミュニティーが決して生まれなかったわけではない。ちょっと話が脱線してしまうと前置きをしつつ、和田氏は同社の人気タイトル「ドラゴンクエストVIII」(以下、「DQVIII」)の開発現場で聞いた話を披露してくれた。
「これ学校で流行るよな、子供たちが後ろで見ていて絶対やりたくなるよな、といったことを開発者がずっと話しているんです。売れ行きが不安なのかな、と思っていたんですが、実はそうではなかった。どういうことかと言うと、コミュニティーの母体としてのゲームを設計しているということなんです。つまり、あるアイテムをどうやって取ったかというコミュニケーションが学校で行われる。それでまた盛り上がる。ゲームの中だけでなく、友だち同士の会話が想定してデザインされているんです。外部のコミュニティーを最初から想定しているんですね。」
和田氏の発言は、同じゲームになれというわけでは決してない。が、現在の新しい価値である「コミュニティー」がどれほどの深い位置に刺さっているのか、そしてどういった考えを持って取り組んでいくべき問題なのかを伝えてくれたように思う。
スクウェア・エニックスが取り組む3つのテーマ
セッションの流れ自体は大きく分けて3つ。1.オンラインゲーム市場におけるスクウェア・エニックスのポジション。2.オンラインゲームにおける事業戦略。3.オンラインゲーム事業に存在する課題、であった。
まず1だが、ポジションとは言っても日本国内ではまだ多くを語れるほどのマーケットではない。スクウェア・エニックスとしては「ファイナルファンタジーXI」、そして中国で展開している「クロスゲート」が大きなタイトルになるだろう。
日本の統計資料がないため、勢力比較は行われなかったが、自社のオンライン事業の決算内容に、韓国と中国のネットワークゲーム企業の決算内容を照らし合わせ比較を行ってくれた。
資料を見た限り、比較された3企業の差、何より日本と他2国の差というのはそれほどでもなかった。和田氏自身も、「ものすごく開きがあるように思っているかもしれないが」と苦笑い気味に解説を行っていた。
とは言え、その資料自体も完全なものではなく、アカウント数なのか同時接続者数なのかなど、統計の対象となっているものは統一されていないという。だが、何の統計も用意されていない状態では事実誤認が生まれる。それによりオンライン後進国と呼ばれるのがカチンとくると和田氏は語っていた。だからこそ、事実に基づいた統計を行うためにも、統計資料は絶対に必要だということも……。
そして2の事業戦略については、収益モデルとPlayOnlineの2つにテーマを分けて話を展開してくれた。まず、現在の日本オンラインゲームには大きく分けて3種類、コンシューマ型(例:ディスク販売+定額課金)、アーケード型(従量課金+ディスク販売?)、デリバティブ型という収益モデルがあるという。
コンシューマ型はその名の通り、家庭用コンシューマ機で多く見られるタイプだ。「FFXI」もこのタイプで、「FFXI」は初期コスト(開発費など)をパッケージ料金で回収し、サーバーやメンテナンス、パッチは定額課金で補っているという。
アーケード型は主にプリベイド制のものを指している。タイトルによってはディスク販売を行うものと行わないものがあるため、?マークをつけたとのことだ。
問題なのは3番目のデリバティブ型。「収益モデルとしては成立する」と和田氏は前置きをしながらも、「リアルマネートレード(RMT)のような問題も抱えており、ゲームの崩壊危機がはらんでいる。やるのであれば、最初からゲームデザインに組み込むことが必要」だと危機感を募らせていた。
なお、和田氏のいうRMTはあくまでパブリシティサイドが組み込んだものとして話が展開されているので、注意してもらいたい。
同社の「PlayOnline」に関しては、「マルチプラットフォーム」「マルチコミュニティー」「マルチコンテンツ」の3つが掲げられた。これを形成していくことにより、PCでは入れたけど、携帯では入れないとなってきたものが、どこからでも入れるようになる。つまり、ネットワーク・端末・メディアといったものが不要になるのだという。分かりやすい形で言うと、ATMと一緒だとのこと。
さらに和田氏は「コンテンツすら半透明になる可能性もある」と語る。これは、「コミュニティーが一番重要になる」ことを指しているらしく、最初の和田氏の発言にもあったように、価値がどんどんシフトしていることに関係しているという。
これまでは100時間楽しめる冒険を、セーブを取りながら楽しんでいたものが、今後はゲームそのものというよりは、ゲームの中のコミュニティが最も重要になるということだ。自分が生きた証はゲームクリアからゲーム内の友だちへと……これをどう商売としていくかが一番重要になるとのこと。
最後に、3のオンラインゲーム事業に内在する課題についてだが、「21世紀に入って人類はふたつのことを経験する」と何とも意味深な発言から始まった。これはひとつが「バーチャルな社会を作ること」、ひとつが「命が作ること」だという。
これに関して和田氏は、「誰が儲ける、儲けないの話ではなく、本当に経験をしたことがないこと。ちゃんと議論して、ちゃんとやらないとえらい目にあいます。」と述べた。
![photo](https://image.itmedia.co.jp/games/articles/0502/28/ge_wada4.jpg)
えらい目にあう、とは何のことなのか?これに対して和田氏は、文化的課題として「ネット社会における社会規範」」の作成を挙げた。規制ではなく、規範。例えば道で会ったら挨拶しましょう、ゴミがあったら拾いましょう、といった「当たり前のこと」を指す。
だが、顔が見えない、匿名といったオンラインゲーム環境になると、リアルな生活で身についている規範のタガがはずれてしまうという。ネットワークで生きるということはどういうことか?それを教えるために、ヒステリーにならずに、真面目に考えるしかないとのことだ。
「腰を落ち着けて議論していかないと、産業自体の発展をかなり阻害してしまうことになりかねない」と和田氏はセッションの最後を締めくくった。その言葉には、オンラインゲームへの大きな期待感と同じだけの危機感・使命感が募っていたように思う。
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