「モーションセンサー」ってどんな仕組みなの?:「Wiiリモコン」を手にする前に予習しておきましょう(1/2 ページ)
任天堂の新世代ゲーム機「Wii」用のコントローラ「Wiiリモコン」には、3次元のモーションセンサーが内蔵され、Wiiリモコンを振るなどの動作によってゲームを操作できる。この3次元のモーションセンサーとは一体どのような仕組みなのだろう。
もともとはエアバッグがメインの応用用途だった
任天堂の新世代ゲーム機Wii用のコントローラ「Wiiリモコン」は、これまでのゲーム機用コントローラのイメージをくつがえす特異な形状をしているだけでなく、3次元のモーションセンサーを内蔵することによって、コントローラ自体を振ったり傾けたり、といった動作を検知してゲームの操作に利用できるなど、まさに全く新しいコントローラに仕上がっている。
ところで、このWiiリモコンに内蔵されているモーションセンサーとは、一体どのようなものなのだろう。今回、このWiiリモコンに内蔵されているモーションセンサーを製造する、STマイクロエレクトロニクスの方に詳細をうかがうことができた。
Wiiリモコンに内蔵されるモーションセンサーと呼ばれているものは、正式には「3次元加速度センサー」と呼ばれているもので、前後・左右・上下という3方向に対する加速度の変化を関知するセンサーだ。このセンサーを利用することで、物体の動きを3次元方向に関知できるのはもちろん、物体の傾きも検出できる。まずは、この3次元加速度センサーについて話を聞いてみた。
「もともと、加速度センサー自体はかなり歴史の長いデバイスでして、昔からさまざまな分野で利用されています。その中でも特に大きな応用分野となっているのが、車のエアバッグです。」こう語ってくれたのは、STマイクロエレクトロニクスの大内篤氏。エアバッグは、車が衝突するなどの大きな衝撃が加わった場合、瞬時にエアバッグを開いて乗員を守るシステムだが、その衝撃を検知しているのが加速度センサーというわけだ。
エアバッグに搭載されている加速度センサーは、一般的に1次元(前後のみ)のものが多いそうで、基本的に加速度センサーを複数搭載して各方向からの衝撃を検知している。ただ、1次元の加速度センサーでは他方面の分野に応用が利かないということで、15年ほど前に登場してきたのが2次元の加速度センサーだ。
2次元の加速度センサーは、車のエアバッグだけでなく、民生用のさまざまな機器にも搭載され、活用されてきた。例えば、ノートパソコンに搭載することで、パソコンの傾きや加速度の変化などを検出し、本体に衝撃が加わると判断したら即座にハードディスクのヘッドを退避させて衝撃からデータを保護する、という役割に活用されている。
なぜ、本体に衝撃が加わるのを未然に検知できるのか。それは、加速度センサーは重力もしっかりと検知できるからだ。パソコン本体を誤って机の上などから落としてしまった場合、パソコン本体は自由落下することになり、一瞬だが無重力状態となる。その無重力状態を加速度センサーが検知し、その情報からパソコン本体が現在落下中でこの後衝撃が加わるだろう、と判断しているわけである。
これは、ノートパソコンだけでなく、ハードディスクを内蔵するポータブルプレーヤーなどでも応用されている。もともとHDDは非常にデリケートなデバイスで、あまり持ち歩いて利用するようなものではないのだが、この加速度センサーによる衝撃検出ができるようになったことで、常に持ち歩くポータブルプレーヤーなどでもハードディスクを内蔵する製品が増えた。
また、ゲームボーイアドバンス用のゲームソフト「コロコロカービィ」や「ヨッシーの万有引力」にも、カートリッジ内に2軸の加速度センサーが内蔵されており、ゲームボーイアドバンス本体を傾けてプレイするという新たなプレイスタイルを実現していた。
もちろん、2次元の加速度センサーを3次元の空間内で利用する場合には、検出範囲が限られてしまい、もう一歩応用範囲が広がらなかったのも事実。そこで、さらなる市場拡大を目指して開発されたのが3次元の加速度センサーだ。
現在、衝撃検出機能が盛り込まれたポータブルプレーヤーやノートパソコンでは、この3次元加速度センサーが採用されているものが多くなっている。しかも、技術が進んだことで3次元加速度センサーが安価に製造できるようになり、さまざまな分野で利用されるようになってきたそうだ。そして、もともと加速度センサーを使ったゲームを開発した経験のある任天堂が、次世代ゲーム機を開発するに当たって、加速度センサーをうまく使えないかと検討していたところに、STマイクロエレクトロニクスの3次元加速度センサーがタイミング良く市場に投入され、任天堂のニーズにマッチして採用されることになったそうだ。
センサー内部に可動部分があり、それが動くことで加速度を検知する
Wiiリモコンに搭載される実際の3次元加速度センサーは、非常に小さなチップとなっており、これで本当に物体の動きや傾きを関知できるのか、非常に不安に感じる。しかし実際には、非常に小さな加速度の変化も検知できるほどに高性能なものなのである。実際にWiiリモコンに採用されたデバイスではないが、大きさが5ミリ角程度のセンサーを見せていただいたのだが、このセンサーを机の上に置き、1メートルほど離れた場所で机を指で軽くとんとんと叩いた時の小さな振動による加速度の変化ですら検知できるほどで、1/2000G〜1/3000Gという非常に微少な加速度も検知できるほどの感度を持っているそうだ。
では、この3次元加速度センサーはどういった構造になっているのか。STマイクロエレクトロニクスが開発した3次元加速度センサーは、「静電容量方式」という方式のものだそうだ。チップ内部に可動部分が存在しており、その時の電気的な特性の変化を見ることによって、どの方向からどのような加速度がかかっているのかを検知するのである。
ICチップ内部に可動部分があるというのは非常に想像しにくいものだが、実際に加速度センサーを手で振ったりすると、中にある可動部分が動いているそうだ。当初、チップ内に可動部分があるとは考えていなかったため、このことを聞いたときにはかなりの衝撃を受けた。
チップ内の可動部分は、左の図のようなクシのような多数のフィンが配置された構造となっており、動かない部分のフィンと接触しないように配置されている。可動部分と非可動部分のフィンの間には隙間があり、それぞれシリコンで作られているため、双方のフィンが極版の役割となり、コンデンサと同じような構造を成している。
そして、外からの衝撃などによって加わる加速度によって可動部分のフィンが移動すると、非可動部分のフィンとの間隔が変化し、静電容量(コンデンサに蓄えられる電気の量を示す)も変化する(静電容量は、極版の間隔に反比例して変化する)。その静電容量の変化を検知することによって、どの程度の加速度がどの方向から加わっているかを検知しているわけだ。
小さな箱の中におもりを入れ、そのおもりを上下・左右・前後6面の箱の壁からバネばかりを使って均等の力で支える。その状態で箱に衝撃が加わると、箱は動くがおもりは今いる場所にとどまろうとすることによって、箱の中で見ればおもりが動いたようになる。その時にバネばかりの目盛りを見ればどの方向にどの程度移動したかが分かる。それによって、衝撃が加わった方向と衝撃の強さが分かる。それと同じようなことが、5ミリ角の極小チップの中で行われていると考えれば分かりやすいかもしれない。
ちなみにこの図は2次元加速度センサーのもので、3次元加速度センサーの具体的な構造は“企業秘密”ということで教えてもらえなかった。とはいえ、水平方向の2次元に加えて、縦方向の静電容量の変化によって縦方向の加速度を検知しているそうで、基本的な構造や仕組みは同じと考えて良さそうだ。
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