「モーションセンサー」ってどんな仕組みなの?:「Wiiリモコン」を手にする前に予習しておきましょう(2/2 ページ)
一般的な半導体チップと同じ製造方法で可動部分を作り出す
この3次元加速度センサーの可動部分はどのように作られているのか。最初に構造を聞いたときには、可動部分だけ別で作って後から組み合わせているのか、とも思ったのだが、これだけ小さなものでそういった製造方法はほとんど不可能のはず。ではどうやっているのか。実は、基本的な製造方法は、一般的な半導体チップと同じなのだそうだ。
「一般的な半導体チップは、シリコンウエハ上に何度も露光やエッチングなどを繰り返して製造されています。3次元加速度センサーの製造方法も基本的には同じですが、シリコンウエハ上に微少な可動構造物を製造する「MEMS」という技術を使って製造しています。」と大内氏(MEMSとは「Micro Electrical Mechanical System」の略)。
まず、シリコンウエハ上に仮の層を作っておき、その上に可動部分となる構造体を作成し、最終的に仮の層を溶かしてしまうことによって製造するそうだ。この可動部分の厚さは15ミクロンほどあり、一般的な半導体の製造プロセスからすると、かなり厚くなっている(現在の最先端の製造プロセスは0.1ミクロンを下回っている)。
また、可動部分は一部の固定箇所を除いて完全に浮いた状態となっており、固定されている部分がバネのよう構造になっている。これで、加速度の変化によって可動部分が移動したり元の位置に戻るなどすることによって静電容量が変化し、その変化を測定することで加速度が加わっている向きや大きさが分かるのだ。
ちなみに、可動部分があるということは、大きな衝撃が加わると壊れてしまうという可能性もあるだろう。その点について大内氏に聞いてみたところ、「昔は壊れることが良くあったようです。加速度センサー登場当初は1500G〜2000Gほどの耐衝撃性と言われていまして、一見するとかなりの耐衝撃性があるように思うのですが、実際には製造時の軽い衝撃でも壊れてしまうことがありました。しかし最近では技術の進歩によって、5000Gほどの耐衝撃性を持つものが一般的となっています。それに対して我々の3次元加速度センサーは10000Gの耐衝撃性がありますので、普通に使う範囲内であればまず壊れることはありません。」とのこと。これなら、いくら力強くWiiリモコンを振り回したりしても、センサーが壊れることはないだろう。
傾きも検出できるが、全てはセンサーを利用する側のノウハウが重要となる
地球には重力がある。また、3次元加速度センサー内部の可動部分を構成するシリコンには重さがあり、当然重力の影響も受ける。ということで、重力による可動部分の影響を見ることによって、現在の傾きを知ることが可能となる。
チップを定常状態(水平位置)に置いた状態では、下に向かって1Gの重力がかかっている。しかし、チップを右斜め45度に傾けたとすると、1Gの重力がかかる向きも変化する。そして、それをチップの下方向および右方向への成分に分解した場合、それぞれ1/√2G(約0.707G)となる。このように、チップの各方向に対する微少な加速度の変化を検知して傾きを検出しているのである。実際にE3 2006で展示されていたWiiのプレイアブルデモにも、「TONY HAWK'S DOWNHILL JAM」のようにWiiリモコンを横に持ち傾けて操作するものが存在しており、3次元加速度センサーを利用した傾きの検出も、問題なく可能なことが分かる。
ところで、実際に3次元加速度センサーで物体の動きや傾きを検出するのは、口で言うほど簡単なことではないようだ。重力による加速度も、物体に衝撃を加えたことによって発生する加速度も、物理的な加速度としては全く同じもの。そのため、どれが重力による加速度なのかをきちんと判断できなければ、正確な動きや傾きを検出することは不可能だ。そして傾きの判断は、加速度センサーが行っているのではなく、加速度センサーから出力される情報を外部で処理することによって判断している。つまり、加速度センサーから出力される情報を受け取るアプリケーション側で判断しているというわけだ。
加速度センサーから得られた情報には、すべて重力の情報が含まれている。となると、傾きを求めるのはもちろん、正確な加速度の大きさや向きを求める場合でも、重力の影響を考慮しなければならない。そしてそれには、加速度センサーを使う側のデータ処理に関するノウハウが要求されることになる。
また、正確に傾きを検知するためには、基盤上に実装する場合の傾きにも注意しなければならない。基盤上に斜めに実装されてしまうと、当然正確に傾きを検出できなくなってしまう。製造時の品質管理も非常に重要なポイントとなる。
その点任天堂は、以前から加速度センサーを活用しているため、加速度センサーから送られてくる情報をどのように処理してゲームで活用すればいいのか、また、実装時の品質管理はどうすればいいのか、すでにある程度ノウハウが蓄積されているはず。また、Wiiの開発ツールにも、そのノウハウをベースとした3次元加速度センサーを利用するためのライブラリが含まれていると思われる。つまり「3次元加速度センサーを乗せたので自由に使ってください」と言うだけではなく、「3次元加速度センサーを乗せました。このように使えばうまく活用できますよ」と言っているということだ。それは、E3 2006の段階で、あれだけの数のWiiリモコンを駆使してプレイするタイトルがそろえられている点からも想像できる。とにかく、この点は大きな優位点となっているはずだ。
さらに、3次元加速度センサーの使い方によっては、単純にコントローラを振ったり傾けたりといった動き以外にも応用できると思われる。そういった意味では、Wiiリモコンには我々が思っている以上の可能性が秘められていると言ってもいいだろう。Wiiで新しい遊びが提供されるだけでなく、ゲームプレイの概念すら変えてしまうかもしれない。そして、それを可能にする3次元加速度センサーは、やはり”すごい”ものだと再認識させられた。
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