「ラブ and ベリー」に母娘がハマる理由CEDEC 2006(1/2 ページ)

なぜ「オシャレ魔女 ラブ and ベリー」はウケたのか? セガの植村氏が惜しげもなくそのヒントを明らかにしてくれた。

» 2006年08月31日 23時14分 公開
[今藤弘一,ITmedia]

奇をてらわずに受け入れられるテーマが「オシャレ」だった

画像 セガ R&Dクリエイティブオフィサー 植村比呂志氏

 CEDEC 2006 2日目となった8月31日には、「オシャレ魔女 ラブ and ベリー」(以下、ラブ and ベリー)の開発者である植村比呂志氏により、「オシャレ魔女 ラブ and ベリー開発秘話」と題されたセッションが開催された。

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 「ラブ and ベリー」は現在、カードの販売枚数では1億8300万枚。カードは1枚100円なので、183億円の売り上げがあるということになる。出荷枚数から類推したユーザーは200万人程度だそうだ。筐体の出荷台数は9700台に及ぶが、こちらも驚異的な数字。カードは4カ月に1回バージョンアップしており、そのときに30種類くらいのアイテムを追加。現在は222種類のカードが存在する。

 植村氏は「甲虫王者 ムシキング」(以下、ムシキング)の開発者でもあるが、「ラブ and ベリー」の企画に取りかかったのはムシキングを作っている最中。もちろん、「ラブ and ベリー」が登場する前には、女児向けのゲームでヒットしたものは存在しない。「リスクを考えたら第2弾も男児向けとすることが順当だが、第2弾は女児向けのゲームと決めていた。しかし次も男児向けにしてしまうと、未成熟の『ムシキング』が死んでしまう」(植村氏)。とはいえ、「ヒットしないと先がない。このため1年半は暗中模索」(植村氏)。

画像 ロケテスト時のアンケート結果。女の子でも4割が「ムシキング」で遊んでいる。「13%の男の子が『ラブ and ベリー』で遊んでるのは、当時は『ムシキング』以外にはゲーム機がなく、しかも隣に置いてあったからでは(笑)」(植村氏)

 そんな中で光明が差したのは、「ムシキング」を女児がプレイしている姿だったという。「当時は『ムシキング』くらいしかゲームセンターになかったというのもあるが、プレイしている子どもたちの2〜3割が女の子だった。カードの束を握りしめてプレイする姿を見て、女の子であってもカードゲームで遊びたいんだ、という自信を持てた」(植村氏)。

 また開発に当たっては、奇をてらわず、女の子がみんな「それがいい」と行ってもらえるテーマを選びたかった、と植村氏。「『ムシキング』で遊んでいる子どもたちは、『ムシキング』が好きなのではなく「虫」が好き。ムシカードを集めたいからプレイしている。“このゲームが好き”という前に、“オシャレをして遊べる”ことが重要」(植村氏)。

画像 「オシャレは身だしなみから始まる。

 そして業務用ゲームとして重要なのは「親子で遊べて、親が納得できる」ということ。「183億円の売り上げはほぼ間違いなく親の財布から出ている。親の理解を得られなかったら成立しない」(植村氏)。これに加えて、親がそれだけのお金を使う“納得感”も重要だという。「『ラブ and ベリー』を通して娘が成長するとか、何かメッセージを伝えることができれば納得感につながる」(植村氏)。

 これらから導き出されたのが、「オシャレ」というテーマだ。「オシャレは身だしなみを考えることが第1歩。身だしなみを注意することで、母娘の会話が始まっていく。次にあるのはTPOを考えるということ。これをゲームの中に入れ込んだのがポイント。このため、キャラクターは最初、あえて寝癖のパジャマ姿で登場する。そこからディスコやストリートコートなど、目的にあわせてコーディネイトしていくことになる」(植村氏)。

オシャレを得点化して達成感を与える

 植村氏は、オシャレをルール化することについて悩んだという。「オシャレをするということは個性を発揮すること。そこを得点化することは批判もあると思ったが、それを覚悟してあえてこのようにした」(植村氏)。着飾った人形をともだちに見せて「すてきだね、かわいいね」とほめられるだけでは達成感がない、と植村氏。得点が表示されればその差異も分かりやすいため、“自分のコーディネートが高い得点を出した”ことで、子どもたちは達成感を得ることになる。

 そして次のポイントが、“ゲージのない音ゲー”を作ること。「ゲージを作ってしまうと、丸いマークと縦棒がクロスした瞬間しか子どもは見なくなってしまう。これはオシャレとリンクしないと考えた」(植村氏)。

 「ラブ and ベリー」では発音するタイミングでボタンを押すように作られている。これであれば歌さえ覚えれば3歳児でも遊べるし、初めての歌であっても3、4回聞けば子どもは覚えてしまうので、次からは無理なくプレイできる。「ゲーム業界的には、歌メロでたたかせる、ゲージをはっきり出さないというのは不安があった。しかし子どもたちには論理ではなく、遊んだときに心地よいものが受け入れられる」(植村氏)。

画像画像 会場には「ラブ and ベリー」の筐体とカード、そして現在展開中のアパレル系アイテムも展示。開発スタッフによるデモプレイも披露された

子どもたちの夢を実現させる――アパレルビジネスの展開

 植村氏はまた、ゲームをとにかく続けることが大きな開発方針であると語る。「200枚、300枚と子どもたちが集めたカードが、紙くずにならないようにゲームを続けて、よりおもしろくしていくことが使命」(植村氏)。

画像 開発チームの風景。植村氏以外はみんな女性で、しかもアパレルや服飾関連の出身。「以前は女性1人でみんな男だったが、男性は毎日着ている服装が一緒(笑)。これではオシャレは語れないと思ってこういう構成にした」(植村氏)

 そう考える中で到達したのが「本物になるために、現実のファッションと融合する」こと。「中世のRPGなど、異世界のオシャレでは現実味がない。そこで現実のファッションを取り入れていくことを考えた」(植村氏)。

 ゲームの開発スタッフは、中国の繊維工場に取材に行き、それを元に服装デザインを企画しているそうだ。「中国の繊維工場や生地見本市に行けば、次のシーズンの流行が予想できる。スタッフがそこへ取材に行き、生地やテクスチャを集め、そこからデザイン仕様書を起こす。その際には現物を張り付けて渡すことで、CGのテクスチャからくる質感が、現実のファッションの質感と同じになる」(植村氏)。

 ここからアパレル展開も企画された。「女の子たちの頭の中にあるイメージが現実化されるのが、オシャレの最終形。生地見本を元にCGを起こしているので、いつでもカードにある柄や生地を使って服を作ることができる。ここでゲームとファッションが融合する」(植村氏)。

 そして子どもたちは手に入れた服を着てゲームをプレイしに行く。ここでオシャレをテーマとした世界観ができあがることになる。

画像 デザイン仕様書
画像 「ラブ and ベリー」のチームリーダーとデザイナーも着心地やサイズをチェックするそうだ。世界観をまとめるために重要、と植村氏
画像 9月中旬には盛岡に、テーマパーク「マジカルキャッスル」がオープンする。「ドレスなどはオートクチュール感覚になってしまうので数十万してしまう。このためレンタルで楽しんでもらう。さらに世界観を広げてもらうための場所」(植村氏)

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