岩谷徹氏がゲームクリエイターの資質を問う――「劇的3時間SHOW」開催中
コ・フェスタのオフィシャルイベント「劇的3時間SHOW」が開催されている。10月4日には「パックマン」などを制作した岩谷徹氏が登壇。「塊魂」の高橋慶太氏との対談では、そのちぐはぐぶりで会場を沸かせた。
9月20日の東京ゲームショウ2007を皮切りに、約40日間にわたって開催されている「JAPAN国際コンテンツフェスティバル」(以下、コ・フェスタ)のオフィシャルイベント「劇的3時間SHOW 10人のコンテンツプロフェッショナルが語る」が、10月1日から10日間、東京・青山のスパイラルホールにて行われている。
コ・フェスタはゲームやアニメ、マンガ、キャラクター、放送、音楽、映画などの各業界のコンテンツが一堂に会する世界最大規模の統合的コンテンツフェスティバル。コ・フェスタには、日本のコンテンツを海外に向けて発信することのほかに、関係者の国際的な交流を主旨としつつ、産業を支える若者に刺激を与え、人材の誕生、育成に貢献するという目的もある。「劇的3時間SHOW」はまさにこの人材の誕生と育成を目的に新規に実施するイベントだ。
「劇的3時間SHOW」では、日本のコンテンツ業界で活躍するプロフェッショナルが1日1名ずつ登場し、自身の成功につながった技術や経験、コンテンツ観などを、3時間という持ち時間を自由に使って語る。イベントには主旨に賛同したアートディレクターである佐藤可士和氏やスタジオジブリプロデューサーの鈴木敏夫士など、豪華な顔ぶれがそろっている。
10月4日にはゲームクリエイターの岩谷徹氏が登場。前半は岩谷氏のゲーム制作に至るまでの原体験からゲームとはいかなるものなのか、クリエイターたちがどのようにゲームに向かうべきかを説くという内容で進行。後半は「塊魂」をプロデュースした高橋慶太氏を迎えて“ちぐはぐ”な対談を展開した。
第1部は岩谷氏の原体験からゲームの楽しさ、ゲームを作る意味を探る
岩谷氏は1955年東京都に生まれ、1977年にナムコ(現バンダイナムコゲームス)に入社し、1980年にビデオゲーム「パックマン」を制作。「ゼビウス」をはじめ、「リッジレーサー」、「タイムクライシス」など50タイトル以上をプロデュースしている。現在は東京工芸大学芸術学部ゲームコース教授に従事。なお、「パックマン」は“世界でもっとも成功した業務用ビデオゲーム機」として2005年にギネスブックに認定された。
岩谷氏はゲーム制作をするまでに蓄積してきた経験こそが大事であると、幼少の頃雪で隠れされた肥だめにはまったことがあると自らの経験談を披露。このトラップにはまる体験こそが後に活きたと例を挙げる。自然の中から遊びを見つけるというアナログなことと、東京に戻ってから経験したデジタルな遊びで得た蓄積が、ゲーム制作にいかに反映されたかを説く。
ここで影響を受けたATARIのシンプルだが現在のゲームに通じる画期的なアーケードのいくつかを紹介したのち、自らの原点となる「パックマン」について触れる。当時はエレメカと呼ばれるあくまでもデパートの屋上やボーリング場などの付帯設備だったゲームが、ゲームセンターなどで遊ぶビデオゲームへと移行した頃で、その変化に伴って値段設定からゲーム設計までの変更を余儀なくされた時代だったと岩谷氏。長時間遊べて、ボス戦などある程度のストーリー性が求められ、プレイの技量をもって先々の展開を目指すなど今でいうレベルデザインが施されることになる。
このほかにも対戦ゲームではプレーヤー間の技量の差異調整が必要な点(遅いクルマが早いクルマに合わせて性能がアップする)や、現在のAIの概念でもある「セルフ・ゲーム・コントロール・システム」がゼビウス以降使用されていることなどに岩谷氏は触れる。
岩谷氏はコンピュータ&センサー技術は工学、プログラミングは数学、ビジュアル・アート・デザインは美学、シナリオ・ストーリー展開は文学、楽曲は音楽など、ゲームは総合芸術であり技術であると、すべての才能が必要であり、経験と人間の研究が大事とあくまでも“FUN FIRST=楽しさ第一主義”を提唱する。歴史家のヨハン・ホイジンガ曰く「人間は遊ぶ存在である」――とあるが、ゲームをする動機について検証してみせる。
前提として面白いと感じる要素を挙げ、「ゲームとは一定のルールに基づいたすべての遊びであり、ゲーム制作においては、プレーヤーが楽しめるように気配りをし、思い寄りを持つサービス精神が大事である」とした。そして岩谷氏はクリエイターの資質についても触れ、何事も観察する洞察力が大事であり、プランニングする際には発想力と経験の掛け合わせの“妙”と、あくまでも自分自身次第と結論づける。特に岩谷氏は、企画する際は「どんな」製品ではなく、「なぜ、なんのために」を説明できることが先決とした。
また、自身の経験からプロデューサーの役割と能力について「あくまでもモノを作る仕組みを作る役割であり、ユーザーはもちろんのこと、経営者や関係者、クリエイターに“価値”を感じさせることが大事」と私見を述べた。そして一番難しいことだが「問題を把握し分析する直感力、問題解決策の構想力、人を動かす説得力と人間的魅力、対立する利害関係をまとめる交渉力や折衝力、相手の気持ちを察する人間性」を求めると、すべてを備えるのはかなりハードルが高い要求を出した。これらを踏まえて、新しいものを拒絶せず、トラブルに関してはどうしようではなく解決策を瞬時に提言できるようにするのが仕事をすることだと語る。何も決定しないのが最悪の選択とも。
岩谷氏は、任天堂の宮本茂氏や、「メタルギアソリッド」シリーズの小島秀夫氏、「風のクロノア」シリーズの吉沢秀行氏など、これまで東京工芸大学での講義などに登壇してくれたクリエイターの言を借り、分かりやすくゲームとは何なのか、遊びとは何なのかを説く。最後に「ゲームはあらゆる題材に拡張し、ゲームを知る事が人間を知る事であり、ゲームは作り手の人生観に支配的」だと、作品のテーマではなく、表現者として自分自身のテーマを持つことだと第1部を締めた。
第2部は“ちぐはぐ”だけどちょっと深い――高橋慶太氏との対談
休憩をはさんでの第2部は「塊魂」プロデューサーの高橋慶太氏を招き、岩谷氏との対談形式でゲームとはなんなのかを語ったはずだが、岩谷氏が冒頭から“ちぐはぐ”と言うとおり、対談は高橋氏のキャラクターもあいまって、会話のキャッチボールというよりも会話のデットボールの様相を呈する。
例えば「塊魂」を作る経緯を岩谷氏が聞くと、アイディアの根源などすっ飛ばして「ある時歩いてたら降ってきたんです。天才肌なんで」としらっと言い切ったり、「何か話題にできる原体験などないんですよね。昔は肥満児だったんで」など、会場も妙なやりとりに思わず笑いが起きる。ついには「塊魂」はできあがってみるとあまり満足していないとまで口走る。高橋氏の持論を要約すると「ゲームは、現実ではできない楽しさや驚きがないと意味がない」とのことで、「塊魂」を転がすという観点のみでいうと、運動会の「大玉転がし」のほうが面白いとのこと。とはいえ、海外での評価など言葉の壁を越えたことやゲームが受け入れられたことは単純にうれしかったそうだ。
ゲームは往々にして企画書の段階では面白くても、試作しているうちに軸がブレていき、気がつけば全然違うものになっていることがあるとのこと。それが面白いか面白くないかは置いておいて、「塊魂」にはそういうことはまったくなかったのだそうだ。最近のゲームはFPSであれアクションであれ、ただ人を殺すだけという想像力と創り手側の人間性を疑うものが多いと苦言を呈する。人間は戦いの歴史でもあるので、その行為自体は否定しないが、ゲームがそれだけになるのはあまりにも表現者として幅が狭くて安直じゃないかというのだ。もっとアイディアはあるはずで、出尽くしたなんてことはありえないというのだ。
よくマーケティングの発言が強くクリエイターの考えを「時代に即さない」や「売れない」など決めつけるが、ゲーム制作は2〜3年かかるもので、現在の指向には即さないのは当たり前と、いっそのことマーケティングなどなくなってくれないかという過激な意見も飛び出した。むしろ、マーケティングも販売もすべての人がゲームを作れば面白いのにとも。
高橋氏は現在、「PLAYSTATION PREMIERE 2007」で発表された「のびのびBOY」の開発に取りかかっているが、まだどんなゲームになるのか画面を見ても理解の外だ。高橋氏はよく、ひと言でキャッチコピーにできるものが売れると言われているが、よく分からないものでもなんか好きっていうのでも売れると思う、と本作がそういうものだと表現。ゲームの面白さは理論ではなく、自分でちょっと考えて突き詰めればいいとクリエイターの怠慢を嘆く。
岩谷氏も高橋氏も、ゲームにしかできないことを創るべきという考えは変わらない。高橋氏の言にあった「ただのレースゲームやるぐらいならガソリン入れる」ではないが、なにか付加価値がないかぎり、ただ画質がよくなりリアルになっただけでは意味がなく、それはゲームではないと言及する。オリジナルのゲーム性あってこそのゲームであり、これからのクリエイターに求めることは、創り手側の蓄積してきた経験をどう発想力でゲームに結びつけ、それをゲームとして落とし込めるかなのだろう。まず何よりも本人だけでもそのゲームの面白さを信じ楽しめなくてはならない。そういう意味では、対談が“ちぐはぐ”でも2人に共通した得難い資質なのかもしれない。
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