「ファッションも娯楽」だと思う――女性による女性のためのツール:「マイスタイリスト」荒木令奈氏インタビュー
はじめはちょっとした思いつきだった。PSP専用カメラが発売されることを知った時、漠然と考えていた、ファッションに特化したソフトのアイディアがつながった気がした……。
ワードローブを整理するというエンターテインメント
「マイスタイリスト」は、PSP専用カメラで自分のワードローブの中のアイテムを撮影し、データとして整理することで、毎日のコーディネートや新しいアイテムを購入する助けとなるファッションライフ・サポートツール。自分だけのスタイリストが、登録したアイテムの着まわしなどの提案もしてくれるというわけだ(ソフト紹介はこちらを参照のこと)。
本作はゲームというカテゴリーに、入れていいものか悩む異色のツールアイテムだ。「マイスタイリスト」を手がけたのは、ソニー・コンピュータエンタテインメント JAPAN STUDIOに所属している荒木令奈氏。元々SCEの社員ではあったが、ゲーム制作とは直接関係のない部署で働いていた。
“オシャレ”というものは、男女問わず気にかけている人は多い。しかし、オシャレに関していえば、はるかに女性と男性とは温度差があると荒木氏は語る。
「『マイスタイリスト』は、自分がほしいと思ったまさに“そのもの”なんです。毎朝、着ていく服を選ぶのに時間がかかり、遅刻しそうになるほど悩んでしまっていました。服があっていないと気分も乗らないし、女性にとってファッションは男性が思うよりも大事な要素なんだと感じていました。そんな時、同僚と自分だけのスタイリストがいればどんなによいかって話していたんです」(荒木氏)
女性の中には自分の持っているワードローブをポラロイドで撮影し、クリッピングしてデータ整理している人がいるが、それをもっと手軽に、データとして整理しやすくファイリングも簡単な、デジタルに快適にできるツールがあればという思いに至ったのだそうだ。
前述したが荒木氏は元々、SCEのハード関連のグラフィックデザインなどを担当していた。荒木氏が自分だけのスタイリストをデジタルに整理できるツールができないものかと考えていた時、PSP専用カメラが発売することを知った。その時、荒木氏の頭の中で、漠然としていたアイディアとPSPが結びついた。しかし、その時の荒木氏では、そのアイディアを生かす術を持っていなかったため、それを企画書としてまとめようとは考えもしなかったと振り返る。そんな時、「ゲームやろうぜ!2006」のポスターが回ってきた……。
「ゲームやろうぜ!」は、新たな才能を持ったクリエイターを対象に、プレイステーションフォーマット向けのゲームソフトの制作環境を支援・提供する、ユニークで新しい感覚のゲームソフトを生み出すことを目指したクリエイターオーディションとして、1995年から1999年にかけ実施したのを始まりとしている。過去、この「ゲームやろうぜ!」からは、「XI[sai]」や「どこでもいっしょ」などが誕生している。
2006年、再び「ゲームやろうぜ!」クリエイターオーディションが再開されることになり、その募集ポスターが荒木氏の目に止まった。その時、企画書を書く機会が彼女に与えられたのだ。まさに天啓だったのかもしれない。
「最初は気軽な気分で応募したんです」と荒木氏は答えるが、「ゲームやろうぜ!」の一次審査は応募作品の内容を元に評価されており、基本的に社外のクリエイターに向けたオーディションで社内からの応募自体が想定されていなかったために、彼女が社員であるということは二次審査(面接)の通知をする時まで誰にも気づかれなかったそうだ。しかし、その企画内容が持つポテンシャルを評価され、一般の合格者と同じように荒木氏も自分の企画を形にするチャンスを手に入れた。
「ゲームやろうぜ!」合格後、トントン拍子に開発が進んだわけではなかった。なんせゲーム制作に関しては素人も同然だったからだ。どう進めていいのかすら分からず、どうプロジェクトを立ち上げていいのかを一から学ぶことになる。こうして約1年かかって開発したのが「マイスタイリスト」なのだ。当初の企画のコンセプトはそのままに、さまざまな要素を精査し、そぎ落とし、また追加していく作業を繰り返したと荒木氏。実際、モニターに「マイスタイリスト」を触ってもらい、より便利になるようにする調整の日々が続いた。
ワードローブを整理するという楽しみがあることを、男性は知らない人が多い。それというのも、男性と女性とではファッションに対する温度差があるからと荒木氏は分析する。確かに男性でもファッションに興味がある人は多いが、同じように無頓着な人も多い。しかし、女性は“大多数がファッションに気をつかうもの”なのだ。本作のターゲットを女性に限定し絞ったのは、そうしたファッションへの欲求が女性のほうが大きいと、身を持って知っていたからにほかならない。
ただし、ファッションにもそれぞれ指向性がある。ギャルもいればお嬢様系もいる。また年齢によって好みも変わる。そこから見えてきたのは、本作はフラットな立ち位置じゃないといけないということだった。日常の便利なツールとして、むしろ発案者たる荒木氏のような「働く忙しい女性」を漠然としたターゲットとし、開発者が当初から持っているコンセプトにブレが出ないように気を使ったというわけだ。
だが、いじわるな見方をすると、女性がPSPとPSP専用カメラを使用し、はたして洋服やアクセサリー類を撮影し、データ収集をするだろうか? という疑問が生まれる。ハードルになるのではないだろうか? その疑問に対して荒木氏は、PSPユーザーの中でも女性は少ないし、ゲームの文化に触れている女性も多くはないと認めつつ、「偏見を捨ててもらい、楽しく便利に使えるものだと知ってもらうことが大事」と、まずは手に取って使ってもらってからじわじわと知ってもらえればいいと、急いではいないと語る。
PSPユーザーの中でも女性ユーザーは昨今増えつつあり、現在は約2割を占めるほどだという。「LocoRoco」や「PATAPON」の次にくる、女性層向けPSPソフトの必要性もあったのだろう。
今までファッションにマジメに取り組んだソフトというものは存在しなかった。というよりも、制作側にファッションを必要とする人がいなかったということでもある。ゲーム制作の世界は、やはり男性社会であることは変わらない。だからこそ、こうした女性視点のゲームは誕生しなかったのだろう。例え、同じような企画が男性から提出されても、そこで“女性のための”と銘打つだけの説得力がないため、企画は採用されなかったはずだ。
荒木氏は今後も制作側に身を置き、女性に喜ばれるソフトを作っていきたいと今後の活動について触れた。
「ファッションに限らず、今後も女性の視点を生かしたものに携わっていきたいと思っています。ファッションもエンターテインメントだと思いませんか? 楽しく生活するためのツールとして、『マイスタイリスト』を活用してください」(荒木氏)
| 「MyStylist」(マイスタイリスト) | |
| 対応機種 | PSP |
| ジャンル | ファッションライフ・サポートツール |
| 発売日 | 2008年2月28日 |
| 価格(税込) | 6980円 |
| 備考 | PSP専用カメラ+カメラケース同梱 |
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