ヒライタケシの「投げる前から変化球」(その1):進化しようという姿勢を持って“てっぺん”を目指せ――セガ 鈴木裕氏(後編) (3/3)
スピードが大事
平井 僕も裕さんに似てきたのか、まさしく冒頭で裕さんが話していた「やってから言え」みたいな感じのことを言っていたりします(笑)。
鈴木 頭でっかちなんですよね。思考と行動のバランスが悪いんですよ。だから日本人は、インターナショナルな場面で“攻撃力”っていうか、パフォーマンス下がってると思いますよね。中国の人なんて、考えるのはもちろんだけど、とにかく実行するんですよ。日本人はあれを学ぶべきですよ。結局、上海の方が伸びが速いですよね。向こうの人が「数倍人をかけてガーっとふるったときに、砂金が1個あればいいじゃん」みたいな話をしていて。あの調子だったら負けちゃいますよ。3回失敗しても4回目に成功、4回失敗しても5回目に成功っていう。限られた時間だったとしても、1本を5年かけて失敗するのと、どっちがいい? という。
この前中国へ行った時にアートワークを見せてもらったんですけど、かなりスキル高いなと思いましたね。レベルに達していない人ももちろんいるんだけど、中に光ってるというか、エースというのが2人も3人もいました。最終的にスピードが全てを征しますね。今の日本は多分、思考が先行してスピードがなくなってるから。考えてばっかりで。
平井 なるほど。
鈴木 突然ですけど「E(エネルギー)=mc^2」ってあるじゃないですか。cはスピード(光の速度)なわけですよ。m(質量)が大事だと思ってますよね。mだと思ってるから、見た感じのデカさとかそっちだと思ってるから。それは違うんですよ。企画だったりするじゃないですか、mは。やろうと思ってることだったり。AがいいのかBがいいのかって悩んでいてスピードがなくなるよりは、「AやってみてダメだったからBやってみよう」っていう方がトータルで速かったりするんですよ。
Aを失敗してBやったときは、普通の人は「Aはなかった」と考えるんですね。それは大間違いで。最初からAをやらずにBをやったら、本当はAの方がよかったかもしれないって思いながらやってたりするんですよ。だから、ある意味は「ダメだった」と決着が付く分、次からAは絶対選ばなくなるんです。プロセス上。一度Aはダメだったと経験しておくことで、トータルでは速くなるんじゃないですかね。そうしたやり方で、急激なタイミング、スピードで中国が突き進んでいるので、ものすごいノウハウの溜まり方をしてます。最終的にはマズいものも食べたやつの方が強いから(笑)。
平井 日本がゆっくりな中で、ほんとにものすごい勢いで分母が増えている。日本はクリエイター自身も最近少なくなっていているし。
鈴木 ハングリーじゃないんですよね。
平井 日本、北米、欧州のように、ゲームのマーケットがあって、それぞれに分化しているという話もありますが、どうなんでしょうね。マーケット自身が日本って同じくらいで変わっていないじゃないですか。僕はそれに加えて日本だけが、変わった作品を作ってるんだとしたら、やっぱりそれはユーザーニーズに合ってないとは思うんですけど。
鈴木 新しいものだったら世界的に受け入れられるんですけどね。でもマーケッターが言うことってクリエイティブじゃないんですよ。アメリカのマーケッターが、例えばバスケットが流行しているからバスケゲームを作ってくださいとか、インディがはやっているからインディのレースゲームを作ってくださいとか。でもヨーロッパのマーケッターは、うちはラリーだから「デイトナ」やってもらっても困ります、ラリーやって下さいって言って。あとはサッカーですよとか。でもアメリカでサッカーゲームはと言うとダメですよ、と。
マーケットの人って“新しいモノ”が語れないですからね。あとは、今度某映画監督がこんなのを作りそうですからそのゲームを、とか言いますよね。それで当たってるメーカーもあるわけだから、その方式で言うしかないわけです。そんな話になってきちゃってる。
簡単に言うと、新しいものを作っていないんですよ。新しいものってみんな欲しいわけでしょ。「頭文字D」が日本用に作られたから世界に売れなかったかっていうと、あれは世界で売れているんです。「マリオカート」がアメリカの文化ですか? ヨーロッパの文化ですか? っていうと、「マリオカート」は世界的に売れているんですよ。「モンスターファーム」でも、どこかの国に生息してるんですか恐竜が? って言ったらないわけです(笑)。世界共通で発売するんだったら、新しいものの方が都合がいいんじゃないですかね。みんなが興味を引くようなもので。マーケットを追いかけて何かを作ろうとするのなら、大体やりつくされていて、ちょっと辛いんじゃないですかね。
平井 ほとんど食いつぶされていますよね。
鈴木 新しい仕組みをやるなら別ですけどね。「セカンドライフ」みたいな試みとか。非常に価値のある試みだったと思うし。成功したかどうかは別として。リアルマネーとバーチャルマネーは同等価値とするっていうのは面白いじゃないですか。もし成功したら大変な、エポックな歴史に残る話になるでしょう。もうちょっとのところで成功するのかもしれないですが。早すぎたのかもしれませんね。
平井 現実的にはお金を持ってないけど、「リンデンドル」をたくさん持っているとか。
鈴木 例えばの話ですが、就職先を「セカンドライフ」で探して、そこで稼げたら就職先になるわけですよ。すごいことですよね。世界中の人にゲームじゃなくて新しい職業を提供できたら大変ですよね。履歴書の職業欄に「会社員 現実」って書くか「会社員 セカンドライフ」って書くかっていう。これは大変なことなんですよ。
ちょっと面白く言うとですね、小学校の遠足でウンチもらしちゃったやつは、どこかの大会社の社長になろうが、同級生の同窓会に行くと“ウンチマン”と言われちゃうんですよ(爆笑)。これは一生残るんですね。でもバーチャルの世界の中があれば、そうしたことを知らないところでヒーローにもう一度なれるかもしれないわけです。それっていいでしょ? 今までは人生は1度で、1つの色しかないけど、複数持てる時代になったりして。ゲームの範疇を完全に超えてるわけですよね。そういうことをやりたいですね。
平井 今回僕もお話させていただいて、作品に対する意気込みも一度リセットできたなと思います。なにかいい作品が作れそうです。
鈴木 あんまり周りがこう言うからと、企画をいじらない方がいいんですよ。周りの言うことを聞くのは半分までですね。あとの半分がないとクリエイティブがなくなっちゃうんです。ユーザーのために“こんな料理を食べさせてみたい”っていう。チャーハンを注文されてチャーハンを食べさせたら請け負い仕事だから。チャーハンが好きなんだったら、「これを食べたらもっとうまいから食べてみなよ」ってやらなきゃ意味がないですよ。
平井 本日は長時間ありがとうございました。
鈴木 いえ。こちらこそ!
ヒライからのひと言
第1回は2部構成となりました。長時間に渡る対談にお付き合い頂いた鈴木裕氏に感謝いたします。
改めて、時代を席巻してきたエンジニアの発想は、いい意味で常識の枠に捕らわれていなく大胆だと感じました。作品を創る発想や提案がエンジニアサイドでもっと強烈にインパクトを出せれば、現在ある作品にもっととがったエッセンスを注入することができるのではないでしょうか。日本人が本来もっている企画力と繊細な調整を組み合わせることでさらに強力になるはずです。
それに必要なファクターはやはり「スピード」だと考えます。
ボクがキューエンタテインメントの2008年キックオフでスタッフ全員に伝えた言葉でもあります。
次回の対談候補はボクと同様、一部上場企業から独立してベンチャーで頑張っている技術出身の社長さんをお招きして、また違った角度から斬っていきたいと思います。ご期待ください。
プロフィール
平井武史(ひらい たけし)
キューエンタテインメント 最高技術責任者/CTO
代表作:「シェンムー」「スペースチャンネル5 パート2」「メテオス」「メテオスオンライン」
エンジニアとしてハイエンドからモバイル、Web、システム管理までほぼ全ての環境、言語を話す。
ヘアショーのサロン映像、音楽プロデュースを行ったり、海中での写真集を提供したりと守備範囲は広い。
海をこよなく愛するMSD(マスター・スクーバ・ダイバー)である。
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