笑って楽しみながらアメリカを、そして国際社会を知ろう:「グランド・セフト・オートIV」を遊んでみて考えた(1/2 ページ)
文明の岐路であり、諸民族がモザイク状に分布する東ヨーロッパからやってきた男、ニコ・ベリック。アメリカ文明の象徴たるリバティーシティは彼の目にどう映ったのか。異邦人の視点を借りて展開される、風刺とジョークに満ちたアメリカ文明論(私見)。
GTAシリーズの本質とは
みなさんは、世界的なセールスを記録し、ギネスブックにまで登録された「グランド・セフト・オートIV」について、どんな印象をお持ちだろうか。また、それほどの人気を誇りながら、世界に比べて日本ではいまだメジャー化していない理由についてはいかがだろうか? 実はこの2点は相互に密接な関係にあると思われる。キーワードとなるのは、ずばり“アメリカ”だ。
ここで言うアメリカとは、国家であり、社会であり、文化である。「グランド・セフト・オート」シリーズは(例外的にロンドンを舞台にした作品もあったが)、このアメリカの多面性を根源的なテーマとしている。中で起こるさまざまな現象は、現代のアメリカが抱える諸問題に根ざしているのだ。
21世紀の現在、アメリカ合衆国が世界唯一の超大国として圧倒的な地位にあるのを否定する人はいないだろう。だが、それだけ強い国でありながら、アメリカ合衆国は極めて特異な国家でもある。国民であるアメリカ人とは、アメリカ合衆国憲法の精神を認め、それを順守することを(少なくとも形式的には)誓った人々であり、出生地、民族、宗教を問わない。言い換えるならば、憲法精神を守れば、誰でもなれるのだ。文化的な背景も異なれば、生活習慣も、死生観も違い、使っている言語すら異なる。それでもアメリカ人という人種は生まれ、彼らが作る社会が生まれ、文化が生まれる。こんな国家は世界広しといえども、ほとんど例がない。これは非常に興味深い事象だといえよう。
ブラックジョークの達人、イギリス人の視点
ところで話は変わるが、世界にあまたいる民族の中で、もっとも辛辣で、シニカルで、自虐的な民族は、と聞かれたら、圧倒的多数の人がイギリス人と答えるだろう。そしておそらくそれは(たぶん)正解に違いない。
なお、ここでは本来イギリス人なる民族はいない、という議論には踏み込まない。イングランド人でも、ウェールズ人でも、スコットランド人でもいい。彼らブリテン島の住民たちを差して、イギリス人と呼んでおこう。この極めて日本的な言い方は、この場合は非常に重宝する。
モンティ・パイソン以来の脈々と続く伝統を持ち出すまでもなく、彼らイギリス人の口から飛び出すブラックジョークはまさに人類史に冠たる至芸としかいいようがない。王侯貴族から労働者階級まで、イギリス人はまずユーモアありきで生きている。それもストレートな笑いではない。ハートウォーミングな人情譚なども似合わない。何よりもその個性を発揮しているのはブラックジョークだ。
あまり知られていない事実だが、「グランド・セフト・オート」シリーズのメインデザイナーはイギリス人である。イギリス人が、彼らならではのブラックジョークで、アメリカという極めて興味深いテーマを分析し、ゲームというメディアを使って表現した作品。それが「グランド・セフト・オート」シリーズなのである。
中でも今回の「IV」は、単にアメリカ一国の問題に留まらず、その新たな国民となる人々、すなわち移民問題にも踏み込んでいる。しかも移民である主人公ニコ・ベリックの故国は旧ユーゴスラビア。もうこのあたりからキナ臭い匂いが、不謹慎との批判を恐れずに言えば、ドキドキワクワクしてくるではないか。
この街の住民は、人の意見を聞かないことで知られています。上手くとけ込むにはイライラした顔つきで早歩きするのが一番。また、他の住人と目を合わせるのは危険です――リバティーシティ・ガイド“WELCOME”より抜粋
汗水たらすばかりがエクササイズじゃない! アメリカ人がボウリングを愛するのはそんな理由から。あなたも6-9スプリットを狙って、スポーツをやった気になりましょう!――リバティーシティ・ガイド“ENTERTAINMENT”より抜粋西欧が直面するイースタン・プロミス
旧ユーゴスラビアから移民が来るとなぜドキドキするのか。これは日本ではあまりピンと来ないネタかもしれない。ずっと昔から紛争が絶えない地域だ、というぐらいのイメージはあるだろうが、詳しい情報が報道されないこともあり、一般の関心は低い。
だが、欧米ではまったく違う。ソ連解体によって鉄のカーテンは崩れ去り、西欧、東欧といった区分は単に地理的な意味しか持たなくなった。しかもEUの誕生により、ヨーロッパは旧西欧を中心に拡大の一途をたどっている。当然、ソ連の継承国家であるロシアから見ればこの状況は無視できない。2008年に起こったグルジア紛争も拡大するEUとそれに対抗するロシアという、冷戦以後の基本的な国際関係が生み出した現象だ。
さらに東欧はもともと複数の民族がモザイク状に生活圏を作っている、極めて政情不安定な土地だった。しかも峻険な地形に阻まれてそれぞれの地域が分裂化しているから、大きな統一権力が作りにくい。そのため、中世以来、周辺の大勢力同士がしのぎを削る土地となった。大勢力が乗り込んでくる。小さな勢力が支配下に置かれる。別の大勢力が乗り込んでくる。支配者が変わっても小勢力が支配下に置かれる構図は変わらない。摩擦が生じ、特に19世紀以降はナショナリズムの勃興で拍車がかかる。かくしてバルカン半島はヨーロッパの火薬庫と呼ばれるようになり、21世紀の現在でも状況は変わっていない。
そんな地域であるから故国を捨てる人も多い。紛争に巻き込まれて強制的に追い出されれば難民だが、自発的に移動すれば移民だ。移住する場合、人気No.1はやはりアメリカ合衆国となる。豊かだし、そもそもが移民で成り立っている国なので移りやすい。もちろん、無秩序に移れるわけではないし、合衆国自体、過去に何度も移民を規制してきている。それでも、EUの諸国と比較すれば、民族的な対立は少ない。前述の通り、アメリカ人とは人工的に作られた民族であり、血統とは無縁なのだ。
とはいえ、移住がつねに成功するわけではない。何か特別なツテでもなければ、安定した生活はおろか住む場所すら確保できないだろう。文化も風習も違うし、言語が通じなければ就職すらも難しい。しかも国を捨てて来た場合など、帰ろうにも帰れない。瞬く間に貧困が襲ってきて、これがひどくなれば犯罪に走る者が出てくる。一定の人数が相互に連携して組織化されれば、マフィアがいっちょう出来上がりである。
旧東欧からコーカサスに至る、かつてソ連の影響下にあった国々には、大なり小なり、この問題がつきまとう。中でも旧ユーゴスラビアは折り紙付きの問題多発地域である。ヨーロッパの火薬庫と言われるバルカン半島でももっともホットな場所なのだ。そんな国から来た人物が移住先で安定した生活を手に入れられなかったら、どうなるか。そしてそこにイギリス人のブラックな視点が加わればどうなるか。どう考えたって、ハラハラドキドキしてくるではないか。
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