笑って楽しみながらアメリカを、そして国際社会を知ろう「グランド・セフト・オートIV」を遊んでみて考えた(1/2 ページ)

文明の岐路であり、諸民族がモザイク状に分布する東ヨーロッパからやってきた男、ニコ・ベリック。アメリカ文明の象徴たるリバティーシティは彼の目にどう映ったのか。異邦人の視点を借りて展開される、風刺とジョークに満ちたアメリカ文明論(私見)。

» 2008年12月03日 11時34分 公開
[水野隆志,ITmedia]

GTAシリーズの本質とは

 みなさんは、世界的なセールスを記録し、ギネスブックにまで登録された「グランド・セフト・オートIV」について、どんな印象をお持ちだろうか。また、それほどの人気を誇りながら、世界に比べて日本ではいまだメジャー化していない理由についてはいかがだろうか? 実はこの2点は相互に密接な関係にあると思われる。キーワードとなるのは、ずばり“アメリカ”だ。

 ここで言うアメリカとは、国家であり、社会であり、文化である。「グランド・セフト・オート」シリーズは(例外的にロンドンを舞台にした作品もあったが)、このアメリカの多面性を根源的なテーマとしている。中で起こるさまざまな現象は、現代のアメリカが抱える諸問題に根ざしているのだ。

 21世紀の現在、アメリカ合衆国が世界唯一の超大国として圧倒的な地位にあるのを否定する人はいないだろう。だが、それだけ強い国でありながら、アメリカ合衆国は極めて特異な国家でもある。国民であるアメリカ人とは、アメリカ合衆国憲法の精神を認め、それを順守することを(少なくとも形式的には)誓った人々であり、出生地、民族、宗教を問わない。言い換えるならば、憲法精神を守れば、誰でもなれるのだ。文化的な背景も異なれば、生活習慣も、死生観も違い、使っている言語すら異なる。それでもアメリカ人という人種は生まれ、彼らが作る社会が生まれ、文化が生まれる。こんな国家は世界広しといえども、ほとんど例がない。これは非常に興味深い事象だといえよう。

夜空にそびえる摩天楼はまさにアメリカ文明の象徴。リバティーシティ沖合には“幸福の女神”も建っている
ゲームのスタートとなるブローカー地区。位置関係や名前からブロンクスをイメージしているのは明らか

ブラックジョークの達人、イギリス人の視点

 ところで話は変わるが、世界にあまたいる民族の中で、もっとも辛辣で、シニカルで、自虐的な民族は、と聞かれたら、圧倒的多数の人がイギリス人と答えるだろう。そしておそらくそれは(たぶん)正解に違いない。

 なお、ここでは本来イギリス人なる民族はいない、という議論には踏み込まない。イングランド人でも、ウェールズ人でも、スコットランド人でもいい。彼らブリテン島の住民たちを差して、イギリス人と呼んでおこう。この極めて日本的な言い方は、この場合は非常に重宝する。

 モンティ・パイソン以来の脈々と続く伝統を持ち出すまでもなく、彼らイギリス人の口から飛び出すブラックジョークはまさに人類史に冠たる至芸としかいいようがない。王侯貴族から労働者階級まで、イギリス人はまずユーモアありきで生きている。それもストレートな笑いではない。ハートウォーミングな人情譚なども似合わない。何よりもその個性を発揮しているのはブラックジョークだ。

 あまり知られていない事実だが、「グランド・セフト・オート」シリーズのメインデザイナーはイギリス人である。イギリス人が、彼らならではのブラックジョークで、アメリカという極めて興味深いテーマを分析し、ゲームというメディアを使って表現した作品。それが「グランド・セフト・オート」シリーズなのである。

 中でも今回の「IV」は、単にアメリカ一国の問題に留まらず、その新たな国民となる人々、すなわち移民問題にも踏み込んでいる。しかも移民である主人公ニコ・ベリックの故国は旧ユーゴスラビア。もうこのあたりからキナ臭い匂いが、不謹慎との批判を恐れずに言えば、ドキドキワクワクしてくるではないか。

この街の住民は、人の意見を聞かないことで知られています。上手くとけ込むにはイライラした顔つきで早歩きするのが一番。また、他の住人と目を合わせるのは危険です――リバティーシティ・ガイド“WELCOME”より抜粋
汗水たらすばかりがエクササイズじゃない! アメリカ人がボウリングを愛するのはそんな理由から。あなたも6-9スプリットを狙って、スポーツをやった気になりましょう!――リバティーシティ・ガイド“ENTERTAINMENT”より抜粋

西欧が直面するイースタン・プロミス

 旧ユーゴスラビアから移民が来るとなぜドキドキするのか。これは日本ではあまりピンと来ないネタかもしれない。ずっと昔から紛争が絶えない地域だ、というぐらいのイメージはあるだろうが、詳しい情報が報道されないこともあり、一般の関心は低い。

 だが、欧米ではまったく違う。ソ連解体によって鉄のカーテンは崩れ去り、西欧、東欧といった区分は単に地理的な意味しか持たなくなった。しかもEUの誕生により、ヨーロッパは旧西欧を中心に拡大の一途をたどっている。当然、ソ連の継承国家であるロシアから見ればこの状況は無視できない。2008年に起こったグルジア紛争も拡大するEUとそれに対抗するロシアという、冷戦以後の基本的な国際関係が生み出した現象だ。

 さらに東欧はもともと複数の民族がモザイク状に生活圏を作っている、極めて政情不安定な土地だった。しかも峻険な地形に阻まれてそれぞれの地域が分裂化しているから、大きな統一権力が作りにくい。そのため、中世以来、周辺の大勢力同士がしのぎを削る土地となった。大勢力が乗り込んでくる。小さな勢力が支配下に置かれる。別の大勢力が乗り込んでくる。支配者が変わっても小勢力が支配下に置かれる構図は変わらない。摩擦が生じ、特に19世紀以降はナショナリズムの勃興で拍車がかかる。かくしてバルカン半島はヨーロッパの火薬庫と呼ばれるようになり、21世紀の現在でも状況は変わっていない。

 そんな地域であるから故国を捨てる人も多い。紛争に巻き込まれて強制的に追い出されれば難民だが、自発的に移動すれば移民だ。移住する場合、人気No.1はやはりアメリカ合衆国となる。豊かだし、そもそもが移民で成り立っている国なので移りやすい。もちろん、無秩序に移れるわけではないし、合衆国自体、過去に何度も移民を規制してきている。それでも、EUの諸国と比較すれば、民族的な対立は少ない。前述の通り、アメリカ人とは人工的に作られた民族であり、血統とは無縁なのだ。

 とはいえ、移住がつねに成功するわけではない。何か特別なツテでもなければ、安定した生活はおろか住む場所すら確保できないだろう。文化も風習も違うし、言語が通じなければ就職すらも難しい。しかも国を捨てて来た場合など、帰ろうにも帰れない。瞬く間に貧困が襲ってきて、これがひどくなれば犯罪に走る者が出てくる。一定の人数が相互に連携して組織化されれば、マフィアがいっちょう出来上がりである。

 旧東欧からコーカサスに至る、かつてソ連の影響下にあった国々には、大なり小なり、この問題がつきまとう。中でも旧ユーゴスラビアは折り紙付きの問題多発地域である。ヨーロッパの火薬庫と言われるバルカン半島でももっともホットな場所なのだ。そんな国から来た人物が移住先で安定した生活を手に入れられなかったら、どうなるか。そしてそこにイギリス人のブラックな視点が加わればどうなるか。どう考えたって、ハラハラドキドキしてくるではないか。

さすが紛争多発地の出身者といった出で立ち?
移住しても仕事がなければ貧困が待っている。そんな時、仕事を選ぶことはできない
       1|2 次のページへ

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.

昨日の総合アクセスTOP10
  1. /nl/articles/2502/11/news033.jpg 妻「“157センチ、43キロが理想”と言う夫に、かわいいと言われたい」→プロに依頼したら…… 「エグッ!」「黒木瞳さんかと」
  2. /nl/articles/2502/11/news078.jpg “スーパーお嬢様”の現役モデル、実家で「総額3億円の15台の車」を所持 “18歳の時にもらった車”に驚きの声も
  3. /nl/articles/2502/10/news155.jpg 実家の間取り「5LLLLDKKBB」の超豪邸 “異次元お嬢様”が話題 専属使用人は「世界最強の兵士」で香取慎吾ら驚がく
  4. /nl/articles/2502/11/news025.jpg ←夫に出すやつ 自分で食べるやつ→ 目を疑うレベルの“落差”に爆笑「わ〜おw」「なんかとんでもないのいた」
  5. /nl/articles/2502/08/news015.jpg パパに抱っこされる娘、13年後の成人式に同じ場所とポーズで再現したら…… 「お父さん若返った?笑」「時止まってる」2人の姿に驚き
  6. /nl/articles/2502/09/news027.jpg マインクラフトで作った“超有名ゲームでおなじみの場所” 2カ月かけて建築した大傑作に絶賛「背景まで……」「全部ブロックだ!」
  7. /nl/articles/2502/11/news009.jpg 鮮魚店で瀕死の“巨大ガニ”を購入→家に連れて帰り、お風呂場に放ってみると…… まさかの展開に「こわっww」と800万表示
  8. /nl/articles/2502/11/news012.jpg 最初に軽く結ぶだけで…… 2000万再生された“マフラーの巻き方”に反響「これは使える」「素晴らしいアイデア」【海外】
  9. /nl/articles/2502/11/news044.jpg クラシック奏者「加工して絶世の美女にして」とAIに依頼→“とんでもない事故”になってしまい思わず二度見 「怖くて泣いた」
  10. /nl/articles/2502/11/news040.jpg 自衛隊で“ネットミームまみれの張り紙”が目撃され約1000万表示の反響 見覚えあるポーズに「めっちゃ笑った」「おもろすぎるww」
先週の総合アクセスTOP10
  1. パパに抱っこされる娘、13年後の成人式に同じ場所とポーズで再現したら…… 「お父さん若返った?笑」「時止まってる」2人の姿に驚き
  2. 古いバスタオルをザクザク切って縫い付けると…… 目からウロコの再利用に「すてきなアイデア」【海外】
  3. 14歳のとき、親友の兄と付き合うことになった女性→13年後…… “まさかの結末”に「韓国ドラマみたい」【海外】
  4. リンゴを1年間、水の中で放置→顕微鏡で見てみたら…… 衝撃の実験結果に「これはすごい」「息をのみました」【海外】
  5. 海釣り中、黒猫に「ちょっと来い」と呼び出された釣り人 → 付いて行くと…… 運命のような保護から2年、飼い主に話を聞いた
  6. “駐車場2台分”の土地に、建築家の夫が家を建てたら…… “とんでもない空間”に驚き「すごい。流行る」
  7. 「なんだこの暗号は……」 マクドナルドの“大人だけが読めるメッセージ”が410万表示「懐かしい〜」「読める人同世代w」
  8. 着陸する戦闘機を撮ったはずが…… タイミングが絶妙すぎる1枚に「一部の専門家には貴重な一枚」 投稿者に話を聞いた
  9. ズボラ母が5人分サンドイッチを爆速で作ったら…… 目からウロコの時短テクと美しい仕上がりに「信じられない」
  10. 【今日の計算】「7−2×0+9」を計算せよ
先月の総合アクセスTOP10
  1. ドブで捕獲したザリガニを“清らかな天然水”で2週間育てたら…… 「こりゃすごい」興味深い結末が195万再生「初めて見た」
  2. 「配慮が足りない」 映画の入場特典で「おみくじ」配布→“大凶”も…… 指摘受け配給元謝罪「深くお詫び」
  3. 母「昔は何十人もの男性の誘いを断った」→娘は疑っていたが…… 当時の“モテ必至の姿”が1170万再生「なんてこった!」【海外】
  4. 風呂に入ろうとしたら…… 子どもから“超高難易度ミッション”が課されていた父に笑いと同情 「父さんはどのようにしてこのお風呂に入るのか」
  5. 母親から届いた「もち」の仕送り方法が秀逸 まさかの梱包アイデアに「この発想は無かった」と称賛 投稿者にその後を聞いた
  6. 市役所で手続き中、急に笑い出した職員→何かと思って横を見たら…… 衝撃の光景が340万表示 飼い主にその後を聞いた
  7. 「ごめん母さん。塩20キロ届く」LINEで謝罪 → お母さんからの返信が「最高」「まじで好きw」と話題に
  8. DIYで室温が約10℃変わった「トイレの寒さ対策」が310万再生 コスパ最強のアイデアへ「天才!」「これすごくいい」
  9. 「こんなおばあちゃん憧れ」 80代女性が1週間分の晩ご飯を作り置き “まねしたくなるレシピ”に感嘆「同じものを繰り返していたので助かる」
  10. 岡田紗佳、生配信での発言を謝罪 「とても不快」「暴言だと思う」「残念すぎ」と物議