インタビュー
» 2009年01月08日 19時42分 公開

大学からゲームメーカーへ――AI研究で広がるステキなゲームの世界とは?(前編)ゲームとアカデミーの素敵なカンケイ(第2回)(1/3 ページ)

「ゲームと学術界の素敵なカンケイ」第2回は、学界からゲーム業界に飛びこみ「ゲームAIの研究と実用」を志すフロム・ソフトウェアの三宅陽一郎氏をフォーカス。前編をお届けします。

[松井悠,ITmedia]

 第1回の記事掲載から時間が経ってしまったが、今回はフロム・ソフトウェア技術部で、ゲーム用AIの開発を行う三宅陽一郎氏にお話をうかがった。日本のゲーム業界ではまだ浸透していないデジタルゲームAI、さらなる進化が予見されるこの技術で、ゲームはどのように変わっていくのか。そして、次世代のゲームクリエーターたちにはどんなスキルが必要なのか。文末には、三宅氏の講演資料のリンクもついています。

プロフィール

三宅陽一郎

フロム・ソフトウェア技術部研究課所属。1975年、兵庫県生まれ。京都大学で数学を専攻、大阪大学で物理学(物理学修士)、東京大学工学系研究科博士課程(単位取得満期退学)。2004年株式会社フロム・ソフトウェア入社。ゲームにおける本格的な人工知能技術の応用を目指す。2005年、クロムハウンズ(Xbox 360)の製作に、AIの設計として参加。CEDEC2006「クロムハウンズにおける人工知能開発から見るゲームAIの展望 」、CEDEC2007「エージェント・アーキテクチャから作るゲームAI」を、AOGC2007において「人工知能が拓くオンラインゲームの可能性」を講演。


京都大学、大阪大学、東京大学、そしてゲーム業界へ

―― 三宅さんは日本のゲーム業界において、かなり異色の人材です。そもそもなぜ、大学で長い間研究を続けてゲーム業界に入ったのでしょうか。

三宅陽一郎氏(以下、敬称略) もともと、学部の京都大学では数学を専攻し、次に大阪大学の大学院(修士課程)に行って実験物理学を専攻して研究していました。それから東京大学の大学院(博士課程)に入って、工学の研究をしていました。その研究室自体は人工知能専門というわけではないのですが、自分で人工知能の研究をしたり論文を発表していました。そういった研究をしながら発想していた多数のアイデアを「ゲーム開発に生かせないか」と考えて、ゲーム業界を選んだことがきっかけになります。私はちょうどファミコン世代なのですが、一時期ゲームを止めていたのですが、プレイステーション 2ぐらいから本格的にプレイしました。ゲームをやりながら「こういうことができるんじゃないか」とい思いついたアイデアを、研究して来たことと組み合わせて膨らませていた想像を実現したかった、ということがもう一つの理由になります。

―― 日本のゲーム業界には博士号取得者が少ないというお話を聞きます。海外ではどうなのでしょうか。

三宅 日本のゲーム業界はあまり博士が来ません。私の知っている限りでも、それほど多くありません。その代わり、人材がとても幅広い。高校卒業から博士卒までさまざまな方がいますが、これまでは、いわゆる学術的な知識がそれほど必要とされてこなかった現場とも言えます。逆に欧米では少し前から修士号、博士号を持つ人が入ってきています。その人たちが、アメリカらしく専門的な知識を現場に導入して、ゲーム開発を創造し新しく基礎付けて行きました。それが、今の欧米ゲーム業界を支えています。欧米のゲーム開発が勢いがあったのは、そういう人達がゲーム制作に関わる根幹の部分を支えて勢いをつかせているおかげでもあります。

「デジタルゲームのAI」って何ですか?

―― それでは、そもそものお話で恐縮なのですが、人工知能(AI:artificial intelligence)の研究とは何をしているものなのでしょうか。

三宅 人工知能というのは1950年代から研究が開始された学問で、まだ50年そこそこの歴史しかないという若い分野です。例えば数学でしたら、2500年以上の歴史がありますし、物理学だと400年以上の歴史がありますが、人工知能はまだ50年ぐらいの歴史しかがありません。人工知能に必ずしもコンピュータが必要とは言えませんが、人工の歴史はコンピュータの発展と歩調を合わせて進んで来ました。

 一般に人工知能の研究は、現実世界で役に立つ人工知能……例えばロボットであったり、工場の生産ラインをどう管理するとか、インターネットの検索プログラムとか、理論自体は高度に抽象的であっても、現実の情報を処理出来るものを目指して研究されて来ました。そこで人工知能は、現実の問題を推論したり、工場の生産管理の計画をしたり、現実の中に置かれた機械として、人間に代わる人工的な知能が開発されてきたのです。

 ところが、コンピュータの発展とともに、1970年代から次第にデジタル世界の中に一つのインタラクティブなバーチャルワールド(仮想世界)を構築できるようになりました。その一つがデジタルゲーム(いわゆるテレビゲームやPCゲームなど)です。デジタルゲームのAIというのは、こういったバーチャルワールドの中で機能する知性なわけです。

 例えば、FPS(一人称視点のシューティングゲーム)や対戦格闘ゲームなどはゲーム全体が一つのバーチャルワールドで構築されています。その空間の中のNPC(ノンプレイヤーキャラクター、AI制御のキャラクターのこと)には、バーチャルワールドで活動するための知性が埋め込まれています。これが、デジタルゲームAIの一例です。ああいったバーチャルワールドがゲームの中で実現できるようになったのはそれほどに昔のことではありません。デジタルゲームはまだ40年弱の歴史しか持っていません。デジタルゲームAIは、そういったバーチャルワールドの拡大(2Dから3D、3Dからネットワークへ)とともに、進化した来た分野と言えます。

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