「ドラクエ」は挫折者を作らない――堀井雄二氏が語る「国民的ゲーム」の条件とは?(1/2 ページ)

国民的RPGとして誰もが認める「ドラゴンクエスト」シリーズ。一体なぜ「ドラクエ」はそこまでの人気を集めることができたのか?

» 2009年09月03日 15時51分 公開
[ITmedia]
※本ページはアフィリエイトプログラムによる収益を得ています

本当に怖いのは「黙って去っていってしまう人」

講演では堀井氏のほか、最新作「ドラゴンクエストIX 星空の守り人」でプロデューサー、ディレクターをそれぞれ務めた、スクウェア・エニックスの市村龍太郎氏・藤澤仁氏も同席した

 9月1日から3日にかけ、横浜パシフィコで開催中の「CESA Developers Conference 2009(CEDEC 2009)」。最終日となる3日目には「ドラゴンクエスト」シリーズの生みの親として知られる、ゲームデザイナーの堀井雄二氏による基調講演が行われ、朝早くから多くの受講者たちが詰めかけていた。

「とにかく気をつけたのは“分かりやすさ”。やればおもしろいのは分かってる。でもその面白さをどうやって伝えたらいいのか」(堀井氏)

 ファミコンではじめて「ドラゴンクエスト」をリリースした当時を振り返りながら、堀井氏はこのように語った。思えば「ドラクエ」が発売される以前、RPGはごく一部のパソコンユーザーだけの遊びであって、ファミコンユーザーのほとんどはRPGというジャンルの存在さえ知らなかった。

 そこで堀井氏は「いきなりRPGは難しいだろう」と考え、まずはより要素の少ない、アドベンチャーゲームを市場に投入した。それが、堀井氏の名を広く知らしめることになった名作「ポートピア連続殺人事件」である。移動や戦闘といった複雑な要素を持たず、言葉を入力すればすぐに反応が返ってくるアドベンチャーゲームで、まずは文字を楽しむことに慣れてもらい、その次にようやく「ドラクエ」をリリースする。「ドラクエ」のヒットは、「ポートピア」が下地としてあったからこそと言っても過言ではなかった。

 またもうひとつ「マニュアルを読まなくても遊べる」というのも堀井氏のこだわりだと言う。例えば「ドラクエI」で最初に勇者が降り立つのは、7×7マスという狭い王様の部屋。ここから出るためには、扉を開けて、階段を下りるというコマンドを使わなければならなかったが、これは「何かをすればリアクションが起こる」という、RPGの基本をユーザーに知ってもらうためだったという。

 ただ堀井氏は、「説明しすぎると読む気がしなくなる」とも語っている。分からなくてもいいところはあえてスルーしてでも、説明はあくまで簡潔に。大切なのは「そこさえ覚えればできる」という「文法」をユーザーに理解してもらうこと。自分が何をすればいいのかが理解できれば、そこに期待が生まれる。期待が生まれれば、ユーザーは能動的にゲームを遊んでくれるようになる。「そうなってしまえば、どんなゲームも面白い」と堀井氏。

 今でこそ当たり前に遊ばれるようになった「RPG」だが、「ウィザードリィ」や「ウルティマ」といった初期のRPG市場は本来、非常に敷居の高いものだった。しかし、それをあえて誰でも遊べるようにしたからこそ「ドラクエ」は今のポジションに座ることができたと言えるかもしれない。

「はっきりと文句を言ってくれる人はまだいい。一番怖いのは、分からない、自分には合わなかったと言って、黙って去っていってしまう人。そういう人を増やしてはいけない。逆に“分かった”、“うれしい”という経験はユーザーの中に溜まっていく」(堀井氏)

「ドラクエ」という作品に込められた、様々な工夫や思いを語る堀井氏

到達点としての「ドラクエVIII」、危険な挑戦だった「ドラクエIX」

 しかし「国民的シリーズ」として支持される一方で、シリーズならではの苦労もあったという。

「映画でもそうだけど、1が面白いと、2はもっと、3ではさらに……といった具合に、ユーザーの期待値がどんどん上がっていく。前作と同じくらいでの面白さでは、ユーザーははつまらないと感じてしまう」(堀井氏)

 確かに「ドラクエ」に限らず、シリーズものを展開していくうえで、これは大きなジレンマとしてのしかかってくる。ただ「ドラクエ」が幸運だったのは、並行してハードも進化していったこと。使える容量が増えれば、できることも広がり、内容もそれだけ膨らんでいく。そうした流れのひとつの到達点となったのが、プレイステーション 2で発売された前作「ドラゴンクエストVIII 空と海と大地と呪われし姫君」だった。

「『ドラクエI』のころ、ああいう映像を思い浮かべながら遊んでいた。『ドラクエVIII』はある意味、僕の夢だった」(堀井氏)

 しかし「ドラクエIX」ではじめて、「ハードの進化」という流れは断ち切られることになる。ニンテンドーDSという携帯ハードで、どうしたら前作を越えるものを作れるか。これについては堀井氏もかなり悩み、その結果導き出されたのが、「ずっと遊べる」「みんなで遊べる」というふたつのコンセプトだったという。マルチプレイをはじめ、Wi-Fiショッピングやすれちがい通信、またほぼ無制限に強くなることができる成長システムや、クリア後も楽しめる「宝の地図」、配信クエストなど、本作で新しく追加されたシステムの多くは、上記コンセプトを実現するためのものと言っていいだろう。

 ただ、それでも開発当初は「ドラクエ」で本当にこんなゲームデザインが通用するのか、藤澤ディレクターをはじめ、開発陣も半信半疑だったという。なぜなら従来の「ドラクエ」は基本的に、「エンディングまで50時間くらい遊ぶもの」「人にヒントは聞かず、一人で攻略するもの」。そうした根本にいきなり手を加えるのは、実はかなり危険な挑戦だった。

 結果、この「ドラクエIX」というタイトルは、「PS以降の『ドラクエ』ではもっとも大きな挑戦作となった」と藤澤氏。しかしそれは「やってよかった挑戦」であり、同時に「『ドラクエ』の将来に新たな可能性をひとつ加えられた」とも藤澤氏は語っている。ただ、こうした新しいプレイスタイルが、必ずしも従来のファンに受け入れられたわけではなかったのも事実で、これについては「今後の課題として受け止め、今後もファンと一緒に、どんな『ドラクエ』がいいか模索していきたい」と藤澤氏。

ある意味、「ドラクエIX」はふたたびゼロに戻っての再出発だった

       1|2 次のページへ

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.

昨日の総合アクセスTOP10
  1. /nl/articles/2410/05/news022.jpg 「クレオパトラみたい」と言われ傷ついた55歳女性→カット&パーマで大変身! 「本当にびっくり」「素敵なマダムに」
  2. /nl/articles/2410/05/news040.jpg 伝説の不倫ドラマ「金曜日の妻たちへ」放送から41年、キャストの現在→75歳近影が「とても見えません」と話題
  3. /nl/articles/2410/02/news116.jpg 余りがちなクリアファイル、“じゃないほう”の使い方で食器棚がまさかのスッキリ 「目からウロコ」「思いつかなかった!」と反響
  4. /nl/articles/2410/05/news023.jpg 七五三で刀を持っていた少年→20年後には…… “まさかの進化”に「好きなもの突き進んでかっこいい!」
  5. /nl/articles/2410/05/news018.jpg 野良猫が窓越しに「保護してください」と圧をかけ続け…… ひしひし感じる強い意志と表情に「かわいすぎるw」「視線がすごい」
  6. /nl/articles/2410/05/news012.jpg 「あのお客さんに幸あれっ!」 小銭の出し方が完璧な“神客”にレジ店員感激 会計がスムーズになる配慮が参考になる
  7. /nl/articles/2410/04/news048.jpg 「こういうの好き」 割れたコップの破片を並べたら…… “まさかの発想”で息を飲むアート作品に 「すごいセンス良い」「前向きな考え」
  8. /nl/articles/2410/04/news040.jpg 50代女性「モンチッチみたいにしてほしい」→美容師がプロのワザを見せ…… 別人級の変身に「めっちゃお洒落」「すごい!」
  9. /nl/articles/2410/04/news025.jpg 「これが免許証の写真???」 コスプレイヤーが公開した“信じられない”免許証が話題 コスプレ姿との比較に「両方とも可愛いすぎる」
  10. /nl/articles/2410/05/news032.jpg 大型犬が18年間、ドアを開け続けた結果……そうはならんやろな驚きの末路に「どうしたらこんな風になるのよ」の声
先週の総合アクセスTOP10
  1. ネットで大絶賛「ブラウニー」にカビ発生 業務スーパーに7万箱出荷…… 運営会社が謝罪
  2. 「全く動けません」清水良太郎がフェスで救急搬送 事故動画で原因が明らかに「独りパイルドライバー」「これは本当に危ない!!」
  3. トラックがあおり運転し車線をふさいで停車…… SNSで拡散の動画、運転手の所属会社が謝罪
  4. 「ヤヴァすぎる!!」黒木啓司、超高級外車の納車を報告 新車価格は5000万円超 2023年にはフェラーリを2台購入
  5. そうはならんやろ “ドクロの絵”を芸術的に描いたら…… “まさかのオチ”に「傑作」の声【海外】
  6. 「ウソだろ?」 ハードオフに3万円で売っていた“衝撃の商品”に思わず二度見 「ヤバいことになってる」
  7. 「結局こういう弁当が一番旨い」 夫が妻に作った弁当に「最強すぎる!」「絶対美味しいビジュアル」
  8. “メンバー全員の契約違反”をライブ後に発表 異例の脱退騒動背景を公式が釈明「繋がり行為などではなく」
  9. 「言われる感覚全く分からない」 宮崎麗果、“第5子抱いた服装”に非難飛び……夫・黒木啓司は「俺が言われてるのかな?」
  10. 大沢たかお、広大プールを独り泳ぐ“バキバキ姿”が絵になり過ぎ 盛り上がる筋肉の上半身に「50代とは思えない」「彫刻みたい」
先月の総合アクセスTOP10
  1. “緑の枝付きどんぐり”をうっかり持ち帰ると、ある日…… とんでもない目にあう前に注意「危ないところだった」
  2. 「しまむら」に行った58歳父→買ってきたTシャツが“まさかのデザイン”で3万いいね! 「同じ年だから気持ちわかる」「欲しい!」
  3. 友人に「100円でもいらない」と酷評されたビーズ作家、再会して言われたのは…… 批判を糧にした作品が「もはや芸術品」と490万再生
  4. 高校3年生で出会った2人が、15年後…… 世界中が感動した姿に「泣いてしまった」「幸せを分けてくださりありがとう」【タイ】
  5. 「ま、まじか!!」 68歳島田紳助、驚きの最新姿 上地雄輔が2ショット公開 「確実に若返ってる」とネット衝撃
  6. 荒れ放題の庭を、3年間ひたすら草刈りし続けたら…… 感動のビフォーアフターに「劇的に変わってる」「素晴らしい」
  7. 食べた桃の種を土に植え、4年育てたら…… 想像を超える成長→果実を大収穫する様子に「感動しました」「素晴らしい記録」
  8. 「天才!」 人気料理研究家による“目玉焼きの作り方”が目からウロコ 今すぐ試したいライフハックに「初めて知りました!」
  9. 「エグいもん売られてた」 ホビーオフに1万1000円で売られていた“まさかの商品”に「めちゃくちゃ欲しい」
  10. 義母「お米を送りました」→思わず二度見な“手紙”に11万いいね 「憧れる」「こういう大人になりたい」と感嘆の声