作家の視点でゲームの、そして人間の重力感を俯瞰する――瀬名秀明氏基調講演CEDEC 2010

「CEDEC 2010」2日目の基調講演には、作家の瀬名秀明氏が登場。重力がゲームに影響を与え、ゲームは重力に影響を与えているのか? 瀬名氏が“視点”の置きどころで解説する。

» 2010年09月01日 18時44分 公開
[加藤亘,ITmedia]

 コンピュータエンターテインメント協会(CESA)が8月31日〜9月2日の期間、パシフィコ横浜で開催している日本最大のゲーム開発者向けカンファレンス「CEDEC 2010」(CESAデベロッパーズカンファレンス 2010)の2日目、基調講演に作家の瀬名秀明氏が登壇した。瀬名氏の講演のタイトルは、「ゲームの知能と小説の感覚 ヒトの宇宙の究極(?)問題を考える」。人間の常識力を培う要素として重力の存在をフィーチャーし、“重力”が関わるゲームから、徐々にヒトが3次元において考え方が異なるようになると展開。自身の経験を織り交ぜながら、今後のゲーム作りへのヒントを瀬名氏ならでは“視点”で提案してみせた。


この画面はなにかの事故で偶然映されただけと会場を沸かせる

 今回の基調講演に設定された時間は80分。まず瀬名氏のデビュー作であり、後にゲーム化もされる「パラサイト・イヴ」シリーズの第3弾となるPSP向けソフト「The 3rd Birthday」の最新画像が“事故”で映し出される。せっかくCEDECでの講演ということで、瀬名氏ならではのサービスだろう。

 瀬名氏は東北大学大学院在学中に「パラサイト・イヴ」で作家デビューし、SFおよびホラー関連の著書をいくつも持っている。瀬名氏はこれから述べることが作家としての“妄想”と断りを入れたのちに、まずは「宇宙を統べる4つの力」(重力、電磁力、強い力、弱い力)について説明した。その中でも重力に注目し、重力感と知能ゲームは無関係かを証明しようとする。

 よくよく考えてみれば、重力に関係する遊びやゲームはいくつも存在する。パチンコやだるま落とし、将棋崩しなどは重力がなければ存在しない。テレビゲームにしても、重力の存在を感じさせるタイトルは挙げたらきりがない。瀬名氏は、自分たちの日常生活は、重力との格闘の歴史だと、何人もの人間に挫折感を植え付けたであろう「逆上がり」を例に挙げる。逆上がりからは、自分の重心をどう移動させるかを学んだはずだ。重心移動をコントロールする術を得た者は、スポーツの世界で名をはせる。また瀬名氏は、Mr.マリックの受け売りと、人体浮遊術がマジックとして確立していくまでの成り立ちを紐解いて説明した。


 かくして、人は日常の経験から重力の影響を知らず知らずに受け、そして常識として培っていく。例えばボールを投げると放物線を描いて飛ぶし、いずれ落ちてくることから予想して避けることも、グラブでキャッチすることもできるようになる。物理法則を学ぶまでもなく、目に見えないながら重力は我々の常識として身に、そして心に染みこんでいるのだ。

 ここで話は心の問題に飛躍。人間らしいとはどういうことなのかに話が及ぶ。引き合いに出したのは、瀬名氏も影響を受けた、スタンリー・キューブリックの映画「2001年宇宙の旅」に登場する人工知能HAL(ハル)9000型コンピュータである。人類の進化とHALが宇宙船そのものという恐怖、そして人間とは何なのかが描かれている。瀬名氏は人工知能が人口知能たらしめるものは何なのかを「デカルトの密室」(新潮社/2005年)にしたためている。

瀬名氏はいくつもの例を挙げて、人と重力の関係を提示する。エリザベートによるデカルトへの手紙については、心と体の関係にまで言及

 会場で瀬名氏は、「デカルトの密室」の中にある逆チューリングテスト(判定員とのテキストでの質疑の結果から、人間らしさをはかるチューリングテストの逆バージョンで瀬名氏の造語)を実際にやってみることにした。作中の会話を例に、誰がもっとも機械らしいかを一緒に推測しようという試みである。瀬名氏もよくできたと自画自賛するプロットだとか。


「いい天気だね」「どんな本を読む?」「僕もSFを読むよ。ロボットものって?」「70764+34957=?」などの質問に対しての3つの解答から、一番機械っぽいものを当てる。答えはぜひ小説を購入して見てほしいと、ちゃっかり宣伝する瀬名氏

 この逆チューニングテストから導き出せるのは、「人間らしい知能は、間違えるようなこともある」ということ。それがインテリジェンスというものではないかと瀬名氏。そして話はまた重力を絡めてくる。「2次元上と3次元上では、思考のあり方も違うのではないか?」と。

 瀬名氏は取材も兼ねて航空機の操縦免許を取得し、国内外で飛んでいると各地でのフライトの様子をスクリーンで紹介。自身の経験からも空を飛ぶと、人間の知能は半減すると断言する。また、サン=テグジュペリの「人間の大地」第4章「飛行機と地球」から参照した「飛行機は一個の機械にはちがいないが、しかしなんという分析の道具だろう」「飛行機とともに、わたしたちは直線を知った」という言葉を紹介し、“視点の違い”で見え方も感じ方も変化すると説明する。

地面でまっすぐな道を進んでいるつもりでも、空から見れば高低差もありまっすぐに進むことは難しいものだが、空ではさえぎるものがないので実質まっすぐ進むことが可能だ。また、空から見ると地上からとは違って見えることを気づかせると瀬名氏

視点の違いの例はまだある。重力の常識から抜け出した宇宙では、物体を“取って”ではなく“押して”渡す。動詞まで変化するというわけだ

「共感とは重力感の重ね合わさりかもしれない」と、ミラーニューロン仮説で重力感を再構築できないかと考えた瀬名氏は、「小説の重力感」を解説。他者との「境界」とそれに伴う「違和感」の可能性を示す

 近年の人間の歴史は、重力というくびきから逃れようとした積み重ねでもある。自由になるために人間は空を目指した。そして、これからどう「重力感」をデザインするかで未来で“常識”は変化するかもしれない。人間が経験や視点から得た“重力”の常識を元に行動しているのであれば、アニメや映画、ゲームで感じる重力の表現や映像を繰り返し体験することで、未来での重力感は今のものとは異なるものになっているのではないかと。

 「バック・トゥ・ザ・フューチャー」のマーティとドクの会話のように、未来では本当に重力の定義が変わっているかもしれない。瀬名氏は集まっていたゲーム開発関係者に、視覚的ゲームの行きつく先で、しっかりと重力をデザインできているかを忘れないでほしいと示唆するのだった。


Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.

昨日の総合アクセスTOP10
  1. /nl/articles/2404/25/news174.jpg 身長174センチの女性アイドルに「ここは女性専用車両です!!!」 電車内で突如怒られ「声か、、、」と嘆き 「理不尽すぎる」と反響の声
  2. /nl/articles/2404/26/news154.jpg 元「AKB48」メンバー、整形に250万円の近影に驚きの声「整形しすぎてて原型なくなっててびびった」
  3. /nl/articles/2404/21/news011.jpg 小1娘、ペンギンの卵を楽しみに育ててみたら…… 期待を裏切る生き物の爆誕に「声出して笑ってしまったw」「反応がめちゃくちゃ可愛い」
  4. /nl/articles/2404/12/news174.jpg 築年数不明の平屋にある、ボロボロ床板をはがしてみたら…… 発覚したヤバい事実に「ビックリ!」「大丈夫でしたか?」心配と驚きの声
  5. /nl/articles/2404/26/news022.jpg ママの足にくっつく生後7カ月の赤ちゃん、甘えてるのかと思いきや…… 計算された行動と「ちいこい後ろ姿がかわいすぎ」て目が離せない
  6. /nl/articles/2404/25/news016.jpg 「電車の中で見ちゃダメ」「笑ったww」 実家からLINE「子ヤギがすばしっこくて捕まらない」→送られてきた衝撃姿が320万表示!
  7. /nl/articles/2404/25/news069.jpg “作画軽減ガンダム”をガンプラで作成 → 使用パーツも最小限の再現ぶりに「完全に一致」「部品軽減ガンダム」
  8. /nl/articles/2404/23/news090.jpg 誰も教えてくれなかった“裁縫の裏ワザ”が目からウロコ 200万再生のライフハックに「画期的」と称賛【海外】
  9. /nl/articles/2404/18/news134.jpg 21歳の無名アイドル、ビジュアル拡散で「あの頃の橋本環奈すぎる」とSNS騒然 「実物の方が可愛い」「見つかっちゃったなー」の声も
  10. /nl/articles/2404/26/news024.jpg 0歳赤ちゃん「(ママ来たっ!)」→喜びが抑えきれなくて…… 尊すぎるダンスが300万再生「心が浄化されていく」「朝から癒やされました」
先週の総合アクセスTOP10
  1. 小1娘、ペンギンの卵を楽しみに育ててみたら…… 期待を裏切る生き物の爆誕に「声出して笑ってしまったw」「反応がめちゃくちゃ可愛い」
  2. 富山県警のX投稿に登場の女性白バイ隊員に過去一注目集まる「可愛い過ぎて、取締り情報が入ってこない」
  3. 2カ月赤ちゃん、おばあちゃんに少々強引な寝かしつけをされると…… コントのようなオチに「爆笑!」「可愛すぎて無事昇天」
  4. 異世界転生したローソン出現 ラスボスに挑む前のショップみたいで「合成かと思った」「日本にあるんだ」
  5. 【今日の計算】「8+9÷3−5」を計算せよ
  6. 21歳の無名アイドル、ビジュアル拡散で「あの頃の橋本環奈すぎる」とSNS騒然 「実物の方が可愛い」「見つかっちゃったなー」の声も
  7. 1歳赤ちゃん、寝る時間に現れないと思ったら…… 思わぬお仲間連れとご紹介が「めっちゃくちゃ可愛い」と220万再生
  8. 業務スーパーで買ったアサリに豆乳を与えて育てたら…… 数日後の摩訶不思議な変化に「面白い」「ちゃんと豆乳を食べてた?」
  9. 祖母から継いだ築80年の古家で「謎の箱」を発見→開けてみると…… 驚きの中身に「うわー!スゴッ」「かなり高価だと思いますよ!」
  10. 「ゆるキャン△」のイメージビジュアルそのまま? 工事の看板イラストが登場キャラにしか見えない 工事担当者「狙いました」
先月の総合アクセスTOP10
  1. フワちゃん、弟の結婚式で卑劣な行為に「席次見て名前覚えたからな」 めでたい場でのひんしゅく行為に「プライベート守ろうよ!」の声
  2. 親が「絶対たぬき」「賭けてもいい」と言い張る動物を、保護して育ててみた結果…… 驚愕の正体が230万表示「こんなん噴くわ!」
  3. 水道検針員から直筆の手紙、驚き確認すると…… メーターボックスで起きた珍事が300万再生「これはびっくり」「生命の逞しさ」
  4. フワちゃん、収録中に見えてはいけない“部位”が映る まさかの露出に「拡大しちゃったじゃん」「またか」の声
  5. スーパーで売れ残っていた半額のカニを水槽に入れてみたら…… 220万再生された涙の結末に「切なくなった」「凄く感動」
  6. 桐朋高等学校、78期卒業生の答辞に賛辞やまず 「只者ではない」「感動のあまり泣いて10回読み直した」
  7. 「これは悲劇」 ヤマザキ“春のパンまつり”シールを集めていたはずなのに…… 途中で気づいたまさかの現実
  8. 「ふざけんな」 宿泊施設に「キャンセル料金を払わなくする方法」が物議 宿泊施設「大目に見てきたが厳格化する」
  9. がん闘病中の見栄晴、20回以上の放射線治療を受け変化が…… 「痛がゆくなって来ました」
  10. 食べ終わったパイナップルの葉を土に植えたら…… 3年半後、目を疑う結果に「もう、ただただ感動です」「ちょっと泣きそう」