キャラクターも演技者であれ――大塚康生×上田文人対談 〜もっと上手くなりたい!動かす力〜:CEDEC 2010
CEDEC 2010のメインステージに、アニメーターの巨匠・大塚康生氏が登場。「人喰いの大鷲トリコ」を開発中の上田文人氏とキャラクターの動きについて対談する。
技術が発達し、CGや3Dなどでアニメやゲームの表現力は格段に進歩した。よりリアルへの傾倒していく中で、本当にキャラクターを生かしたアクションを与えることができているのか――? 常々アニメーターは演技者であれと公言する大塚康生氏は、近年の止め絵で表現するアニメーションに異論を唱えている。
コンピュータエンターテインメント協会(CESA)が8月31日〜9月2日の期間、パシフィコ横浜で開催している日本最大のゲーム開発者向けカンファレンス「CEDEC 2010」(CESAデベロッパーズカンファレンス 2010)の2日目、メインステージに宮崎駿や高畑勲とともに「太陽の王子 ホルスの大冒険」「ルパン三世」「パンダコパンダ」「未来少年コナン」などを手掛けたテレコム・アニメーションフィルムの大塚康生氏と、「ICO」「ワンダと巨像」や「人喰いの大鷲トリコ」ディレクター/ゲームデザイナーの上田文人氏が並んで座り、セッションの開始を待っていた。
今回の大塚氏と上田氏の対談は、バンダイナムコゲームス メディアデザイナー 社長室 新規事業部 大阪芸術大学 客員教授の細田伸明氏の進行の元、行われた。
細田氏は、過去の日本のアニメーションは未成熟だったこともあり、それを補う技術で日本人の力が発揮できたとの認識を提示し、技術が発達した現代で日本の優位性は揺らいでいると、もう一度過去に立ち返ってノウハウを学ぶべきではないかと今回の対談の趣旨を説明した。
リアルタイムでは見ていないが、再放送で大塚氏の手掛けたアニメで育った上田氏にとっても、今のゲーム作りで大事な原体験となっているし、そのノウハウから学ぶべきことは大きいと語る。
まず対談では、大塚氏がアニメーションに関わることになった経緯を紹介する。元々、厚生省の麻薬Gメンだった大塚氏は、1956年に新たに発足した東映動画に臨時採用された。その時の採用試験は、「とても重たい鍬を持った男が土を耕す動きを6枚で表現しろ」というものだったと大塚氏。もちろんアニメーションの経験などまったくなかった大塚氏は、上手な絵を書けるわけではなかったが、人物や物体がどうやって動いているのかという「作動原理」に興味があり、常に興味をもって観察していた。そのある種の才能が、アニメーションでは必要だったようで、「重い鍬ならばきっと身体はひねるだろうし、足や手の位置はこうなるだろう……」と推測して提出したラフは、試験官の目に止まり合格することになる。
この「作動原理」を知らずに意識して絵をかける人間が、アニメーションをやるべきと大塚氏。現在、アニメーションの講師も務める大塚氏は、今の人たちの9割は絵が上手いが作動原理を理解していないと嘆く。また、近年のアニメーションの原画が4000枚(昔は6000枚とも)と少ないこともあり、止め絵が多様されることにも苦言を呈した。
一方、上田氏もゲームのアニメーションについては実技テストを実施していると、実際の実技内容に則して自身が3時間で作った3DCGアニメーションを紹介する。参考例としたバーベルを持ち上げる男の動きで大事なことは、“重さ”の表現だ。そこにはキャラクターになりきれるかなのだとか。経験がなくとも、自分ならこうするという想像力と、時間内に完成させる方法を探れるかが合否の基準と上田氏。大塚氏はその参考例を見て、ひとしきり感心するも、力のタメ具合がまだまだ足りないとちくり。上田氏も苦笑いするしかなかった。
アニメもゲームも、キャラクターに必要なものは「表情としての演出」に他ならない。「タメと放出、タイミングの面白さ」で生かすことも殺すこともできる。綺麗な絵は描けても、動きが苦手な人が多いのはその点が欠如しているからだそうだ。こうしたある種の才能は、後天的な努力で得るというよりも、持って生まれた素養なようなもので、砂場でダイヤモンドを探すようなものと両者とも人材に渇望していると語る。
ただ、闇雲に動かせばいいわけではなく、キャラクターを動かす以上にキャラクターの演技を要求する2人。「立ちポーズでただ息してそこにいるだけではもったいない」(上田氏)。「(ルパンでは)重心の位置をずらしたり、リラックスしているように演技させてそこに立ってもらった」(大塚氏)。
大塚氏は、漫画とアニメのキャラクターでは、その作り方がまったく違うと解説してみせる。以前関わったアニメ「ルパン三世」の際、原作者のモンキー・パンチ氏のところに行き、さまざまなカットをともに製作した時の話だ。アニメでは360度どこから見せることもできるため、斜め後ろからのルパンの顔のアップをモンキー・パンチ氏に依頼したところ、うまく書けなかった。他にも目のアップなど、普段の漫画では書く必要のないカットは苦手だったのだ。アニメーターである大塚氏は、逆にそうした角度からのカットはすらすら書けたという。大塚氏が以前見たというアニメを例にするまでもなく、どの角度から見ても髪型が変わらないとかありえないし、普通角度によっては歪んで見えるもの。
その点、立体的にCGで表現表現するゲーム開発の現場では、そうした360度どこからでも見せられるように作るのが今や当たり前となっている。確かにキャラクターによって、動かしやすいプロポーション(巨大だったり異形なフォルムだったり)はあるが、ゲームではいかにディテールを細かく描けるかと上田氏。圧倒的な情報量をぶち込んでリアリティを高めるのがCGで、記憶や経験の中にある作動原理を上手に利用してリアリティを高めるのがアニメなのだ。
ただ、大塚氏は浮世絵のような輪郭の線の中に色をのせるアニメが好みのため、あまりリアルで輪郭がはっきりしないものは個人的に好きではないらしい。また、日本独特のタメも多様しすぎるきらいがあり、アメリカ人なら(壊れたんじゃないかと)思わず映写機を振り返りたくなるようなものも多いとゆるく笑わせる。何事も説得力があるかどうかだ。
上田氏もゲームの中には、物体の質量を感じさせないものもあると耳が痛い様子。例えば100万馬力という設定があるロボットなら、制約の中でも納得させる絵にする必要がある。空想するのは簡単だが、それに説得力を持たせるのはアニメーションの仕事だと大塚氏。だからアニメーションは面白い。「アニメはすべてを動かすことは難しいが、背景を含め動かすものがまだまだある」と可能性を示す。
話はいつしか優秀なアニメーターの見つけ方、そしてどういうスタンスで仕事に臨むかという話に。大塚氏は舞台の背景を描く演出に注力し、上田氏はぱっと頭に浮かんだある絵を動かしたいという衝動から作品を構築していく。先天的な能力がアニメーターに必要であり、その訓練は早いうちの方がいいと大塚氏。辛口の批評は人を育てるので、褒めて育てるより、けなされたほうがありがたいと厳しい。また、上田氏はゲーム業界でのアニメーターのポジション確立を提案する。ちなみに、アニメーターに向いている人というのは結局のところ「よく分からない」らしい……。
関連記事
- CEDEC 2010:「パチンコのような単純さ」で1000万ユーザー獲得 グリー田中社長が語るヒットの極意
「ソーシャルゲームでは1000万ユーザーにいかないとヒットじゃない感覚」と語るグリーの田中良和社長。ヒットを狙うには、パチンコやテレビのような“単純さ”が必要と説く。 - 「マイコンBASICマガジン」にCEDEC AWARDS 「DS-10」も受賞
多くのプログラマーを育てた功績をたたえ、「ベーマガ」にCEDEC AWARDSが贈られた。 - CEDEC 2010:作家の視点でゲームの、そして人間の重力感を俯瞰する――瀬名秀明氏基調講演
「CEDEC 2010」2日目の基調講演には、作家の瀬名秀明氏が登場。重力がゲームに影響を与え、ゲームは重力に影響を与えているのか? 瀬名氏が“視点”の置きどころで解説する。 - CEDEC 2010:「デバイス・OSフリーへ」 DeNA南場社長が語るスマホ時代のゲームプラットフォーム論
「あと1年はアドバンテージがある」――DeNAの南場智子社長は、ゲームのプラットフォームの未来を語り、開発者に「グローバルへの挑戦を一緒にしていきませんか?」と呼び掛けた。 - BREWに新プラットフォーム、Android向けアプリ市場にも注力――KDDI鴨志田氏
ゲーム開発者向けカンファレンス「CEDEC 2010」でKDDIの鴨志田博礼氏が、auケータイ向けに新しいアプリプラットフォームを追加する計画や、Androdアプリへの取り組みを説明した。 - CEDEC 2010:CEDECのこれからを語り、ゲーム開発者へエールを送る――松原氏が基調講演で語ったこと
CESAが開催するゲーム開発者向けカンファレンス「CEDEC 2010(CESAデベロッパーズカンファレンス 2010)」が開幕。3日間にわたるセッションのトップバッターは、基調講演に立つコーエーテクモホールディングスの松原健二氏。和田氏もオープニングスピーチに立つ。 - CEDEC 2010:モバゲー、GREE、mixiの競争が“即席ゲーム”に!? DeNAチームが3日で開発へ
DeNAの開発チームが3日でゲームを作るチャレンジが、CEDEC会場で始まった。クジで決まったその内容は、DeNA、グリー、ミクシィが激しく社員を奪い合って売り上げを競うという刺激的なものだ。
関連リンク
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
-
互いの「素顔を知ったのは交際1ケ月後」 “聖飢魔IIの熱狂的ファン夫婦”の妻の悩み→「総額396万円分の……」
-
ドクダミを手で抜かず、ハサミで切ると…… 目からウロコの検証結果が435万再生「凄い事が起こった」「逆効果だったとは」
-
人生初の彼女は58歳で「両親より年上」 “33歳差カップル”が強烈なインパクトで話題 “古風を極めた”新居も公開
-
妻が“13歳下&身長137センチ”で「警察から職質」 年齢差&身長差がすごい夫婦、苦悩を明かす
-
「飼いきれなくなったからタダで持ってきなよ」と言われ飼育放棄された超大型犬を保護→ 1年後の今は…… 飼い主に聞いた
-
「明らかに……」 大谷翔平の妻・真美子さんの“手腕”を米メディアが称賛 「大谷は野球に専念すべき」
-
高2のとき、留学先のクラスで出会った2人が結婚し…… 米国人夫から日本人妻への「最高すぎる」サプライズが70万再生 「いいね100回くらい押したい」
-
「腹筋捩じ切れましたwww」 夫が塗った“ピカチュウの絵”が……? 大爆笑の違和感に「うちの子も同じ事してたw」
-
“膝まで伸びた草ボーボーの庭”をプロが手入れしたら…… 現れた“まさかの光景”に「誰が想像しただろう」「草刈機の魔法使いだ」と称賛の声
-
「ごめん母さん。塩20キロ届く」LINEで謝罪 → お母さんからの返信が「最高」「まじで好きw」と話題に
- アレン様、バラエティー番組「相席食堂」制作サイドからのメールに苦言 「偉そうな口調で外して等と連絡してきて、」「二度とオファーしてこないで下さぃませ」
- 「母はパリコレモデルで妹は……」 “日本一のイケメン高校生”グランプリ獲得者の「家族がすごすぎる」と驚がくの声
- 「何言ったんだ」 大谷翔平が妻から受けた“まさかの仕打ち”に「世界中で真美子さんだけ」「可愛すぎて草」
- 「真美子さんさすが」 大谷翔平夫妻がバスケ挑戦→元選手妻の“華麗な腕前”が話題 「尊すぎて鼻血」
- イモト、突然「今日まさかの納車です」と“圧倒的人気車”を購入 こだわりのオプションも披露し光岡自動車からの乗り換えを明かす
- 「この動画お蔵かも」 親子デートの辻希美、“食事中のマナー”に集中砲火で猛省……16歳長女が説教「自分がやられたらどう思うか」
- 老けて見える25歳男性を評判の理容師がカットしたら…… 別人級の変身と若返りが3700万再生「ベストオブベストの変貌」「めちゃハンサム」【米】
- 「ガチでレア品」 祖父が所持するSuica、ペンギンの向きをよく見ると……? 懐かしくて貴重な1枚に「すげえええ」「鉄道好きなら超欲しい」と興奮の声
- 「デコピンの写真ください」→ドジャースが無言の“神対応” 「真美子さんに抱っこされてる」「かわいすぎ」
- 「天才」 グレーとホワイトの毛糸をひたすら編んでいくと…… でっかいあのキャラクター完成に「すごい」「編み図をシェアして」【海外】
- 50年前に撮った祖母の写真を、孫の写真と並べてみたら…… 面影が重なる美ぼうが「やばい」と640万再生 大バズリした投稿者に話を聞いた
- 「食中毒出すつもりか」 人気ラーメン店の代表が“スシローコラボ”に激怒 “チャーシュー生焼け疑惑”で苦言 運営元に話を聞いた
- フォロワー20万人超の32歳インフルエンサー、逝去数日前に配信番組“急きょ終了” 共演者は「今何も話せないという状態」「苦しい」
- 「顔が違う??」 伊藤英明、見た目が激変した近影に「どうした眉毛」「誰かとおもた…眉毛って大事」とネット仰天
- 「ごめん母さん。塩20キロ届く」LINEで謝罪 → お母さんからの返信が「最高」「まじで好きw」と話題に
- 星型に切った冷えピタを水に漬けたら…… 思ったのと違う“なにこれな物体”に「最初っから最後まで思い通りにならない満足感」「全部グダグダ」
- 「泣いても泣いても涙が」 北斗晶、“家族の死”を報告 「別れの日がこんなに急に来るなんて」
- ジャングルと化した廃墟を、14日間ひたすら草刈りした結果…… 現した“本当の姿”に「すごすぎてビックリ」「素晴らしい」
- 母親は俳優で「朝ドラのヒロイン」 “24歳の息子”がアイドルとして活躍中 「強い遺伝子を受け継いだ……」と注目集める
- 「幻の個体」と言われ、1匹1万円で購入した観賞魚が半年後…… 笑っちゃうほどの変化に反響→現在どうなったか飼い主に聞いた