今後数年間の主戦場は“コミュニケーション”――和田洋一氏が語るゲーム産業:TGS2011【基調講演】
東京ゲームショウ2011の基調講演に社団法人コンピュータエンタテイメント協会(CESA)会長を務める和田洋一氏が登場。その模様をお届けする。
東京ゲームショウ2011において、社団法人コンピュータエンタテイメント協会(CESA)会長を務める和田洋一氏による基調講演「ゲーム産業革命の本質」が行われた。
登壇した和田氏はまず、ゲーム産業の変遷について説明。ゲームが最初に登場したのはアーケードで、当時はひとつのゲームをするのにひとつの特殊な機械が必要だったと振り返る。その後、任天堂からファミコンが登場したことにより、いろいろなゲームを専用機1台でプレイできるようになった。
順調に成長していたゲーム産業に大きな変化が訪れたのは2000年。プレイステーション 2(PS2)の登場だったという。和田氏は、「ゲーム専用機とDVDプレーヤーが一緒になったんです。お客さんからすると、それまではゲームを動かす、そのための専用機を買っていたんですが、PS2以降はDVDプレーヤーとしても使えますから、ゲーム環境に対する投資額は減ったんです」と語る。この“ゲーム環境に対する投資額が減る”というのは、マーケットが拡大するうえで大きな要因になるという。
2000年代前半には、スペックが非常に高くなったケータイが登場。「ケータイを買う方で、ゲームをするために買うという方はほとんどいません。ケータイとして利用するために買うわけですが、そこでもゲームが遊べるようになったわけです。汎用機でゲームが動く。こうなるとさらにお客様のゲームに対する固有の投資は減っていくわけです」(和田氏)
そして2007年。和田氏が「節目の年だった」と振り返るのは、すべてのゲーム機がネットに対応し、iPhoneが登場した年だ。これにより、ユーザーのゲームに対する環境投資は極限まで減ることになったという。ネットにつながった2007年以降は、「ゲーム専用機か汎用機であるかということすら意味を成さなくなった」と和田氏は語る。プラットフォームがネットワークにシフトしており、ほとんどの端末に標準搭載されているブラウザが進化、ブラウザ上でもかなりのゲームが動くというのがその理由だ。和田氏は今後、ネットワーク上のクラウドを利用したゲームが増えていくと予想していた。
続いて和田氏はドライバの変遷について説明。ゲーム業界ではゲーム機の処理能力について語られることが多くあるが、それがマーケットの拡大に影響を与えていたのは2000年ぐらいまでの話で、軸は“インプット”に移っていたという。インプットは、ファミコンのコントローラ、ゲームボーイなどのハンドヘルド、ニンテンドーDSのタッチパネル、Wiiのモーションコントロールなどのことを指す。ニンテンドーDS、Wiiはまさに軸がインプットへと移った時に登場した商品で、和田氏は「任天堂さんのニンテンドーDSとWiiが席巻したのは理にかなってるんです」と話していた。
では、現在の軸もインプットなのか? 和田氏は汎用機に高度な処理能力とタッチパネルなどのインプットが標準搭載されて差がなくなったため、現在の軸は“コミュニケーション”に移ったと話す。「2007年以降、特に2010年以降は顕著ですが、コミュニケーションに軸が移りました。ここはまだ始まったばかりです。お客さんの要求に応えて、追求しなきゃいけない部分があります。コミュニケーションの軸はようやく第一波がきたぐらいなので、これから第二、第三波がくると思います。ここが今後数年間の主戦場になる」(和田氏)
最後に和田氏が取り上げたのは、ビジネスモデルについて。遊びたい分だけ100円を入れる従量課金のようなものであったアーケードゲームから、定額のパッケージ販売を経て、ネットワークに対応したことにより、現在は従量制に戻ったと和田氏は語る。パッケージ販売からの変化については、サービスや商品の単価が下がってしまうことへの懸念が示されることもあるが、和田氏は「ユーザーごとの満足に従ってお金をもらう制度になりましたというだけ。価格破壊でも何でもなく、ユーザーが選択するためのシステムが形成された。(単価が)安くなったので商売になりませんではない」と話していたのが印象深かった。
ユーザーに選択されるためには何が必要か? 和田氏は海賊版の話をしているわけではないと前置きしたうえで、「重要なのはコピー(再生)できるかどうか」だと話す。「どんなにすばらしいデータでも、コピーできたら価値はなくなる。何を経験したか? できるか? そこに対してお金が支払われる。自分でやったことなら繰り返せるかもしれないが、友人などと一緒に経験したことを再生するのはさらに難しい。コンピューターは最初、人間の代わりに相手をしてくれたが、今は人間と人間の間を仲介してくれる。ここをどうデザインしていくかが競争の本質になると思う」(和田氏)
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