省エネナンバーワン製品を巡る熾烈な開発競争に勝利せよ。タイガー魔法瓶の電気ポット「とく子さん」売れるのには理由がある(1/2 ページ)

親しみやすく分かりやすいネーミングの電気ポット「とく子さん」。だが、マイルドな名称からは想像できないような、省エネナンバーワン製品の名を巡った、しのぎを削るような開発競争があったという。電気ポット開発の裏で技術者は何を思ったのか。

» 2011年11月28日 15時12分 公開
[種子島健吉,ITmedia]
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身近な存在なだけに使い勝手が重要

 空気清浄機も使い勝手に配慮された製品だった、というよりも売れている製品で使い勝手に配慮していない製品はまずない。しかし、今回の電気ポットはその中でも特に使い勝手が重視される製品ではないだろうか。

 なぜなら使用目的は、誰にとっても「お湯を沸かす」と単純明確で、その点ではどのメーカー製でも機能が同じである。

 さらに、キッチンで使用されることが多いので調理器具の延長線、家電の中でも機械や装置というよりは道具に近いイメージだ。

 それに「使い勝手が悪い」で話が済めば良いが、中に入っているのは熱湯である。使用方法が難しければ、誤使用による火傷や怪我の恐れもあり、安全性の確保という問題もつきまとう。

 2008年のタイガー魔法瓶による調査でも、電気ポットの年齢別使用率は、20代が41%、30代が37%に対して、60代以上が55%であったという。これは電気ケトルの年齢別使用率、20代が35%、30代が25%、60代以上が9%というのに比べても高齢の愛用者が多いから、なおさら操作は簡単であるべきだ。

 「タイガー製品は使いやすいし品質が高いと、昔から知っている老舗メーカーとして信頼し、安心感を持ってもらっているのだと思います」と、ソリューション・開発グループ 商品企画チーム マネージャー補主査 金丸等(かなまる ひとし)氏も、使いやすさを同社の電気ポットが支持されている理由のひとつだとしている。

 そんな電気ポット製品で、2010年度の販売数ナンバーワンなのがタイガー魔法瓶の「とく子さん」シリーズである(シェアは、メーカーが省エネVEタイプの販売数などから把握しているもの)。

画像 左から商品デザイン担当の今井氏、商品企画担当の金丸氏、商品開発担当の藤川氏。タイガー魔法瓶の開発拠点が大阪ということで、今回はメールにより質問を送り回答をいただいた

「とく子さん」への道のり

 タイガー魔法瓶の電気ポットの歴史は、1980年の電気ポット第1号「湯沸かしエアーポット わきたて PEA型」の発売に始まる。

 そして、1988年に「とく子さん」の前身ともいえるステンレス製真空2重構造の内容器を採用した「ダブルステン沸とうポット くるりトクだね PFW型」を発売、1998年には「とく子さん」ブランド名を冠した第1号「VE真空電動ポット とく子さん PDS-S型」の発売に至る。

 さらに2006年には省エネ性能の大幅な改良による「VE電気まほうびん とく子さんプレミア PVS-A型」を発売、翌2007年には改良版「PVS-G型」を発売し、2011年の現在も、省エネVEタイプ電気ポットの省電力ナンバーワンの地位を保っている。

 「ダブルステン沸とうポット くるりトクだね PFW型」は、電気自転車 Electric Cycleのごとく、「時期尚早な製品だった」とメーカーでも振り返るように販売数が伸び悩んだ。

 これは製品が悪かったというよりは、時がバブル景気だったため、周囲の環境が悪かったともいえないでもない。

 ダブルステン(ステンレス製の2重構造)という新技術を活用した製品として、作り手としては必然的プロダクトだったものの、当時は、自動車市場などもそうであったが、馬力やラグジュアリー性を競うような世の中であり、低燃費、節約、節電ニーズはほとんどなかった。

 それに個人レベルでの環境への配慮といった意識も低く、エネルギーの節約や環境保全の視点からも、ダブルステン電気ポットの受け入れられる土壌がなかったのだ。

 しかし、販売は振るわなくとも、この製品が連綿と続くことになる「とく子さん」シリーズの礎となったのは確かだ。

 ちなみにVEというのはVacuum(真空)とElectric(電気の)を合わせた言葉で、象印マホービンと申し合わせ、該当する両社製品において使用している共有商標だ。似たような言葉の氾濫で、購入者が混乱をきたさないよう配慮しているわけだ。

画像 タイガー魔法瓶の電気ポット第1号「湯沸かしエアーポット わきたて PEA型」。30年以上前の製品としては古くささを感じさせない完成された無駄のないデザインだが、現在と企業ロゴの形状が違うのが見てとれる
画像 「とく子さん」ブランドの記念すべき第1号、「VE真空電動ポット とく子さん PDS-S型」。この発売で、タイガー魔法瓶とライバル企業との電気ポット省エネ開発競争の幕が開けたといっても過言ではない

「とく子さん」にもあった冬の時期

 「とく子さん」といえば家電量販店での指名買いも多いと聞く、誰でも知っている知名度の高い省エネ(今でいうエコ)製品の代名詞的存在のひとつだ。

 筆者の勝手な思い込みでは、製品の売れ行きや性能に関しても絶えずトップを突っ走っていたのだろうという印象だったのだが、実はそうではなかったのだという。

 「慢心がありました」とソリューション・開発グループ 商品開発チーム 副主事 藤川尚輝(ふじかわ なおき)氏は振り返る。

 1998年の「VE真空電動ポット とく子さん PDS-S型」発売により、競合他社との省エネナンバーワン電気ポットの名を賭けた、しのぎを削るような開発競争の火ぶたが切られた。

 タイガー魔法瓶でも製品改良を続け、省エネナンバーワン製品が毎年入れ替わる状況下、それまで保温時の消費電力が20ワット程度必要だったものを18ワットまで大幅に減らすことに成功した「VE電気まほうびん とく子さん PVF-A型」を2003年8月に発売した。

 外観がステンレスボディというデザイン性の高さもユーザーに評価され、高価格帯の電気ポット製品としては異例の年間10万台以上の販売を記録し大ヒットとなり、省エネナンバーワンの座もしばし盤石だと思われた。

 ところが2003年9月に、象印マホービンが保温時の消費電力15ワットの製品を発売したのだ。これには、藤川氏が「省エネ競争からは大きな遅れをとってしまい悔しかった」と語るほどで、開発陣の受けた衝撃の強さはいかほどだったものか。

 そこで先ほどの「慢心」という言葉になるわけだが、これはおそらく技術者の良心が言わしめた言葉であろう。それだけ良い製品だと自負する自信作を世に送り出したのに、翌年には省エネ性能に関して性能が上回る製品をライバル企業が発売してしまったのだ。

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