省エネナンバーワン製品を巡る熾烈な開発競争に勝利せよ。タイガー魔法瓶の電気ポット「とく子さん」:売れるのには理由がある(2/2 ページ)
1日に2タイプの試作機をテスト
この非常事態に経営トップからも省エネナンバーワン奪取の令が下り、ありとあらゆる手法が試みられることになった。
今まで実績があった内容器の加工方法や形状などを一旦すべて全部捨て、ゼロから設計を見直す。そのために、開発メンバーには日に2案の改良案提出が義務付けられた。
まず、1つ目の改良案を朝一番に持ち寄って試作機に組み込み、夕方まで測定を実施する。2つ目の改良案を夕方持ち寄って、再度試作機に組み込み直して再測定を実施する。そんな試行錯誤が繰り返されたという。
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その成果を見ることができたのは2年後の2005年、遂に保温時の消費電力10ワットの試作機が完成した。
そのときの気持ちを「省エネナンバーワン奪取の社命を受けて何が何でも達成しなければならない目標だったので、積算電力の値が9.8ワットを示したときは、恒温槽(実験室)の中で思わず『うぉ〜』と叫んでしまいました。そして、正直ほっとしました」と藤川氏は振り返る(この製品が、2006年に発売された「VE電気まほうびん とく子さんプレミア PVS-A型」)。
その後も、開発陣はヒーターの制御ソフトウェアや沸とう検知精度改良で省エネ技術を多機種に反映するとともに、省エネ以外の使い勝手や安全性の向上を目指した開発を続けている。
新製品「蒸気レス とく子さん」誕生
「とく子さん」第1号開発の際にも、省エネ性能と使い勝手、コンパクトさをすべて満たすために、ステンレス製の2重構造の開発、特にタイガー魔法瓶独自の内容器の口部をしぼった構造(口部から上へと逃げる熱を逃がしにくくする)などに苦心があったという。
苦心といえば、2011年8月に発売された「蒸気レスVE電気まほうびん とく子さん PIA-A型」も蒸気レスという新しい技術に挑んだだけに、並大抵ではなかっただろう。
そもそも開発のきっかけは、「電気ポットの蒸気が気になるから、表示温度95度のところで保温に切り替えて使っている」という話を聞いたこと。
別の調査でも、「蒸気が幼児に危険ではないか」「蒸気でインテリアが痛まないか」という懸念がユーザーにあったりと潜在ニーズがあることも分かったのだという。
筆者などはヤカンを想像してしまい「蒸気が出ないなんて無理でしょ!?」と思ってしまったのだが、電気ポット開発陣は新しいテーマ「蒸気レス」に、「おもしろいじゃない!」と前向きだったという。
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前向きの姿勢が功を奏したのか、開発時には様々なアイディアが生まれ、密度の濃い作業によって、企画スタートから技術的実現の目処が立つまでに8カ月、実際の製品デザインにも8カ月と、通常の製品開発よりも2カ月ほど期間を要したものの発売スケジュールは厳守されたという。
デザインに関しては、かねてから「どの電気ポットも同じに見えて、こだわっているものがない」というユーザーの声が開発陣に届いていたこと、蒸気レスとなったことで置き場所を選ばなくなったこともあり、「既存製品に多いナチュラルイメージ、丸みのある形状や淡い色合いはあえて避け、圧倒的な存在感を持ったインパクトのあるものを目指しました」と、ソリューション・開発グループ 商品企画チームリーダー 主事 今井克哉(いまい かつや)氏は説明する。
また、「蒸気レス」を実現する機構の開発と機構を完全メンテナンスフリーにするのが、初期設計段階での難問であった。そのため「蒸気レス」が実現可能かどうか検証するために、1台1台ハンドメイドした試作品を少しずつ改良するという地道な作業が繰り返された。
さらには誤使用されることも勘案し、「連続10回以上の再沸騰」を繰り返すなど、万が一に備えた安全確認も徹底して行われたという。
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本企画「売れるのには理由がある」は、売れている製品にフォーカスするのが主旨なので、毎回、良いことずくめな内容になりがちだ。そのため、失敗談も交えて取材させていただくようにしている。してはいるが、一時的にも自社が劣ったというのはなかなかオープンにしにくい。
そういう状況の中で、生々しい開発現場の息づかいが聞こえるようなタイガー魔法瓶、電気ポット開発陣の貴重なエピソードは、社会人の読者諸兄姉には共感できる部分があるのではなかろうか。
逆境においても前向きであり、ユーザーの意見に真摯に耳を傾ける開発姿勢の正しさは大震災の影響で停電が多かった2011年、「停電でもお湯が使えて本当に助かった」というメーカーに寄せられた言葉に裏付けされているように感じる。
省エネ性能の追求が、通電していないときでも保温できる時間が長いことにつながった。充電のことを意識しないでも使用できるようにと、「電動&エアー給湯」タイプの製品も用意しておくという配慮が、停電時にフタを開けなくともいつも通り安全に給湯できることを実現したのだ。
それに加えて、今回、感じたのは良きライバルの存在が製品を育てるということ。ケータイ端末のように、競合他社が10数以上もあるというのは良いことなのかどうか疑問に思わないでもないが、1社独占というのも良い状態ではないだろう。
良い意味で競争(時には協調)できる2、3社の競合他社があるというのが、良い製品が生まれる土壌ではないだろうか。もちろん、「とく子さん」開発陣のように、製品、ユーザーに真摯に向き合う姿勢があるというのが大前提であるが。
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