うつ病が“見える”最新技術「光トポグラフィー検査」とは?:病気も“見える化”
うつ病診断が抱える「大きな問題点」を解決できるかもしれない最新技術「光トポグラフィー検査」をご存じでしょうか。
厚生労働省の調べによると、2011年には日本の精神疾患による患者数は320万人を超え、うつ病患者だけでも95.8万人という結果が出ています。うつ病が原因で休職している社員がいる職場も少なくないはず。さて、このうつ病の診断に関して、画期的な技術が開発されたのをご存じでしょうか。
光トポグラフィー検査ってなに?
その技術は「光トポグラフィー検査」と呼ばれています。2009年には厚生労働省に先進医療として承認されており、実際に国内の精神科での導入実績もあります。
この検査に使われる光トポグラフィー装置は、広告やマーケティングなどにも活用されている機械で、近赤外線の光を頭に照射することで、大脳皮質部分の毛細血管を可視化し、脳内の血流を見るためのものです。この装置を使い、患者の血流パターンを観察します。
「健常」「うつ」「躁うつ」「統合失調症」には、それぞれに特徴的な脳の血流パターンがあるため、それと患者の血流パターンを比較することで病状を判断します。
精神疾患による患者にとって最も高いハードルの1つが「病気を受け入れること」です。この検査では自身の体の状況が客観的に見られるため、患者自身も納得しやすくなるというメリットがあります。
うつ病診断の問題点とは?
このような技術が注目されるのは、うつ病診断が抱える大きな問題のせいです。それは、診断があくまでも医師の問診を前提としたものであるということ。
うつ病を診断する際、まず問診票に自己申告で今の心の状態や、不眠や手足のしびれなどの身体的な状態を記入します。そのあと診察室とは別室に移動し、問診票をもとに相談員がさらに具体的な質問をし、その内容をもとに医師の診察に移ります。医師からの質問に答える段階に至っても、患者が話す内容はあくまで自己申告。しかも医師も何か医療器具を使うでもなく、ただ問診だけで診断を下すのです。
そのため、どうしても患者は「本当に自分はうつ病なのだろうか?」と半信半疑になりますし、職場をはじめ、周囲の人たちにとっても説得性に欠ける診断になってしまいがちです。だからこそ、客観的な数値を示して病状を把握できる光トポグラフィー検査は、画期的なのです。この技術はいまだ精神疾患への理解が薄い日本の患者にとって、救いの手になる可能性を秘めているといえます。
光トポグラフィー検査は万能ではない
国立精神・神経医療研究センター臨床検査部長であり、精神科外来の吉田寿美子氏によれば、この技術の病状判別の精度は躁うつ病が8〜9割、うつ病が7〜8割、統合失調症については6〜7割とされています。従って、各病院では光トポグラフィー検査と合わせて従来型の診断も併用し、あくまでこの検査を補助的な役割として位置付けています。
光トポグラフィー検査は万能ではありません。患者も周囲の人も、「光トポグラフィー検査でうつ病だと分かった・うつ病ではないと分かった」からといってそれに一喜一憂することのないよう注意する必要はあります。しかし、今後さらに医療の現場に普及・実用化されていくことで、うつ病に悩む多くの人を救う光明となるかもしれないということも、また事実なのです。
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