レビュー

「必ずゴーグルを着けること。失明します」 200万年前のロマン感じる同人誌『打製石器を作る』が難易度ベリーハード司書メイドの同人誌レビューノート

難しそうだけど……作ってみたい!

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 1年、早いものですね。2018年はどんな年だったでしょうか……と、これまでを振り返る年末。どうせ振り返るなら、思い切って200万年くらいさかのぼってみませんか!

今回紹介する同人誌

『打製石器を作る』

A5 24ページ 表紙1色刷り・本文モノクロ

作者:林三知代


コート紙に銀一色で刷られた表紙は、その艶(つや)で黒曜石を思わせます

あなたは尖頭器形? 矢じり形? 鹿角を片手に打製石器を作る

 打製石器は、旧石器時代に使用されていた道具。石を削ることでとがらせ、武器やナイフのように使用していたようです。こちらの同人誌は、そんな打製石器を自分で作るためのガイド本です。

 まず、主な材料となるのは黒曜石。おお、黒曜石。そのかっこいい言葉の響きと、石なのに透明感のある輝きを持っていて、歴史の教科書に載っていたのを覚えています。そして、次に用意するのは鹿の角。こちらは黒曜石を削るハンマーの代わりに使用するので、大きめのものが良いようです。

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 ……ここまで読んで、「無理じゃない!?」と早々に諦めがよぎりかけます。黒曜石と鹿の角、現在、これをいきなり準備できる方は、相当に恵まれた打製石器作りの環境にあると言っていいでしょう! しかし、手に入らなくても大丈夫。ちゃんと「鹿角を手に入れるのが難しい方に」というページもあり、市販の銅の棒などを使って代用できることが紹介されています。黒曜石については、ガラス瓶の底でもいいのですって。実は打製石器作りは各地の歴史資料館などで体験イベントとして催されたり、意外と身近に体験できる機会もあるようです。

 教科書から抜け出してきたような打製石器。けれど、このご本は歴史の通りに作ることを目指してはいません。あくまで、21世紀の今、できるところは便利に、打製石器作りに取り組みます。

皮手袋(しても手は切る)。読み解くだけでハードな作業がひしひしと迫る

 しかし、現代であってもなお……いや、これは現代だからこその注意事項が本文1ページ目から掲げられます。

 「必ずゴーグルを着けること。失明します」。


けがに気を付ける注意文と、基本の道具さえ入手が難しそうな雰囲気に、少しばかりの戸惑いが……

 石器を削った破片はとても細かく鋭いので、とにかく要注意と繰り返し語られます。その他、準備物の解説に「皮手袋(しても手は切る)」とコメントがあったり、「ソフトハンマーが左足にめっちゃ当たるのであざだらけになる」と記されており、さらにその横に「が、むしろ足ごと叩く勢いで割る!」と続いているあたりで、慎重さと大胆さの共存が必要な、ダイナミックかつハードな作業なのではと、ものすごく淡々とつづられる打製石器作りページを見ているだけで、なんだかどきっとしてきましたよ……。

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 こちらのご本は、図も文字も全て手書きです。内容は打製石器の作り方を紹介されているのがメイン。白と黒のシンプルな作りながら、打製石器について丁寧なレクチャーがなされます。

 しかし、実のところ私のように、今まで打製石器について考えたこともなかった人間が、これ1冊でいきなり完璧な打製石器を作るのは難しいかもしれません。けれど、例えば「失敗図」だけでなく、「大失敗図」が並んでいたり、とにかく1回自分でやってみて、そのあとに読んだら「そうそう、ここでつまづいた!」と激しくうなずけるタイプのご本ではないでしょうか。

周到な準備と、実際にやっている方だからこそのアドバイスが光ります

美とロマン。自らで作り出す200万年前とのつながり

 作者さんは「実際に使用できる石器、現代の道具も使用しながら素人がなるべく使用に耐える石器を作ることを目標とした」と書かれています。とはいえ、現代生活のなかで、わざわざ石器を作らなくても、その代用になるものはたくさんあります。それでもあえて、こんなにも手間暇と、時に文字通り身を削って打製石器作りに取り組んでいらっしゃるのを読むうち、私はいつのまにかその解説の一つ一つの向こうに、200万年前の生活を思い浮かべていました。

 黒曜石と鹿角はきっと昔だってなかなかレアな素材だったんじゃないかしら。細く石を剥ぐ技術を駆使して、自分の思い通りに仕上げたら、とっても愛着のわく道具になったでしょうね。そして作者さんのTwitterででき上がった打製石器を拝見すると、なんと美しい! 実用的で美しく、しかもそれを、打って石を削ぐというランダムな要素の高い工程を経て自ら作り出すなんて。

 教科書で出会ったときにはただ「掲載された写真」と感じた打製石器が、同人誌として作り方を読むことで、いま打製石器を作っている方を通して、はるか昔の人とのつながりを感じているような気分にすらなりました。

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 小さな切片と向き合う姿から、過去に思いをはせて。そして、2019年は猪さえ狩りさばけるような、ダイナミックな年になるかも!? なんて未来も想像してしまったり。少しばかり気が早いですが、どうぞみなさま良いお年を。


「石器にしたい形の都道府県」その発想で都道府県を見たことが無かったです!おまけページからも作者さんの打製石器愛が伝わります

作者さんが実際に作ったもの

カラフルで目にも楽しいですね

サークル情報

Twitter:@lunba240

現在入手できる場所:博物クリスマス(2018年12月23日まで)、ウェブメディアびっくりセール(DOGUPOTA、2019年1月19日開催)、大阪市立自然史博物館ミュージアムショップで販売予定

今週のシャッツキステ


当館の蔵書からご縁のありそうな資料をトーヤちゃんが探してくれました。倒したマンモスをおいしくいただくときなどに石器を使っていたかもしれませんね!

著者紹介


司書メイド ミソノ:秋葉原カルチャーカフェ「シャッツキステ」でメイドとしてお給仕する傍ら、とある大きな図書館で司書としても働く“司書メイド”。その一方で、こよなく同人誌を愛し、シャッツキステでも「はじめての同人誌づくり」「こだわりの特殊装丁」の展示イベントを開く。自身でも同人誌を作り、サークル活動歴は「人生の半分を越えた辺りで数えるのをやめました」と語る

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同人誌 | 歴史 | 作り方

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