虚構新聞・社主UKのウソだと思って読んでみろ!第5回:「おひとりさま」の自信を取り戻したい男女に処方するマンガ3選
「それってさみしくないんですか?」とか聞かないでください。ひとり焼肉もひとり居酒屋もいいもんですよ!
ねとらぼ読者のみなさん、こんにちは。「虚構新聞」社主のUKです。
まずは、オススメマンガを紹介する本連載「虚構新聞・社主UKのウソだと思って読んでみろ!」の第3回で紹介したアサダニッキ先生の「青春しょんぼりクラブ」ですが、8月に京都・恵文社が企画した「アサダニッキ先生WEBサイン会」に参加したところ、サイン入り単行本が先週末届きました。これは家宝として日焼けしないよう本棚の奥の方に大事にしまっておきます。アサダ先生、ご覧になってますかー? サインありがとうございました!
……とまあ、あまりページを私物化すると、ねとらぼの美人編集M女史に怒られそうなので、そろそろ本題に入ります。
今年も残すところあと3カ月。近頃はまだ10月なのに、クリスマスムードを演出するためツリーの点灯を始めたというニュースも聞かれるようになりました。「そんなにクリスマスが好きなら年中クリスマスやってろ!」と、年中エイプリルフールの人間が苦々しく眺める風景もこの時期の風物詩となりつつありますが、読者の皆さんのなかにも「おひとりさま」でいることに居心地悪さを感じ始める人は多いのではないでしょうか。
「迫りくる年の瀬イベントなど気にしない」と言いつつも、チラッチラッと気にしてしまう、そういう居心地の悪さを感じてしまうお年頃の男子女子のため、今回はおひとりさまの良さを思い出させてくれるマンガを3作品紹介します。これを読めば、似非キリシタン行事に屈することなく、健康なおひとりさまとして社会復帰できることまちがいなしです。
その1:一人暮らしの気楽さを思い出そう!
それでは一人暮らしがどれほど気楽なものかを再確認しましょう。ここではまず「コミックバーズ」(幻冬舎)で連載されていた玉置勉強先生の「彼女のひとりぐらし」(全3巻)を取り上げます。
ストーリー紹介
輿水理香、26歳独身。ただいま仕事に恋に奮闘中! ……だったらいいなぁと思う、最下層のフリーランサー。一人暮らし暦×年、彼氏いない暦×年……。脳内彼氏を妄想したり、ゲームしたり、飲酒したりと、ひとりで悶々とした日々を満喫中。
会社を退職、フリーのイラストレーターとして独立した理香ですが、「まだ26歳」と「もう26歳」の狭間で揺れ動く心情にリアリティがあって良いです。何もかもいっそ吹っ切ってしまえば、晴れて完璧なおひとりさまになれるのだけど、やっぱり男性を意識してしまう――そんな葛藤が日々のささいな出来事とともに描かれています。
おひとりさまにとって、人間関係のしがらみに囚われない自由さは最大にして最高の特権です。部屋にゴミがたまっていようが、好きなだけビールを飲もうが、誰にも文句は言われません。実際理香のマンションのベランダには「小宇宙が生まれる」レベルのゴミが山積みですが、誰にも怒られない。
その一方、風邪で寝込んでも誰にも助けてもらえない辛さや、梅雨シーズンの部屋干しによる異臭発生といった「一人暮らしあるある」、自堕落な生活と年齢がたたって肌荒れや肥満に襲われる苦悩にも触れており、この辺りは一人暮らし経験者ならきっと共感できるはずです。
同作は3巻で完結しましたが、何だかんだ言いつつも理香はおひとりさま生活を満喫している様子。彼女の日々の生活をマンガを通してのぞき見てきた社主としては、彼女が将来立派なおひとりさまとして成長していくのだと確信しています。と言うか、髪を金とピンクで染めているような人が結婚して主婦になる姿が全く想像つきません。この連載では何度も使っていますが、彼女もまたそんな「残念美人」なのです(実際2巻では行きつけのバーのマスターにそう呼ばれている)。
その2:ひとりって超絶楽しい!
さて、「彼女のひとりぐらし」でおひとり感覚を取り戻したなら、次は積極的におひとりさまを楽しみましょう。ここでは、本来誰かと一緒であることが前提の娯楽を自分ひとりでぜいたくに楽しむ様子をつづったコミックエッセイ「yeah!おひとりさま」(新久千映/朝日新聞出版)をご紹介。
ストーリー紹介
広島在住のアラサーマンガ家・新久千映がひとりカラオケからひとり焼肉、ひとり行楽地まで10の「ぼっち遊び」を楽しんだ1話完結型のコミックエッセイ。
このマンガで新久千映先生が挑んだのは「ひとりカラオケ」「ひとり回転寿司」「ひとり行楽地」「ひとり映画」「ひとり焼肉」「ひとりスポーツ」「ひとり居酒屋」「ひとりランチ」「ひとりイベント」「ひとり旅」のぼっち遊び全10種。
しかし、この10種は難易度としてどうなのでしょう。社主が経験したなかでは「ひとり回転寿司」「ひとりランチ」は、もはや当たり前という感覚なので、そこまで大げさに宣言しなくても……という感じ。そして「ひとり映画」に至っては、映画はひとりで見るものだというのが持論なので、誰かと一緒にいる必然性すら感じません。
ちなみに、社主は先月生まれて初めて「ひとり居酒屋」をやってみましたが、本来複数人で取り分けて食べるべき料理を自分ひとりで処理しなければならないため、好物の揚げだし豆腐とつくね2本と焼きおにぎり2個を注文した段階で満腹になってしまいました。ひとり居酒屋を予定している方はご注意を。
なお作者の新久先生は、まるで自分の分身のような飲兵衛女子・村崎ワカコ(26)を通して酒と料理を食べ歩くマンガ「ワカコ酒」を月刊誌「コミックゼノン」(徳間書店)で連載中。おいしいものと酒がベストマッチすると口から「プシュー」と何かが出てくるのが特徴で、最近多くの書店で平積みされているのを見かけます。今年の「このマンガがすごい!」でも、ランキングとは別の枠で取り上げられるのではないかなあ。
その3:そして夢あるおひとりさま生活へ……
ここまで紹介してきた2作品を読んだ人ならば、もう世間のムードに流されることなく、おひとりさまであることへの自信を取り戻したはず。けれども世間は何かにつけておひとりさまへ圧力をかけてきます。そこで最後は再びくじけてしまわないよう、メルヘンチックながらも夢のあるおひとりさま生活をのぞいてみましょう。
ということで、大トリは今もマンガ界の第一線で活躍しておられるベテラン作家・谷川史子先生が月刊誌「Kiss」(講談社)で連載している「おひとり様物語」(1〜4巻、以下続刊)にご登場願いましょう。
この作品は1話ごとに1人のおひとりさま女子が登場するオムニバス形式。18歳の女子大生から38歳主婦まで、年齢も職業もさまざまなおひとりさまが登場します(なお谷川先生もあとがきで書いておられるように、このマンガでの「おひとりさま」は、「独身」「特定のパートナーなし」だけでなく、「パートナーはいるけど物理的・心理的に離れている女性」も含まれています)。
まずは作品からの引用をどうぞ。
世界で
じぶんはたったひとりなのかも
しれないと
だれも
自分のほうを
向いてくれない
自分のことなど
考えてくれないのではないかと
そんな気分になったりする
第1巻第1話に登場する28歳書店員のおひとりさま・山波久里子さんの心情吐露です。世のおひとりさまが抱く不安感はまさにこのせりふに集約されているとも言えるでしょう。この後、谷川先生がつづっていく「おひとり様物語」のストーリーは全てこの感覚を出発点としているのです。
それではもう1つ。
恋人たちよ
淋しい人生だと
胸痛めるかい
でもこれが
今の私の
全部なんだ
笑うかい
第1巻第7話、29歳少女まんが家・桃井織歌さんより。これも本当にいい言葉ですね。社主も世の中に向けてこういうことが言える人間になりたいものです。
「おひとり様物語」で社主が1番好きなエピソードは3巻第17話、レンタルビデオ店で働く三ノ輪さん(33)。失恋を10年引きずった自虐癖のあるおひとりさまですが、「どうしてこんないい人を10年も放っておいたんだ!」とツッコまずにはいられませんでした。次元の壁さえ乗り越えられるなら、まずはお友達からお願いしたいな、と。
最初に紹介した「彼女のひとりぐらし」と「yeah!おひとりさま」は、「風呂場でおしっこしてもOK」とか「他の人に遠慮せず好きなだけ肉が食える」とか、日常生活に密着した「あるある」の側面が強いのですが、「おひとり様物語」はさまざまな女性の姿を通しておひとりさまの楽しさ、力強さ、淋しさ、哀しさといったさまざまな気持ちの揺れ動きを丁寧に描いています。こういう繊細な心情表現はさすが少女マンガ出身と感心せずにはいられません。
「おひとりさま」という社会現象
これは理解してもらえるかどうか分かりませんが、社主の友人たちはみんなそろいもそろって30歳前後で結婚し、その数年後に子どもを持つという、まるで誰かにあらかじめ決められているような、人生ゲームかベルトコンベアを流れていくかのような人生を歩んでいるのが、いまだに不思議でなりません。逆に言えば、社主のような人間は人生のベルトコンベアからこぼれ落ちた不良品なのではないかと思うこともしばしばです。
きっと一昔前なら、こういう人間は「社会不適合者」という烙印を押された本物の不良品だったはず。そう思うと、かつてそういう扱いを受けていた人たちを「おひとりさま」という言葉で肯定的に捉えられるようになった今の時代は、社主のような立場の人にとっては大変ありがたい状況と言うほかありません。そして、今回紹介したように「おひとりさま」をテーマにしたマンガが1つのジャンルとして成立すること自体、世の中がそういう多様な生き方を認めつつあるのだろうなと思うのです。
「おひとりさま」という存在が、単なる一時の流行りとしてではなく、ライフスタイルのあり方の1つとして偏見にさらされることなく、広く認めてもらえる生きやすい社会が来るとよいなあと願いつつ、これにて筆を置きます。今回も最後までお読みくださりありがとうございました。
追記
今回はちょっと社会批評っぽく書けたので、本紙コメンテーターとして人気の坂本義太夫教授に「先生に倣って少し真面目に書きました」と、この原稿を見せたところ、「うん、力作であるのは認めるけど、そもそもUKくんはおひとりさまじゃなくて、単にモテないだけだよね」と喝破されたので、頑張って書き上げたこの原稿をシュレッダーでミリ単位に粉砕して、M女史に郵送しました。これが無事掲載されるかどうかはM女史の復元手腕にかかっています(編注:シュレッダーひどい!!! だからモテないんだぞ!)。
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虚構新聞の社主UKが知られざるパーソナリティを(思わず)吐露しつつ、大好きなマンガを語りまくります。
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