3Dラテアートに世界が驚愕!? 進化を続けるネット生まれのラテアート作家じょーじさん
カプチーノからネコやキリンの首が飛び出す――そんな3Dラテアート作品がネットで話題を呼んだじょーじさん。しかしもはやそれすら古い! 進化を続けるラテアート道に密着。
エスプレッソの表面にミルクなどで模様や絵を描いた画像が、TwitterやFacebookのタイムラインに流れてくるのを見たことはないだろうか。こうした技術は「ラテアート」と呼ばれており、実は世界大会も開かれている。最近ではさらに進化し、下のような立体的な作品を見かけることが増えた。
調べてみると、どうやら作者は日本人。筆者も初めて見たときは驚いたが、海外でも大きな驚きをもって受け止められたようだ。そこで今回は、こうした「立体ラテアート」とでも呼ぶべき作品を独自に思いつき、Twitter上で公開して大きな話題を呼んだ、じょーじさん(@george_10g)に話を聞いてみた。
海外まで拡散したラテアート画像
勤務先のカフェがある大阪から東京にやってきたじょーじさんと会ったのは、今年の7月半ばのこと。エスプレッソマシンのあるカフェで落ち合うと、さっそく立体ラテアートを作るところを見せてくれた。
「ラテアートはミルクを細かく泡立てるのがコツなのですが、立体ラテアートの場合は、さらに蒸気を多めに入れて膨らませます。それをしばらく置いておくと、ミルクの脂の部分が固まって、上の方にしっかりした泡を作ってくれます。それを使って描くんです」
じょーじさんは慣れた手つきで作業を進めていく。彼がラテアートをTwitterで公開しはじめたのは、3年ほど前のこと。「本日の暇カプチーノ」という言葉とともに投稿される彼の絵は、マンガやアニメのキャラクターのような身近な題材が多く、徐々に話題になっていった。
現在では、地元大阪のテレビ局などから出演依頼が舞い込むこともある。最近では、Facebookに画像が転載され、それが世界中に拡散された。「韓国語やアラビア語など、いろんな言語で感想が来ますね。メールで来たものについては、翻訳ソフトを使って返したりしています」
ラテアートの新境地“立体ラテアート”はこうして生まれた
もともと、じょーじさんはカフェのアルバイトで覚えたラテアートを、友人たちに見せたり、mixiで写真を公開していたという。それをTwitterに流してみたところ、大きな反響を呼んだのだ。「特にうれしかったのは、プロの漫画家さんから反応があったことです。自分の父がカフェを経営していて、子どもの頃からそこに置いてあった、たくさんの漫画を読んで育ってきたので」
あるとき、Twitter上で「RT(リツイート)してくれた人のアイコンをカプチーノで描く」という内容をつぶやいてみた。すると、なんと3万人にRTされてしまった。結局、ひと夏かけて1日約3枚、100人分のラテアートを描いたところでTwitterで謝り、打ち止めにさせてもらったという。
そんなじょーじさんが立体ラテアートのアイデアを思いついたのは、昨年夏のことだ。その後、ドラゴンクエストの「はぐれメタル」を作成してみると、思いのほかうまく行った。続いて作ってみた、うさぎの立体ラテアートは、耳の部分がきれいにくっついて、上手い効果が出せた。そうした作品たちは、Twitterに投稿すると瞬く間に拡散されていった。
それまでの平面ラテアートと違ったのは、この立体ラテアートでは版権物のキャラクターなどではない「一次創作」の作品でもネットで話題になったことである。
「やはり、自分の作品に感想を言ってもらえているな、と思えます。また、ラテアートの世界大会に出るような作品を見ると、絵の細かさみたいな部分を競い合っている印象なんです。その技術は確かに凄いと思う。でもそれって一般の人にはどうでもいいことじゃないですか。ある意味で立体ラテアートは、そういう狭い世界をぶち壊していると思う」
寝る間も惜しんで
じょーじさんは、夏休みの自由工作で賞をもらうような子どもだったという。料理学校にいた高校時代にはスープのコンクールで最優秀賞をもらったこともある。つまりは「自分のアイデアで工夫したり、細かい作業をして何かを作ったりするのが好き」なのだ。したがって、実は絵それ自体には、さほどこだわりはないという。
「マンガはずっと好きでしたが、特に絵を描きたいわけではないです。むしろカプチーノを、あの手この手で工夫して見せているという感じです。今の絵の技術は、2000枚くらい描く中で身についたものです。最初の頃は、PCの画面に紙を当てて、上からなぞって練習をしたりもしました」
自分のラテアートを練習するのは、カフェの仕事が終わる夜中1時や2時過ぎからだ。店の機械を借りて1時間ほど行い、次の日のネタを撮影してから帰る。そんな風に、寝る間も惜しんでラテアートを作り続けた結果、じょーじさんは気がつけば有名になっていた。
夢は自分のカフェを持つこと。地元で父が経営するカフェを継ぐ予定だが、それとは別に東京でカフェを出すことを目標にしている。「(ネット投稿は)別に有名になりたくて始めたわけではないのですが、現在は、これはきっと『自分の夢につながるのだろう』と思っています」。最近では、niconicoで活躍する歌い手のCDジャケットも手がけた。来年頭には集英社から本が出る予定もあり、芥川賞作家の長嶋有さんや、はるかぜちゃんこと春名風花さん、「ジョジョの奇妙な冒険」の作者・荒木飛呂彦さんとの対談も掲載される。さらには「ラテアートでの絵本の制作にも興味がある」と話は広がる。どうやら、夢はカフェの経営だけには留まらなそうだ。
今後のラテアートについて聞いてみると、「実は3Dラテアートには、限界を感じているんですよね」と意外な答えが返ってきた。泡が形を保てる制限時間などを考えると、実はできることは多くないからだと言う。
「そういう意味では、とっとと3Dラテアートを殺したいですね(笑)。やれることをやり尽くして、やり方をどんどん広めて、終わらせてしまいたい。そのための方法を、色々と考えてるんです。この間は、カップの外でうさぎが休んでる姿を作ってみました。もうカフェラテじゃないだろって(笑)。これはかなり終わりを早めた気がしますね。そしたら、じゃあ次は、実際のにんじんの上にうさぎを置いてみたらどうだろうとかね(笑)」
インタビュー中、ほかで見かけるシロップや着色料を使ったラテアートについて聞いた際、じょーじさんは「僕自身は、ちゃんと飲めるものを作るのが大事だと思います」と言っていた。しかし一方で、その発想はもう、ラテアートとは何かを問うようなところまで、進んでしまっているようだ。
そんな話を聞きながら、筆者の頭のなかでは「ラテアート道」という単語が点滅していた。Twitterへのラテアートの投稿は、どうやら彼を、当初思いもかけなかった場所へと連れて行きはじめているようだ。
稲葉ほたて(@jamais_vu)。ネットライター。サークル「ねとぽよ」主催者の片割れ。サイゾー、PLANETS等に執筆。ネット周りの話をいろいろ書いてます。
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