これは「自由なゲームを取り戻す戦い」なのだ 今、インディーゲームで起こっていること、BitSummitのこと:日々是遊戯
日本最大のインディーゲームイベント「BitSummit」から、今のインディーゲームシーンを読み解く。
3月7日〜9日の3日間、日本最大のインディーゲームイベント「BitSummit(ビットサミット) 2014」が京都・みやこめっせで開催された。昨年の「BitSummit 2013」に比べて、会場面積は軽く数倍に、会期も1日→3日と3倍に伸びた。昨年はビジネスデーのみだったが、今年はパブリックデーも設けられ、土日の2日間で約5000人が会場を訪れた。
言うまでもなく、この拡大は昨今のインディーゲームへの関心の高まりがはっきり表われたものだろう。昨年のBitSummitからの1年間で、国内のインディーゲームをとりまく環境は大きく変化した。東京ゲームショウでの「インディーゲームフェス」コーナー設置、インディーゲーム開発者による相互互助コミュニティ「IndieStream」の設立(関連記事)、稲船敬二さんの「Mighty No.9」をはじめとする大型クラウドファンディングの成功などなど。先日発売されたプレイステーション 4でも、オンラインストアでは商業ゲームと並んでインディーゲームが大きくピックアップされている。
僕は昨年仕事で行けず、実は今回がBitSummit初参加だった。朝6時に東京を出て、会場に着いたのは10時すぎ。往復の新幹線代と3日間の滞在費で5万円近い出費だったが(ねとらぼ的にネタになるか分からなかったので自腹)、結論から言えば「行ってよかったな」と思った。単純に1人のゲーム好きとして、この空間の熱気を肌で感じられたのはラッキーだったと思う。
では「今ここで起きていること」とは何だろう。今回「モンケン」「KAKEXUN」のブースで参加していた、ゲーム作家の飯田和敏さんは、会場の空気を「ゲームのウッドストックだよね」と表現した。さすがにウッドストックは盛りすぎだろうと思ったが、そう言いたくなる空気は確かにあった。ここからゲームが変わっていくかもしれないという予感。自分たちの動きがこれからのゲームを変えていくんだという興奮。これは「自由なゲームを取り戻す戦い」なのだ。
出展タイトルは100以上。面白かったものもあったしビミョーなものもあったが、そのどれもが強く印象に残った。ラショウさんの「野犬のロデム」は遊んでもまったく意味が分からなかったし、「アイデアは面白いけど売れねーだろ!」と突っ込みたくなるようなゲームもたくさんあった。昔ながらの2Dアクションや横スクロールシューティングなど、家庭用ゲームではほぼ死滅してしまったジャンルもここでは現役だ。Kickstarterで26万ドルを集めた「LA-MULANA2」のように「新作が出ないなら自分で作ってやる!」という心意気で開発されたゲームもインディーには多い。すべてが自己責任だが、そのかわりインディーには自由がある。
家庭用ゲーム全部を批判するつもりはないが、開発規模が大きくなればなるほど、どこかで見たようなゲームばかりになってしまうのは皮肉なものだ。それに比べると、ここで遊べるゲームのなんと自由なことか。SCEやマイクロソフトもそれをよく分かっていて、だからこそ小規模でも独創性にあふれたインディーゲームを自陣に引っ張り込もうと食指を伸ばしている。いま、世界的にインディーゲームへの期待が高まってきているのは、家庭用ゲーム市場にはびこる閉塞(へいそく)感の裏返しでもある。
カッコ悪いのは承知であえて言うと、やっぱり昔のゲームはもっと輝いていた。特に「Dの食卓」「太陽のしっぽ」「moon」「パラッパラッパー」など、よく言えば独創的、悪く言えば実験的なゲームがわんさか生まれた90年代半ば。今のインディーゲーム市場と、当時の業界の空気はなんとなく通じるものがあるように感じる。そして驚くなかれ、「太陽のしっぽ」の飯田和敏さんは「モンケン」、「moon」の木村祥朗さんは「Million Onion Hotel」という新作をひっさげ、また「パラッパ」の松浦雅也さんはスペシャルライブという形で今回のBitSummitに参加していたりする。「Dの食卓」の飯野賢治さんも、本人こそ参加できなかったが、その遺志を受け継いだ新作「KAKEXUN」が出展されている。そういえば「野犬のロデム」のラショウさんも90年代組だ。当時「新しいゲーム」を模索し活躍してきた人たちが、今この空間に続々と集まってきているのは、ただの偶然ではないはずだ。
これまでのインディーゲームは、単に開発者が「作りたいから作る」ものだったが、これからは違う。敏感なゲームファンはもとより、有望なインディーゲームは今後、あらゆる陣営から引っ張りだこになるだろう。そんな流れの変化が、イベントの熱気として会場に充満していたように感じる。
もちろん海外の盛り上がりに比べたら、日本のインディーゲーム市場はまだまだ比べものにならないほど小さい。インディーは自由だが、それは単にあらゆるコストを開発者が負担しているからであって、現実は天国でも何でもない。2日目のトークショウには「東方」シリーズの作者・ZUNさんが登壇したが、あのZUNさんでさえ「お金がほしかったら(インディーゲームは)作らない方がいい」と言う。インディーが真に自由であるためには、まだまだ足りないものの方が多い。BitSummitはあくまでマイルストーンであり、本当の戦いはこの先にある。
あれこれ思ったことを書いていたら、1つ1つの作品について触れるスペースがなくなってしまった。会場ではVineでいろんなゲームをひたすら遊んでは撮影していたので、最後にまとめて貼っておきますね。
ヴィテイの「Modern Zombie Taxi Driver」(BitSummit大賞受賞作)
木村祥朗さん(OnionGames)の「Million Onion Hotel」
飯田和敏さんの「モンケン」
ラショウさん(イタチョコシステム)の「野犬のロデム」
毎度おなじみ「LA-MULANA 2」
ユーザーが自分で3D格闘ゲームを作れる「EF-12」
nekogamesの「しっぽねこと消えたエビフライ」
神奈川電子技術研究所の「Agartha」
シャンプーボトルで遊ぶ「シュココーココ」
17bitの「宇宙戦士ガラク」
Unityブース「element4l(エレメンタル)」
「パラッパ」松浦さんのライブ!
最終日には「モンケン」×「野犬のロデム」のセッションも
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