これは「自由なゲームを取り戻す戦い」なのだ 今、インディーゲームで起こっていること、BitSummitのこと日々是遊戯

日本最大のインディーゲームイベント「BitSummit」から、今のインディーゲームシーンを読み解く。

» 2014年03月14日 16時08分 公開
[池谷勇人,ねとらぼ]

 3月7日〜9日の3日間、日本最大のインディーゲームイベント「BitSummit(ビットサミット) 2014」が京都・みやこめっせで開催された。昨年の「BitSummit 2013」に比べて、会場面積は軽く数倍に、会期も1日→3日と3倍に伸びた。昨年はビジネスデーのみだったが、今年はパブリックデーも設けられ、土日の2日間で約5000人が会場を訪れた。


画像 パブリックデーの会場の様子


 言うまでもなく、この拡大は昨今のインディーゲームへの関心の高まりがはっきり表われたものだろう。昨年のBitSummitからの1年間で、国内のインディーゲームをとりまく環境は大きく変化した。東京ゲームショウでの「インディーゲームフェス」コーナー設置、インディーゲーム開発者による相互互助コミュニティ「IndieStream」の設立(関連記事)、稲船敬二さんの「Mighty No.9」をはじめとする大型クラウドファンディングの成功などなど。先日発売されたプレイステーション 4でも、オンラインストアでは商業ゲームと並んでインディーゲームが大きくピックアップされている。

 僕は昨年仕事で行けず、実は今回がBitSummit初参加だった。朝6時に東京を出て、会場に着いたのは10時すぎ。往復の新幹線代と3日間の滞在費で5万円近い出費だったが(ねとらぼ的にネタになるか分からなかったので自腹)、結論から言えば「行ってよかったな」と思った。単純に1人のゲーム好きとして、この空間の熱気を肌で感じられたのはラッキーだったと思う。

 では「今ここで起きていること」とは何だろう。今回「モンケン」「KAKEXUN」のブースで参加していた、ゲーム作家の飯田和敏さんは、会場の空気を「ゲームのウッドストックだよね」と表現した。さすがにウッドストックは盛りすぎだろうと思ったが、そう言いたくなる空気は確かにあった。ここからゲームが変わっていくかもしれないという予感。自分たちの動きがこれからのゲームを変えていくんだという興奮。これは「自由なゲームを取り戻す戦い」なのだ。


画像画像 「インディーゲームフェス」(左)と「IndieStream」の発表イベント会場(右)

画像画像 飯田さんは「モンケン」(左)と「KAKEXUN」(右)の掛け持ちで出展

画像画像 3日目の飯田さんのライブでは、開発者や観客もステージに上がっての大騒ぎとなった

 出展タイトルは100以上。面白かったものもあったしビミョーなものもあったが、そのどれもが強く印象に残った。ラショウさんの「野犬のロデム」は遊んでもまったく意味が分からなかったし、「アイデアは面白いけど売れねーだろ!」と突っ込みたくなるようなゲームもたくさんあった。昔ながらの2Dアクションや横スクロールシューティングなど、家庭用ゲームではほぼ死滅してしまったジャンルもここでは現役だ。Kickstarterで26万ドルを集めた「LA-MULANA2」のように「新作が出ないなら自分で作ってやる!」という心意気で開発されたゲームもインディーには多い。すべてが自己責任だが、そのかわりインディーには自由がある。


画像画像 「ボコスカウォーズ」や「あの素晴らしい弁当を二度三度」などで知られるラショウさん。会場では新作「野犬のロデム」にちなんで、ロデムの格好をして寝そべったりおすわりしたりしていた

 家庭用ゲーム全部を批判するつもりはないが、開発規模が大きくなればなるほど、どこかで見たようなゲームばかりになってしまうのは皮肉なものだ。それに比べると、ここで遊べるゲームのなんと自由なことか。SCEやマイクロソフトもそれをよく分かっていて、だからこそ小規模でも独創性にあふれたインディーゲームを自陣に引っ張り込もうと食指を伸ばしている。いま、世界的にインディーゲームへの期待が高まってきているのは、家庭用ゲーム市場にはびこる閉塞(へいそく)感の裏返しでもある。

 カッコ悪いのは承知であえて言うと、やっぱり昔のゲームはもっと輝いていた。特に「Dの食卓」「太陽のしっぽ」「moon」「パラッパラッパー」など、よく言えば独創的、悪く言えば実験的なゲームがわんさか生まれた90年代半ば。今のインディーゲーム市場と、当時の業界の空気はなんとなく通じるものがあるように感じる。そして驚くなかれ、「太陽のしっぽ」の飯田和敏さんは「モンケン」、「moon」の木村祥朗さんは「Million Onion Hotel」という新作をひっさげ、また「パラッパ」の松浦雅也さんはスペシャルライブという形で今回のBitSummitに参加していたりする。「Dの食卓」の飯野賢治さんも、本人こそ参加できなかったが、その遺志を受け継いだ新作「KAKEXUN」が出展されている。そういえば「野犬のロデム」のラショウさんも90年代組だ。当時「新しいゲーム」を模索し活躍してきた人たちが、今この空間に続々と集まってきているのは、ただの偶然ではないはずだ。

 これまでのインディーゲームは、単に開発者が「作りたいから作る」ものだったが、これからは違う。敏感なゲームファンはもとより、有望なインディーゲームは今後、あらゆる陣営から引っ張りだこになるだろう。そんな流れの変化が、イベントの熱気として会場に充満していたように感じる。


画像画像 木村さんをはじめ、「moon」スタッフが再集結して開発しているという「Million Onion Hotel」。相変わらず不思議なムードの漂うゲームだったが、最終日の「BitSummit大賞」でも2部門受賞を果たすなど、これからの国内インディーをグイグイ引っ張っていってくれそうな貫禄を早くも漂わせていた

画像画像 「パラッパラッパー」の松浦雅也さんによるライブ。「パラッパ」や「ウンジャマ・ラミー」の曲も披露され大いに盛り上がった

画像 「KAKEXUN」ブースにて、飯田和敏さんと水口哲也さん(初日の基調講演で出演)、そして飯野賢治さんのスリーショット

 もちろん海外の盛り上がりに比べたら、日本のインディーゲーム市場はまだまだ比べものにならないほど小さい。インディーは自由だが、それは単にあらゆるコストを開発者が負担しているからであって、現実は天国でも何でもない。2日目のトークショウには「東方」シリーズの作者・ZUNさんが登壇したが、あのZUNさんでさえ「お金がほしかったら(インディーゲームは)作らない方がいい」と言う。インディーが真に自由であるためには、まだまだ足りないものの方が多い。BitSummitはあくまでマイルストーンであり、本当の戦いはこの先にある。

 あれこれ思ったことを書いていたら、1つ1つの作品について触れるスペースがなくなってしまった。会場ではVineでいろんなゲームをひたすら遊んでは撮影していたので、最後にまとめて貼っておきますね。




ヴィテイの「Modern Zombie Taxi Driver」(BitSummit大賞受賞作)



木村祥朗さん(OnionGames)の「Million Onion Hotel」





飯田和敏さんの「モンケン」





ラショウさん(イタチョコシステム)の「野犬のロデム」





毎度おなじみ「LA-MULANA 2」



ユーザーが自分で3D格闘ゲームを作れる「EF-12」



nekogamesの「しっぽねこと消えたエビフライ」



神奈川電子技術研究所の「Agartha」



シャンプーボトルで遊ぶ「シュココーココ」



17bitの「宇宙戦士ガラク」



Unityブース「element4l(エレメンタル)」




「パラッパ」松浦さんのライブ!



最終日には「モンケン」×「野犬のロデム」のセッションも





Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.

昨日の総合アクセスTOP10
  1. /nl/articles/2412/18/news202.jpg 「何言ったんだ」 大谷翔平が妻から受けた“まさかの行動”に「世界中で真美子さんだけ」「可愛すぎて草」【大谷翔平激動の2024年 「家族愛」にも集まった注目】
  2. /nl/articles/2412/20/news023.jpg 60代女性「15年通った美容師に文句を言われ……」 悩める依頼者をプロが大変身させた結末に驚きと称賛「めっちゃ若返って見える!」
  3. /nl/articles/2403/21/news088.jpg 「庶民的すぎる」「明日買おう」 大谷翔平の妻・真美子さんが客席で食べていた? 「のど飴」が話題に
  4. /nl/articles/2412/21/news038.jpg 皇后さま、「菊のティアラ」に注目集まる 天皇陛下のネクタイと合わせたコーデも……【宮内庁インスタ振り返り】
  5. /nl/articles/2412/21/news056.jpg 真っ黒な“極太毛糸”をダイナミックに編み続けたら…… 予想外の完成品に驚きの声【スコットランド】
  6. /nl/articles/2412/21/news088.jpg 71歳母「若いころは沢山の男性の誘いを断った」 信じられない娘だったけど…… 当時の姿に仰天「マジで美しい」【フィリピン】
  7. /nl/articles/2412/20/news096.jpg 新1000円札を300枚両替→よく見たら…… 激レアな“不良品”に驚がく 「初めて見た」「こんなのあるんだ」
  8. /nl/articles/2412/18/news015.jpg 家の壁に“ポケモン”を描きはじめて、半年後…… ついに完成した“愛あふれる作品”に「最高」と反響
  9. /nl/articles/2412/15/news031.jpg ザリガニが約3000匹いた池の水を、全部抜いてみたら…… 思わず腰が抜ける興味深い結果に「本当にすごい」「見ていて爽快」
  10. /nl/articles/2412/17/news195.jpg 「ほぼ全員、父親が大物芸能人」 奇跡的な“若手俳優の集合写真”が「すごいメンツ」と再び話題 「今や全員主役級」
先週の総合アクセスTOP10
  1. ザリガニが約3000匹いた池の水を、全部抜いてみたら…… 思わず腰が抜ける興味深い結果に「本当にすごい」「見ていて爽快」
  2. ズカズカ家に入ってきたぼっちの子猫→妙になれなれしいので、風呂に入れてみると…… 思わず腰を抜かす事態に「たまらんw」「この子は賢い」
  3. フォークに“毛糸”を巻き付けていくと…… 冬にピッタリなアイテムが完成 「とってもかわいい!」と200万再生【海外】
  4. 鮮魚スーパーで特価品になっていたイセエビを連れ帰り、水槽に入れたら…… 想定外の結果と2日後の光景に「泣けます」「おもしろすぎ」
  5. 「申し訳なく思っております」 ミスド「個体差ディグダ」が空前の大ヒットも…… 運営が“謝罪”した理由
  6. 「タダでもいいレベル」 ハードオフで1100円で売られていた“まさかのジャンク品”→修理すると…… 執念の復活劇に「すごすぎる」
  7. 母親から届いた「もち」の仕送り方法が秀逸 まさかの梱包アイデアに「この発想は無かった」と称賛 投稿者にその後を聞いた
  8. ある日、猫一家が「あの〜」とわが家にやって来て…… 人生が大きく変わる衝撃の出会い→心あたたまる急展開に「声出た笑」「こりゃたまんない」
  9. 友人のため、職人が本気を出すと…… 廃材で作ったとは思えない“見事な完成品”に「本当に美しい」「言葉が出ません」【英】
  10. セレーナ・ゴメス、婚約発表 左手薬指に大きなダイヤの指輪 恋人との2ショットで「2人ともおめでとう!」「泣いている」
先月の総合アクセスTOP10
  1. 「何言ったんだ」 大谷翔平が妻から受けた“まさかの仕打ち”に「世界中で真美子さんだけ」「可愛すぎて草」
  2. 「絶句」 ユニクロ新作バッグに“色移り”の報告続出…… 運営が謝罪、即販売停止に 「とてもショック」
  3. 「飼いきれなくなったからタダで持ってきなよ」と言われ飼育放棄された超大型犬を保護→ 1年後の今は…… 飼い主に聞いた
  4. アレン様、バラエティー番組「相席食堂」制作サイドからのメールに苦言 「偉そうな口調で外して等と連絡してきて、」「二度とオファーしてこないで下さぃませ」
  5. 「明らかに……」 大谷翔平の妻・真美子さんの“手腕”を米メディアが称賛 「大谷は野球に専念すべき」
  6. 「やはり……」 MVP受賞の大谷翔平、会見中の“仕草”に心配の声も 「真美子さんの視線」「動かしてない」
  7. ドクダミを手で抜かず、ハサミで切ると…… 目からウロコの検証結果が435万再生「凄い事が起こった」「逆効果だったとは」
  8. 「母はパリコレモデルで妹は……」 “日本一のイケメン高校生”グランプリ獲得者の「家族がすごすぎる」と驚がくの声
  9. 「ごめん母さん。塩20キロ届く」LINEで謝罪 → お母さんからの返信が「最高」「まじで好きw」と話題に
  10. 「真美子さんさすが」 大谷翔平夫妻がバスケ挑戦→元選手妻の“華麗な腕前”が話題 「尊すぎて鼻血」