音楽の世界に「やりがい搾取」はあるか? 元プロサックス奏者にあれこれ聞いてみた(後編)(2/3 ページ)

» 2017年08月16日 11時00分 公開
[中山順司ねとらぼ]

「海外で腕試し」という選択肢はアリかナシか

――例えばですよ? 日本でプロになれないから海外に活路を見いだすっての、アリですかね?

G: 全然アリです。アメリカやヨーロッパに行く音楽家もいますし、あっちで学んでそのまま帰国せずに活動する人もいます。あ、もちろん成功するかどうかは別問題ですが。

――日本で認められなくても、海外で評価されるって十分にありえそう。

G: 評価軸を変えるのは、1つの方法ですね。でも、異国で道を切り開くには相当なガッツと行動力が必要ですよ。

――でしょうね。

G: ジャズって60〜70年台に下火になっているんです。ちょうどロックが人気を博し、ジャズが低迷した時期。当時のアメリカの人気ジャズ演奏家らは、それまで評価されていた母国を飛び出してフランスやドイツ、北欧に渡っていきました。

――ヨーロッパではまだジャズの存在感があったんですね?

G: ええ、ロックもいいけど、ジャズもいいねって空気がヨーロッパにはあったんです。そうやって、評価される場所に自ら出向くって選択もあります。ジャズだけではなく、ポップスでもロックでも同様でしょう。ただ、ボーカルは言葉の壁があるでしょうが。

――思うんですけど、そこまでの情熱と行動力があるミュージシャンが他のことにそのエネルギーを注げたら、すごい結果を出しそう。セールスマンになったら、表彰レベルになれるんじゃ?

G: 結果を出すでしょうねー。でも、絶対やらないでしょうけどねー(笑)。

――世の中、うまくいかないものですね(笑)。

音楽の世界に“やりがい搾取”は存在するのか

――アニメーターの世界って、本人のやりがいを業界が利用するというか、搾取するというか、そんな負の一面があるじゃないですか。ものすごい安月給でこき使うとか。最近は“やりがい搾取”なんて言葉もありますが、それって音楽でもありますかね?

G: 音楽といっても広い世界ですので、もしかしたらどこかでそういうことが行われているかもしれない。でも、蔓延(まんえん)はしていないと思います。

――「俺、音楽業界に搾取されたんだ……」ってボヤくアマチュアミュージシャンがいたら?

G: 「お前が好きこのんでこの世界に入ってきたんだろうが」って突っ込まれます(笑)。バカ言ってんじゃない、と。

――そりゃそうだ(笑)。

G: いつでも入れるし、いつでも辞められるのが音楽。パワハラ上司がいるわけでもないし、ノルマや締め切りがあるわけでもない。完全にオープンな舞台です。

――確かに。

G: だまされて契約を結び、契約とは違うことをさせられる……ってことはあるでしょうけど、それって詐欺であって搾取ではないですよね。

下克上は起こしやすい世界になった

――CDが売れなくなったといわれて久しいですが、やはりそれってマイナスに影響してますか?

G: 今までのビジネススキームの中では成り立たなくなってますね……。新しいスキームは生まれていますよ。ライブもそうだし、配信モデルとか、アルバムではなく単体発売とか。物理的な円盤は売れなくなってますが、音楽自体が寂れたわけじゃないので。

――私もCDは久しく買ってませんが、聴く音楽の量はむしろ増えています。気軽に聴ける仕組みがあるから、興味のなかったジャンルに手を出すのもカンタンです。

G: そう、みんな音楽は聴いているんです。なんなら、お金も使っている。1枚3000円のCDは買わなくても、iTunesで小まめに買っている金額を積み上げたら、CDを買っていたころよりお金を投じているかもしれない。

――それはあるかも。ただですよ? 書籍もそうですけど、電子がまだメインストリームにはなり切れていない気がするんですが。

G: 今の時代に最適化されたビジネススキームを、現在の音楽界はまだ見つけきれていない。この先まだ何年かはかかるかもしれません。書籍や紙、音楽と来て、この流れは映像の世界にも広がるでしょうね。

――ますます成功の法則が見つけにくいというか、先の読めない時代になってますね。

G: 自分で時代を創るってパターンもありますよ。アーティストだって、コンテンツを提供する側だって下克上は起こしやすいですし、きっと起きるでしょう。

――もう、最近ってCDジャケットとか話題にならないし、ジャケ買いというのも少なくなっているような気が。

G: 物理的なメディアを手元に置くとか、ラックに並べる文化はなくなってきています。若者なんてそうでしょうね。

――再びゲスいことをお尋ねしますが、一発当てたら一生食えるんですかね?

G: 80年代とかそれ以前はそうでしたね。情報源が限定的で、コンテンツ提供者も少なかった。そのぶん、視聴率は高くなる。選択肢が少ないので皆が群がる。だからダブルミリオン、トリプルミリオンも珍しくなかった。

――でも、今って単なるミリオンもなかなか行かないですよ。

G: 聴く側の人口は変わらずに、プレイヤーの人数が増えて、おまけにジャンルも多岐にわたるのでブームの山が生まれにくいんですよ。

――そういえば、日本の人口ってここ数十年あんまり変化ないですよね。むしろ、減ってるくらいだし。

G: そう。競争がそれだけ激しくなっているんです。今は1つのヒットにあぐらをかいていたら、すぐ淘汰されます。

――最前線でサバイブするには、どうすればいいんですかね。

G: それを知っていたら私はここにいない……(笑)。まあ、小さい山を作っては積み重ねていく……。もしくはあちこちに山を作って波乗りよろしく渡り歩く……私もよく分かりませんが。

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