音楽の世界に「やりがい搾取」はあるか? 元プロサックス奏者にあれこれ聞いてみた(後編)(3/3 ページ)
モノにならなかったときの選択肢
――我が子が「プロを目指す」と宣言したら?
G: 自分の経験をまず伝えます。事実を語ります。一番のメッセージは「選択肢の話」ですかね。モノにならなかったとき、選択肢を残しておきたいのなら……ダメならさっさと見切れ、と言うでしょう。
――それでもやると譲らなかったら?
G: 止めはしませんよ。僕も止められましたけど、聞き入れませんでしたもん。人間、やりたいことは誰がなんと言おうがやるんです。親だって止められない。だったら、「やってみろ」と好きにさせます。
――親に説得されて諦めるなら、それまでと。
G: ただし、「好きなことを目指した結果、父さんはこうなったけどね……」とも言います。選択肢がほしいなら、“26歳リミット説”は知っておくべきですね。
――26歳は、いわば崖のようなものかも。突っ込んでもいいけど、跳べるか落ちるかは進まないと分からない。跳んでしまったら後には引き返せない。
G: 変な例えですが、刺青を入れるのに似ているかな。刺青が悪いことだとは思わないけど、一線を越えたら引き返せないって点で同じ。
――失敗したとしても、誰も恨むなよ、と。
G: 自分で決断したことを、人のせいにはできない。全力で立ち向かって、それでもプロになれなかったとして、「それを含めて後悔はない。いい人生だった」って言い切れるなら好きにしなさい、と。
――ただ、親として辞めどきの情報は共有しておくわけですね。
G: ギリギリ引き返せるのは26歳の誕生日までってことは知っておいてほしいです。
――「今日で夢を追うのはおしまい。明日からサラリーマンになる」ってかんじにスパーンと決断できるものですか? それとも、受け入れるまでにそれなりの時間はかかります?
G: 時間はかかります。思い入れも強いぶん、そう簡単には諦められない。道半ばで断念するって恥ずかしいというか、プライドが許しません。辞める=挫折です。いろいろつらい。
――Gさんは、辞めると決心するまでにどれくらい時間を要しました?
G: 1年です。25歳で考え始め、26歳になった時点で決断しました。明日辞めるなんて軽いノリで下せないですよ。
――1年かけて心の準備というか、受け入れ態勢を作ったんですか。
G: そういうことになります。準備期間があったからリミットで身を引くことができた。26歳になってから考え始めていたのでは遅かったでしょう。車のブレーキの制動距離のようなものじゃないですか。ブレーキかけてもすぐには止まれないよ、26歳でブレーキを踏んだら、止まるときには27歳になっちゃうよ。
――30歳で考え始めていたら……。
G: 遅いです。事故ってます(笑)。
それでもミュージシャンを目指す人たちへ――
いやー、音楽って本当に厳しい世界ですね。1ミリでも「武道館でスポットライトを……」と夢想した自分がさすがに恥ずかしくなりました。この記事が、プロのミュージシャンを目指す方の参考になれば幸いです。
中山順司(なかやま・じゅんじ)
ロードバイクをこよなく愛するオッサンブロガー。“徹底的&圧倒的なユーザー目線で情熱的に情報発信する”ことがモットー。freee株式会社勤務&経営ハッカー編集長。ブログ「サイクルガジェット」運営。
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