ドラマ「監獄のお姫様」に登場する職業「刑務官」のハードな1日
刑務所の運営は、やっぱり大変。
「刑務官」という言葉を聞いたことがありますか?
10月に放送開始したTVドラマ「監獄のお姫様」(TBS系)で、満島ひかりさんが演じている職業なのですが、実際に働いている姿を目にしたことがある人はあまり多くないと思います。
というのも、刑務官とは刑務所や拘置所の運営、管理に関わる公務員のこと。今回は、なかなか目を向けることのない刑務所での仕事を見てみましょう。
刑務官とは
私たちはよく、刑務所や拘置所の運営、管理をする人のことを「看守」と呼んでいます。これは刑務官の階級を指し、正確な表現ではありません。
看守は刑務官の最も下の階級にあたり、ここから主任看守、看守部長と上がっていき、1番上は矯正監となります。刑務官の多くは現場で働いていますが、刑務所をはじめとした矯正施設の管理を行う法務省の部局「矯正局」に出向くケースもあります。
刑務所の一日
一般的な受刑者の一日をたどりながら、刑務官がどんな仕事をしているのか見てみましょう。
- 6時半ごろ 起床、点検
6時半ごろに刑務所の一日が始まります。受刑者は起床して、洗顔やトイレなどを済ませます。
刑務官は、受刑者の人数を数えて逃走者がいないことを確認したり、それぞれの健康、精神状態をチェックしたりする「点検」を行います。刑務官は、担当している受刑者の状態を常に把握し、身柄を確保しておくことが求められます。
- 7時半〜16時半ごろ 工場などで刑務作業
点検後、朝食を済ませたら、受刑者は洋裁や木工、炊事などの刑務作業を行います。単なる罰ではなく、規則的に勤労させることで受刑者の健康を保ったり、更生、社会復帰を促進したりする目的もあります。
また、所内の炊事や洗濯、出所後の職業を安定させるための訓練をすることもあります。なんと刑務所内で職業訓練を受けて、資格を取得するための勉強ができるんですね。
とはいえ、刑務所内なので規律はキッチリ。刑務官は、常に全ての受刑者が精を出しているか目を光らせ、工場への移動も整列して行われます。
ちなみに、「懲役」と「禁固」の違いは、懲役では刑務作業が課せられ、禁固では課せられないという点です。懲役の方が重い刑とされていますが、禁固では刑務官の監視が常につきまとうので、願い出て作業に従事する場合が多いようです。
- 16時半ごろ〜余暇時間
刑務所には余暇時間が設けられおり、受刑者が娯楽を楽しむというのはご存じでしょうか。テレビやラジオを視聴したり、読書をしたり、受刑者同士で集まってクラブ的な活動をしたり……なかには、通信教育などで勉強する人もいるそうです。
この余暇時間にも、受刑者同士の物品の受け渡しなどがないか監視したり、監房に持ち込まれている物品をチェックしたり、所定の時間にテレビのチャンネルを操作したりと、刑務官は目を光らせています。
夕食のあとに再び「点検」が行われ、受刑者は22時ごろ、就寝します。
刑務官の仕事は苛酷(かこく)
犯罪者と接する特殊な環境ゆえ、刑務官の仕事にはハードな部分が多々あるといわれます。
- 処遇困難者の存在
おそらく刑務所のハードさと聞いて、ほとんどの人が想像するのは、いわゆる「処遇困難者」の存在でしょう。精神的、身体的に問題を抱えていて、刑務所での集団生活になじまない人々です。
刑務官の言うことを聞かない人、気性が荒くキレやすい人、薬物依存によってフラッシュバックを起こす人など、抱える問題はさまざま。「とにかく厳しく接して、言うことを聞くまで圧力をかける」というような単純なやり方ではうまくいきません。
薬物依存者や精神不安定な場合は、あまりに強い態度で接すると、受刑者が自殺してしまうこともありえます。刑務所では、脱走と並んで、受刑者の自殺も絶対に避けるべきとされています。
刑務官は、時には毅然として、また時には慎重に、バランスを考慮しながら受刑者と接する必要があり、それが大きなストレスになります。受刑者一人一人の状態を把握し、社会に出られるように配慮するという点では、学校の先生に少し似ているのかもしれません。
- 刑務官の上下関係
受刑者と刑務官のあいだだけでなく、刑務官同士のあいだにも階級や経験年数によって厳しい上下関係があります。階級が自分より上の人に敬礼をして、常に報告を心掛けることが求められます。
軍隊のような厳しい規律を守ることで、上の指示が下まですぐに届くようになり、何か異変があったときに一致団結して対応できます。また、刑務官たちが規律を重視し厳しい雰囲気を作っていれば、受刑者も自然とそれに従いやすくなります。
- 受刑者との関係
見かけ上ではまったく問題のない受刑者でも、刑務官の態度によっては重大な問題に発展することがあります。
例えば、特定の受刑者と不用意な私語を重ねていくとどうでしょう。長い時間をかけて、無意識にその受刑者への扱いが甘くなっていくかもしれません。受刑者に「一度見逃した」という失敗や弱みを握られ、上司に言うぞと脅されることが続くと、それが不正に発展していきます。
刑務官にも規律があると言いましたが、それを守らなければ、行政処分が下ったり、刑務官自身が起訴されることもあります。
不正を起こさないために、刑務官自身が隙のないよう、常に自衛しなければなりません。また、不正を起こさないためにも、上下関係を基本とした、刑務官同士での素早く正確な報告が欠かせないのです。
ハードな刑務官のお仕事、果たしてそのお給料は……?
法務省のWebサイトによると、刑務官の給与は、一般の国会公務員より12%ほど高い水準だそうです。地域によって金額の多寡はありますが、東京都特別区(23区)の場合の初任給は約20万円。ものすごく高いというわけではなさそうです。
犯罪をおかさず平穏に暮らしている限り、刑務所に入ることはまず考えられません。そのため、「刑務所=入らない、知らない方がいい世界」と考えている人が多いのでは?
しかし、「人々を更生させる」という使命を持って、受刑者とともにハードな日々を送っている人がいるということは、頭に入れておいてよいと思います。
参考文献
外山ひとみ著『ニッポンの刑務所』、講談社現代新書、2010
西田博著『刑務官へのエール〜法務省”刑務官”局長の1人ごと〜』廣済堂出版、2014
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