連載
» 2017年11月11日 15時00分 公開

子ども全員で生き延びるなんて無茶じゃない? 『約束のネバーランド』エマは誰一人置いていかないあのキャラに花束を

死と隣り合わせの鬼ごっこ。

[たまごまごねとらぼ]
※本ページはアフィリエイトプログラムによる収益を得ています

約束のネバーランド 銀髪の子がノーマン、赤髪がエマ、黒髪がレイ (C)白井カイウ・出水ぽすか/集英社

 自分が今まで信じて生きてきたこの世界は、実は誰かに作られたニセモノかもしれない。この不安を映画のタイトルから取って「トゥルーマン・ショー妄想」というそうです。「攻殻機動隊」や「マトリックス」でもありましたね。

 子どもたちの見ていた世界は、全てまがい物だった。偽りの箱庭からの脱出劇を描いた『約束のネバーランド』(白井カイウ・出水ぽすか)より、絶対自分を曲げないサバイバルリーダーの少女エマをご紹介。

信じてきた世界は全てウソだった

 元気いっぱいで運動神経抜群のエマ。飛び抜けた天才で分析力が高いノーマン、博識で知略に長けたレイ。3人は親のいない子どもたちが暮らす施設で暮らす最年長の11歳。みんなのお兄さん・お姉さん役として、38人の子どもの暮らしをリードしていました。

 特にエマは、みんなを本物の家族のように大事にし、世話をしてくれる唯一の成人女性「ママ」を本当の母親のように慕っています。とても幸せだったので、施設の外に何があるか、考えもしませんでした。


約束のネバーランド このまま何も知らずにみんなで笑っていられたら、幸せだったのかな

 ところがある日、里親に引き取られた少女が、えたいの知れない生き物に殺されているのを見てしまいます。実は外にあるのは、人を食らう鬼の世界。彼女たちがいたのは、鬼が食用人肉を育てる施設

 自分たちが今まで信じてきた世界は、何もかもウソだった。エマ、ノーマン、レイの3人は、秘密の脱出作戦を立て始める。


約束のネバーランド あんなに優しかったママは、ずっと自分たちをだましていたんだ……(1巻P99)

絶対曲がらない頑固ヒロイン

 主人公のエマは、一人も残すこと無く脱出すると主張し、頑として曲げない様子がひときわ目立つマンガです。

 いやいや、無理でしょ! 上はまあ10歳以上だからともかく、一番下はまだ1歳の赤ちゃんだよ。37人一人残らず一斉に逃げるって、どうやって? 脱出した後、逃げるだけじゃなく赤ちゃんの世話はできるのか? 無謀にも程がある。

 思慮のあるレイは、無理だと言いはります。でもエマは、幼子であろうと内通者であろうと、一人も死なせずに脱出すると言ってききません。


約束のネバーランド エマならそういうと思ってたよ(2巻P105)

 エマ「無理でも私は全員で逃げたい。何とかしよう! 全滅はやだよ。でも置いてくって選択肢はない」(1巻P122)

 さすがに、本人も「無理」を言っているのはわかっているようです。だって自分たち3人だけだって、脱走は難しいもの。だから諦める、という考えが全く頭をよぎらないのが、エマという子です。作戦を成功させるため、低い可能性を切り捨てようと考えるのは、至極当然のこと。でも、エマの中には一瞬たりとも、置いて行くという選択肢は生まれません。「もし」なんて考えない。この誰にも揺るがせられない思いが、物語の芯になっていきます。

 ノーマン「ほらこれだ。無茶で無謀で、甘くて幼稚で。けどまばゆいくらいに、真っすぐで。一生懸命考えたんだろうな……てんで滅茶苦茶だけど。でもエマはわかっていない。その気持ち、その思いだけでどれだけ僕が幸せだったか。だから僕は辛くても怖くても笑顔でいられた」(4巻P92)

 愚かしいほどに真っすぐな人間に、人は勇気をもらえるものです。多分それが「ヒーロー」って呼ばれるんだと思う。

怒り、悲しみ、信念

 ただし、エマは普通の人間の女の子。心身が強い超人じゃないし、特殊技能を持つわけでもない。実際は常に限界です。ある人物が「この子は元々たくましいんじゃない、たくましく在らなきゃならなかったんだ」(6巻P149)と評している通り。エマをヒーローとして頼りすぎてしまうのは、とても危険。多分壊れちゃう。

 この作品、逃げるためのだまし合いが多いためどこまで感情のブレーキを踏めるかがキモになっている。エマはとっさに飛び出すタイプの子なので、激情を表に出さないよう心を抑えるシーンがとても多いです。愚直な人間がウソをつくのは、めちゃくちゃ体力がいること。

 いっそ武器持ってぶんぶん振り回せるのならば、すっきりするのにね。でも事態はそんな単純じゃない。


約束のネバーランド ママ側のチェックメイトの連続で、ひたすらすり切れていく(4巻P121)

 何をしても覆されて絶望的。精神的に追い込まれるシーンが多いです。

 エマが何一つ諦めないのは、子どもたち全員を救うため。そこが脱出の最大のネックでした。ところが、少しづつ希望に変わっていきます。


約束のネバーランド 鬼ごっこ、という領域じゃないぞ!(2巻P18-19)

 高度な鬼ごっこで年下の子たちに逃げ方の技術を教えるシーン。最初は年少の子は知らずに楽しんで練習していますが、これが後に本当に逃げる技術へと結びついていきます。この目、とても一桁台の子どもじゃない。

 事情を知る年下の子たちが、疲弊したエマに言います。「お願いだから自分を大切にして。私達のことを大切に思ってくれるのは嬉しいけど、エマ達だって同じように大切な家族なのよ?」(6巻P109)

 彼女たちの手の及ばないところは、年下の子達がその分全力で突破口を作ろうとしはじめます。人数が多いってことは、多岐にわたるルートが見つかるかもしれない、逆に! 生き残る希望があるとしたら、ここなんじゃないかな。


約束のネバーランド 考え方は常にプラスに切りひらけ(2巻 P186)

 エマたちが常時、状況を見ながら推理し続けるサスペンスマンガ。えたいの知れないウソの圧迫感がすごいだけに、くぐり抜けたときのカタルシスが半端じゃない作品です。6巻ではタイトルの「約束」の意味も見え、世界観もわかり始めてきます。それもどこまで本当なんだか信じきれない、スーパー疑心暗鬼マンガ。読んでいるこっちも迷います。でも、エマが曲がらない、ってのだけは信じて読める。

 1巻は11月16日まで期間限定無料でKindle版が出ています。この機会に是非。



(C)白井カイウ・出水ぽすか/集英社

たまごまご


関連キーワード

漫画 | 集英社


Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.

昨日の総合アクセスTOP10
  1. /nl/articles/2312/01/news138.jpg 伊藤沙莉、“激痩せ報道”の真相暴露→広瀬アリスの株が上がってしまう 「辱めったらない」告白に「アリスちゃん、ええ人や〜」
  2. /nl/articles/2312/01/news121.jpg “鬼ダイエット”で激やせの「Perfume」あ〜ちゃん、念願の姿に「着れる日が来るなんて」と大喜び
  3. /nl/articles/2312/01/news115.jpg 「心底惚れて」「毎日うっとり」 宮里藍、新たな愛車を公開→国産車のチョイスに反響「庶民的」「きれいな色」
  4. /nl/articles/2311/30/news047.jpg 「あなたは日本人?」突然送られてきた不審なLINE、“まさかの撃退方法”に反響 「センス良い」「返しが秀逸」
  5. /nl/articles/2208/06/news075.jpg 「ごめん母さん。塩20キロ届く」LINEで謝罪 → お母さんからの返信が「最高」「まじで好きw」と話題に
  6. /nl/articles/2312/01/news065.jpg 「惨めな人生を送ってる」 パリス・ヒルトン、0歳息子の容姿揶揄をまたもバッサリ “頭が大きい”と受診勧めた人々振り返り「気の毒」
  7. /nl/articles/2312/01/news014.jpg ワンコ大好きなインコに“恋がたき”登場で174万再生! まさかの展開に困惑するワンコに「爆笑w」「ダブルだw」
  8. /nl/articles/2312/01/news019.jpg 寝込んだママが心配でたまらない元保護犬と小学生息子 それぞれが見せるけなげな姿に「泣けてきた」「なんて優しい子!」
  9. /nl/articles/2311/30/news031.jpg シロフクロウが自分とそっくりのぬいぐるみをくわえ…… 自慢げな表情に「本物の赤ちゃんかと」「ヘドウィグが!」と453万再生
  10. /nl/articles/2312/01/news105.jpg 俳優の井川瑠音さんが31歳で逝去 体調不良から復帰ならず、最後の投稿では「忘れられないようまだまだ精進」
先週の総合アクセスTOP10
  1. 大好物のエビを見せたらイカが豹変! 姿を変えて興奮する姿に「怖い」「ポケモンかと思った」
  2. 「3カ月で1億円」の加藤紗里、オーナー務める銀座クラブの開店をお祝い “大蛇タトゥー”&金髪での着物姿に「極妻感が否めない」
  3. 愛犬と外出中「飼いきれなくなったのがいて、それと同じ犬なんだ。タダで持ってきなよ」と言われ…… 飼育放棄された超大型犬の保護に「涙止まりません」
  4. ミキ亜生、駅で出会った“謎のおばさん”に恐怖「めっちゃ見てくる」 意外な正体にツッコミ殺到「おばさん呼びすんな」「マダム感ww」
  5. 永野芽郁、初マイバイクで憧れ続けたハーレーをゲット 「みんな見ろ私を!」とテンション全開で聖地ツーリング
  6. 道路脇のパイプ穴をのぞいたら大量の…… 思わず笑ってしまう驚きの出会いに「集合住宅ですね」の声
  7. 柴犬が先生に抱っこしてほしくて見せた“奥の手”に爆笑&もん絶! キュンキュンするアピールに「あざとすぎて笑っちゃった」
  8. 病名不明で入院の渡邊渚アナ、1カ月ぶりの“生存報告”で「私の26年はいくらになる?」 入院直後の直筆日記は荒い字で「手の力も入らない」
  9. 小泉純一郎元首相、進次郎&滝クリの第2子“孫抱っこ”でデレデレ笑顔 幸せじいじ姿に「顔が優しすぎ」「お孫さんにメロメロ」
  10. デヴィ夫人、16歳愛孫・キランさんが仏社交界デビュー 母抜かした凛々しい高身長姿に「大人っぽくなりました」
先月の総合アクセスTOP10
  1. 「酷すぎる」「不快」 SMAPを連想させるジャンバリ.TVのCMに賛否両論
  2. 会話できる子猫に飼い主が「飲み会行っていい?」と聞くと…… まさかの返しに大反響「ぜったい人間語分かってる」
  3. 実は2台持ち! 伊藤かずえ、シーマじゃない“もう一台の愛車”に驚きの声「知りませんでした」 1年点検時に本人「全然違う光景」
  4. 大好物のエビを見せたらイカが豹変! 姿を変えて興奮する姿に「怖い」「ポケモンかと思った」
  5. 渋谷駅「どん兵衛」専門店が閉店 店内で見つかった書き置きに「店側の本音が漏れている」とTwitter民なごむ
  6. 西城秀樹さんの20歳長男、「デビュー直前」ショットが注目の的 “めちゃくちゃカッコいい”声と姿が「お父さんの若い頃そっくり」「秀樹が喋ってるみたい」
  7. “危険なもの”が体に巻き付いた野良猫、保護を試みると……? 思わずため息が出る結末に「助けようとしてくれてありがとう」【米】
  8. 「やばい電車で見てしまった」「おなか痛い、爆笑です」 カメがまさかの乗り物で猫を追いかける姿が予想外の面白さ
  9. おつまみの貝ひもを食べてたら…… まさかのお宝発見に「良いことありそう」「すごーい!」の声
  10. 「3カ月で1億円」の加藤紗里、オーナー務める銀座クラブの開店をお祝い “大蛇タトゥー”&金髪での着物姿に「極妻感が否めない」