レビュー
» 2018年03月01日 12時00分 公開

私が「シェイプ・オブ・ウォーター」を劇場に見に行かない理由 映画作品に”手を加える”ということ

表現の規制と、責任の所在。

[将来の終わり,ねとらぼ]

 ギレルモ・デル・トロが好きだ。

 「ミミック」の異形が好きだ。「クロノス」の少女が好きだ。「パシフィック・リム」のフェティシズム溢れるロボットたちが大好きだ。

 「クリムゾン・ピーク」の虚ろに砕けた城が好きだ。「ヘルボーイ/ゴールデン・アーミー」のオープニングが好きだ。「パンズ・ラビリンス」に描かれた社会と幻想の入り乱れるラストが愛おしくてたまらない。

 彼は作品のクォリティに絶対の信頼がおける、数少ない芸術家のひとりだ。だから予告編も見ていない。あらすじも極力目にいれていない。ポスターのビジュアル以外、ほぼ何も知らない。まずは何より、作品だけを見るためだ。



公開前週の「編集」発覚

 “「シェイプ・オブ・ウォーター」の日本公開版は、重要なシーンが編集されている”という情報が入ってきたとき、またか、と思った。ここ最近、この手の話は定期的におこる。

 最も有名かつ醜悪なのは"Lat den ratte komma in"(「ぼくのエリ 200歳の少女」。口に出したくもないタイトルだ)における改変だろう。本作は無修正で流すべきシーンにぼかしを入れることで、作品の重要な位置を占めるひとつのツイストを、文字通り完全に覆い尽くしてしまった。さらに薄汚れた邦題でその歪なごまかしを上塗りしたのだ。

 ニール・ブロムカンプ監督作「チャッピー」もそうだった。国内上映時、数秒間のカットが「監督の承認を得ずに」行われたとの疑惑がおこり、騒動になった

 絶叫上映のリピートが話題の「バーフバリ」もまたカットの憂き目を見ている。こちらは本国版に比べ、海外配給版はじつに前編、後編を合わせて約50分間ものシーンがまるまる削除されている。

 過度なエログロをテレビで流せとは言わない。だがここは映画館で、ゾーニングは比較的容易だ。パク・チャヌク監督「お嬢さん」はもとより、あの悪名高き「フィフティ・シェイズ・オブ・グレイ」でさえ、(本公開に1週間遅れてとはいえ)R-18版が公開されていたというのに。


最高の監督「ギレルモ・デル・トロ」

 映画は総合芸術だ。2時間前後の映像の製作に何百人という数の人々が関わり、何十億、ときには何百億の額がつぎこまれることも珍しくない。場面ひとつひとつに自らの描きたいもの、伝えたいことを明確にイメージし、膨大なスタッフをまとめあげ、的確に予算を割り振り、完成に導く。この考えるだけで途方もない作業をやってしまえるのが映画監督という人間だ。

 幾多の才能の中、本年度の全米監督協会賞・長編映画監督賞に選ばれ、間もなく発表される第90回アカデミー賞。その監督賞の最有力候補とされているのが本作の監督、ギレルモ・デル・トロだ。言い換えれば、今この瞬間、映画監督として、間違いなく最も輝いている男の、マスターピースとなりえる作品が「シェイプ・オブ・ウォーター」なのだ。


ギレルモ・デル・トロ監督

 デル・トロには長年の悲願の企画があった。ラヴクラフトの代表作、「狂気の山脈にて」の映画化だ。“Rated R(R指定)”のまま製作直前までいっていた同作は、予算を回収するためにレイティング引き下げを求めるユニバーサルと、それに反発したデル・トロのすれ違いにより消滅している。

 “もし「狂気の山脈にて」をPG-13で撮れていたら、いや、「それで撮ります」とそう答えていたら……僕は真面目だから。嘘をつくべきだったのに。僕はそうしなかった”

"Guillermo del Toro Says He ‘Should Have Lied’ About the ‘At the Mountains of Madness’ R Rating"(IndieWire)


 さらには昨年2月、彼は「ヘルボーイ3」企画の完全消滅をTwitterにて発表している。


 これらの苦難を乗り越え、めげずに自分の描きたい物を描き続け――前作「クリムゾン・ピーク」の半分以下、「パシフィック・リム」の約10分の1の予算で“Rated R”の作品を撮り――ついに絶対的な評価を得たのが本作だ。

 どういう無神経があれば彼の作品に手が加えられる?

 もはやデルトロ作品恒例となったアートワークブック。本作の元ネタとされるロシア産の怪奇映画「両棲人間」とその原作、次いでユニバーサルの名作「大アマゾンの半魚人」「半魚人の逆襲」のDVD。盗作騒動の持ち上がった「Let me hear you whisper」のスクリプト、そしてもちろん「シェイプ・オブ・ウォーター」のスクリプト、ノベライズ。

 これらすべてを作品読解のために揃えた、または予約した。だが作品が歪められている恐れがあるのなら、これらのページをめくることすらままならない。

 聞けば東京国際映画祭では無編集版が上映されたという。つまりR-18を明記すれば、上映自体は国内で問題なく可能なのだ。参加できなかったのが悔やんでも悔やみきれない。


責任者の不在

 実際の修正は「なんだこの程度か」というような、わずかなものかもしれない。事実FOXサーチライトピクチャーズは2月27日、修正箇所を“カット・差し替えはなく”、“1箇所のみぼかし処理”と明記した。だが、1箇所のぼかし処理でねじまげられたのが「ぼくのエリ」だ。


 監督の承認を得て、と配給は言う。別会社の「チャッピー」の例を出すのも申し訳ないが、信じられない。SNSでの情報拡散がなければ、そもそもこの発表がされたのかさえ謎だ。Twitterではデル・トロファンが数名、直接彼にリプライを飛ばしている(「チャッピー」時の「監督の了承を得て」という嘘が暴かれたのも、ファンのリプライが原因だ)が、残念ながら今のところ返答はない。

 つまり更に不幸なことに、このようなことが起こっても、観客側は「誰の意向で、誰が編集したのか」全くわからないのである。海外での売上を確保するために権利元が行っているカットなのか、それとも製作者側の配慮のぼかしなのか、日本での配給を担当する側の都合なのか。責任の所在が一切不明なまま、ただ不完全な作品を見せられる側の気持ちも考えてほしい。どこが誰の意向で編集されているのかを考えながら、作品を楽しめるわけがない。少なくとも、今回の日本公開版を「ギレルモ・デル・トロ最新監督作」として見るのは断じて受け入れられない。




 3月13日、海外版のブルーレイ・DVDが発売される。こちらが届いた後、追ってレビューを行いたい。

 劇場には行かない。

 ふざけんな。


将来の終わり


(C)2017 Twentieth Century Fox

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.

昨日の総合アクセスTOP10

  1. /nl/articles/2112/08/news015.jpg 大好きな飼い主に、元保護猫がダイナミックハグ!! 「おかえりー!」と飛びつく姿に「かわいすぎる」の声
  2. /nl/articles/2112/08/news122.jpg ビジュアル系バンド「nurie」小鳥遊やひろさん、追突事故に巻き込まれ逝去 他メンバーも病院へ搬送
  3. /nl/articles/2112/07/news156.jpg 渡辺直美、NYで運転免許取得も「絶望」 “不意打ち”顔写真採用に困惑「どんな表情でどんな髪型なの?」
  4. /nl/articles/2112/06/news051.jpg お風呂に呼ぶ父に息子が「行けるわけなかろーもん」 猫さまとラブラブな光景に「息子さん正しい」と賛同の声
  5. /nl/articles/2112/06/news149.jpg 47都道府県の「県章」を仮面ライダーにアレンジ 各地の特色を宿した空想ヒーローに全国特撮ファン大盛り上がり
  6. /nl/articles/2112/08/news086.jpg 【その視点はなかった】常に丁寧口調の同僚に、評判の悪い人への印象を聞くと「こちらも親指が下がる思い」と低評価
  7. /nl/articles/2112/08/news100.jpg 井上和香、6歳娘と“笑顔いっぱい”温泉旅行2ショット 「娘との関係がうまくいかない」と育児に悩んだ過去も
  8. /nl/articles/2112/08/news024.jpg 猫「え……それ私のおやつでは??」 困惑の表情で風呂場に立ち尽くす猫ちゃん、かん違いする姿がかわいい
  9. /nl/articles/2112/07/news029.jpg 「キッチンから落ちゆく猫」 ペットシッターさんがとらえた決定的瞬間の写真に「動画で見たい!」「犬神家みたいw」
  10. /nl/articles/2112/08/news081.jpg 矢田亜希子、豊川悦司とのドラマ「愛していると言ってくれ」兄妹2ショット ファン「これはエモい」「私の青春だ」

先週の総合アクセスTOP10

  1. 東大王・鈴木光、“お別れの笑顔”で司法試験合格を報告「本当にありがとうございました」 SNS閉鎖に涙のエール続々
  2. 高嶋ちさ子、ダウン症の姉とさだまさしのコンサートへ 笑顔あふれる3ショットに「姉妹で素敵」「癒やされました」の声
  3. 「キレッキレ!」「何回見ても笑えるwww」 白柴犬の激しすぎる後ろ足の動きに国内外から大反響
  4. 45キロ減のゆりやんレトリィバァ、劇的変化の“割れたおなか”に驚きの声 「努力の賜物」「昔を思い出せない」
  5. 46歳と18歳の内田有紀、“2人そろって”『STORY』表紙へ 「自分の妹と撮影しているみたい」
  6. ダレノガレ明美、“痩せすぎ”指摘する声に「体絞っていました」 現在は4キロの増量 「ご安心ください」
  7. 渡辺美奈代、公開した自宅リビングが広すぎて“お姫様のお部屋” ゴージャスな部屋へファン「センスまで抜群」
  8. アイドルが「虚偽の発言」「繋がり行為」など複数の違反行為 ファンのため“卒業”を提案するもブロック→解雇へ
  9. 「美男美女の一言」「これぞベストカップル」 高橋英樹&小林亜紀子、“48年前の夫婦ショット”が絵になりすぎる
  10. ゴマキの弟・後藤祐樹、服役中に死去した“母との約束” 「1000万円企画」朝倉未来の計らいで首のタトゥー除去

先月の総合アクセスTOP10

  1. 池田エライザ、 “お腹が出ている”体形を指摘する声へ「気にしていません」 1年前には体重58キロ公表も
  2. 「前歯を取られ歯茎を削られ」 広田レオナ、19歳デビュー作で“整形手術”を強制された恐怖体験
  3. ゴマキの弟・後藤祐樹、朝倉未来とのストリートファイトで45秒負け 左目腫らした姿を自ら公開し「もっと立って闘いたかった」
  4. 清原和博の元妻・亜希、16歳次男のレアショットを公開し反響 「スタイル抜群」「さすがモデルの遺伝子」
  5. 小林麻耶、おいっ子・めいっ子とのハロウィーン3ショットに反響 元気な姿に安堵の声が続々「幸せそうでなにより!」
  6. カエルに普段の50倍のエサをあげた結果…… 100点満点のリアクションに「想像以上で笑った」「癒やされました」
  7. 「左手は…どこ?」「片腕が消えてる」 中川翔子、謎が深まる“心霊疑惑”ショットにファン騒然
  8. 「家ではまともに歩けてない」 広田レオナ、左股関節に原因不明の“炎症” 夫から「凄い老けたと言われてます」
  9. 小林麻耶、髪ばっさりショートボブに「とても軽いです!」 ファンも反応「似合います」「気分も変わりますよね!」
  10. キンタロー。浅田舞の社交ダンス挑戦を受け体格差に驚がく 「手足が長い!!」「神様のイタズラがすぎるぞ!!」