「キャラクターをどうやって三次元に連れてくるか」 BANDAI SPIRITSが挑む、次元を超えた“変態技術”(後編)(1/5 ページ)
「僕らはキャラクターを三次元に連れてくるために成形を使いたい。そこの差なんです」
「バンダイがまた恐ろしいものを生みだしてしまった」――ネット上で、そんな驚きをもって迎えられた「Figure-riseLABO ホシノ・フミナ」。プラモデルとフィギュア双方の特性を併せ持つキットとして位置付けられた、新シリーズの第一弾製品だ。
もともと透けてはいけないと思われていた樹脂の色をあえて重ねることで、繊細な肌色のグラデーションを表現するという画期的手法。記事前編では、Figure-riseLABO誕生のきっかけから開発当初までの出来事を、企画担当である西村悠紀さんと、設計担当である山上篤史さんに伺った。
続く後編では、さらにマニアックに開発中の苦労話や失敗談を聞いていく。1年8カ月に渡る開発期間中、前例のない完全手探りの状況の中で起こったこと……そして、「塗らなくていいプラモデル」を今、世の中に発表する意義とは?
完全手探りの肌表現! ノウハウがない設計はつらいよ
――開発期間中は、ずっといろんな樹脂を試験型に流し込み続けていたわけですね……。
西村:新技術の部分は、全部の樹脂が今までのガンプラでは一回も使ったことがない色なんですよ。脚の肌の色にしても、ランナーの部分とパーツの部分で色味が違います。それは下から下地の部品のオレンジ色が透けてるからなんですけど、その透け方自体も「肌色の層が薄くて下地のオレンジが見えている」という透け方と、「上側の肌色の素材自体が光を通している」という透け方になっているんです。
今回はあえて、上側のこの肌色の樹脂も顔料の量を薄くして、表層だけでも光を透過するようにしています。だから、肌色の層だけでも透け感がある。
――半透明みたいな感じでしょうか。
西村:半透明というと言いすぎですけど、ちょっとそっち側に振るように調合してます。若干クリアパーツになっているというか。人間の手って、光にかざすと透けるじゃないですか。あの考え方です。
山上:とにかく新しく決めることが多すぎるんですよ。最初はその肌色の透け具合から入って、透ける割合みたいなのを10%がいいのか、15%がいいのか、間をとって13%がいいのか……と検討して毎回全部試して、「このくらいの透けで一回トライしてみるか」って樹脂を打って。下のオレンジも、最初はこんなはっきりした色じゃなくて、クリアのオレンジがいいと思ったりしてたんですよ。
西村:下に敷いている樹脂は最終的に全く透けない、ソリッドカラーと呼ばれるものになったんですけど、この部分をクリアで抜くと足の後ろ側からの光とかも全部通すんです。それで色の発色がよくなる部分もありつつ、それをやると顔が難しくなる。
顔って後ろから髪の毛のパーツをはめちゃうんで、光が入らないんですよ。だから裏からの光に依存した透け方だと顔だけ不自然になっちゃう。それで、表面から光が入って下地のピンクで跳ね返るっていうのが一番きれいなんじゃないかという形になりました。
山上:当初はほっぺただけをピンクにしたいと思っていたんで、顔の下半分だけにピンクの樹脂が流れるようにして、おでこくらいを境に眉毛の茶色が出てたんです。それで試してみると、思いの外表面の肌色が透けまして。その時打った顔は上下でうっすらと茶色とピンクに分かれているものになってしまったんです(笑)。アニメの「ガビーン……」ってなってる顔みたいになってしまいまして……。
――それはまずい!
山上:「やっぱこれじゃなかった!」ってまたそれも直して。それで顔全体をピンクにしたんです。まつげの黒い部分も透けてしまうので、なるべく黒い部分をピンクの部分の外に出さないように、本当に縁の部分だけを外に出してます。
今回の商品は、腕にはインサートの技術が入っていないんです。一般の成形と同じものです。当初は腕もほかの部分と同じ成形色でやろうとしたんですけど、実際にそれをやると部品の太さの関係で、腕とお腹とかで全く色合いが変わってしまう。腕だけ血色が変に見えちゃうんです。
――腕は何もインサートされてないとのことですが、なんだか血色がよく見えますね。
西村:そこは造形自体の凹凸感と成形色の色味で、ほかの部分と比べても差がなく見えるように調整をかけました。でもここはインサートが入ってないので、お腹や脚と同じように肌色が透けちゃ困る。だから、樹脂の配合を変えてます。
――全体で何種類樹脂が使われてるんですか?
西村:13種類ほどです。肌色だけでも腕とそれ以外で2種類。
――お、多い……。
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