怖い? かわいい? 妖怪と狂歌でつづる百人一首「百怪一首」が生まれた理由
クリエイターに「百怪一首」ができるまでを聞いた。
猫又、ろくろ首、座敷童――妖怪をテーマにした狂歌で作る妖怪版百人一首「百怪一首」が、8月14日に久保惣記念美術館(大阪府和泉市)で販売をスタートする。
ある歌はおどろおどろしく、ある歌はユーモラスに、主に妖怪を中心に札は描かれている。例えば、「いつまでも 帰らぬ夫待ちながら ながながし首 一人伸ばさん」という狂歌には、悲しみをたたえた表情でろくろ首になる女性の姿が、「堀川を 渡せる橋に 出る姫は 夜更けに鬼になりにけるかな」という狂歌には、羽衣をまとった鬼が描かれている。
作家の天羽孔明さんが2010年から作り始めた百怪一首は、イラストレーターのなんばきびさん、妖精妖怪アートサロン「イルミタイ」(企画)、日本妖怪研究所(制作)が加わった「百怪一首制作プロジェクト」となり、実際にカルタ取りなどをしながら試作や改良を重ねた。
誰もが昔話やアニメで親しんだ妖怪をモチーフとする百怪一首は既に注目を集め、「どこで手に入るのか」など問い合わせが相次いでいるという。発売を前に、狂歌作者の天羽さんに「百怪一首」ができるまでや、「百怪一首」への思いを聞いてみた。
―― 「百怪一首」制作はどんなきっかけで作り始めたのですか?
天羽さん Twitterを始めたころから140文字以内で完結する創作を不定期に書いていたのですが、いつのころからかもっと簡潔で意味深なストーリーが書けないかと模索しはじめ、そこから七五調の都々逸や五・七・五の川柳(狂句)、五・七・五・七・七の短歌(狂歌)に行きついたんです。最初は、妖怪や怪談モチーフ以外も書いていました。
あるとき、百人一首の本歌取り狂歌(百人一首の一部を取り入れて、新しく作った狂歌)集を見つけ、それを手本に百の妖怪で百怪一首ってのが書けるんじゃないかと思い、気軽な気持ちで始めたんです。
―― 制作において大変だったことや、こだわったことを教えてください。
天羽さん 百人一首って、基本は恋の歌なんですよ。だのに、恋愛関連の妖怪はあまりいないんです。その上、本歌の雰囲気をなるべく残すようにこだわったので、最初はすらすらと楽に書けたんですが、二十首ぐらいからもう苦しくなりました。
その上、カルタ取り以外に坊主めくり的な遊びもしたいとの声もあり、途中から坊主札を加えたり変更したりを繰り返しながら、最終的に百七十首ぐらい書いたものを厳選して今の百首に落ち着きました。
―― 特に思い入れのある札や句はありますか?
天羽さん 一番思い入れがあり、かつ気に入っているのは二首目の「猫又」札ですね。
「春過ぎて 夏毛に変はる猫又の 化けた衣装も布地少なし」(本歌:春すぎて 夏来にけらし白妙の 衣ほすてふ天の香久山/持統天皇)
うまく元の歌の雰囲気を残せていると自画自賛しています。二首目にこの狂歌ができたので「百首なんて楽勝ちゃう?」なんて勘違いをしてしまいました。しかもこの札に、なんばきび氏がかわいい猫又のイラストをつけてくれたので、今では僕だけでなく、百怪一首に関わったみんなの大好きな札になっています。
―― 手に取った人にはどんなふうに遊んでほしいですか。
天羽さん 百怪一首の狂歌を書いたのは私ですが、製品化にあたり、絵札のイラストを描いたなんばきび氏や、制作に携わった「イルミタイ」や「日本妖怪研究所」のメンバーと、試作の段階から楽しんで応援をしてくれた多くの人のおかげで完成につながりました。まずはじっくりと絵札のイラストと狂歌を読み、そして遊んでほしいですね。
百首もの狂歌作りの苦労や、うまく元の歌の趣きを残せたときの喜び、一緒に百怪一首を作り上げたプロジェクトメンバーへの感謝の気持ちを天羽さんは語ってくれた。
8月14日から19日まで久保惣記念美術館市民ギャラリーで開かれる「百怪一首展」では「百怪一首」の初売り(税別4800円)とともに、百怪一首カルタ大会も行われる。
それを皮切りに、東京は「妖怪の宿鳳明館」(文京区 10月7日)、大阪は「動物妖怪ランド2 幻獣降臨」(天王寺動物園 9月1〜9日)、「お化け恐和国」(西成区 10月28日)、なにわ妖隗祭4新世界(11月16〜18日)など各所でカルタ大会が開催され、「百怪一首」が販売される予定とのこと。通信販売や他の店舗での販売も予定しているという(販売の詳細は百怪一首プロジェクトのアカウントを参照)。
仲の良い友達と、お盆で集まった親戚と盛り上がれそうな「百怪一首」。この夏、妖怪や怪談の世界で遊んでみるのはいかがだろうか。
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