注目集まる「アビス・ホライズン」訴訟問題 「艦これAC」は“パクリゲーム訴訟”暗黒の歴史を塗り替えられるか
著作権に詳しい弁護士に、争点について解説してもらいました。
既報の通り、セガ・インタラクティブおよびC2プレパラートは去る7月11日、同社の「艦これアーケード(艦これAC)」の権利を侵害しているとして、スマートフォン用ゲーム「アビス・ホライズン」の配信差し止めを求め、東京地方裁判所に対し仮処分命令申し立てを行いました。
これまでにも、DeNAの「釣りゲータウン」や、アスキーの「エムブレムサーガ」など、類似ゲーム(いわゆる“パクリ”)を巡る裁判はたびたび話題になってきました。最近でも、バトルロイヤルゲーム「PLAYERUNKNOWN'S BATTLEGROUNDS(PUBG)」の運営会社が、「荒野行動」「Rules of Survival」に対し配信差し止めを求める訴訟を起こしたのは記憶に新しいところです(関連記事)。
「艦これAC」側が今回主張しているのは、「著作権侵害」と「不正競争防止法違反」の2点。しかし「アビス・ホライズン」側は公式サイトで「セガ及びC2の主張には理由がなく、『アビス・ホライズン』に違法な点はないと考えています」とコメントしており、全面的に争う姿勢を見せています。
ただ、過去の事例を見るかぎり、ゲームに限らず“アイデア”は著作権の保護対象外であるため、ゲームの類似が著作権侵害に認定されることはほぼありませんでした。前述の「釣りゲータウン」を巡る裁判でも、最高裁判所は最終的に、原告であるグリーの訴えを退け、「釣りゲータウン」は著作権侵害にあたらないとの判決を下しています。
果たして「艦これAC」側は、こうした“暗黒の歴史”を塗り替えられるのか。スマートフォン用アプリの著作権に詳しい、東京フレックス法律事務所の中島博之弁護士(@yukimahiro77)に聞きました。
「アビス・ホライズン」は著作権侵害なのか
―― 今回の訴訟では、著作権法と不正競争防止法の2点が問題視されています。まずは著作権の観点から、「アビス・ホライズン」についてどう見ますか。
中島弁護士:ゲームシステム(特に索敵〜戦闘まで)や、艦隊を擬人化したキャラをモチーフにしている点などは確かに似ていますが、著作権法では単なるアイデアや、創作とまでは言えない表現・ゲームシステムは保護されません。
一方で、ゲームプログラムのソースコードやキャラクターなどは著作物として保護される傾向にあります。例えば記憶に新しいのが、わずか1日でサービス終了したプラウザゲーム「カオスサーガ」でしょう。これはスクウェア・エニックスの「ファイナルファンタジーXI」から、キャラクターなどのモデリングデータをそのまま流用しており、データの流用やキャラクターのデッドコピーに基づく著作権侵害を理由に、1日でサービスが終了しました(関連記事)。
また、最近の海外の事例ですと、ワーナー・ブラザーズがリリースした「Westworld」というスマートフォン用ゲームが、ベセスダの「Fallout Shelter」に酷似していたことから、やはり著作権侵害などを理由に訴訟となっています。ベセスダは「Westworld」が「Fallout Shelter」のソースコードを流用していると主張しており、その根拠として、同じバグまで「Westworld」内で再現できることを挙げています。こちらはまだ係争中ですが、一般的にソースコードは著作物性が認められることが多いため、ベゼスタ社が流用の立証に成功すれば、かなり有利になるのではないかと思います。
これらを踏まえると、本件でも、例えば「アビス・ホライズン」が「艦これAC」のキャラクターやソースコードを流用しているような事情があれば、著作権侵害が認められる可能性はあります。
―― なるほど、そのあたりが立証できなかった場合はどうでしょう。
中島弁護士:キャラクターやソースコードの流用がなかった場合、前述した「ゲーム中の似通っている点」が争点になってくると思います。
日本における有名な裁判例では、グリーの「釣り★スタ」が、DeNAの「釣りゲータウン」を訴えた事例があります(こちらも本件と同じく、著作権法と不正競争防止法が主な争点となっています)。
この裁判では、ゲーム中の「魚の引き寄せ画面や影像が似通っている」として、著作権侵害が争点の1つとなりました。しかし控訴審では、釣りゲームにおける水・魚・釣り糸などの表現は他のゲームでも似通っている表現があること、また実際の水中の表現と比較してもありふれたものであるとして、著作権上保護されない部分の共通性は考慮されず、「釣りゲータウン」は「翻案(著作権侵害)に当たらない」と判断されています。
―― 「釣り★スタ」と「釣りゲータウン」は見た目もゲームシステムもかなり似ていましたが、それでも著作権侵害にはならなかったんですね。
中島弁護士:後述する「ファイアーエムブレム訴訟」でも、ゲーム画面・影像の共通性による著作権侵害は認められませんでしたから、ゲームの画面や影像が似ているというだけで著作権侵害を認めさせるにはかなりのハードルがあると考えられます。
「艦これAC」と「アビス・ホライズン」でも、例えば画面の左右に表示される敵味方のステータス表示などは、ゲーム画面という制約上、画面端に表示せざるを得ないですし、また戦艦をモチーフにしていることから、ダメージの状況を「大破」「中破」などと表示することは「ありふれた表現」と判断されるかもしれません。
―― 著作権侵害が認められるとしたら、どのような流れになるのでしょう。
中島弁護士:まずは「艦これAC」の索敵シーンや戦闘シーンが“著作物”として保護対象であることを認めさせなければなりません。そのうえで、さらに「アビス・ホライズン」における類似シーンが「艦これAC」の表現を模倣していると立証できれば、著作権侵害があると認められる可能性はあります(本記事では依拠性については割愛します)。
「不正競争防止法」なら勝てる可能性は?
―― もう1つの争点である「不正競争防止法」についてはいかがですか。
中島弁護士:有名なものとして、先ほど触れた「ファイアーエムブレム訴訟」があります。これは当時アスキーが発売しようとしていた「エムブレムサーガ」に対し、任天堂が販売差し止めを求めていたものです。同社の「ファイアーエムブレム」にタイトルが類似していることから、不正競争防止法2条1項1号の「混同を生じさせる行為」に該当する、というのがその根拠でした(※)。この裁判では任天堂側の主張が認められており、「エムブレムサーガ」は結局、タイトルを「ティアリングサーガ ユトナ英雄戦記」に変更して発売しています。
※なお、上記判決までには400以上の証拠提出やさまざまな主張・反論が繰り返されており、判決文も100頁を超えますがここでは割愛します
―― ということは、不正競争防止法なら勝てる可能性がある?
中島弁護士:ただ、この裁判で決め手になったのは、タイトルの「エムブレム」の部分でした。この視点で考えると、「艦これAC」と「アビス・ホライズン」ではタイトルが全く異なりますので、同じ理屈で不正競争防止法違反が認められる可能性は低いと考えます。
―― なるほど。ゲーム画面の類似が「混同を生じさせる行為」と判断される可能性はないのでしょうか。
中島弁護士:実はファイアーエムブレム裁判でも、また前述の釣りゲーム裁判でも、ゲームの画面や影像が不正競争防止法における「商品等表示(※)」にあたるかは争点になっていました。しかし結局、判決ではゲームにおける「商品等表示」はあくまでタイトルやロゴなどであるとされ、画面や影像については認められませんでした。
※その商品が何であるかを消費者が判断するための表示
―― それでは「アビス・ホライズン」が不正競争防止法に該当する可能性は全くない……?
中島弁護士:ただ、ファイアーエムブレム裁判ではゲームの影像について、「それ自体が商品の出所表示を本来の目的とするものではない」としつつも、「ゲーム影像及びその変化の態様が商品等表示と認められるには、当該ゲーム影像及びその変化の態様が、ゲームタイトルなどの本来の商品等表示と同等の商品等表示機能を備えるに至り、商品等表示として需要者から認識されることが必要」と判断しています。
―― ええと、ざっくり言うと「ゲームの映像がタイトルやロゴなどと同じように、商品を区別するための表示としてユーザーから認識されていれば、不正競争防止法に該当する可能性もある」ということでしょうか。
中島弁護士:そんなところです。また過去には、「スペースインベーダー」におけるインベーダーの動きやゲーム進行の映像が「商品等表示」に該当するとして、類似ゲームについて不正競争防止法違反を認めた判例もあります。
例えば「艦これAC」を遊ぶユーザーは、索敵した後、戦闘に入り、敵を倒すことをゲームの主目的の1つとしていると考えられます。従って、似通っていると言われているゲームシステムである索敵〜戦闘シーンが、ユーザーの間で「艦これAC」の“ゲームタイトルと並ぶ主要素である”と広く認識されていることを立証できれば、不正競争防止法違反が認められる可能性があると思います。
―― 「ゲームタイトルと並ぶ主要素であると認識されている」というのはどうしたら立証できると思いますか。
中島弁護士:「艦これAC」の筐体における表示や、公式サイト・情報誌・広告などでの紹介方法などをとりあげることが考えられます。
―― タイトルだけでなく「ゲーム画面も表示の一部として使われている」というのを立証するわけですね。
中島弁護士:また、極端な例を挙げれば、「『艦これAC』の代名詞である戦闘システムやキャラクターをアーケードに近い状態で移植してくれてうれしいです。おかげで名前は違いましたが『艦これAC』のスマホ版とすぐに分かりました」など、明らかに「艦これAC」と混同しているようなレビューがアプリストア内に多数あったりすれば、ユーザーの誤認を証明することにつながると思います。

もし勝つことがあれば大きな前例になる、が……
ゲームの類似を巡る裁判はこれまでにもありましたが、基本的には「ゲームのアイデアやシステムに著作権はない」というのが裁判所の判断で、不正競争防止法で勝訴した「ファイアーエムブレム裁判」「スペースインベーダー裁判」などの例外を除いて、いわゆる“オリジナル”側にとっては厳しい結果が続いています。しかしそれだけに、もしも今回「PUBG」や「艦これAC」側が勝つことがあれば、ゲーム業界にとっては大きな前例となるはずです。
実際の結果が分かるのはまだかなり先になりますが、果たして裁判所がどのような判断を下すのか、注目の裁判となりそうです。
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