健気すぎる「ワケのわかんない片想いしてる少女」を見よ 「ハイスコアガール」7話(1/2 ページ)
恋に待ちガイルなんてないと思うぜ。
ゲーセンで燃やした青春があった。ゲーセンで育った恋があった。格ゲーが盛り上がっていた90年代を舞台に、少年少女の成長を描くジュブナイル「ハイスコアガール」(原作/アニメ)は、当時を経験していた人も、そうではないゲーム好きも、そしてかつて子どもだった全ての大人が、共感できる悩みをたくさん練り込んだ作品です。
修学旅行編一回目、小春とハルオ、初めてのデート……か?
気になるあの子とは、話すことができない
大野晶が海外から帰還し、「ストII」で因縁の対決ができると意気込んでいた矢口春雄。ところが大野は対戦を拒絶。ハルオは彼女との距離を感じて落ち込んでしまいました。
以降、学校でもハルオと大野は、かつてのように親しくはできません。ハルオにしてみたら、説明はできないけど、自分と大野の間に溝ができてしまったのは感じる、という状況。
ハルオは大野の生きづらさをなんとなく感じ取っています。ほかの生徒にちやほやされて幸せそうだけど、ハルオは分かっている。
「なんだかキュークツそうだな そーゆーところもあいかわらずか」
大野に拒絶されているのに、ついつい気遣ってしまう。そもそもハルオは本当に拒絶されているのかな?
渡り廊下でハルオに近寄って、表情を変えずそのまま立ち去るシーン。彼女の破裂しそうな感情が、必死に抑え込まれている、苦しいシーンです。ハルオもそんな彼女に、何をいえばいいか分からない。精いっぱいがんばって、豪鬼の出し方を聞くくらいしかできない。せめてゲームプレイで語り合えたらいいのに……!
小春の思い、一時の幸せ
ハルオに明確な恋の矢印を向けている、日高小春。自らの恋愛の思いの昂ぶりを一番理解し、頑張ろうとしているのが彼女。
修学旅行編では、それが顕著に出ています。たまたま電車に乗り遅れてしまって、ハルオと2人きりになってから、小春の「好き」の乙女心が炸裂しまくります。これって疑似デートじゃん。
琵琶湖を2人で眺めるの図。口からぽろっと「デートみたい」の言葉が漏れるの、かわいすぎでしょ。そのあと慌てるのも、大野に嫉妬するのも、思春期すぎでしょ。
ただ、ここで注意したいのは、最後のコマ。2人が歩いているシルエットのシーン。小学校時代にハルオと大野が自転車でゲーセン「がしゃどくろ」に行った時は、背中合わせで自転車二人乗りしていました。こちらのハルオは小春に気を使わず、ついてくる小春に距離をおいて歩いています(対比ポイントその1)。
レトロゲームが並ぶ店を発見し、大喜びのハルオ。それを遠巻きに見ていた小春。
小春が好きなのは「ゲームに全力で夢中になれる人・ハルオ」です。だから彼の無邪気な姿は、決して嫌いではない。だけど、今回2人でゆっくり歩いて疑似デートしていたのに、ゲームのせいで分断されてしまった。そりゃモヤモヤもします。
「矢口君と一番近くにいられるキッカケがゲームなのに……二人の間にいっつもはさまってるゲームの存在が……ちょっとだけ憎たらしい」
これが現時点の、小春のゲームに対する感想。趣味でのつながりの友人は、自分のことを見てくれているんだろうか? という疑問は、聞くことができないものです。
最後のコマのバスのシーン。小学校時代の遊園地の帰り、大野は疲れ果てて、ハルオの肩にもたれかかって寝ていました。こちらではバスの全く同じ場所に、中学生の小春とハルオが座っています。2人は別々の方向を見ています(対比ポイントその2)。
ハルオは悪気があるわけでは決してない。鈍感というよりも、彼女の好意が頭に入ってこないくらいゲームに夢中なだけ。そのくらい打ち込める人間だから、小春も惹かれたわけですし。
そして今はまだ、小春もハルオの見ているのと同じ方向を見ることができない。夢中になれる彼の姿に憧れてはいても、彼の心理状態はいまいち理解しきれていない。自分がなにかに夢中になったことがないから。
大野と小春は表裏一体の関係にあります。大野はゲームが好きで、同じ景色を見ているハルオに励まされ、好意を持つようになった。小春はゲームに夢中なハルオが好きで、彼の見ている景色に近づくためにゲームに触れるようになった。
入り口は真逆です。ただ最終的にたどりつくのは、「ゲーム」と「ハルオ」への好意。そこまでいって初めて、2人は同じ目線に立つことになります。
にしても、とっさに身体が動いて、一緒にいたいという行動を示す小春、恋する乙女度マックスで本当にかわいらしい。
好意が言葉と行動で明確に出るのが小春、抑圧されて出せないのが大野、と対比されています。
恋に「待ちガイル」なんてねぇ
「恋に『待ちガイル』なんてねぇ……と思うぜ……?」
ハルオが友人・宮尾光太郎に指摘された際の、この作品屈指の名言。宮野は、大野に告白しようと決めていました。ハルオの気持ちを察した上で、抜け駆けするわけではなく正々堂々と伝えるために、ハルオにわざわざ言ってきました。彼が男らしすぎるのは、ハルオの人柄のよさを分かっているから。
ハルオの現時点での「恋」は、待ちガイル。大野の気持ちも、小春の気持ちも、自分の気持ちも分からない。だから取りあえず、斜め後ろにレバーを入れて、事態の変化を待っている状態。
待ちガイルは、しゃがみガードで待ちつつ、時々「ソニックブーム」を撃ちながら牽制し、跳んできたら「サマーソルトキック」で落とすというもの。ハルオも使っていた戦法です。今ハルオは、大野の行動を待っています。でもそれでいいのか? というのが宮尾の意見。
もっとも、ハルオは人に共感して尊重できるのが魅力的な人間です。だからこそ、大野の苦しみを理解し、ゲームの世界で手を取り合うことができました。ある意味待ちガイル人間で良かったんじゃないかなあ。
大野がジリジリ様子を見て近づいてくるタイプだとしたら、小春は牽制しつつ一気に飛び込んでくるタイプ。そしてハルオは、今は待ちガイル。
持ちキャラにシンクロした少年少女の恋の戦いは、まだ始まってすらいません。
オレンジ筐体ってなに?
ハルオと小春が行った駄菓子屋に並んでいたオレンジ筐体とはなにか。スペースインベーダーなどの80年代に使われていたテーブル筐体より後で、90年代に増えたSNKのMVS筐体より前の、ゲーセンや駄菓子屋に並んでいた筐体のことです。実物の写真はドラマ「ノーコン・キッド」のサイトなどで見ることができます。以前ねとらぼでも、ペーパークラフト「筐体くん」を紹介しています。
「駄菓子屋筐体」「オレンジ筐体(青色もあります)」と呼ばれているこれらは、ミニアップライト筐体。アップライト筐体が立ってプレイするものだとしたら、ミニアップライト筐体はモニターが小さく、子供向けに作られた、座るほどではない背の低い筐体。外に置くこともあるので、画面の上を覆うひさしが付いており、画面は平面に近い斜めになっています。アメリカではキャバレー筐体と呼ばれることも。コンパクトにまとまっているのが最大の特徴で、小さいから何台も並べて置きやすい。
主なターゲット層が子供なので、10円とか20円のような破格の金額設定になっていることも多々。入っているゲームが微妙に古い場合も多々。そこがノスタルジック。
ハルオたちが行った駄菓子屋は、筐体に新作も入っていた様子。河童や芸者が戦う珍格ゲー「富士山バスター」が入っているのは、子供向けにしては通好みすぎる。
中学生の小春には、この駄菓子屋ゲーセンは疑似デートの邪魔に見えたかもしれない。ちょうどこれが、大野とハルオが行った「がしゃどくろ」のシーンとの対になっているようにも見えます(対比ポイントその3)。
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