「トランスフォーマー」を創る男たち―― 日本生まれの変形ロボットは、なぜ世界130カ国で愛される一大コンテンツとなったのか(3/3 ページ)
関節一個で労力が数倍に! 全力投球のトランスフォーマー設計
蓮井:まあ簡単に言ってるんですけど、腰をひねるようにするのはけっこう大変でした。1個関節が増えるとその分パーツの負担が増えるので。
―― やっぱり関節を増やすのは大変なんですか?
蓮井:全身の関節の中でも、特に足の接地は変形の構造をすごく限定するんです。変形しないのであれば、足はなにか四角いコの字のパーツがあればいいんですけど、そこに横向きのヒンジを設けるということはヒンジのスペースを確保した上で変形を考慮しなくちゃいけない。だから、いつもやっている変形ができなくなるんです。でも足を接地させることによって、ちゃんと銃を構えて撃っている表現、地に足をつけて戦っているという表現ができるようになる。シリーズのコンセプトとして外せない要素なので、今回は全部そういう構造にしています。
―― そもそも、トランスフォーマーの設計において、関節が増えることの負担ってどういうことなんでしょうか?
蓮井:コスト的な面が一番大きいですね。トランスフォーマーは、ユーザーにお届けするバリューを考慮し、変形を考える前にパーツ数や重量、サイズなど、全て枠組みを決めてから作るんです。全体の仕様の枠が設計の前に決まっているから、その中で2パーツ使うとかはけっこう大ダメージなんですよ。
―― え! 設計が決まってから仕様を固めてるものだと思ってました。
蓮井:そうじゃないんですよ……。だから、まずはビークルからロボットに変形させるのが一番の目的なんですけど、そこに可動というプラスアルファが乗ってくるとけっこう大変です。もちろん極力可動するのが一番いいんですが、以前はやってなかったことを今回はやるということになると、別のところを削らなくちゃいけない。
―― 関節がひとつ増えると、トレードオフする部分が出るということですね。
蓮井:まさにそうです。だからこのサイドスワイプも、本当は別の変形を考えていたけど、そうでないところに落ち着いたんです。感覚としては、仕様に従って何か要素を落としたというよりは、全てを考慮して導き出された答えがこれだったという方が正しいですね。
―― はあ〜……大変だ……。変形機構はどうやって考えるんですか?
蓮井:自分は3通りくらいの変形を考えて、枝葉が分かれていって……という感じです。分岐したけどゴールにたどり着かなかったパターンもある中で、ちゃんとゴールにたどり着いたものが採用される。途中でダメになるものもあれば、別の分岐と組み合わせることでうまくいくこともある。ある程度は脳内で考えて、途中から紙に書き出してますね。
―― そこはアナログなんですね。
蓮井:最初のうちは全部手書きです。ゴールが決まっていればPCでやりますけど、ゴールが決まってないのに3通りの設計を同時にPCで書くわけにはいかないんですよ。だから最初は走り書きで大枠の変形を決めて、だんだん細分化していく。最後の「ここだけはどうしても決まらない」っていうところをうまくパーツを使って収めたり。それが解決しないものはゴールにたどり着かないから、いいところまで行っても使わなかったプランもたくさんあります。
―― 実写映画の商品も同じプロセスで考えているんですか?
蓮井:あれも最初は手書きでやってます。
岡部:どの映画でもそうなんですけど、最初はビークルとロボット形態の簡単な画像しかないんですよ。
蓮井:こちらの方は上映される1年前には商品の設計を終わって、試作を作って金型を始めないといけないけど、映画は1年前には出来上がってないんですよね。コンセプトアートだけとか、シルエットしかないとか。顔を想像で作ったこともあります。だから劇中と全然違う顔になってるものもあるんですよね……。推測だったので。
―― た、大変だ……。
蓮井:同じロボットでも2つプランがあって、プロポーションが全然違うんだけどどっちが使われるか分からない。で、こっちだろうと作ったものが違ってて、なんでこんな映画本編と違うプロポーションになってるんだって言われたりします。でもそういうのも全部発売してますね(笑)。
岡部:そういう事情もあり、今年4月から展開中の、歴代の映画キャラを最新のデザインで発売する「スタジオシリーズ」がユーザーにとても受け入れられています。
蓮井:スタジオシリーズのいいところは、もう映画が出来上がった後だから3Dを見ながら作れるところですね。
―― そういう設計のノウハウってどうやって身につけるんですか?
蓮井:トランスフォーマーの変形の仕組みには伝統工芸的なところがあって、師匠の背中を見て学ぶというか、作品を見つつ、そこでどう変形させてるかとか、過去の商品を見ながら勉強しました。もともと自分は大学でバイオサイエンス的なことを勉強していたので、設計とは関係なかったんですよ。ロボットの絵が描けるわけでもなかったし。
―― バイオサイエンス! 確かにロボットのおもちゃとあんまり関係なさそう……。
蓮井:昔は変形のイメージができなかったので、自分がやりたい変形に近しいおもちゃを探してました。だから、1個変形ロボットを作るたびに3〜4個は手元におもちゃが増えていくんですよ(笑)。ここのこの可動は作りたいものと同じだとか、そういうのを見つけてきてそれをまねて紙に書き出して作ってみる。それを繰り返しているうちに、他のおもちゃを見なくても作れるようになりました。
―― 蓮井さん以外にも、設計を担当されている方がいらっしゃるんですよね?
蓮井:そうですね。うちのチームで特殊なところは、自分の書いた図面をチーム全員でレビューする点ですね。もう懺悔(ざんげ)というか、裁判みたいな感じです(笑)。「ここ弱すぎるだろ!」「絶対割れるだろ!」「こんなカカトじゃ立たねえよ!」とか、いろんなダメ出しを喰らいながら作るんです。だから自分の図面を持っていくのは恐怖ですよ……。それをパスできるものをどうやって作るかが勝負ですね。
―― うわ〜……怖いですねそれは。
蓮井:昔のトランスフォーマーって可動をそれほど必要としないおもちゃだったんですが、90年代に日本にも「スポーン」とかのフィギュアが入ってきて、アクションフィギュアというジャンルにも対応したものを求められるようになってきたんです。可動は可動、変形は変形で、両方の関節が入るとすごい数になる。ただ、今はどうシンプルにできるかという技術ができてきたので、一概に昔より変形が複雑になったというわけではないんです。担当者によっても嗜好が違うので、それによっても変わってきますね。
―― ほんと奥が深いですね、変形……。
で、「シージ」って今後どうなるんですか?
―― 今後、「シージ」ってどこかでストーリーを展開する予定はあるんですか?
岡部:今は公式サイトで、今後の展開を予想させるような数分の動画をあげています。ただ、ストーリー面で今後どのような展開をするのかはまだ言えませんが、今回は「トリロジー(三部作)」なので、今後の展開にぜひご期待ください。
―― あ、ほんとだ! ロゴにしっかりトリロジーって書いてありますね。
岡部:そうなんですよ。やっぱりどこかのタイミングでセイバートロン星からは脱出するはずなので、そういう展開もあるのかな〜ということで。
―― コグみたいなサポートメカは今後も出ますか?
岡部:今発表しているところだと、シックスガンなんかはそうですね。あと海外ではブラントっていう戦車のキャラクターもリリースの予定があって、国内でも発売の検討をしています。
蓮井:「シージ」をやるにあたって、トランスフォーマーには「バラバラになって他のキャラクターを強化する」っていう種族がいるんじゃないのかっていうのを考えたんですよ。それこそコグみたいな。
―― なるほど、コグやシックスガンはああいう種族ということなんですね。
蓮井:それを突き詰めて商品化してる感じですね。各装備は全部5ミリのジョイントでくっつけられるので、だから「シージ」にはブロック遊びみたいな要素もあるんですよ。だから、ぜひ自分だけの武器を作ってみてほしいですね。今までの商品にも取り付けられますし。それがキャラクターを強化して掘り下げるギミックにもなっている。
―― 今後シージというシリーズはどうなるんでしょうか?
蓮井:キャラクターの関係性を踏まえつつ、ロボットモードのスケールを統一しているので、どんどん集めるとより世界が広がっていくと思います。今はトリロジーの1年目ですが、2〜3年目を見据えて現在も設計を進めてます。タイタンクラスの巨大な商品もラインアップに入っていますよ。
岡部:先行してカセットロンの予約が始まっていたんですが、サウンドウェーブの情報も公開になりました。今後はディセプティコン側の主要キャラクターも揃ってくる感じですね。
蓮井:コグみたいな、いままでスポットが当たってなかったキャラも出していくので、「このキャラがこういう武装用キャラクターで出るのか」という点も含めて、今後も楽しめるシリーズになるのかなと思っています。ほんと、コグは長年やりたかったんですよ。レジェンズのフォートレスマキシマスを作ったあたりから、どうフォローアップをしていけるかを含めてアイデアは出し続けてたんで、やっと実を結んだなと(笑)。そういう点も含め、長く集められるシリーズになっていくといいなと思っています。
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子どもと作ると楽しそう。
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