秩父鉄道の「夜行急行」で夜明かし、その懐かしさにむせび泣く:月刊乗り鉄話題(2019年1月版)(2/4 ページ)
懐かしさが止まらないぞ
早速乗り込みました。僕は1号車。4人掛けボックスシートを独り占めです。進行方向側に座り、荷物を傍らに置き、靴を脱いで前の席に投げ出してくつろげます。上半身を倒して、L字の姿勢で寝たこともありました。ぜいたくですが、ローカル線の終点付近の寂しい気分もあったりします。
このツアーは4人掛け席を4人、2人、1人で利用するプランがあります。1号車と2号車がボックス1人占め参加者用で落ち着きます。3号車は2人で1ボックス。ここは親子連れや友達同士、ご夫婦か恋人同士か。いいなあ。彼女と夜汽車に乗るなんて、高校生の頃の僕には夢でしたよ。
4号車は1ボックス4人。混雑状態だけれど、発車前から宴会が始まって盛り上がっていました。いいなあ。混ざりたい。次回は友達を誘おう。
あの頃の夜行列車は騒ぐと怒られました。しかし今回は座席の夜行を楽しむ旅ですから問題なし。はじめから寝ようなんて人はいませんよね。思う存分楽しむがいいさ……。
ピーという汽笛が鳴り響き、ゴトっと音が聞こえました。列車がゆっくりと動き出します。静かです。電車のようなモーター音もなければ、SLの駆動音もありません。ただレールの響きが聞こえるだけ。そして……暑い。暖房が効き過ぎ。これはスタッフも予想外のようで、暖房機器を調整していました。
しかし、こういうこと、あの頃もあったんですよね。それならばどうするのかというと、窓に顔を近づける。窓ガラスからひんやりと冷気が降りてきます。これが気持ち良い。それでも暑いときは窓を開けます。ちょっとだけ。2センチくらい。古い客車は窓が開くんですよ。風を浴びたり、プラットホームで駅弁を買ったりしたんですよ。冬の冷たい風を顔に浴びて、しかし身体はポカポカで気持ちいい。頭寒足熱。温泉に入っているみたいだ。ああ、この感覚、あの頃の夜汽車の旅そのものです。もう懐かしくて泣きそうです。
車内放送「ただいまより減光いたします」。そうです。夜行急行は深夜に照明を暗くして、乗客の睡眠を推進してくれるのです。ただし当時は「スリに注意」という放送も付いてきました。「車内放送も翌朝までいたしません」はい。そうでしたね……。でも、今回は「記念品の販売スペースが混雑しておりますので、ワゴン販売で巡回します」なんていう臨時放送もご愛嬌(あいきょう)でした。
機関車付け替え、そして駅そば
車窓に街の灯が流れていきます。時節柄、クリスマスイルミネーションを飾る家も幾つか。見えてますよ。きれいですよ。この夜行列車が好評で、毎年のイベントとして定着したらイルミネーションを飾る家も増えるでしょうか。新しい秩父名物が誕生する予感がします。
夜行急行「三峰号」は秩父までノンストップ。しかし、途中の駅で何度か停車します。列車のすれ違いのためです。運転停車と呼ばれます。これもあの頃はよくありました。秩父鉄道の終電とすれ違って、次の運転停車で回送電車とすれ違いました。翌朝も始発電車とすれ違いました。実はこれは演出だそうです。終電の後に発車して、始発が出る前に戻る運行もできますが、すれ違いの景色を再現するために、わざと終電前に発車、始発の後に到着というダイヤにしたそうです。やるな、秩父鉄道……。
秩父駅で5分停車。プラットホームに出て夜風に当たれます。機関車の撮影をする人、留置線の電車を撮影する人、タバコを吸う人。そうか、今は車内が禁煙だから、タバコ休憩のための停車かも。そして三峰口駅に到着。折り返しまで28分。ここで機関車を前後に付け替えます。この作業は鉄道ファンにとってショータイム。深夜の機関車交換作業を見物、撮影。うはー、たーのしーい!!!!
三峰口から秩父へ戻りました。ここでまた機関車を入れ替えます。停車時間は50分。長時間停車の「バカ停」です。この用語はもともとドカ停という工場の用語だったらしい。かつて、長距離列車は郵便車や荷物車も連結しており、その積み卸し作業のために長時間停車しました。その雰囲気を再現。
そして、駅そばです。なんと秩父駅のプラットホームの片隅に立ち食いそば店を作っちゃった(!)。事前に車内でそば券を買った人が並びます。ゆで済みのそばを湯で温めて、わかめ、揚げ玉、山菜、ネギを乗せて。七味を振りかけてズズー、ズズスーっと。そうそう、あの頃はこういうそばだったなあ。コシのない昔ながらの立ち食いそばです。もちろんいい意味で! 飲めるそばというか。身体が温まる。温まるどころか汗だく。冷たい風の中で汗だく!! 風邪をひかないように、もう車内に入ろう。
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