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» 2019年01月18日 21時00分 公開

【特集】ネットと銭湯サウナ:バカと暇人はサウナから学べ

「銭湯サウナは多種多様な情報に触れることができる」――『ウェブはバカと暇人のもの』『ネットのバカ』の中川淳一郎さんによる銭湯サウナエッセイ。

[中川淳一郎,ねとらぼ]

 よくネットは多種多様な情報が存在する、と言われるがこれは真実ではあるがウソでもある。ウソと述べた真意は、昨今のレコメンド機能やSNSで繋がっている人が同業者や同様の思想を持つ人々に偏っていることから「実際にアクセスする情報は多種多様ではない」状態になるからだ。その点、銭湯サウナは多種多様な情報に触れることができる

 そのことについて触れる前に、なぜサウナ通いをするようになったのかを説明する。

 私自身は無類のビール好きかつ何があろうともデブになりたくない、という頑なな信念を持っている。それを達成するのに最適なのが銭湯サウナである。喉をカラカラにしてその後のビールをよりおいしくするほか、体重を減らす&代謝を良くする効果を獲得すべく、12分×4セットを最低のノルマとしているのである。12分を超えて入ることもある。それは、自分よりも前に入った者が12分を過ぎても出て行かない時である。私はここで「12分以上入っているのが明白な彼に負けては自分は堕落する」とばかりに、彼が出るまでは何としても外に出ないことを課していたのである。

 サウナとは娯楽であり健康の秘訣であり、修行というか精神鍛錬の場なのである。

 また、20代後半の頃は風呂なしアパートに住んでいた時期もあったほか、1960年代の「バランス釡」からぬるいお湯がちょろちょろと出てくるショボい家に住んでいたこともあり、銭湯に通い続けていた時期は長い。その時に選ぶ銭湯は少し遠くてもサウナ敷設の銭湯である。

 レジャーとして東京・蒲田や池上の銭湯に行くことも頻繁にあった。この両エリアは追加料金なしでサウナに入れる銭湯もあるのが実に優れている。あとは京都もサウナが無料であることが多く、毎度重宝している。私が長らく通っていた東京・代々木上原の「大黒湯」は追加料金はあるものの、実に快適な銭湯である。若主人が頻繁にサウナの汗吸収用のシートを代えに来てくれるほか、サウナのドアを開けたところにある冷水もキンキンの温度に保たれている。

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 大黒湯に限った話ではないものの、サウナに入ると、普段自分が接することのない多種多様な人々の会話を知ることができる。それこそネットでは意図的に見つけなくては見つけられないような話だし、新たな発見がある。いくつかサウナで得た会話を紹介する。なお、いずれも大黒湯ではないことを念押ししておく。

A:「ヒロシの野郎、あいつ、この前よぉ、前田のアホを半殺しにしちまってよぉ。前田の兄貴分みたいなヤツが今、ヒロシを狙って動いているらしいぜ」

B:「マジかよ、あいつしばらく前にオレに電話してきて10万円貸してくれと言ってたけど、高飛びのための資金が必要だったんか?」

C:「多分そうじゃねぇの。とにかく前田みたいなアブねぇヤツに絡んじゃいけねぇって何度言っていたか分からないのにアイツは何を考えてやがるんだ。えっ、ヒロシは高橋さんにも助けを求めているのか?」

B:「さぁ、知らねぇな……」

 一体登場人物が何者なのかは分からないのだが、この3人組の背中全体には全員立派な刺青が入っていた。また、こんな話も聞ける。

 「スッポンってもんはな、まずは首をかっ切るわけよ、そしてその血を溜めておくわけよ。飲むとアソコに効くが、そのまま飲むのは味的にキツいので、リンゴジュースと割るといい。色々試したがリンゴジュースが一番だな

 これはスッポン料理店の店長の会話を聞いていたものだ。ほかにも明らかな人種差別主義者による発言も聞くことができる。黒人男性がサウナに入ってきた時のことだ。普段は饒舌な彼が黙り込んでいる。黒人男性が外に出た時、突然彼は私に喋りかけてきた。

彼:「最近あのク●●●がいるんだよな。どうよ?」(※編集により伏せ字)

私:「銭湯なんて色々な人が来る場所でしょう。オレは何とも思いませんが」

彼:「いや、オレはどうもあいつの後に水風呂に入るのがイヤでさ。ああいった連中が増えるようだったらもうここには来ないで別のところに行こうかと思うんだ」

私:「でも、○○さん(彼のこと)はサウナ好きでしょ? ここ以外にこの辺にはサウナはないけどどうするんですか?」

彼:「実はよ、××ってスポーツジムあるじゃん。アソコさ、シニア割引があって、月会費がオレぐらいの年になるとむちゃくちゃ安いんだよ。アソコで運動はせず、デカいジャグジーに入ってからサウナ入るって算段よ、ガハハハ」

 いずれの会話も普段の私が知ることができるようなものではない。黒人差別をする人がまだいるなんて……。だからこそ、銭湯サウナでは周囲の会話を聞くようにするほか、相手から話かけられたら色々とその人の話を聞くようにしている。

 また、私自身の職業を聞かれ「ネットニュース編集者」と言ってもチンプンカンプンな話のようで、「『配信』って何だ?」「リンクバックって何?」と言われることもあった。この世というものは、自分にとっての常識が通用せず、ネットでも普段目にすることがない事柄だらけであることを銭湯サウナは教えてくれるのだ。

中川淳一郎

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中川淳一郎

 1973年生まれ。Web編集者、PRプランナー。1997年に博報堂に入社、2001年に退社した後、無職、フリーライターや『TVBros.』のフリー編集者、企業のPR業務下請け業などを経てWeb編集者に。『NEWSポストセブン』などをはじめ、さまざまなネットニュースサイトの編集に携わる。著書に『ウェブはバカと暇人のもの』(光文社新書)、『ネットのバカ』(新潮新書)など

Twitter: @unkotaberuno

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【告知】サウナイキタイのインタビューも収録 ねとらぼ同人誌「ねとらぼん 特集:ネットと銭湯サウナ」頒布のお知らせ

 ねとらぼでは1月19日に二子玉川ライズで開催される「第4回ウェブメディアびっくりセール」で、初の同人誌ねとらぼんを頒布します。

 テーマは「ネットと銭湯サウナ」。昨今人気に火がつき始めた銭湯とサウナ、そのブームの広がりにネットがどのように関わっているのか、コラムやエッセイ、インタビューなどさまざまな記事で見つめる一冊となっています。


エッセイ 銭湯 サウナ 中川淳一郎 ねとらぼん ネット ウェブ もくじ

 総括コラムはヨッピーさん、銭湯サウナをテーマにしたエッセイは中川淳一郎さん、姫野桂さん、ちぷたそさんなど、ねとらぼがお世話になってきたライターが寄稿。インタビューでは初のサウナポータルサイト「サウナイキタイ」の創始者2人に開設経緯と「ネットから断絶されたサウナ」「そのサウナ愛をまたネットがつなぐ」話を語ってもらいました(詳細記事)。

 64ページで1冊500円。ねとらぼのサイト上でも一部の記事をピックアップして連載形式で掲載中です。

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