全作完結済み! 「このマンガがすごい!」にランクインしなかったけどすごい!2019 (3/3 ページ)
第1位『僕らはみんな河合荘』(宮原るり)
今年の第1位には、宮原るり先生の『僕らはみんな河合荘』(全11巻/少年画報社)を選びました。
2010年に始まった「河合荘」は、アニメ化(14年)を経て、2018年に堂々の完結。この連載でも2013年の第2回で紹介した思い出深い作品でもあります。
ご存知の方も多いと思いますが、あらためてあらすじを簡単に紹介しておきます。
親の転勤のおかげで「河合荘」で一人暮らしをすることになった主人公の高校生・宇佐。しかもその下宿先には、憧れの先輩・律も同居しているという夢のようなシチュエーション。ひとつ屋根の下で片想いの相手と共同生活が送れると思いきや、個性的で残念な河合荘の住人たちが、2人の青い恋路に立ちはだかって……という内容のドタバタラブコメです。
宇佐の恋路に立ちはだかるのは、緊縛大好きなドMのニート・シロ、男運に恵まれない残念美人OL・麻弓、サークルクラッシャーの腹黒女子大生・彩花といった一癖も二癖もある河合荘の住人たち。大人げない彼らは、ピュアな2人にあの手この手でちょっかいをかけてきます。
その上、宇佐の片想いの相手・律は、小説以外に全く興味を示さない、恋愛などとは程遠い難しい性格の持ち主。初期条件「ハードモード」どころか「ナイトメア」に近い状態で、果たして宇佐は律の心を射止めることができるのか――。
連載当初は、ごくごくわずかしか2人の距離が縮まらず、このままではハッピーエンドなど無理ゲーの極致とも思えたものですが、今回あらためて第1巻から読み返してみるにつけ、「よくぞここまで……」と積み重ねた歳月の重みをしみじみと感じずにはいられません。
また、宇佐と律先輩の距離が縮まるにつれ、初々しい若者への嫉妬心が具現化し、そのルックスが妖怪を超えて、もはやクリーチャーと化しつつあった麻弓さんの行方には、残念眼鏡女子好きとして「これ以上彼女が堕ちていくのを見ていられない!」とハラハラしたものですが、それもまた予想外(いや、あるいは予想通り?)の形で浄化される結末に落ち着いて、本当に良かったです。本当に良かったです(大事なので2度言う)。宇佐と律だけでなく、残念な河合荘の大人たちまで、まとめて大団円へと導いた宮原先生の手腕は本当に素晴らしいの一言に尽きます。
ラブコメ漫画を読む動機の1つに「作中の恋愛風景に自己を投影する」という楽しみ方がありますが、本作の場合、読者が投影する対象は主人公の宇佐や律ではなく、実は河合荘の同居人たちだったのではないでしょうか。
本作は「端から見ていてむずがゆくなる若人の恋模様に、『下ネタ』という名のグングニルな横槍を入れて邪魔をしながら、それでいて心の奥底では成就することを願っている」という優しきひねくれ者のために作られたラブコメと言ってもよいでしょう。
男性にも女性にもぜひぜひ読んでみてほしい傑作です。
「このマンガがすごい!」にランクインしなかったけどすごい! 2019
- 【第1位】『僕らはみんな河合荘』(宮原るり)
- 【第2位】『恋の撮り方』(たなかのか)
- 【第3位】『みんなで辞めれば怖くない』(中憲人)
- 【第4位】『一変世界』(明治カナ子)
- 【第5位】『なつやすみの友』(雨野さやか)
というわけで、2018年完結の5作品をランキング形式で紹介しました。長文お付き合いありがとうございました。
マンガアプリや電子書籍の普及のおかげで、近ごろは本屋に行かずともマンガにアプローチできるようになり、作品に触れるハードルは随分下がりました。
しかしその一方で、書店員のようなプロの目利きを介さず、読めるものを手当たり次第に読むことが増えたため、それが本当に自分が楽しめる作品なのかどうかが分かりにくい弊害が生まれたようにも思います。その結果、既に定評ある作者の「手堅い」作品にばかり注目が集まりやすくなり、結果として「まだ見ぬ当たり」が掘り起こされにくくなったと言っていいかもしれません。
どんなマンガを好むかは人それぞれですが、今回挙げた5作品はできるだけ多くの人に興味を持ってもらえるようジャンルを分散させて選びました。あえて言えば、今回はハートウォーミングな作品を多めに選んでいます。きっと5作品のうちのどれかは、これを読まれた方にとって「まだ見ぬ当たり」になるだろうと確信しています。
連載100回を目指し、今年も「まだあまり知られていないけど面白いマンガ」を取り上げていきたいと思います。どうぞよろしくお願い申し上げます。
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本当は「そういう風に」なんてなってないのにね。
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