1話切りした人にこそ伝えたい 「東京独身男子」があたたかく描く“今を生きる男性の悩み”(2/2 ページ)
かずなが薫に話を聞きに行ったおかげで、ずっと関係を修復しようとトライし続けていたことを知った三好。「たぶん、別れたくなかったんだよ。でも、離れるしかなかったんだと思う」というかずなの言葉に、三好はようやく自分の行動を振り返る。
三好「俺はずっと、目の前の『これだ』ってことにガッて飛びついて、夢中で走って走って走り抜けて、それが自分らしさだって思ってた。ずっと側にいてくれた君のほうを、見ることも気にすることもなかった。幸せにできなくて、ごめん。家族になれなくて、ごめん」
三好は、結婚しても変われなかった男だった。そして、お互いを幸せにすることができずに失敗してしまった。
一般的には、三好の失敗談を礎にして「やっぱり結婚するなら、変わらないとね。お互いに歩み寄らないとね」というような結論を出すだろう。しかし、本作のメッセージはそうではない。今度は、岩倉と透子に 「変わらないまま、2人で幸せになること」にチャレンジさせようとしているのだ。
さらに、岩倉は言う。
岩倉「君は変わらなくていい。変えようとも思わない。だが、一緒に暮らさないか、君と俺と親父、3人で」
2人で幸せになるだけでなく、三好が達成できなかった「家族になること」にも挑もうとしている。「え、3人……?」と返すしかなかった透子。今まで余裕の表情ばかりだった透子の素の感情が、初めて表れていた。
四十にして惑わない滝藤賢一の成熟
太郎が38歳、三好が37歳、岩倉が45歳。3人集まってワイワイしているときにはあまり感じなかったこの年齢差による違いが、徐々に表れてきている。
透子の「え、3人……?」という驚き顔を見てほほえむ岩倉を見て、「四十にして惑わず」という言葉が頭をよぎった。その前にあった、太郎と岩倉がお互いに体当たりしながらキャッキャと夜道を歩いていたシーン。「走る?」「走るか?」と学生のようなはしゃぎようの2人のあとに、「変わらない」女と家族になるという難しい道を歩む決意をした岩倉の笑顔。未熟と成熟のコントラストだ。
成熟した大人・岩倉と透子がいるのは、夜ではなく朝だった。まだ人生に迷っている太郎と三好がいるのが夜明け前。人生においてひとつ大きな決断をしようとしている岩倉は明るい空の下にいる。夜の街で女性の間をジタバタと行ったり来たりしていたAK男子たちがまっすぐに生きられるとき。それは、自分で惑いを取り払い、決断したときなのかもしれない。
本作のこうした場面や小道具の使い方には、毎回感心してしまう。岩倉の惑いが消えたことを人生における「朝」として通勤シーンで自然に表現していることもそう。そして、三好の「元気問題(男性更年期障害)」が、歯科診察台の蛇口から漏れそうで漏れない水滴や、薫がくれた硬くて太く天に向かって立つ水晶で表されていることもそうだ。
他人の気持ちがわからない問題、男性の元気問題、親の介護問題などなど。AK男子たちが抱えている問題は、どれも真面目なひとつのドラマになってしまいそうなくらい深い。それをコメディで描いているので、深刻になりすぎず、ハッと気づきをもらうこともできる。「こういう男いるいる!」と「こんな奴いねーよ!」のはざまでデフォルメされたAK男子だからこそ、笑ってしまうくらいわかりやすい比喩表現が生きている。
第1話での、AK男子たちのやりたい放題、言いたい放題っぷりに拒否反応が出て、残念ながら見るのをやめてしまったという声も聞く。でも、こうした制作陣の隙のない仕事ぶりには、今を生きる男性たちへのあたたかい視線を感じる。男性が惑わざるを得ない時代に本作を生む優しさを、この時代だからこそ感じてほしいと思う。
これまでの「東京独身男子」振り返り
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「結婚とは何か?」の基本に立ち返る。
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