「本田圭佑のやったことは、2500年前にもピタゴラスがやってた」説 「お金払ってサッカー教えます」が実は合理的な理由

「教わる人にお金をあげる」は実は理にかなっている?

» 2019年07月02日 12時30分 公開
[キグロねとらぼ]

 2019年5月29日、元サッカー日本代表の本田圭佑さんが「僕が10000円払うので、僕にサッカーを教わりたい人っていますか?」とツイートして話題になりました。5日後の6月3日、本田圭佑さんは「教える人を選ばせてもらいました」と報告。そして、同様の企画を今後も続けていくと宣言しました。

 この企画の注目ポイントは、言うまでもなく、教える側の本田圭佑さんがお金を支払う点ですよね。普通なら生徒側がお金を払って教えをこうのに、教師側がお金を払ってワールドカップを目指してもらうのです。斬新な企画です。前代未聞の企画です。今まで、こんなことを考えた人がいたのでしょうか。

 いました。それも2500年も昔に。

 その人の名は、サモスのピタゴラス。そう、皆さんご存じ、中学の教科書に出てくる「ピタゴラスの定理」の人です。



ライター:キグロ

5分間で数学を語るイベント「日曜数学会」や数学好きが集まる部室みたいなもの「数学デー」の主催者。数学の記事を書いたり、カクヨムで小説を書いたりしている。


どうしてピタゴラスは、本田圭佑さんの“お金を払って教える”と同じことをしたのか

 数学史に名を残す彼ですが、ただの数学者ではありませんでした。数学者にして哲学者、政治活動家にして宗教家。彗星の尾のような長く美しい髪をしていたと言われ、多くの人から慕われる人物でした。その慕われっぷりは、彼を中心とした「ピタゴラス教団」なる団体ができるほどでした。

 ピタゴラス教団は現代でも有名なので、知っている方も多いでしょう。いわく、数を信仰する宗教団体であったと。確かにそのような一面もありましたが、実はその他にも、政治団体や哲学者集団といった一面もありました。そして彼らは学問、特に数学の研究を行っていました。これは、ピタゴラス自身が知を愛しており、彼を慕う教団員もまたそうだったからです。

 さて、そんな多くの人に慕われていたピタゴラスも、最初から慕われていたわけではありませんでした。

 彼が弟子を集め、教団を作り始めたのは、彼が56歳のとき。エジプトやギリシャなどを巡り、天文、幾何、代数、音楽、その他さまざまな学問を究め、故郷のサモスに戻ってきた後、布教活動を始めたのです。

 ピタゴラスが広めようとしたのは学問でした。自分が学んだ全てをサモスの人々に分かち与えようとしたのです。しかし、今も昔も、学問が好きな人は少数派です。人々は、ピタゴラスの言葉に耳を貸しませんでした。

 ですが、ここはピタゴラスの故郷。彼はなんとかして、祖国に学問を広めようと画策しました。そこでひらめいたのが、本田圭佑さんもやっていた「お金をあげるから教えさせてくれ」作戦なのです。

 ある日のこと。ピタゴラスはサモスの体育場である若者を見つけます。体格に優れ、ボールを巧みに操る若者でした。そして何より、とても貧乏な若者でした。そこでピタゴラスはこの若者を呼び寄せ、こう提案をしました。

 「これから君に、体育に必要な食費と世話を十分に、継続的に与えよう。ただし条件がある。私の知る代数と幾何を、少しずつでよいから、持続的に教わり続けることだ」。

 若者は承諾しました。代数と幾何に興味はなくとも、聞くだけでお金がもらえるならば断る理由はありません。ピタゴラスは彼に毎日少しずつ、図形の性質を教えました。そして1つの図形を教えるごとに、3オロボスを与え続けました。

 するとどうでしょう。初めはお金目当てだった若者が、少しずつ学問への興味を抱き始めたのです! 教え方がうまかったのか、はたまた学問の持つ魅力のためかは分かりませんが、こうしてピタゴラスは祖国で1人の弟子を手に入れたのです。

“教える側がお金を払う”はなぜ合理的なのか

 ……と、ここで終わらないのが、ピタゴラスの真に賢いところです。若者が学問に興味を持ち、楽しんで授業を受けるようになった頃、彼はこう切り出しました。

 「今まで君に、1つの図形ごとに3オロボス払っていたが、実は私も貧乏で、もうお金が払えなくなってしまったんだ。だから、授業は今日でおしまいだ」。

 若者は「いえ、たとえ3オロボスなしでも、先生から諸学科の教えを受けられます」と答えました。それに対し、「しかし私自身、自分が生活するためのお金すらないのだ。だから本来なら、生活費を稼ぐために働かねばならない。一銭にもならない授業を続けることはできないのだ」とピタゴラス。

 こうまで言われては、無償でもいいから続けてくれとは返せません。しかし、どうしても学問を続けたかった若者はついにこう言いました。

 「それなら、今後は僕が先生にお金を支払います。つまり、1つの図形ごとに3オロボスを、僕が払いましょう」。

 そもそも学問というものは、一度話を聞いたくらいで面白さが分かるものではありません。ピタゴラスが若者にしたように、長い時間をかけてじっくりと説明して、ようやく面白さが分かってくるものなのです。ですから、彼の「最初は教える側がお金を払って、学ぶ動機づけをする」という作戦は、理にかなっていたのではないでしょうか。

 ちなみに、このピタゴラスの最初の弟子はボールを操るのが上手だったとか。ピタゴラスは魂の転生を信じていたそうですが、もしもこの弟子が現代に転生したら、サッカー選手になっているかもしれません。そして、師が自分にしたのと同じ方法で、弟子を得ようとしたり……なんてね。



※実際に教わった高橋さんは、もらった1万円を「使わず飾る」と話していたとか。すでに「お金はいらないから教えてほしい」という状態になっていたわけで、“大成功だけど、作戦はある意味、不発”といったところでしょうか

主要参考文献

  • イアンブリコス『ピュタゴラス伝』佐藤義尚/訳(国文社、2000)

キグロ

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.

昨日の総合アクセスTOP10
  1. /nl/articles/2404/25/news016.jpg 「電車の中で見ちゃダメ」「笑ったww」 実家からLINE「子ヤギがすばしっこくて捕まらない」→送られてきた衝撃姿が320万表示!
  2. /nl/articles/2404/23/news090.jpg 誰も教えてくれなかった“裁縫の裏ワザ”が目からウロコ 200万再生のライフハックに「画期的」と称賛【海外】
  3. /nl/articles/2404/21/news011.jpg 小1娘、ペンギンの卵を楽しみに育ててみたら…… 期待を裏切る生き物の爆誕に「声出して笑ってしまったw」「反応がめちゃくちゃ可愛い」
  4. /nl/articles/2404/25/news043.jpg 娘の給食の献立表を見たら…… 正体不明の“謎の料理名”が「これはわからんw」と話題に その意外な正体に納得!
  5. /nl/articles/2404/25/news129.jpg プロ野球チップスでまた“不良品”流出 伊藤大海「176m」表記に続き…… カルビー謝罪「深くお詫び」
  6. /nl/articles/2404/24/news018.jpg 1年半ケージに引きこもっていたシャーシャー猫が、ある夜布団に入ってきて…… 感涙の行動に「まるで別猫」「こんな日が来るなんて」
  7. /nl/articles/2404/24/news017.jpg メルカリで300円の紙モノセットを買ってみたら…… 出品者のあたたかな心遣いに「利益は考えていないんでしょうね」「見ててわくわくします」
  8. /nl/articles/2404/23/news185.jpg 子どもに高級キーボードのパーツを捨てられた → 公式の“先読みしすぎた対応”が話題「そういうこともあろうかと」
  9. /nl/articles/2401/18/news015.jpg 巨大深海魚のぶっとい毒針に刺され5時間後、体がとんでもないことに…… 衝撃の経過報告に「死なないで」
  10. /nl/articles/2404/22/news124.jpg ダイソー「マルチ万能ほうき」が家事ラクの救世主 名前負け知らずの便利さに「これやばっ!!」「220円に驚き」の声
先週の総合アクセスTOP10
  1. 小1娘、ペンギンの卵を楽しみに育ててみたら…… 期待を裏切る生き物の爆誕に「声出して笑ってしまったw」「反応がめちゃくちゃ可愛い」
  2. 富山県警のX投稿に登場の女性白バイ隊員に過去一注目集まる「可愛い過ぎて、取締り情報が入ってこない」
  3. 2カ月赤ちゃん、おばあちゃんに少々強引な寝かしつけをされると…… コントのようなオチに「爆笑!」「可愛すぎて無事昇天」
  4. 異世界転生したローソン出現 ラスボスに挑む前のショップみたいで「合成かと思った」「日本にあるんだ」
  5. 【今日の計算】「8+9÷3−5」を計算せよ
  6. 21歳の無名アイドル、ビジュアル拡散で「あの頃の橋本環奈すぎる」とSNS騒然 「実物の方が可愛い」「見つかっちゃったなー」の声も
  7. 1歳赤ちゃん、寝る時間に現れないと思ったら…… 思わぬお仲間連れとご紹介が「めっちゃくちゃ可愛い」と220万再生
  8. 業務スーパーで買ったアサリに豆乳を与えて育てたら…… 数日後の摩訶不思議な変化に「面白い」「ちゃんと豆乳を食べてた?」
  9. 祖母から継いだ築80年の古家で「謎の箱」を発見→開けてみると…… 驚きの中身に「うわー!スゴッ」「かなり高価だと思いますよ!」
  10. 「ゆるキャン△」のイメージビジュアルそのまま? 工事の看板イラストが登場キャラにしか見えない 工事担当者「狙いました」
先月の総合アクセスTOP10
  1. フワちゃん、弟の結婚式で卑劣な行為に「席次見て名前覚えたからな」 めでたい場でのひんしゅく行為に「プライベート守ろうよ!」の声
  2. 親が「絶対たぬき」「賭けてもいい」と言い張る動物を、保護して育ててみた結果…… 驚愕の正体が230万表示「こんなん噴くわ!」
  3. 水道検針員から直筆の手紙、驚き確認すると…… メーターボックスで起きた珍事が300万再生「これはびっくり」「生命の逞しさ」
  4. フワちゃん、収録中に見えてはいけない“部位”が映る まさかの露出に「拡大しちゃったじゃん」「またか」の声
  5. スーパーで売れ残っていた半額のカニを水槽に入れてみたら…… 220万再生された涙の結末に「切なくなった」「凄く感動」
  6. 桐朋高等学校、78期卒業生の答辞に賛辞やまず 「只者ではない」「感動のあまり泣いて10回読み直した」
  7. 「これは悲劇」 ヤマザキ“春のパンまつり”シールを集めていたはずなのに…… 途中で気づいたまさかの現実
  8. 「ふざけんな」 宿泊施設に「キャンセル料金を払わなくする方法」が物議 宿泊施設「大目に見てきたが厳格化する」
  9. がん闘病中の見栄晴、20回以上の放射線治療を受け変化が…… 「痛がゆくなって来ました」
  10. 食べ終わったパイナップルの葉を土に植えたら…… 3年半後、目を疑う結果に「もう、ただただ感動です」「ちょっと泣きそう」