「2ちゃんねる」誕生から20年 名無しさんたちに聞いた“昔ながらの匿名掲示板”の魅力と今なお存続する理由:連載「わが青春のインターネット」
SNS全盛の時代に、なぜ巨大掲示板群は生き残っているのでしょうか。
ある程度の年代の人なら、かつて巨大掲示板群「2ちゃんねる」が、かなり“あやしい”存在だったことを覚えているでしょう。独特なネットスラングが飛び交い、リンク先はブラクラ、書き込んでいるのは匿名のユーザーばかり。「殺伐」「アングラ」などと形容されていました。
しかし、当時の“名無しさん”たちに取材したところ、返ってきたのは「自分に友達が少なかった理由を教えてくれた場所だった」「いろいろなことに長けた人たちが集まった『サーカス』に見えた」「『個』が求められない心地よさがあった」。一般に根付いているイメージとは大きく異なるものでした。
令和元年を迎えた2019年は、2ちゃんねる誕生20周年の年。Twitter、InstagramといったSNSが台頭した今でも使われ続けている“匿名掲示板の魅力”とは何なのでしょうか。
※“分裂騒動”により、2ちゃんねる関連サイトの名称はややこしくなっています。本記事ではかつての「2ch.net」を「2ちゃんねる」、そこから発生した「5ch.net」を「5ちゃんねる」、「2ch.sc」を「2ちゃんねる(sc)」と表記します
「ハッキング」から「今晩のおかず」まで
話を伺った名無しさん3人(女性2人、男性1人)が、初めて書き込みをしたのはいずれも2004年前後。“2ちゃんねるの第一印象”について聞いたところ、その答えは三者三様でした。
「『私ブスだから』という女子同士のよくある会話に『写真出せ』『ブスは来るな』と言っている人がいて、リアルでは考えられないヒドい世界にドン引きした」
「いろいろなことに長けている人たちの集まり。『サーカス』『びっくり人間大集合』のようなイメージ」
「あまり覚えていませんが、sage進行(※)とかの独自ルールに困惑した覚えがある」
※sage進行:スレッドの表示順位が上がらない投稿の仕方を推奨すること
「『ハッキング』から『今晩のおかず』まで」というキャッチコピーの通り、この巨大掲示板群はいくつもの「板」、その中に膨大な「スレッド」を抱えています。有益な情報が得られるところもあれば、誹謗中傷の温床になっているところもあり、笑える投稿が集まるスレもあるという、極度に雑多な空間。
どの板を利用していたのか尋ねてみても、ある人は「生活の変化に合わせて化粧→メンタルヘルス→株式と変わっていた」、またある人は「10年以上、男性向けゲーム、漫画を見ている」とバラバラ。同じ2ちゃんねるでも見る場所や見方が違えば、抱く印象が大きく変わってしまうのは当然のことでしょう。

名無しさんと関わるということ
それでも、あえて“2ちゃんねるらしさ”を考えるなら、まず挙がるのは「匿名性の高さ」。正体不明の誰かと関わるなかで生まれる出来事もまた、一口に説明できるものではなかったようです。
「気になる人ができて美容系スレを見ていたら、整形相談で『(手術するお金がないから)自分でエラを削りたいけどどうしたらいい?』『自分で脂肪溶解注射を打ちたい。注射器はどこで買える?』みたいなヤバい質問に即座に真面目なレスがついていて、2ちゃんの深さを思い知った」
「ノリでクソスレ立てたり(まとめサイトに取り上げられた)、ネタ投稿したりして遊んでたんですが、あるとき、VIPの年代スレで馴れあってみたら『漏れ女きめえ』(※)って言われて、ショックで半年ROMってました(※)」
「自分では知りえないようなゲームやマンガの情報が書き込まれていて、『こんなに詳しい人たち、実際には会えないんだろうな』と思ってました」
※漏れ:「俺」を意味する、いわゆる「2ちゃんねる用語」。女性が用いることもあったといいます
※ROM:ROMは「Read Only Member(書き込みはせず、読むだけの人)」のこと。動詞化すると「ROMる」
リアルの対人関係では起こりそうにないことも、2ちゃんねるでは起こりえます。取材時にはショックな出来事を聞くことも多かったのですが、それがある種の荒療治として、人間的な成長につながることもあったようです。
「上京して友達ができなくて、とにかく暇で2ちゃんを見ていたころ、一度メチャクチャたたかれたことがあって(笑)。『スレの雰囲気に合わない発言してるぞ。空気読め』みたいなことだったんですけど、リアルではそういうことを怒られたことがなくて。
自分のコミュニケーションのまずさに気付いて、友達が少なかった理由が初めて理解できたような気がしました。20年以上生きてきて面と向かって言われなかったことを、指摘されたのは大きかったです」
また、現実世界では難しいこのような匿名性は、「TwitterやInstagramといったSNSと、2ちゃんねるの違い」という観点でもキーになるようです。ここについては、取材対象3人の意見が比較的似ている印象を受けました。
「SNSは自分自身を発信する場所、2ちゃんねるは共通のテーマを発信する場所だと思います。興味のベクトルが自分なのか、話題なのかという差」
「SNSは現実世界に近くて、社交辞令もモラルも建前もある。だから、モラルに反する投稿は全力で炎上するし、多少空気を読まない発言をしても、リアルな世界同様うやむやになってしまう。『建前無用で好きなことが書ける』という点では、2ちゃんの方が面白かった」
「2ちゃんでもコテハン(※)やスレ主(※)は目立ちますけど、基本的には『個』が求められない場所だと思います。匿名で使えたり、掲示板特有の口調で話すと自分ではないみたいに振る舞えたり。反対にSNSでは『個』が求められるので、ある意味、逆かなあ」
※コテハン:固定ハンドルネームの略称
※スレ主:スレッドを立てた人のこと
“昔ながらの匿名掲示板”が生き残っているワケ
誕生から20年が過ぎ、2ちゃんねるに始まる掲示板群の存在感は以前ほど強くありません。次から次へと新サービスが現れるインターネットの変化の速さを考えれば、これだけの期間、生き残っているだけでも驚くべきことでしょう。“昔ながらの匿名掲示板”はなぜ今なお存続しているのか、取材対象の1人はこう話してくれました。
「私は現在、ボランティアとして5ちゃんねるの運営に関わっています。全体を把握しているわけではないのですが、私の分かる範囲だけでもボランティアスタッフは30人くらいいます。あれだけ『板』があるとけっこうな管理維持費がかかるでしょうから、人件費に予算を割くのが厳しいのかもしれません。
5ちゃんねるを閉鎖させようとする人もいるんですけど、それでも維持できているのは皆の善意というか。運営側に金もうけのためではなく、『楽しむ場所を作りたい』という気持ちがあるから存続しているのだと思います」
強い愛情を感じさせる説明ですが、その一方で「同掲示板群がいつまで続くか」という話題になると、彼は俯瞰(ふかん)的な態度を見せました。
「掲示板で新しいタイプのスレが現れたら、その影で古いスレが消えていく。新しいカテゴリーが現れれば、古いカテゴリーが消えていく。諸行無常というか、新しいものが定着すれば、古いものは廃れていくものだと思います。
インターネット全体でもこういったサイクルは起こるので、2ちゃんねるから始まった掲示板群もいつかは廃れるんでしょうね」
2ちゃんねるを揶揄(やゆ)した表現に「便所の落書き」というものがあります。書き込み内容のヒドさなどが由来とされていますが、トイレで他人との交流を楽しんだり、情報交換したりする人はまず考えられませんから、あくまでも匿名掲示板の特徴を“部分的に捉えた”表現でしょう。
2ちゃんねるをあえて比喩するならば「居酒屋などに置かれている、来店者が自由に書いていいノート」の方が実態に近いのではないか、というのが筆者の印象です。居酒屋のノートは不特定多数が開けますが、関わり方は人それぞれ。読むだけの人もいれば、熱心に書き込む人もいます。良いことを書く人もいれば、酔い方が悪いのか、そもそも性格が悪いのか、ヘンなことを書く人もいます。
ですが、ある日、店主が「長年ノートを置いてきたが、もう撤去しよう。今はSNSが流行っているのだから、書きたいことがあるならそっちを使ってくれ。似たようなことができるだろう」と言い出したら、利用者たちはどう感じるでしょうか。
FacebookにはFacebookの雰囲気が、TwitterにはTwitterの雰囲気があるように、今回取材に応じてくれた名無しさんたちは、SNSとは違う匿名掲示板の雰囲気、そこだから書き込めることを肌で理解しているようでした。
もしも、その“昔ながらの匿名掲示板”がなくなってしまったら―― ちょっと大げさかもしれませんが、「ネット上の居場所」「表現したいことを表現する自由」を喪失したような感覚を覚える人が、少なからず現れるのではないでしょうか。
連載「わが青春のインターネット」
この記事は、ねとらぼとYahoo!ニュースの共同企画による連載記事です。平成時代とともにに生まれ、育ってきたインターネット。これまで約30年、さまざまなWebサービスや出来事、有名人が生まれては消えていきました。かつて一世を風靡した「あのサービス」を振り返り、同時に今のネットの問題点を考えることでWebの栄枯盛衰や怖さを伝えつつ、失われることのないネットの楽しさの本質に迫っていきます。そして、令和時代のインターネットの将来について考えていきます。
関連記事
Cloudflare、画像掲示板8chanへのサービス提供を打ち切り 銃乱射事件を受けて
Cloudflare「彼らは自身が無法であることを証明しており、その無法により何度も悲劇が起きている」原動力になったのは“2ちゃんねる”――7年前、VIPでスレを立てていた「我流ラテアート職人」の今
「VIPから来ました」というお客さん大歓迎だそうです。ねとらぼの中の人インタビュー:「感動ポルノ」だけじゃなく、「炎上ポルノ」もあるよね―― ねとらぼ編集部員に聞く「お前の原体験はなんだ」 〜たろちん編〜
編集部の中の人にいろんなことを聞く連載。第1回はゲーム実況のパイオニアである「たろちん」さん。【就活】不採用通知はいつから「お祈りメール」と呼ばれるようになったのか
「ますますのご活躍をお祈りいたします」。怖い本を一瞬でハッピーエンドにする“最強のしおり”が誕生 「寺生まれのTさん」が全て解決
寺生まれのTさんって本当にすごい。筆者はあらためてそう思った。「ゆっくりしていってね!!!」の声はどうやって生まれたのか 開発者が語る“起業エンジニアの生存戦略”
いわゆる「ゆっくりボイス」のエンジン開発者に取材しました。NHK「平成ネット史(仮)」、1月12日に再放送へ 渋谷ヒカリエでのイベント開催も決定
見逃した人もぜひ!NHK Eテレ正月特番「平成ネット史(仮)」詳細決定 伝説のテキストサイト「侍魂」管理人インタビューも
Win95・テレホ・2ch・ニコ動・ミク・iモードと、約30年を2夜かけて振り返ります。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
夫に「ゴミ買ったの?」と言われたハギレを並べて縫っていくと…… とんでもない完成品に「ワクワクしかない」「かわいすぎる!」
【べらぼう】“最後”のシーンに「最終回かと」「神回」 27歳俳優が「あんなに演技上手かったんだ……」と話題
新山千春の娘・もあ、高校卒業後は海外へ「ダンサーの夢に向かって」 高校最後の弁当も公開
「恩師ビックリするやろなぁ」 中学3年で付き合い始めた“同級生カップル”が10年後…… まさかの現在に反響
ダイソーのセルフレジが「身に覚えのない商品」を認識→“まさかの正体”に大仰天 「そんなことあるんですね」
グッズを高額転売された人気VTuber→「強すぎる」まさかの対処法が「天才か?」「めっちゃいい案」と560万表示
「お前はーーーッ!!」 マクドナルド、謎のキャラクターを“ドアップ”でネタバラシ→分かる人には分かる“顔”に「おかえりなさい!」
『ちいかわ』にミスド登場!? エンゼルクリーム売上好調か 「かなり売れてた」「みんな買っている」
【べらぼう】“問題のシーン”、「子供に見せられない」 身体張った27歳俳優へ「演技やばくない?」
ウサギの帽子をかぶった赤ちゃんが5年後…… 同じ帽子で撮影した“現在の姿”に反響「成長って凄いですね!」
- 【べらぼう】“問題のシーン”、「子供に見せられない」 身体張った27歳俳優へ「演技やばくない?」
- 40代女性、デートに行くため“本気でメイク”したら…… 別人級の仕上がりに「すごいな」「めっちゃ乙女感出てる」
- 30年以上前の製品がかっこいい ソニーの小型ラジオのデザインが「すごい好き」「いまでも通用しそう」
- 幼くてかわいらしい兄妹が4年後…… 同じポーズで撮影した“現在の姿”に「これはあかん」「よすぎて声出ました」
- 「早く買えば良かった」 無印の1490円“本格せいろ”が690万表示の反響 「ほぼ毎日使ってる」「まっっじでいい」と感動の声
- ごはん炊き忘れた父「いいこと閃いた!」→完成した弁当に爆笑「アンタすげぇよ!」 息子「意味ねぇことすんなよ」
- 使わなくなった折りたたみ傘→切って縫うだけで…… 驚きのアイテムに変身「こうすればよかったのか!」「見事」【海外】
- 高3女子「進学を機にイメチェンしたい」→美容師に依頼すると…… 仕上がりが「すげえええ」「鳥肌立ちました」と1000万再生
- とんでもない量の糸をくれた先輩→ママがお返しに作ったのは…… 完成した“かわいいアイテム”に「絶対喜ばれるやつ!」
- 「洗濯機が壊れた!」→修理を頼む前によくよく調べてみると…… 「えぇ〜」“まさかの原因”が200万表示「何度もやりました」
- 最初に軽く結ぶだけで…… 2000万再生された“マフラーの巻き方”に反響「これは使える」「素晴らしいアイデア」【海外】
- コメダ珈琲店で朝、ミックスサンドとコーヒーを頼んだら…… “とんでもない事態”に爆笑「恐るべし」「コントみたい」
- パパに抱っこされる娘、13年後の成人式に同じ場所とポーズで再現したら…… 「お父さん若返った?笑」「時止まってる」2人の姿に驚き
- 和菓子屋で、バイトの子に難題“はさみ菊”を切らせてみたら……「将来有望」と大反響 その後どうなった?現在を聞いた
- 古いバスタオルをザクザク切って縫い付けると…… 目からウロコの再利用に「すてきなアイデア」【海外】
- 「14歳でレコ大受賞」 人気アイドルがセクシー女優に転身した理由明かす 家族、メンバー、ファンの“意外な反応”
- 希少性ガンで闘病中だったアイドル、死去 「言葉も発せないほどの痛み」母親が闘病生活を明かす
- “きれいな少年”が大人になったら→「なんでそうなったw」姿に驚がく 「イケメンの無駄遣い」「どっちも好きです!笑」
- ドブで捕獲したザリガニを“清らかな天然水”で2週間育てたら…… 「こりゃすごい」興味深い結末が195万再生「初めて見た」
- 芸能界引退した「ショムニ」主演の江角マキコ、58歳の近影にネット衝撃「エグすぎた」 突然顔出しした娘とのやりとりも話題に