君がいた夏は近所のゲーセンの中「ハイスコアガール」13話 「またな」が言えなかった、夏(1/2 ページ)
大野晶は、外に向かって羽ばたけない。
ゲーセンで燃やした青春があった。ゲーセンで育った恋があった。格ゲーが盛り上がっていた90年代を舞台に、少年少女の成長を描くジュブナイル「ハイスコアガール」(原作/アニメ)。2期がスタート! ゲームを愛した2人の少女と1人の少年の、エモーショナルな恋の物語。
既にOVAとして発売、配信されているTV初放送の13話は、前作の12話から直接続いていることもあって、めちゃくちゃ重い空気からスタート。おそらく2期は、無邪気に喜びきれない、登場人物たちみなが悩み続けるヘビーな展開になりそうです。ゲームの主人公が苦しみながら戦うのと同じ。極めろ道、悟れよ我。
ハルオ、大野、小春……簡単なおさらい
OVAとアニメ2期はコミックス5巻からの内容。今まではそれぞれ「一緒に遊ぶの悪くない」レベルのやり取りだったのが、高校生にになって「好き」という気持ちと向き合わざるを得なくなってきました。
まず大野晶。彼女は厳しいしつけの元育てられているお嬢様。息抜きとしてゲームの世界に惚れ込み、没頭していました。そこで出会ったのが小学生時代のハルオ。自然体で自分に寄り添い、日々の苦しみから抜け出すよう導いてくれた。彼女はハルオに特別な視線を向けるようになるものの、自分の環境の問題で、自分がどう感じているか伝えないまま。
今回あまり出てきませんが、日高小春はハルオに気づいたら惹かれてしまい、自分の止められない恋の炎に苦しんでいる少女。中学校で出会ってから、アプローチを開始。高校に入ってからは自分を奮い立たせて、ハルオに近づこうとグイグイ押していきます。ハルオがゲームが好きだから、自分も横に並びたいと一生懸命勉強してゲームをはじめる、健気な子です。
矢口春雄(ハルオ)自身は視線がゲームにしか向いていないので、2人の気持ちをほとんどわかっていません。まったくもってニブ過ぎるんだけど、その分生き方はまっすぐで裏表がない。もっとも周囲から見たら、「小春はハルオが好き」「ハルオは大野が好きかも」というのはバレバレ。
付かず離れずの甘酸っぱい関係が描かれていた今までの流れは、アニメ12話の小春の告白によって一転します。ここにいるのは男と女。以降は、ゲームを通じて恋をぶつけあう真剣バトルです。
大野、はしゃぐ
13話は大野とハルオが夏祭りに行く話。大野はお祭りを大満喫中。両手に持って食べる欲張りわがままっ子感。かき氷も食べるよ。射的では「FF6」を撃ち落とした上に、ネオジオ本体まで狙うよ。めちゃくちゃはしゃいでます。
大野はハルオと遊んでいる時、心の底から楽しそうにしています。彼女は幼い頃から娯楽を奪われ続けていました。だからこそ混沌と真剣勝負とワクワクのあふれたゲームセンターにこっそり入り浸っています。でも1人の時、ゲーム自体は楽しんでいるものの、人に心は開きません。それをこじ開けてきたのは、幼い頃のハルオでした。彼はただ単に「俺より強い奴を倒したい」とわがまましていただけですが、大野からしてみたらそこまで食らいついてくる、心をさらけ出して本音でぶつかってくる人は初めて。次第に彼は、牢獄に閉じ込められた自分の元に差し込む光のような、救いの存在になっています。
彼女は無口なので言葉では言わない。かわりにハルオに殴る蹴るの暴行を加え、自分の気持ちをぶつけようとします。
小学生時代は大野が蹴ってくることを嫌がっていたハルオも、さすがに高校生になるとちょっとだけ何か分かってきている。それでも分かっていないから「大野って可愛い顔してんのな…」なんてキラーワードを言っちゃう。天然ジゴロなところあります。
大野は、そんな彼の性格も含めて、一緒にいて気楽なんでしょう。普段周りはちやほやしてくるけど、彼は蹴ったら文句を返してくれる。今まで忖度されたコミュニケーションしか知らないから、彼の反応はいつも新鮮。このへんの悲しみも、高校生ハルオにはうっすら分かってきているようで、ハルオはどんどん大野にちょっかいをかける。大野は口を開かないからハルオの完全に1人語りになるんだけど、彼はこれがめちゃくちゃうまいし苦でもない様子。
もちろんゲーセンでも全力で大暴れ。
大野はゲーム大好き少女ではありますが、お祭りのような娯楽も大好きです。経験したことがないあらゆることに、興味を示します。以前みんなで遊園地に行ったときも、ずっとゲーセンに入り浸ったあとに、2人で遊具に乗りたいと、彼女にしては珍しいわがままを表しました。他にも人はいたけれど、この思いはハルオにしか伝えていません。どういうことか今は気づいているだろうか、ハルオよ。
ハルオといたいのか。ゲームや娯楽で遊びたいのか。家から逃げ出したいのか。おそらくどれかに比重が偏りすぎているわけではなく、全てがつながっているはずです。好きなゲームを、のびのびと、ハルオと一緒に笑いながらやりたい。小春が「ハルオといるために、彼の好きなものを知りたい」だったのと、好意のベクトルがかなり違います。
ゲームや娯楽に真摯でありたい、と願うハルオにとって、大野は同志であり戦友であり、ライバル。真剣にゲームに打ち込むことが面白い、というのがわかっているからこそ、お互い並走しているように見える。「恋愛対象」と認識できないのはニブすぎる罪ではあるけれども、ハルオにとっては倒すべき相手・大野への敬意でもあります。
言葉にできないもの
この作品は、大野がしゃべらないことが作品の感情描写に大きな影響を与えています。一応泣いたり満足したりする時、声は漏れます。言葉は出さない。常に彼女は「抑圧」の空気をまとい続けています。
窮屈な状況にわがままは言いたいだろうし、ハルオへの思いも積もるものがあるはず。けれども大野は自分の環境を考えると何も言えない。
アニメ13話、原作5巻あたりは特にハルオが自分の思いにたどり着けず迷走している段階。彼の行動や言葉の選び方も、ブレーキが掛かっている状態です。とてもスッキリしない曇天模様感。本人のモノローグですらない、客観的視点に住む心のガイルと心のザンギエフは、ナレーション的にこう語ります。
心のガイル「あの娘はハルオにとっての潤滑剤…」心のザンギエフ「なんとももどかしい関係だなあの二人は…!!」
ハルオは大野に「またな」が言えない。「元気でな」しか言う言葉がなく、別れの空気が漂います。
もしここを打開するとしたら、ハルオが自分の思いをスパンと突きつけることだけなんですが、それができないから困っているわけで。大野は大変だけれども、ハルオも問題山積みで、戦い続けています。
厄介者なんかじゃない
悪の権化的に見えてしまう業田萌美先生。鬼のような大野の先生です。稽古事やお勉強のみならず、プライベートの風紀まで仕切る、目の上のたんこぶのような存在、として今のところは描かれています。
彼女が家にやってきて、ハルオに「アナタは晶さんにとって厄介者です」と言った時、ハルオママが動きました。
矢口なみえ「私は自分の息子をのびのび育てた事にまったくもって後悔しておりません 気立てのいい…本当に良い息子に育ってくれたと思ってます…」
ハルオママは、子供を育てるものとして、萌美先生と同じ目線に立って話しているのがかっこいい。そもそも息子が「厄介者」なんて言われたらブチ切れてもいいものですが、自分の子育てと、萌美先生の教育、それぞれ考えがあっての教育であるのを尊重し、言葉で語ります。
萌美先生のいうことは、第三者視点であることを考えるとなにもかも間違っているわけではないのは注目したいところ。コミックス4巻では、家出した大野を探しにいったハルオが夜帰れなくなり、二人で同じホテルの部屋に泊まっています。高校生男女でこの状況、大人なら避けてほしいと願うのは当然のこと。大野を虐待する悪役なわけではありません。
ここは、ハルオ本人が今何を考えどう過ごしているかを、萌美先生も知るしか無い。母親ですら知らない彼の今の生き様を知っているのは、心のガイルさんだけ。次回、その片鱗を見ることができます。
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