辞書を読破した人にしか分からない「“シ”のトウゲ」 『大辞林』編集長インタビュー(2/3 ページ)
――― 今度は読者からの質問「辞書は何冊くらい持ってますか」。やっぱり他社の辞書も資料として持っているんですか?
編集長:当然ですよ(笑)。明治時代以降はほぼ全てそろっていると思いますよ。平安時代以降のもの、例えば、「新撰字鏡」「倭名類聚鈔」「類聚名義抄」「下学集」「節用集」など古辞書の影印本も資料として持っています。さすがに社内には収まりきらないので、一部は倉庫に保管していますが。
ながさわ:古い言葉、出典などを管理するために必要ですからね。
編集長:辞書には見出しがあって、表記があって、解説、用例……というスタイルがありますが、それは過去の辞書の積み重ね、伝統の上に成り立っているものですからね。
――― 「なぜ第4版を出すのに、13年も掛かったのですか」「改訂までの間、どんなことをしていたのですか」といった読者質問も来ていました
編集長:辞書づくりは時間を掛けようと思えばいくらでも掛けられるんですが、会社としてはどこかで区切って出さないといけません。第3版の刊行以降、改訂・増補などの作業はずっと行っていて、次の版を出すタイミングを見計らっていた、というところですね。
そもそも「この時代に紙で出せるのか」という話があって。このような大きな国語辞典が売れるのか、という市場の問題ですね。勇気がいることなんですよ、紙は在庫になる可能性もありますし、安いものではありませんから。
4〜5年前に刊行する方針が固まって、そうこうしているうちに『広辞苑』(岩波書店)の新版が出て、それなりに好調なのであれば「われわれも出さなければ」と。次のタイミングはいつだろうと検討した結果、令和への改元後に出すことに決まったんです。
紙の辞書はデジタル版と違って中身が変えられませんが、逆に言うとこの形のまま、時代の象徴として残っていきますから。
――― 三省堂が過去のさまざまな辞書を保有しているように100年後に辞書を作る人たちも『大辞林』第4版を持っているかもしれませんね、令和最初期の辞書として
編集長:当時はまだ新しい元号が何になるのか発表されていなくて、もっと言えばいつ発表されるかも分からないような状況。元号が切り替わる5月を編集の最後のタイミングに設定して、9月に刊行することにしたんです。そうしたら第3版から13年たっていたというわけです。
(続く)
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