『大辞林』編集長に取材するから“辞書ガチ勢”集まれ〜! → ガチ過ぎて、質問の意味が分からなかった話(1/3 ページ)

「松村明」が立項されないのはなぜか……って、普通の人には気になる理由が分からないのでは?

» 2019年11月29日 20時00分 公開
[ねとらぼ]

 制作期間10余年、数十人規模の制作チーム、膨大な手作業により指紋が消失する者もいた。――― これは巨大な建造物ではなく、1冊の本の話です。2019年9月、大型国語辞書『大辞林』(三省堂)から、13年ぶりの全面改訂となる第4版が刊行。映画「舟を編む」の制作にも関わった編集長・山本康一さんにインタビューしました。

 ねとらぼのTwitterアカウントで質問募集を行ってみたところ、「『終活』などの説明が一部削られた理由」「『大辞林』に『松村明』が立項されない理由」など“辞書ガチ勢”と思われる方々からコアな投稿が続々。辞書マニア・ながさわさんを聞き手に、お話を伺ってみました。



取材参加者

  • 山本康一さん:『大辞林』第4版編集長
  • ながさわさん:数百冊の辞書を保有する辞書コレクター。暇さえあれば辞書を引いている
  • ねとらぼ編集部

辞書に載らない言葉、消える言葉

――― 質問を一般募集する際「ゴリゴリのマニアックな質問など何でもござれ」と書いたら、本当にゴリゴリ集まりまして。非常にありがたいのですが、レベルが高過ぎて質問の意味が分からず……。辞書マニアのながさわさん、よろしくお願いします


こんな感じの質問がいくつも届きました。文章構成もキレイだったのが印象的。ただ全文掲載すると、質問文の方が長い記事になってしまうので一部省略

ながさわ:よろしくお願いします。『大辞林』第4版から削られた要素に関する質問がいくつか届いていますね。

 「終活」を最初に使ったのはおそらく『週刊朝日』の連載「現代終活事情」で、編集後記などにも同誌が初出と書かれています。『スーパー大辞林3.0』ではこういったことについて書かれていたのですが、第4版ではその記載が消えています。

編集長:基本的に載せたい言葉は全て載せているのですが、削っている項目や要素も“なくはない”というところです。第3版の刊行後も用例採集などは行っていたわけですが、その時々のアップデートでやっていくと、第4版を作るまでの13年という歳月のあいだにどうしてもバランスが悪くなってしまうところがあって。

ながさわ:ちなみに、個人的に寂しかったのは、第4版で「うさんぽ」が消えたことでしたねえ。

――― うさ……んぽ……?

 「うさぎを散歩させる」という意味の言葉なんですが、語構成が特殊で面白いですし、聞かないと意味が分からないという。ちなみに「へやんぽ」というのもあって、これは特に部屋の中でうさぎを散歩させること。「うさんぽ」は屋外ですね。

編集長:うーん……狭いなあ(笑)。

――― 確かにググると、うさぎのお散歩動画などが出てきますが……一部クラスタのあいだで広まっているんでしょうか



ながさわ:むしろ、この言葉をキャッチしていることに驚きました。確かに使用範囲は狭いんですが、『大辞林』を引くとちゃんと載っていて、意味が分かるというのが貴重だったと思います。

編集長:確かにそういう役割もありますからね、考えてみます。空前のうさぎブームが来てくれたら迷わず載せるんですけどね(笑)。



ながさわ:関連して読者質問から。「載せられなかったけど、良いと思う言葉はありますか」。

編集長:言葉として良い/悪いというのは、私の価値観でもないので答え方が難しいですが、「広帯域ISDN(※)」は載せませんでした。「ISDN」という語は残してもいいと思うんですが、なくなりつつあるものに対して周辺まで入れなくてもいいだろう、と。

※広帯域ISDN:ISDNを広帯域にしたもの。筆者が調べた限り、1990年代の「通信白書」などに登場。しかし、近年の使用例はほとんど確認できませんでした

 あとは「カフェ飯」も削りましたね。あってもいいとは思うんだけど、「カフェのご飯」という意味しかないから。

ながさわ:それ系でいうと「鉄道擬人化」「幼馴染みキャラ」も削ってますよね。

編集長:よく見てますねえ(笑)



ながさわ:もう1つ「『大辞林』は『松村明』をなぜ立項しないのですか?」という質問もありました。

編集長:それなら「『広辞苑』は『新村出』をなぜ立項しないのか」という話もありますね。

――― いったい何の話を……?

ながさわ:『広辞苑』は文化勲章受章者を載せているのに、新村出は例外的に載っていません。広辞苑の編さん者なんですよ。

編集長:「作り手がそこに登場してはいけない」という考え方なんでしょう。『大辞林』を編さんした松村明が、『大辞林』に載っていないのも基本的にはそんな感じです。それに国語学者をどこまで入れるかという問題もありますからね。松村先生(亡くなったのは2001年)以降はまだ現代人ということで。


こういうお話でした

ながさわ:功績がまだ定まっていないというところですか

――― 人名1つ載せるだけでも、考えることが多いですねえ



――― 変わったものだと「丸の中に『C』を書く著作権の記号を人名に付けて「〜ちゃん」と読ませる書き方は辞書に載せられないのか」という質問が来てますね。かなりくだけた表現ですが、どうなんです?

編集長:あってもいいかなとは思います。

ながさわ:「絶対に載せたくない」というわけではなく、採用するかどうかの問題ですよね。

――― あ、載せられないわけではないんですね

編集長:採用に関しては「一部の人しか使っていないのか」「広く使われているのか」のほうが問題です。

 もし載せるとしたら、「ちゃん」に入れるのか、記号から引けるようにするのか、あるいは両方という手もあるんですが。そういうところも考える必要がありますね。

       1|2|3 次のページへ

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.

昨日の総合アクセスTOP10
  1. /nl/articles/2412/01/news003.jpg パパに抱っこされている娘→11年後…… 同じ場所&ポーズで撮影した“現在の姿”が「泣ける」「すてき」と反響
  2. /nl/articles/2412/01/news031.jpg 「何があった」 絵師が“大学4年間の成長過程”公開→たどり着いた“まさかの境地”に「ぶっ飛ばしてて草」
  3. /nl/articles/2412/03/news082.jpg 「ほ、本人……?」 日本に“寒い国”から飛行機到着→降りてきた“超人気者”に「そんなことあるw?」「衝撃の移動手段」の声
  4. /nl/articles/2412/03/news111.jpg 才賀紀左衛門、娘とのディズニーシー訪問に“見知らぬ女性の影” 同伴シーンに「家族を大切にしてくれない人とは仲良くできない」
  5. /nl/articles/2412/02/news009.jpg 【今日の難読漢字】「誰何」←何と読む?
  6. /nl/articles/2412/05/news006.jpg 「今やらないと春に大後悔します」 凶悪な雑草“チガヤ”の大繁殖を阻止する、知らないと困る対策法に注目が集まる
  7. /nl/articles/2412/03/news148.jpg 武豊騎手が2024年に「武豊駅に来た」→実は35年前「歴史に残る」“意外な繋がり”が…… 街を訪問し懐古
  8. /nl/articles/2412/03/news092.jpg 大谷翔平、“有名日本人シェフ”とのショット 上目遣いの愛犬デコピンも…… 「びっくりした!!」「嬉しすぎる」
  9. /nl/articles/2412/03/news055.jpg ハローマックのガチャに挑戦! →“とんでもない偏り”に同情の声 「かわいそう」「人の心とかないんか」
  10. /nl/articles/2412/03/news179.jpg 「口座や住居が……」 坂口杏里、SNSで“重要個人情報を垂れ流し” 「かなりまずい状態」「大丈夫じゃなさそう」心配の声
先週の総合アクセスTOP10
  1. パパに抱っこされている娘→11年後…… 同じ場所&ポーズで撮影した“現在の姿”が「泣ける」「すてき」と反響
  2. 「何があった」 絵師が“大学4年間の成長過程”公開→たどり着いた“まさかの境地”に「ぶっ飛ばしてて草」
  3. 「中学生で妊娠」した“14歳の母”、「相手は逃げ腰」妊娠発覚からの経緯を赤裸々告白 母親の“意外な反応”も明かす
  4. 勇者一行が壊滅、1人残った僧侶の選択は……? 「ドラクエでのピンチ」描くイラストに共感「生還できると脳汁」
  5. 「笑い止まらん」 海外産アプリで表示された“まさかの日本語”に不意打ち受ける人続出 「何があったんだw」
  6. パパが好きすぎる元保護子猫、畑仕事中もくっついて離れない姿が「可愛すぎる」と反響 2年以上がたった現在は……飼い主に話を聞いた
  7. アグネス・チャン、米国の自宅が“度を超えた面積”すぎた……ゴルフ場内に立地&門から徒歩5分の豪邸にスタッフ困惑「入っていいのかな」
  8. 「理解できない」 大谷翔平と真美子さんの“スキンシップ”に海外驚き 「文化は100%違う」「伝説だわ」
  9. 「車が憎い」 “科捜研”出演俳優、交通事故で死去 兄が悲痛のコメント「忘れないでください」
  10. PCで「Windowsキー+左右矢印キー」を押すと? アッと驚く隠れた便利機能に「スゲー便利」「知らなかった」
先月の総合アクセスTOP10
  1. 「何言ったんだ」 大谷翔平が妻から受けた“まさかの仕打ち”に「世界中で真美子さんだけ」「可愛すぎて草」
  2. 「絶句」 ユニクロ新作バッグに“色移り”の報告続出…… 運営が謝罪、即販売停止に 「とてもショック」
  3. 「飼いきれなくなったからタダで持ってきなよ」と言われ飼育放棄された超大型犬を保護→ 1年後の今は…… 飼い主に聞いた
  4. アレン様、バラエティー番組「相席食堂」制作サイドからのメールに苦言 「偉そうな口調で外して等と連絡してきて、」「二度とオファーしてこないで下さぃませ」
  5. 「明らかに……」 大谷翔平の妻・真美子さんの“手腕”を米メディアが称賛 「大谷は野球に専念すべき」
  6. 「やはり……」 MVP受賞の大谷翔平、会見中の“仕草”に心配の声も 「真美子さんの視線」「動かしてない」
  7. ドクダミを手で抜かず、ハサミで切ると…… 目からウロコの検証結果が435万再生「凄い事が起こった」「逆効果だったとは」
  8. 「母はパリコレモデルで妹は……」 “日本一のイケメン高校生”グランプリ獲得者の「家族がすごすぎる」と驚がくの声
  9. 「ごめん母さん。塩20キロ届く」LINEで謝罪 → お母さんからの返信が「最高」「まじで好きw」と話題に
  10. 「真美子さんさすが」 大谷翔平夫妻がバスケ挑戦→元選手妻の“華麗な腕前”が話題 「尊すぎて鼻血」