【たぶん日本最速レビュー】ありそうでなかった「大喜利」に日本初対応!? 10年ぶりに改訂された『岩波国語辞典』はここがスゴい(3/4 ページ)

» 2019年11月26日 18時50分 公開
[ながさわねとらぼ]

『岩国』といえば“▽”

 ファンの間では、「『岩国』といえば“▽”だ」というのが定評です。『岩国』の「▽」記号の下には、「多角的な補足説明」が添えられており、利用者の日本語に関する知識を豊かにしてくれます。今回の改訂でも当然増補されています。

第8版

あいどく【愛読】〔名・ス他〕(その書物を、後には雑誌や新聞も)好んで読むこと。「―者」「―書」▽元来、繰り返しそれを読むほどまで気にいっている場合に使う。だから「東海道の古地図を―する」のようにも使える。

 用法に関わる詳細な注記です。「『地図を愛読する』って言えるのかな?」という疑問にずばり答えてくれる辞書は他にないかもしれません。

第7版新版

ひもと-く【紐解く・繙く】〔五他〕本をひらいて、読む。▽「ひもどく」とも言う。巻物のひもを解く意から。

第8版

ひもと-く【紐解く・繙く】〔五他〕本をひらいて、読む。▽「ひもどく」とも言う。巻物のひもを解く意から。近年、未知の物事を調べて事実を明らかにする意にも使う。「生命進化の謎を―」

 補足は不要でしょう。「ひもとく」の新用法も、「慎重な姿勢」の『岩国』の認めるところとなったのかと感動を禁じえません。

第8版

たすき【襷】…… ―がけ【―掛け】……(2)ひも・線などが斜めに交わった状態。「線を―に引く」▽二〇一〇年頃から防犯用語として「ショルダーバッグは―にすること」と言い出される。

 『岩国』お得意の、年代に関する注記です。これは何事かというと、「たすき掛け」というのは従来は2つの線状のものが斜めに交差することをいったものであるのに、近年はかばんのひもを肩から反対側の腰に斜めにかけることをも「たすき掛け」と言うようになったのだということを説明しているわけです。

 年代に関する注記は、旧版までは、主な編者だった水谷静夫が自身の用例採集の結果を反映させてきた部分です。水谷は2014年に鬼籍に入りましたが、今回も新たな年代注が補われており、編集方針がしっかり継承されていることが分かります。

 「大丈夫」に追加されたこの注記にはしびれました。

第8版

だいじょうぶ【大丈夫】(1)……▽……近年、応答に用いることが増えている。「おかわり―(=不要)ですか」「―(=不要)です」「かゆいところありますか」「―(=問題ない)です」

 えー、こんなの他の辞書にももう載ってるでしょ、と思ってしまいそうですが、ミソは「かゆいところありますか」「大丈夫です」の部分。「結構です」「不要です」の意の「大丈夫です」にはすでに言及している辞書がいくつもありますが、この「かゆいところありますか」に対する「大丈夫です」は「結構です」には置き換えられず、現時点では『岩国』独自の記述です。現実の日本語をよく観察していることのあらわれということができるでしょう。

 生活に根ざした注記も見どころです。

第8版

みそこし【味噌漉し】溶いたみそをこして滓をとり除く器具。▽以前は深めの竹笊で、豆腐などを買いに行く容器としても使った。現在はステンレス製で、枠に網が張ってある。

 ああ、味噌漉しを提げて豆腐を買いに行く、忘れられゆく情景がここに記録されています。2019年の今、あえてこの注記を加えることには、世代と世代をつなぐ役割を果たそうという意志を感じるのですが、うがちすぎでしょうか。


 華々しさはないものの、しっかりと日本語を見つめて、微に入り細に入り丁寧な改訂がなされた『岩波国語辞典』第8版。ぜひ座右に置いておきたい一冊です。

※丸囲み数字は機種依存文字のため、本記事では「()」で代用しています。

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