大丸梅田店「生理バッジ」、継続するも現行のデザインは取りやめに 広報担当者に聞く“取り組みの今後”
目的と今後を聞きました。
大丸梅田店が10月中旬から試験実施した「生理バッジ」が、大きな話題となっています。
11月22日にオープンした女性向けフロア「michi kake(ミチカケ)」のコンセプトから生まれた生理バッジ。スタッフが生理(月経)中であることを示せる胸元に付けるプレートで、スタッフ同士で気遣いや察しといったコミュニケーションを行うことを目的としていたといいます。
21日に生理バッジの取り組みが報じられると、ネットでは「プライバシーの侵害ではないか」「従業員がセクハラを受けるのでは」「客が商品を購入するのに必要のない情報」などさまざまな批判が寄せられました。大丸梅田店は、生理バッジについて現在使用しているデザインを取りやめる方針を示しました。
生理バッジはどういったことを目指し、どのように生まれたのか。また、今後はどのように運用していくのか。大丸梅田店の広報担当者に取材しました。
「社内コミュニケーション」を目指して生まれた生理バッジ
――あらためて、michi kakeのコンセプトを教えてください。
月の満ち欠けのように、女性のリズムに寄り添うことを目指した売り場です。コスメ、洋服、雑貨だけではなく、百貨店ではこれまで取り扱いのなかったような性や生理アイテムを取りそろえています。セミナーやトークセッションを定期的に行うことも予定しています。
――この売り場から始まった取り組みで、「生理バッジ」が議論を呼びました。このアイデアはどのように生まれたのでしょうか。
女性を取り巻く環境が変わる中で、michi kakeのフロアのコンセプトが生まれたのですが、そのフロアのある大丸梅田店の5階には500人ほどの女性スタッフが働いています。お客さまに向けてだけでなく、販売員の働く環境に対しても何かできることがないか――と出てきたのが生理バッジのアイデアです。
ゾーン自体が生理用品を扱うものでしたので、さまざまな話し合いで生理についての話が上がりました。生理のつらさは男性にはわかりにくいですし、女性間でも違いがあります。そこで、社員間のコミュニケーションとして、わかるようなサインがあってもいいのでは……という話になっていき、生理バッジという形で試験導入をすることになりました。11月22日のmichi kakeフロアのオープンに先駆け、10月中旬ごろから5階フロアで試験的に導入を始めていました。趣旨に賛同したメンバーのみが着用しています。
――生理バッジがネット上で話題になったのは、11月22日のフロアオープンの際、生理バッジの取り組みが行われているといった発言があったからでした。10月中旬からというと、実際約1カ月ほど生理バッジの運用が行われていたんですね。スタッフからはどういった声が上がっていましたか?
普段「生理がつらい」と言い出しにくいメンバーがいたときに、バッジがあることで「多めに休憩とっていいよ」と声をかけたり、重いものの持ち運びが多い仕事の場合、「ちょっと持とうか」という気を使うことができたり――といったことができた、という声は上がっています。
男性社員はバッジを着けてはいませんが、着けている女性社員に対して「どう声をかけていいのか考えるようになった」という反応を聞きました。現場ではその反応を聞いて、「私は声をかけてくれなくていい」「私は『大丈夫?』と言ってもらえるとうれしい」というコミュニケーションも生まれているそうです。
――私自身、会社で体調不良の話をしたことはあっても、「生理」という言葉を出して話したことはないかもしれません。
これまでそういう会話自体なかったですし、生理の体調不良が人それぞれということも会社での話題に出てこなかったと思います。「生理」という言葉を女性社員も男性社員もフラットに言えるようになったのは大きな一歩ですし、あらためてみんなで考えるきっかけにはなっていると考えています。
――生理バッジのデザインはどのように決まったのでしょうか。
michi kakeは、小山健さんの漫画「生理ちゃん」とコラボをしています。そこから、フロアオープン時に、フロアのオープンをアピールする面と、「生理ちゃん」とコラボをしていることを示す、リバーシブルの胸ビラ(胸章)を作ることを決めていました。胸ビラ自体はキャンペーンや季節セールなどのさまざまなアピールに使われているものです。今回は先に「生理ちゃんとのコラボ」としての胸ビラデザインがあり、後から「この面を生理バッジとして運用しよう」ということになりました。
現行のデザインは取りやめに
――生理バッジは当初はコラボバッジとして使われることを想定していたデザインで、社内ではスタッフ同士のコミュニケーションのきっかけになっているということですね。一方で、ネット上では、「客に知らせる必要はないのでは(客の立場としては店員の生理について知りたくない)」「スタッフがセクハラ被害などに遭う可能性があるのでは」といった声も上がっています。
はい。そういった声は私たちのところにも届いています。実際、本来お客さまにお知らせすることではありませんでした。従業員同士のサインとして運用し、裏側での取り組みとするつもりでした。
――外部に公開する予定ではなかったということですか? フロアオープン前にWeb公開された「生理ちゃん」漫画では、百貨店での生理バッジの取り組みが外部に公開され、ネットで物議を呼ぶ……という展開になっていました。かなり漫画の展開と現実の展開が重なっていると感じましたが。
漫画は先生によるフィクションとして楽しんでいただき、実際はあくまで社内内部での取り組みのひとつとして行う予定でした。ただ、報道などでデザインが外部に伝わり、結果としてお客さまにもわかるサインになってしまいました。そのため、生理バッジの取り組みは社内では続けつつも、現行のデザインは取りやめ、新しい違う方法で行っていこうと考えています。
――取りやめというと……今生理バッジとしてとらえられている胸ビラを回収するということでしょうか?
胸ビラ自体はmichi kakeフロアオープンをアピールするものとしてしばらく使いますが、報道されている生理バッジとして使いません。今後は、社員同士でのみわかり、任意で取り付けるような形で続けていきつつ、それがどういったものかは社外には公表しないようにするつもりです。また、今回の生理バッジの取り組みは朝会などを通じて周知していましたが、さまざまな勤務シフトで働いているスタッフがいるので、周知を徹底したいと考えています。
社内外から寄せられた声
――報道のあと、さまざまな意見が寄せられたと思います。今回の「取り組み自体は続ける、デザインややり方は変更し外部に公表しない」という判断にいたるまでで、お客さんやスタッフからどういった声がありましたか?
本当にたくさんの意見をいただきました。お客さまからは、「生理に関しては客に知らせるべきではない」「プライバシーの侵害に当たるのではないか」「生理バッジがベストの方法かはわからないけれど、なかなか口に出せないことについて取り組みを行うことは意義がある」などが多かったです。「内部でだけ実施しようと思っている」とお伝えすると、応援してくださるお客さまもありがたいことにいらっしゃいました。
メンバーからは「取り組み自体は続けたほうがいいだろう」と、「サインがどういうものかは結果的にお客さまに知られてしまったので、やり方を変えたほうがいいのではないか」といった声が出ています。そういった内外での声を踏まえて今回の判断に至りました。生理バッジの取り組みがよいものなのか、それとも悪いものなのかは、まだ試し始めたばかりなのでわからない状態です。しばらくやってみて、その結果をメンバーの声を聞いてきっちり確認したいと思っています。
――ネット上では、バッジなどのマークで気遣うよりも、生理休暇を取りやすい環境にするべきだという声も上がっていました。大丸梅田店さんでは生理休暇の取得状況はいかがでしょうか。
大丸社員制度としては生理休暇の制度もあり、取得している従業員もおりますが、お取り引き先(※編集注:各テナント)所属の販売員メンバーが多い売り場ですので、お答えしかねます。
大丸梅田店は女性の従業員が多いこともあって、「生理がつらいので休みをとりたい」と言いにくい職場ではないと思っています。ただ、今回の生理バッジが解消したいと目指していたものは少し違っていて……生理の体調不良はさまざまで、「休むほどではないけれど、しんどい」という状況の人は少なくありません。しかもその体の状況も本当に人それぞれで、1時間だけお腹がものすごく痛くてあとは平気になったり、頭が痛くなったり、お手洗いに頻繁に行きたくなったり……そういうことを、従業員同士で話したり、察したりできる環境になったらいいと考えています。
――男性は生理のときの身体の状態を実感しづらいですが、女性同士でも実は全然違いますよね。
そうなんです。すごく軽い人もいれば、重い人もいる。いろいろな人がいることを理解して、「休むほどではないけど、いつも通りの仕事をこなすのはちょっとつらい」というときに、お互いに気遣える環境を目指す取り組みです。
――そうなると、「生理バッジ」に限定せず、「体調不良バッジ」のように男女どちらでも使えるものにしてもよさそうです。
そういった話も上がっています。今回は、生理用品を扱う売り場であるところから出発し、「女性の生理に寄り添いたい」という考えからの取り組みですし、範囲を広げすぎるとかえって浸透しにくくなるかもという見方もあって、生理についての体調不良に絞っています。ただ、生理バッジをきっかけに、女性も男性も体調不良を言い出しやすい環境になればいいと思っています。
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