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» 2019年11月30日 12時00分 公開

女子と労働:「キャリア、ライフステージ、そしてオタク事が三つ巴」――“オタク女子と労働”の大変さと楽しさを『本業はオタクです。』劇団雌猫かんさんに聞いた (1/2)

みんなラクラク両立できてるわけではない!

[青柳美帆子,ねとらぼ]

 SNSを見ていると「この人、どうやって仕事と趣味を両立しているんだ!?」と不思議に思うくらい、“全力”でオタ活を楽しんでいる女性たちがいます。

 オタク女子たちはどんなことを思って仕事をしているのか? オタク趣味が仕事に生きるのはどんなとき? オタク女子たちが抱いている仕事の悩みとは?――「オタク女子と労働」のあれこれを、『本業はオタクです。-シュミも楽しむあの人の仕事術』編著者の劇団雌猫かんさんにインタビューしました。

オタ女子 『本業はオタクです。-シュミも楽しむあの人の仕事術』編著者の劇団雌猫のメンバー、かんさんに聞きました

意外に知らない、オタク仲間の仕事の話

――「オタク女子のお仕事」をテーマにしたのはなぜでしょうか。

 劇団雌猫はもともと“インターネットで言えない話”をテーマにした同人誌「悪友」を発行してきました。趣味でつながっているインターネットの仲間たちって、オタク以外の部分でどういう生活をしているかわからなかったりして、たまに知るとすごく面白い。Zing!さんから連載のお話があったときに、「オタク女子たちの“生活に欠かせない話”を聞きたい」とみんなでいろいろと案を出しました。

 その中で出てきた話が「オタク、めっちゃ忙しいよね」。女子アイドル現場用語に「おまいつ」(「おまえいつもいるな」の略。どのコンサートやライブに行っても参加しているファンを指す)という言葉があるのですが、「おまいつ」の人もほとんどが仕事をしているはず。どうやってスケジュール管理をしているんだろう、どうやって仕事とオタ活を両立しているんだろう、そもそもどういう仕事をしているんだろう? ……という疑問から始まった連載です。

――そういえば確かに、オタク仲間の仕事の話ってなかなか聞かないです。

 キャリアプランどころか、どういう風に生計を立てているかも全くわからない(笑)。でも聞いてみると、当たり前ですが、けっこうみんなしっかり働いているんですよね。しかもオタク趣味のおかげでかえって仕事をうまくやれている人もいる。推しのコンサートに行くためにスケジュールを巻いたり、なぜかPhotoshopやHTMLがちょっとわかって評価されたり。

 「趣味があること」って、職場では「仕事を片手間にやっている」のようにネガティブにとられることもあると思います。でも、仕事以外にモチベーションがあることで、仕事に還元されて結果が出ることもある。オタクはそこの相乗効果があるのが素晴らしいと思います。

――本の構成は3章仕立て。1章は「仕事は仕事、シュミはシュミ」と、比較的仕事を「手段」にしている女性たちです。一方2章は「仕事でもシュミを強みに」と、仕事も「目的」になっている女性のお話……という構成。劇団雌猫のみなさんはどちらですか?

 私たちはほとんどのメンバーが、章にならうなら後者で、さらに全員転職を経験しています。自分たちに近い働きかたの人に偏らないよう、「仕事は仕事」派と「仕事も趣味」派、どちら側の話も半々になるように意識しました。

転職はしなくてもいいけど、転職活動はしてみよう

――前半のみんなのいろいろな働き方を読んでいくと、後半は「この先、どうしよう?」とみんなで考えるような、キャリアについての章になってきます。

 主に3章「私たちのキャリア、どうすれば? 『お仕事のプロ』に聞いてみた」の部分ですね。2019年3月のトークイベント「よいこのおしごと」の内容を加筆修正した章で、キャリアコンサルタントの西尾理子先生にキャリアについて聞いています。「転職はしなくてもいい、転職活動はしてみよう」というメッセージへの反響が大きいです。

――私も転職経験はないので、「転職活動しても、転職しなくていいんだ」とはっとします。

 西尾先生によると〈「えーい! 転職しちゃおう」はすごくリスキーなんですが、「まだ決めてないけど……」と思いつつ転職活動をしてみるのは、むしろおすすめしたいです〉。転職と転職活動は紐づいているというか、ひとつのものだと思いがち。でも転職活動をすることで、自分の市場価値を確認したり、自分の働き方を振り返る素材になる。いい企業に巡り合えたら転職すればよいですし、他の企業を見てみて「うちの会社、意外といいじゃん」と思いなおすことだってあります。恋愛で例えたら、恋人とマンネリ気味のときに合コンに行ってみるといった行動に近いかもしれません。

――本では「自分の現在地を確認しよう」という自分のキャリアを考えるための図がありました。

 シンプルに「お金」の縦軸と「時間」の横軸で分けて、(A)お金にも使える時間にも満足している、(B)お金には満足しているが時間的余裕が少ない、(C)お金には満足していないが、時間的余裕がある、(D)お金も時間も足りなくて不満である――と分けるという考え方ですね。イベントで来場者にアンケートを取ったときは、(C)の人が多かったです。

オタ女子と労働 キャリアを考えるための4象限(『本業はオタクです。-シュミも楽しむあの人の仕事術』p136より)

――これで「お金」「時間」の軸で考えるのがわかりやすかったです。今の自分は、「やりがい」とか「楽しさ」とかを横軸にしようとして、うまく考えや気持ちがまとまっていない状態なので……。

 仕事って、本当に係数が多い! お金や時間だけじゃなくて、人間関係、やりがい、得意不得意……といったパラメータがあって、しかも全部満たされる仕事なんてほとんどないので、実際の転職活動のときは「どこのパラメータを重要視して、どこのパラメータを妥協するか」が難しすぎる。

 ただ、オタクの場合……特に現場があるオタクの場合、お金と時間の重要度が少し高いので、外せないポイントを見極めやすいのかなと思います。お金がないとチケットを買えないけど、時間の融通がきかないと買ったチケットの時間に会場に行けない。

――わかりやすい。

 世の中って……なんていうかうまくできてますよね。20代で年収1000万円以上稼げるような仕事って、だいたい24時間ずっと働いていて趣味に費やす時間がない。ものすごくやりがいがあるけど、メチャクチャ忙しくて給料が低いいわゆる“やりがい搾取”の仕事もありますよね。私もやりがいにステータス全振りで、経験としてはよかったと思うけれど、時間もお金もなくてオタ活ができなかった時代もありました。転職して時間の融通がきくようになって、K-POPや宝塚にハマった。前の職場にまだいたら、どっちのジャンルのオタクもできてなかっただろうな……。

――でも、そういうやりがい全振りの仕事が楽しいという時期もありますよね。自分の人生のタイミングというか。

 そうそう、やりがい全振りでお金と時間が全然ない仕事をするのも悪いことではない。そこでの経験はそのあとの仕事にすごく生きてきますし。

 やってみて分かりましたが、転職ってメッチャ大変なので、「転職しよう!」をすすめるつもりはないんです。転職が当たり前にはなってきているけど、年齢のわりに転職回数が多いと嫌われることもあるというし、人事業界には「この人の履歴書はきれい(新卒で入った大企業にずっと勤めているなど)」といった表現も残っていると聞きます。でも「現在地」に不満があったら、転職活動だけでもしてみるといいのかなと思います。

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