ガチ勢のみんな集まれ〜! 2015年〜現在までを振り返る「今年の新語」の傾向と対策(1/2 ページ)
2020年こそランキングを当てたい人向け。
去る12月3日、辞書出版社の三省堂が主催する「今年の新語2019」の結果が発表されました。大賞に選ばれたのは、スマートフォン決済の名前につける「―ペイ」。今年、「ペイ」の名を含むスマホ決済サービスが広く認知されたことが受賞理由となりました。
「今年の新語」がユーキャンの「新語・流行語大賞」を始めとする他の新語ランキングと異なっているのは、辞書の編纂(へんさん)に関わる人たちが選考委員となり、「今後の辞書に採録されてもおかしくないもの」を順位付けするという点です。
「今年の新語」は、Webの応募フォームもしくはTwitterで投稿されたことばの中から選ばれます。そんな中にあって台頭してきたのが、「今年の新語ガチ勢」と呼ばれる熱心なファンの存在です。1人で何十件もの語を投稿する彼らの目的は、当然「今年の新語」にランクインする語を投稿すること。中には、事前にランキングを予想して楽しんでいる人もいます。
何を隠そう、私も「今年の新語ガチ勢」を自任する1人なのであります。
ライター:ながさわ(Twitter:@kaichosanEX/ブログ:四次元ことばブログ)
数百冊の辞書を保有する辞書コレクター。暇さえあれば辞書を引いている。「四次元ことばブログ」(http://fngsw.hatenablog.com/)で辞書や日本語について発信中。
ガチ勢が生まれるほどに魅力的なこのイベントを勝手に盛り上げたい! ガチ勢を増やしたい! という思いで、ランキングの傾向を分析し、どんな語を投稿すべきか対策を練ってみました。来年開催されるであろう「今年の新語2020」に向けて、今から準備だ!
「今年の新語2019」選考結果の傾向
まずは2019年のランキングを見てみましょう。
今年の新語2019
- 大賞:―ペイ
- 第2位:にわか
- 第3位:あおり運転
- 第4位:反社
- 第5位:サブスク
- 第6位:電凸
- 第7位:カスハラ
- 第8位:垂直避難
- 第9位:置き配
- 第10位:ASMR
- 選外:タピる ワンチーム
- 特別賞:令和
傾向1:全て名詞である
際立った特徴に、入選した語の全てが名詞(厳密には「―ペイ」は造語成分ですが、名詞をつくる語)であるという点を挙げられます。これは過去に例がありませんでした。
傾向2:すでに辞書に載っている語も選ばれた
もう1つの特徴として「すでに辞書に載っている語が選ばれている」という点も指摘できます。
「今年の新語」の選考には、三省堂が刊行する4辞書『新明解国語辞典』『三省堂国語辞典』『三省堂現代新国語辞典』『大辞林』が関わっており、これらに載っている語は選考の対象にはならないと思われていたのですが、「あおり運転」「電凸」はすでに『大辞林』に載っています。一体どういうことなのか、後に改めて検討します。
傾向3:「今年らしさ」が増している
また、過去のランキングと比較すると、また別の特徴も見えてきます。
今年に入選した語を見ると「なぜ今年の新語といえるのか」の理由づけがはっきりしているものがほとんどであることが見て取れます。
以前からネットでさかんに使われていた「にわか」「電凸」はそれぞれ、ラグビーワールドカップとあいちトリエンナーレ「表現の不自由展・その後」展示中止問題で広く知られるようになったことばです。その他の入選語も、今年とりわけ広まったことがはっきりしています。
一方で、過去の入選語はというと、必ずしもその年に入選する決定的な理由がない語も多くあります。2018年の「モヤる」「わかりみ」や、2017年の「〜ロス」「草」「きゅんきゅん」などは、それ以前から使われていて、その年に何か爆発的に知られるきっかけがあったかというとそうでもないように感じます。
どうもこの「今年らしさ」を重視する傾向は年を追うごとに強まっているようです。「今年の新語」の第1回目であった2015年には「じわる」が大賞を受賞し、「着圧」「言うて」「爆音」「刺さる」「斜め上」など、特に2015年に広まった感の強いわけでもない語が数多く入選していました。
2015年
傾向4:「百科語寄り」の語が多かった
選評では、今年は「これという一般語があまり見つからなかった」ために、「百科語寄り」である「―ペイ」が大賞を受賞したと述べられています。
「百科語」あるいは「百科項目」というのは、辞書業界の専門用語で、百科事典に載っているような、専門的な定義のあることばを指します。反対は「一般語」「国語項目」で、日常的なふつうのことばのことです。じゃあ「水」はどっちなんだというような疑問が浮かぶ通り、両者の境界は曖昧です。
以下は完全に蛇足ですが、個人的には、「境界線がはっきりしているものが百科項目、境界線がはっきりしないものが国語項目」と捉えるのがいいと思っています。例えば「徳川家康」は徳川家康と徳川家康ではない人の境界がはっきりしていますから百科項目ですが、「森」は森と森でない木の集合体をはっきり区別できる境界線がないので国語項目というわけです。
「水」は、「水素2、酸素1の化合物」と科学的に定義づけることができ、水とそうでないものの区別をはっきりさせられますが、一方で日常的な感覚では「水」は冷たいもので、90℃に熱されたH2Oをふつう「水」とは言いません。じゃあ、その熱いH2Oが何℃に冷えたら「水」になるのか、はっきりした境界はありません。従って、「水」は国語項目的な性質と百科項目的な性質を両方備えていると言えます。
閑話休題。選考委員によると、固有のキャッシュレス決済サービスの名につける「―ペイ」は、「どちらかと言えば、百科語に寄ったことば」であるということです。他に入選した「あおり運転」「サブスク」「カスハラ」「垂直避難」「ASMR」なども、「どちらかと言えば、百科語に寄っ」ているように感じられます。
過去のランキングでは、「一般語寄り」の語に重きが置かれていた節がありました。昨年の入選語を見ると、「ばえる」「モヤる」「わかりみ」「尊い」と、上位打線に紛れもない一般語が連なっています。
なぜ「百科語寄り」の語が増えたのか。それは、「今年らしさ」を重視した結果ではないかという気がします。一般語は、何かのきっかけで広く使われるようになることもあるにはありますが、多くの場合、染みが広がるようにじわじわと使う人が増えていく性質があり、広まった年を明確に特定できることはそうそうありません。
一方で、百科語の場合は、何らかの組織によってそれが定義されたり、ある出来事がきっかけとなってその概念が生まれたり広まったりすることが多いため、特定の時期との結び付きが一般語より比較的強いということができるでしょう。
また、百科語はその性質上、大部分が名詞です。今年らしさを追求した結果、百科語寄りの語が増え、結果的に名詞ばかりになったのではないでしょうか。
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