「AKIRA」を今見るべき「3つ」の理由 大友克洋の予言者ぶりをあらためて考える
「AKIRA」をこの世に送り出した大友克洋は、あらためて予言者である。
新型コロナウイルスの影響でついに7都府県で緊急事態宣言が発令されたが、一方で休業要請を2週間程度見送るといった報道もあり、もう訳の分からないことになっている。日本政府が本気でヤバいことが誰の目にも明らかな今見るべき映画は、間違いなく「AKIRA」である。
1:会議シーンが現実の日本政府の混乱とシンクロしている
「AKIRA」は1982年から7年半かけて連載された大友克洋によるマンガを原作としている。その大友が監督と脚本を手掛けたこのアニメ映画は、10億円という当時としては破格の製作費をかけ、その総作画枚数は15万枚。アクションシーンの迫力、昭和なレトロ感と近未来が融合したかのような”ネオ東京”の世界観、強大な力を手にして暴走する少年の悲哀の物語など、その魅力は枚挙にいとまがない。
劇中では反政府デモ隊と警察が衝突する騒然とした状態が続いており、政府もその煽りを受け逼迫している様も描かれている。そして、ある実験への追加予算を申請する大佐に対して、他議員たちが以下のような批判をする会議シーンがある。
「前総理の税金政策の歴史的失敗の尻拭いを、われわれ国会議員が頭を下げて国民のみな様に我慢していただいているこの時期にだよ? なんだね? どこにそんな金があるんだね?」
「莫大な金を使ってできたのは、あのグロテスクな幼稚園だけじゃないか!」
「来年はオリンピックだよ。もう戦後は終わったんだ。いつまでそんな幽霊のようなものに金を出さなくてはならんのかね?」
「だから、その金を福祉に回せばよかったんじゃ!」
具体的な事象は異なるが、現実でも新型コロナウイルスへの税金政策は批判にさらされており、先日にはマスクの国民への配布経費が466億円にのぼると報道がされるなど、これまで思いもよらなかったような事態が次々に起こっている。
そんな諸問題に意見を述べる議員の様子を目にしたときに、現実がこの「AKIRA」の会議シーンに重なって見えた。「前総理の税金政策の歴史的失敗の尻拭いを〜」というセリフに至っては、現実の総理の税金政策はリアルタイムに歴史的失敗が進行中だよ! とまで思ってしまった。
“望まれない未来”を描くディストピアSF映画の会議シーンが、この未曾有の事態に愚策を施行しようとする現実の日本政府の混乱に似てしまうのは、笑うに笑えない。
ちなみに、劇中での実験の追加予算の申請には“人々の命を奪う災厄を防ぐ”という至極まっ当な理由があり、批判されていた大佐は後に「やめんか! 刮目して大局を見るんだ! 堕落した政治家や資本家に踊らされてはいかん!」とも叫ぶ、むしろ現実に通ずる正しい忠言をする人物であることは指摘しておこう。
2:東京オリンピックも予言していた
「AKIRA」が大きく再注目されたのは2013年のこと。2020年の東京オリンピック開催決定の発表の際である。くしくも「AKIRA」の年代設定は2019年であり、劇中に登場する「東京オリンピック開催迄あと147日」と書かれた看板が「未来を予言していた!」と騒がれたのだ。
その後も「AKIRA」は現実とさらなるシンクロニシティを見せる。看板の下に書かれていた「中止だ中止だ」という落書きだ。
ご存じの通り、東京オリンピックはエンブレムの騒動から予算の暴騰などさまざまな問題が取り沙汰され、一部では開催中止を求める声もあった。そして、新型コロナウイルスの影響で、ついに2021年への開催延期が決定したのである。結果的には中止と延期の違いはあれど、前述した会議シーン以上にゾッとするほどに予見的な描写となっている。
3:新たな4Kリマスター版の登場
「AKIRA」は映像面が注目されやすい作品だが、音響面も大きな魅力だ。アーティストグループの芸能山城組が手掛けた、「ラッセラーラッセラー」というねぶた祭りのような掛け声や、「パロン、ポロン」と響く高い声が組み込まれた楽曲は強烈な印象を残すことだろう。
そんな音響を含めパワーアップさせた「AKIRA」の「4Kリマスターセット」のブルーレイソフトが4月26日発売予定となっている。
4Kスキャン&4Kリマスターが施され映像が鮮やかになったのはもちろん、音楽監督の山城祥二指揮のもと5.1chをリミックスした音源のほか、新規音源も収録されているのだ。発売を記念した特番が期間限定で公開されているので、こちらを見てみるのも良いだろう。
まとめ:「AKIRA」が与えた影響とは
「AKIRA」は現在に至るまでカルト的な人気を誇っており、国内外のさまざまな創作物に影響を与えている。例えば、「横滑りしながらバイクを停める」様を正面から捉えたシーンは多くのアニメでパロディーやオマージュの対象であり続けてきた。
他にも「マトリックス」(1999)や「インセプション」(2010)など名だたるハリウッド映画が「AKIRA」に影響を受けたとされており、“強大な能力を得た少年が暴走する”という物語の「クロニクル」(2012)では、監督が出演者たちに「AKIRA」を観ておくよう指導したという逸話もある。多数のポップカルチャーをフィーチャーした「レディ・プレイヤー1」(2018)には金田(主人公)のバイクも登場している。
しかし「AKIRA」の影響力をいくら並べたところで百聞は一見に如かずで、作品がいかに偉大かは「見れば分かる」というものだ。前述した現実とのシンクロを抜きにしても、日本が誇るアニメーションの凄さを世界に知らしめた記念碑的作品として、やはり一度は見ておくべきだろう。
筆者は先日「AKIRA」4Kリマスター版を休業となる前のIMAX劇場で見ることができた。背景に移る群衆などの細かい作画がよりハッキリと分かり、バイクチェイスシーンの躍動感や“爆音”の迫力も格別、前述した芸能山城組の音楽もより鮮烈さを増していた。
現在「AKIRA」はNetflix、Hulu、U-NEXTなどの配信サービスでも見ることができるが、そんな中あえて4Kリマスター版を堪能する価値は間違いなくある。
今は多くの映画館が(多くは5月6日まで)臨時休業となっており、IMAXでこの4Kリマスター版を鑑賞できる機会がほとんどの人にとって失われてしまっているのが残念でならない。何しろ、映画館では音を“体で受ける”ことができ、それによりすさまじいサウンドの洪水に“トリップ”するような感覚さえ得られた。
映画体験の価値をあらためて感じさせてくれた「AKIRA」のIMAX上映が、いつの日にか、誰でも安心して楽しめるようになる日を待ち望んでいる。
おまけ:大友克洋が参加したオムニバス映画にも予言が?
この機会に、大友克洋が関わった作品に触れてみるのもいいだろう。例えばオムニバスアニメ映画の「迷宮物語」(1986)はU-NEXT、「MEMORIES」(1995)はHuluとU-NEXT、「SHORT PEACE」(2013)はHulu、老人介護にまつわる問題をテーマにした長編「老人Z」(1990)はHuluとU-NEXTで、少年が主人公の冒険活劇「スチームボーイ」(2004)も各配信サービスで配信中だ。
その「MEMORIES」内の1つ目の短編「彼女の想いで」に登場する宇宙船の名前は、なんと”コロナ”だったりする。コロナはもともと太陽のまわりに見える冠状の光(光冠)を指しているのでなんら不思議はないのだが、ここでも現実の事態を想起させられるのは完全に予想外だった。
しかも、その「MEMORIES」内の2つ目の短編「最臭兵器」は青年が強力な臭気を発生させてしまい、彼がところ構わず渡り歩いて人々を昏倒させ、自衛隊までもが出撃するという内容だ。この主人公の姿もまた、現実のウイルス感染を想起させる内容で、作品がコメディータッチのはずなのに笑えない感じになっている。
この他にも大友克洋の作品には「本当にこの人は予言者なんじゃないか?」と思えるポイントがきっと見つかることだろう。80年代に一斉を風靡した大友克洋、その第n次ブームが訪れるのかもしれない。
ところで、「AKIRA」はハリウッドの実写映画化の企画も進行していたのが、「映画化するわ」「やっぱやめるわ」の無限ループ状態に陥っている状態だ。いつの日か、観られる日は来るのだろうか……。
追記:一部誤字を修正しました。
関連記事
- 「劇場版SHIROBAKO」を見たから明日も頑張れる この作品が実質「アベンジャーズ/エンドゲーム」だった「5つ」の理由
「劇場版SHIROBAKO」は完全にヒーロー映画だった。 - 「この世界の(さらにいくつもの)片隅に」が“全く別の新しい映画”になった理由 花澤香菜の声の催涙効果を見よ
全く別の映画に生まれ変わった「この世界の片隅に」。 - アニメ映画「幸福路のチー」を何としてでも見てほしい「3つ」の理由 空想好きな少女時代と、30代になった私
台湾製アニメ映画「幸福路のチー」が素晴らしい映画だった。何としてでも見てほしい「3つ」の理由を、ここに挙げる。 - 「映画 すみっコぐらし」をただただ見てほしい その気持ちをここにしたためよう
「映画すみっコぐらし」がなぜここまで話題になっているのか、そしていかに素晴らしいのか、ここに解説しよう。 - 「キャッツ」がホラー映画である「8」の理由 悪夢に支配され、あまりの恐怖に涙する
「キャッツ」はホラー映画である。怖すぎて涙が出た(実話)。その理由を記していこう。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
-
21歳の無名アイドル、ビジュアル拡散で「あの頃の橋本環奈すぎる」とSNS騒然 「実物の方が可愛い」「見つかっちゃったなー」の声も
-
生後5日の赤ちゃん、7歳のお姉ちゃんから初めてミルクをもらうと…… 姉も驚きの反応がかわいい
-
9カ月の赤ちゃん、バスで外国人の女の子赤ちゃんと隣り合い…… 人生初のガールズトークに「これは通じあってますね!」「ベビ同士の会話、とろけます」
-
【今日の計算】「8+9÷3−5」を計算せよ
-
「妹が入学式に着るワンピース作ってみた!」 こだわり満載のクラシカルな一着に「すごすぎて意味わからない」「涙が出ました」
-
大谷翔平選手、ハワイに約26億円の別荘を購入 真美子夫人とデコピンとで過ごすかもしれないオフシーズンの拠点に「もうすぐ我が家となる場所」
-
「ケンタッキー」新アプリに不満殺到 「酷すぎる」「改悪」の声…… 運営元「大変ご迷惑をおかけした」と謝罪
-
「ゆるキャン△」のイメージビジュアルそのまま? 工事の看板イラストが登場キャラにしか見えない 工事担当者「狙いました」
-
「ハーゲンダッツ硬すぎ!」と力を入れたら……! “目を疑う事態”になった1枚がパワー過ぎて約8万いいね
-
「そうはならんやろ」をそのまま再現!? 「ガンダムSEED FREEDOM」のズゴックを完全再現したガンプラがすごすぎる
- 生後2カ月の赤ちゃんにママが話しかけると、次の瞬間かわいすぎる反応が! 「天使」「なんか泣けてきた」と癒やされた人続出
- 車検に出した軽トラの荷台に乗っていた生後3日の子猫、保護して育てた3年後…… 驚きの現在に大反響「天使が女神に」「目眩が」
- 安達祐実、成人した娘とのレアな2ショット披露 「ママには見えない!」「とても似ててびっくり」と驚きの声
- 兄が10歳下の妹に無償の愛を注ぎ続けて2年後…… ママも驚きの光景に「尊すぎてコメントが浮かばねぇ」「最高のにいに」
- “これが普通だと思っていた柴犬のお風呂の入れ方が特殊すぎた” 予想外の体勢に「今まで観てきた入浴法で1番かわいい」
- 「虎に翼」、新キャラの俳優に注目が集まる 「綺麗な人だね」「まさか日本のドラマでお目にかかれるとは!」
- 「葬送のフリーレン」ユーベルのコスプレがまるで実写版 「ジト目が完璧」と27万いいねの好評
- お花見でも大活躍する「2杯のドリンクを片手で持つ方法」 目からウロコの裏技に「えぇーーすごーーい」「やってみます!」
- 弟から出産祝いをもらったら…… 爆笑の悲劇に「めっちゃおもろ可愛いんだけどw」「笑いこらえるの無理でした」
- 3カ月の赤ちゃん、パパに“しーっ”とされた反応が「可愛いぁぁぁぁ」と200万再生 無邪気なお返事としぐさから幸せがあふれ出す
- フワちゃん、弟の結婚式で卑劣な行為に「席次見て名前覚えたからな」 めでたい場でのひんしゅく行為に「プライベート守ろうよ!」の声
- 親が「絶対たぬき」「賭けてもいい」と言い張る動物を、保護して育ててみた結果…… 驚愕の正体が230万表示「こんなん噴くわ!」
- 水道検針員から直筆の手紙、驚き確認すると…… メーターボックスで起きた珍事が300万再生「これはびっくり」「生命の逞しさ」
- フワちゃん、収録中に見えてはいけない“部位”が映る まさかの露出に「拡大しちゃったじゃん」「またか」の声
- スーパーで売れ残っていた半額のカニを水槽に入れてみたら…… 220万再生された涙の結末に「切なくなった」「凄く感動」
- 桐朋高等学校、78期卒業生の答辞に賛辞やまず 「只者ではない」「感動のあまり泣いて10回読み直した」
- 「これは悲劇」 ヤマザキ“春のパンまつり”シールを集めていたはずなのに…… 途中で気づいたまさかの現実
- 「ふざけんな」 宿泊施設に「キャンセル料金を払わなくする方法」が物議 宿泊施設「大目に見てきたが厳格化する」
- がん闘病中の見栄晴、20回以上の放射線治療を受け変化が…… 「痛がゆくなって来ました」
- 食べ終わったパイナップルの葉を土に植えたら…… 3年半後、目を疑う結果に「もう、ただただ感動です」「ちょっと泣きそう」