閉鎖される図書館……学習環境の確保はどうなる? 小中高は家庭の教育負担が増大、大学院生は「生存にかかわる」

大学院生に話を聞きました。

» 2020年04月15日 18時20分 公開
[不義浦ねとらぼ]

相次ぐ図書館の休館

 COVID-19(新型コロナウイルス感染症)感染拡大に伴い、各地で公立図書館の閉鎖や営業時間の短縮措置が取られています。特に非常事態宣言が出た都市部の図書館では、長期間の休館を余儀なくされているところも少なくありません。

  長引く休校や外出自粛要請の中で学習や調査のインフラである図書館が閉まると、どのような影響が生じるのでしょうか。


図書館閉室 教育のインフラがないとどんな困りごとが起きる?

図書館の状況

 図書館検索アプリ「カーリル」の調査によると、2020年4月9日18時までの段階では、カーリルの検索対象となっている公立図書館・公民館図書室など1409館のうち、650館が休館を発表しています。うち千葉県、大阪府、東京都、福岡県の休館率は100%でした。

 休館中、Webや電話によるレファレンスや郵送による貸出・返却・複写サービスなどで対応しているところもありますが、図書の返却ポストを除いていっさいの業務を停止している図書館もあります。

 なお都道府県立、政令指定都市立、国立国会図書館の新型コロナウイルス感染拡大防止措置については、国立国会図書館の記事で確認可能です。


図書館閉室 現在閉館中の国立国会図書館

家庭学習に頼ると何が起こる?

 文部科学省は新型コロナウイルスの影響に伴う休校に対応し、家庭学習の奨励を行っています。学習支援コンテンツをまとめたページを公開しているほか、「子供の読書キャンペーン」と称して文科省関係者のおすすめ本を紹介しています。

 さらに文科省の通達によれば、今後子どもの家庭学習の状況や成果を教師が確認し、学校における評価に反映させる可能性があるといいます。


図書館閉室 問題の家庭学習に関する文科省の方針

 家庭に教育を委ねることは、教育格差の拡大に繋がる恐れがあります。休校になった子どもの教育を監督するには一定以上の生活上の余裕が必要であり、また家庭で利用する本や教材を購入できるか否かが、家庭学習の質に直接影響するためです。

 図書館は従来公費で書籍や新聞、あるいは調べものの手伝いをするレファレンス業務などを提供し、学校外での社会教育を担ってきました。図書館が閉館している今、家庭学習の状況が学校教育の評価対象になるのであれば、それぞれの家庭が持つ条件が子どもの進路に及ぼす影響は、これまで以上に増大するでしょう。

 

しわ寄せは大学院生にも

 さらに図書館閉室の余波は、大学院生にも及んでいます。

 5月20日まで休館予定の国立国会図書館は、4月15日から遠隔複写サービスの受付を休止することを発表しました。国立国会図書館関西館、国際子ども図書館も国立国会図書館と同じ方針です。理由は「作業体制が維持できなくなった」ためとされています。遠隔複写サービス受付休止の期限は「当分の間」で、いつまで続くかは未定です。


図書館閉室 遠隔複写サービスが4月15日から受付休止に

 都内の大学院に通う大学院生のSさんは、国立国会図書館や大学図書館などの閉館に困っているといいます。

 「新学期は5月末に延期になり、その後の授業もすべてオンラインで行う見通しだと聞いています。学会も次々中止や延期の連絡が届いています。こうした状況の中で自分で博士論文に向けた研究を進めなければならないのですが、研究室が大学図書館の中にあるため、現在は一切利用ができません。研究に必要な資料はもちろん、コピー機やスキャナーなどの設備も図書館にあるので作業が進まず、とても困っています

 さらに大学院生らの間では、金銭面の不安を訴える声が少なくありません。

 「研究に必要な書籍が取り寄せられないので、やむをえず必要なものは購入しています。しかし研究書や資料集はとても高価です。1万円や2万円の本を毎回自腹で買っていたら身が持ちません。休校期間のぶん、せめて設備費ぐらいは学費を免除してもらえないのか、と考えている人は多いと思います」

 「研究会の延期も、金銭面の不安の原因の一つです。私も春に行うはずだった研究報告が延期になり、いつできるかわからない状況にあります。今年度の研究成果は来年度以降、学術振興会特別研究員(※1)や奨学金の審査に影響しますし、研究が進まなければ博士論文が出せず、在学期間も伸びてしまう。その上研究環境が失われている今の状況は、大学院生にとって冗談ではなく生存にかかわる問題なんです

※1……学術振興会特別研究員……大学院生や若手研究者に研究奨励金を支給する制度。採用までには書類審査や面接があり、倍率は5倍前後である。

 海外では書籍や資料などをWeb公開するデジタルアーカイブが進んでいますが、日本のデジタルアーカイブはそもそも公開されているデジタルコンテンツの数が少なく、また分野横断的な検索エンジンも乏しいことが指摘されています。デジタルアーカイブの拡充は、パンデミック下の研究環境整備において急務であると言えます。

今後の学習環境はどうなるのか

 新型コロナウイルス収束のめどが立たない以上、休校や図書館の休館が長引く可能性は十分考えられます。長期戦が想定しうるからこそ、政府は保護者による家庭教育に頼るのではなく、自宅でできる公的なプログラムの実施や、自宅で学習できない状況にある子どものための施策を講じていくべきではないでしょうか。

 

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.

昨日の総合アクセスTOP10
  1. /nl/articles/2412/18/news202.jpg 「何言ったんだ」 大谷翔平が妻から受けた“まさかの行動”に「世界中で真美子さんだけ」「可愛すぎて草」【大谷翔平激動の2024年 「家族愛」にも集まった注目】
  2. /nl/articles/2403/21/news088.jpg 「庶民的すぎる」「明日買おう」 大谷翔平の妻・真美子さんが客席で食べていた? 「のど飴」が話題に
  3. /nl/articles/2412/20/news023.jpg 60代女性「15年通った美容師に文句を言われ……」 悩める依頼者をプロが大変身させた結末に驚きと称賛「めっちゃ若返って見える!」
  4. /nl/articles/2412/21/news038.jpg 皇后さま、「菊のティアラ」に注目集まる 天皇陛下のネクタイと合わせたコーデも……【宮内庁インスタ振り返り】
  5. /nl/articles/2412/21/news088.jpg 71歳母「若いころは沢山の男性の誘いを断った」 信じられない娘だったけど…… 当時の姿に仰天「マジで美しい」【フィリピン】
  6. /nl/articles/2412/20/news096.jpg 新1000円札を300枚両替→よく見たら…… 激レアな“不良品”に驚がく 「初めて見た」「こんなのあるんだ」
  7. /nl/articles/2412/21/news005.jpg 藤本美貴、晩ご飯に手料理7品 多忙でも野菜とお肉たっぷりで反響 「お疲れ様です」「凄く親近感」【2024年の弁当・料理まとめ】
  8. /nl/articles/2412/18/news015.jpg 家の壁に“ポケモン”を描きはじめて、半年後…… ついに完成した“愛あふれる作品”に「最高」と反響
  9. /nl/articles/2412/21/news056.jpg 真っ黒な“極太毛糸”をダイナミックに編み続けたら…… 予想外の完成品に驚きの声【スコットランド】
  10. /nl/articles/2412/17/news195.jpg 「ほぼ全員、父親が大物芸能人」 奇跡的な“若手俳優の集合写真”が「すごいメンツ」と再び話題 「今や全員主役級」
先週の総合アクセスTOP10
  1. ザリガニが約3000匹いた池の水を、全部抜いてみたら…… 思わず腰が抜ける興味深い結果に「本当にすごい」「見ていて爽快」
  2. ズカズカ家に入ってきたぼっちの子猫→妙になれなれしいので、風呂に入れてみると…… 思わず腰を抜かす事態に「たまらんw」「この子は賢い」
  3. フォークに“毛糸”を巻き付けていくと…… 冬にピッタリなアイテムが完成 「とってもかわいい!」と200万再生【海外】
  4. 鮮魚スーパーで特価品になっていたイセエビを連れ帰り、水槽に入れたら…… 想定外の結果と2日後の光景に「泣けます」「おもしろすぎ」
  5. 「申し訳なく思っております」 ミスド「個体差ディグダ」が空前の大ヒットも…… 運営が“謝罪”した理由
  6. 「タダでもいいレベル」 ハードオフで1100円で売られていた“まさかのジャンク品”→修理すると…… 執念の復活劇に「すごすぎる」
  7. 母親から届いた「もち」の仕送り方法が秀逸 まさかの梱包アイデアに「この発想は無かった」と称賛 投稿者にその後を聞いた
  8. ある日、猫一家が「あの〜」とわが家にやって来て…… 人生が大きく変わる衝撃の出会い→心あたたまる急展開に「声出た笑」「こりゃたまんない」
  9. 友人のため、職人が本気を出すと…… 廃材で作ったとは思えない“見事な完成品”に「本当に美しい」「言葉が出ません」【英】
  10. セレーナ・ゴメス、婚約発表 左手薬指に大きなダイヤの指輪 恋人との2ショットで「2人ともおめでとう!」「泣いている」
先月の総合アクセスTOP10
  1. 「何言ったんだ」 大谷翔平が妻から受けた“まさかの仕打ち”に「世界中で真美子さんだけ」「可愛すぎて草」
  2. 「絶句」 ユニクロ新作バッグに“色移り”の報告続出…… 運営が謝罪、即販売停止に 「とてもショック」
  3. 「飼いきれなくなったからタダで持ってきなよ」と言われ飼育放棄された超大型犬を保護→ 1年後の今は…… 飼い主に聞いた
  4. アレン様、バラエティー番組「相席食堂」制作サイドからのメールに苦言 「偉そうな口調で外して等と連絡してきて、」「二度とオファーしてこないで下さぃませ」
  5. 「明らかに……」 大谷翔平の妻・真美子さんの“手腕”を米メディアが称賛 「大谷は野球に専念すべき」
  6. 「やはり……」 MVP受賞の大谷翔平、会見中の“仕草”に心配の声も 「真美子さんの視線」「動かしてない」
  7. ドクダミを手で抜かず、ハサミで切ると…… 目からウロコの検証結果が435万再生「凄い事が起こった」「逆効果だったとは」
  8. 「母はパリコレモデルで妹は……」 “日本一のイケメン高校生”グランプリ獲得者の「家族がすごすぎる」と驚がくの声
  9. 「ごめん母さん。塩20キロ届く」LINEで謝罪 → お母さんからの返信が「最高」「まじで好きw」と話題に
  10. 「真美子さんさすが」 大谷翔平夫妻がバスケ挑戦→元選手妻の“華麗な腕前”が話題 「尊すぎて鼻血」