「攻殻機動隊 SAC_2045」とは何なのか 神山×荒牧両監督へのインタビューから浮かび上がった“攻殻機動隊”(1/2 ページ)
保守派のハードファンである記者が数々の疑問を聞いたスペシャルインタビューです。
Netflixオリジナルアニメシリーズ「攻殻機動隊 SAC_2045」の配信が4月23日からスタートしました。
士郎正宗さんの原作コミックが『ヤングマガジン増刊 海賊版』(講談社)で発表されて30年超。この間、押井守監督の「GHOST IN THE SHELL / 攻殻機動隊」、神山健治監督の「攻殻機動隊 STAND ALONE COMPLEX」(S.A.C.)シリーズ、黄瀬和哉監督の「攻殻機動隊ARISE」や「攻殻機動隊 新劇場版」、さらに「イノセンス」やハリウッド実写映画「ゴースト・イン・ザ・シェル」などさまざまな作品が生まれてきました。
「攻殻機動隊 SAC_2045」は、新たなファン層の開拓も意識しているものの、S.A.C.シリーズを世に送り出した神山監督と、士郎さんのメジャーデビュー作「APPLESEED」を映像化した荒牧伸志監督がタッグを組み、劇中にもS.A.C.シリーズのキャラが登場するなど、S.A.C.シリーズの最新作と思われるような内容です。
多くのファンが待ちわびた待望の新作ですが、保守派のハードコアなファンからは厳しい声も。とりわけ、両監督のタッグで2019年にNetflixで配信された「ULTRAMAN」同様、シリーズ初のフル3DCGアニメとなったことには賛否の声もあります。記者の場合は、どちらかといえば、これまでのS.A.C.シリーズで「inner universe」「RISE」「サイバーバード」「トルキア」など、数々の荘厳かつ重厚な楽曲を生み出してきた菅野よう子さんが今作には参画しなかったことが残念ですが、菅野さんのテイストをほうふつとさせるEDの「sustain++;」(Mili)でノスタルジックな気持ちになれたことで留飲が下がりました。
ともあれ、試写で全話を何度も繰り返し見た上で本稿の結論を先に記すと、確かに変わった部分もあれば変わらなかった部分もあり、結果的にS.A.C.シリーズの再確認ができる内容でした。以下では、神山監督と荒牧監督へのインタビューを通して、「攻殻機動隊 SAC_2045」とは何なのかを確認します。なお、ネタバレになるような記述は可能な限り避けました。
「攻殻機動隊 SAC_2045」の世界はどうなっているのか
同作の世界観を公開されている情報で説明すると、大国が互いにWin-Winになる持続可能性を模索した結果、サスティナブル・ウォー(持続可能な戦争)とやゆされる“産業としての戦争”が勃発。しかし、AIの爆発的な進化、そして各国が自国の利益のみを最優先させようとした結果、全世界同時デフォルトが発生し、資本主義はグローバルで破綻。その結果、産業としての戦争は激化し、先進国でも暴動やテロ、独立運動、内乱が勃発するなど、緩やかに人類滅亡へ向けて歩を進めているのが劇中の2045年です。
そんな中、全身義体のサイボーグ・草薙素子をはじめ、バトーやイシカワ、サイトーといった元・公安9課のメンバーたちは、ディストピア感のある海外を拠点に戦場を転々としながら、自分のスキルを生かして自分の好きなことをやる傭兵集団としてこの世の春を満喫。そこに、“ポスト・ヒューマン”と呼ばれる脅威的な知能と身体能力を持つ存在が現れ、事態が大きく動き出すというストーリーとなっています。入口こそ攻殻機動隊らしくないなと感じるものの、そこから新生公安9課の設立に至っていく流れはやはり攻殻機動隊そのものでした。
なぜ、フル3DCG+モーションキャプチャ?
攻殻がフル3DCGアニメになったことについて、ネットでは製作発表当時からさまざまな声があがっていました。
作画のクオリティーを落とさないための3DCGという側面は理解できますが、シリーズの熱烈なファンである記者も最初に本編をみたときは、正直「ついて行けるかな」と感じました。S.A.C.第1期のOPで目にしたCGと比べると洗練されており、キャラクターデザインを担当したイリヤ・クブシノブの思いを感じる草薙素子らの姿も素晴らしいですが、セル画とのギャップと、もはやはやりのゲームのような3DCGに脳が混乱したのも事実です。
ただし、草薙素子役の田中敦子さんや大塚明夫さん(バトー役)、山寺宏一さん(トグサ役)らS.A.C.シリーズのオリジナルキャストが公安9課を再び演じていることが安心感につながり、攻殻機動隊を見ているのだと脳が理解するのにそう時間は掛かりませんでした。
今作に先駆け、両監督が世に送り出した「ULTRAMAN」(2019年)もフル3DCG+モーションキャプチャで制作されていますが、なぜ、フル3DCG+モーションキャプチャなのかをあらためて聞いてみました。
神山 僕はアニメーションを作っていますが、アニメーターではないと思っています。監督として映像を作っていくときに、どうやったらうまくできるかという方法論だけを考えてのことです。
―― 手段先行ではなく、方法論のために手段を選ぶスタイルということですよね。手段としてフル3DCG+モーションキャプチャにしたのはなぜですか?
荒牧 神山監督の作品を見ていて、モーションキャプチャに対する適性をすごく感じていたんです。きっとモーションキャプチャでドラマを作るメリットを理解してくれるだろうと。
神山 モーションキャプチャは役者さんを介するので、演出をダイレクトに伝えることで、それがすぐに具現化されます。やりやすいというと語弊がありますが、何か面白いことができるんじゃないかと話をいただいたとき最初に思いました。
―― アニメーターとのやりとりでもそうではないですか?
神山 もちろん、アニメーターともダイレクトに打ち合わせますよ。でも、“描く”時間が必要なのと、彼らが描きたいものもあるので、絵に起こしていくのは必ずしもイメージ通りのものにはなりません。まあ、役者も言いたくないせりふは言いたくないものですけど、それでもレスポンスは圧倒的に早い。そこが大きいですね。
荒牧 実写と違うのは、セットもなければ、屋外で撮るわけでもなく衣装も着ていない。役者が「これはどういう状況か」を把握するのがブルースクリーン以上に難しいんです。だから、彼らに何をしてもらいたいかを克明に伝えなければならないという意味では、実写の監督より、CGシーンを作る監督に近いです。加えて、ドラマを表現してもらうことも伝えていくので、伝えなきゃいけないことはたくさんあります。
それでも、それらを伝えて「よーいスタート」となった瞬間にお芝居としてレスポンスが返ってくる。そうすると、良い/悪いだけじゃなくて、「俺が考えていたことが違ったな」など、その場で判断できるのがモーションキャプチャのいいところですね。
―― “ドラマを表現”という言葉は、脚本やテーマ性が本質なのだとあらためて思いました。ただ、モーションキャプチャを取り入れたことで、全身義体の草薙素子や、強化サイボーグなどの驚異的な身体能力感はデフォルメを効かせやすいセル画と比べてもやや失われた気もしました。劇中に登場するポスト・ヒューマンがものすごくヌルヌルと動くシーンもありましたが、キャラによっていわゆる2コマ打ちにしたりしなかったりという違いがあるのでしょうか?
荒牧 いえ、あまりやってないですね。ポスト・ヒューマンもベースは人間なので、人間にできないことはできないですから。でも、極端ではないものの、素子の跳躍力などはそういう風にしていますね。おっしゃるような動きの部分はもう少しやりたいなと思ってはいます。
―― 「ULTRAMAN」もフル3DCG+モーションキャプチャでした。そこから得られた知見などはありますか?
神山 「ULTRAMAN」の方がモーションキャプチャでアクションを作ったものを膨らませやすかったですね。攻殻機動隊もアクションはあるけど地味。その地味なことをしっかりやるのが求められたりするわけですが。攻殻機動隊は群像劇というか、ワンシーンに人が多いので、そこをどう撮るかはテクニカルな部分でノウハウがたまっていて、実は大変なことをやっています。
関連記事
- 魂が入ったアニメーション――押井守が語った実写「攻殻機動隊」の不思議な感覚と素子に残る“引っ掛かり”
実際のところ、押井守は何か新しいテーマや表現を持って再び「攻殻機動隊」を手掛けたいと思っているのだろうか? - 「一線越えた」神回はこうして生まれた 湯浅政明、「DEVILMAN crybaby」を語る
永井豪「まさしく、ちゃんとデビルマン」。 - 神山健治×荒牧伸志両監督に聞く、「ULTRAMAN」からにじみ出る“特撮感”と“オールドスクールなこだわり”
荒牧「3DCGでアニメーションを表現するときの方法論としては大きく2つあると思うんです――」。 - “独りぼっちの絵描き”が生み出した逸物 中澤一登、「B: The Beginning」を語る
「僕は第一に絵描き」と話す希代のアニメーター、中澤監督が明かす秘話。 - 舞台は前作の約10年後 “攻殻”新作アニメ「攻殻機動隊 SAC_2045」、Netflixで2020年配信決定!
きたぁぁぁ! - 瀬下寛之総監督×声優・島崎信長に聞くアニメ「Levius」 ポリゴン最新作で口をそろえる「過保護」というキーワード
セルルックCGの最前線を行くポリゴン。その先には、「限りなくカリカチュアされているのにもかかわらず十分な肉感がある」世界が見えているようです。 - Netflix「攻殻機動隊 SAC_2045」は4月23日配信! 公安9課の新メンバー、江崎プリンなどの存在も明らかに
なおトグサは離婚しているもよう。これは思い詰めるトグサ登場フラグ……!
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
-
大きくなったらかっこいいシェパードになると思っていたら…… 予想を上回るビフォーアフターに大反響!→さらに1年半後の今は? 飼い主に聞いた
-
高校生の時に出会った2人→つらい闘病生活を経て、10年後…… 山あり谷ありを乗り越えた“現在の姿”が話題
-
ディズニーシーのお菓子が「異様に美味しい」→実は……“驚愕の事実”に9.6万いいね 「納得した」「これはガチ」
-
プロが教える「PCをオフにする時はシャットダウンとスリープ、どっちがいいの?」 理想の選択肢は意外にも…… 「有益な情報ありがとう」「感動しました
-
「防音室を買ったVTuberの末路」 本格的な防音室を導入したら居住空間がとんでもないことになった新人VTuberにその後を聞いた
-
「こんなことが出来るのか」ハードオフの中古電子辞書Linux化 → “阿部寛のホームページ”にアクセス その表示速度は……「電子辞書にLinuxはロマンある」
-
間寛平、33年間乗り続ける“希少な国産愛車”を披露 大の車好きで「スカイラインGT-R R34」も所有
-
「もしかしてネタバレ?」 “timeleszオーディション”候補者がテレビ局を退社 ディズニーの“船長”としても話題
-
走行中の車から同じ速さで後方へ飛び降りると? 体を張った実験に反響「問題文が現実世界で実行」【海外】
-
グルーミングが出来ない生まれたての子猫、とんでもない体勢になり…… 想像以上のへたくそっぷりに「どこにも届いてないww」「反則級」
- 「飼いきれなくなったからタダで持ってきなよ」と言われ飼育放棄された超大型犬を保護→ 1年後の今は…… 飼い主に聞いた
- ドクダミを手で抜かず、ハサミで切ると…… 目からウロコの検証結果が435万再生「凄い事が起こった」「逆効果だったとは」
- 「明らかに……」 大谷翔平の妻・真美子さんの“手腕”を米メディアが称賛 「大谷は野球に専念すべき」
- まるで星空……!! ダイソーの糸を組み合わせ、ひたすら編む→完成したウットリするほど美しい模様に「キュンキュンきます」「夜雪にも見える」
- 妻が“13歳下&身長137センチ”で「警察から職質」 年齢差&身長差がすごい夫婦、苦悩を明かす
- 人生初の彼女は58歳で「両親より年上」 “33歳差カップル”が強烈なインパクトで話題 “古風を極めた”新居も公開
- 「ごめん母さん。塩20キロ届く」LINEで謝罪 → お母さんからの返信が「最高」「まじで好きw」と話題に
- 互いの「素顔を知ったのは交際1ケ月後」 “聖飢魔IIの熱狂的ファン夫婦”の妻の悩み→「総額396万円分の……」
- ユニクロが教える“これからの季節に持っておきたい”1枚に「これ、3枚色違いで買いました!」「今年も色違い買い足します!」と反響
- 中央道から「宇宙戦艦ヤマト」が見える! 驚きの写真がSNSで注目集める 「結構でかい」「どう見てもヤマト」 撮影者の心境を聞いた
- 50年前に撮った祖母の写真を、孫の写真と並べてみたら…… 面影が重なる美ぼうが「やばい」と640万再生 大バズリした投稿者に話を聞いた
- 「食中毒出すつもりか」 人気ラーメン店の代表が“スシローコラボ”に激怒 “チャーシュー生焼け疑惑”で苦言 運営元に話を聞いた
- フォロワー20万人超の32歳インフルエンサー、逝去数日前に配信番組“急きょ終了” 共演者は「今何も話せないという状態」「苦しい」
- 「顔が違う??」 伊藤英明、見た目が激変した近影に「どうした眉毛」「誰かとおもた…眉毛って大事」とネット仰天
- 「ごめん母さん。塩20キロ届く」LINEで謝罪 → お母さんからの返信が「最高」「まじで好きw」と話題に
- 星型に切った冷えピタを水に漬けたら…… 思ったのと違う“なにこれな物体”に「最初っから最後まで思い通りにならない満足感」「全部グダグダ」
- 「泣いても泣いても涙が」 北斗晶、“家族の死”を報告 「別れの日がこんなに急に来るなんて」
- ジャングルと化した廃墟を、14日間ひたすら草刈りした結果…… 現した“本当の姿”に「すごすぎてビックリ」「素晴らしい」
- 母親は俳優で「朝ドラのヒロイン」 “24歳の息子”がアイドルとして活躍中 「強い遺伝子を受け継いだ……」と注目集める
- 「幻の個体」と言われ、1匹1万円で購入した観賞魚が半年後…… 笑っちゃうほどの変化に反響→現在どうなったか飼い主に聞いた