藤井みほな『GALS!』が私たちの人生を変えた 渋谷でギャルになった友達と、「踊る変人」と結婚した私の友情

ギャルが私たちの世界を変えた!

» 2020年05月05日 20時00分 公開
[直江あきねとらぼ]
※本記事はアフィリエイトプログラムによる収益を得ています

 少女漫画。それは多くの女性が出会い、ふれあい、どっぷりと浸かり、あるいは反発し、断絶を感じてきた、不思議な文化です。自分の物語を見つけられた人も居場所がなかった人もいますが、人生のどこかで一度はすれ違うものではないかと思います。

 今回ねとらぼGirlSideでは、連載企画『少女漫画を語ろう』を立ち上げました。少女漫画について語る言葉が、この世にはまだ少なすぎるように思われたからです。さまざまな人たちに、自分の人生と交差した少女漫画、そして少女漫画と交差した自分の人生について、漫画と文章で語っていただきます。

 第5回は、ライターの直江あきさんです。某有名少女漫画雑誌でライターとして紙面づくりに関わっていたこともある直江さんに、小学校以来のお友達との素敵な経験についてご寄稿いただきました。

書いた人:直江あき

 ライター・漫画家。早稲田大学教育学部卒。一児の母です。ブログ「気ままに夢見る記」に漫画などをアップしていきたいと思っている。

直江あきさんが語る少女漫画:藤井みほな『GALS!』


直江あきさんGALS


直江あきさんGALS


直江あきさんGALS


直江あきさんGALS

 小学生のとき、近所に住んでいた友人のゆっこにいつも漫画を貸していた。ゆっこはお茶やお花を嗜むお嬢様だった。彼女の家には漫画が1冊もなくて、そのかわり、庭の池には色とりどりの錦鯉が泳いでいて、部屋にはシルバニアファミリーや最新のゲーム機など私の家にはないおもちゃがたくさん揃っていた。

 ゆっこの家に連日押しかけてはおもちゃで遊ばせてもらい、お礼と称して大好きな少女漫画を貸していたのであるが、今にして思えば、どうもゆっこはそんなに漫画に興味がなかったような節がある。感想を聞いても、答えはいつも「面白かったよ」だけだった。趣味を押しつける厄介なオタクに気を遣ってくれるお嬢様という構図である。

 脳天気な私はゆっこに気を遣われていることなど一切気づかず、延々と漫画を貸し続けていた。相変わらずそっけない感想ばかりだったが、この漫画を貸したときだけは違った。「めっちゃよかったわ」と熱く感想を語り、なんと気づいたら自分で続刊まで買い集めていたのである。その漫画とは、藤井みほな『GALS!』(集英社)であった。

 『GALS!』は渋谷の街でギャルたちが活躍するドタバタコメディで、1998年から「りぼん」で連載が始まった。作中でいきいきと描かれる当時のギャル文化に、ゆっこは魅了されたようだった。

 ゆっこはある日、東京土産に買ってきたと言ってキラキラの厚底ブーツを見せてくれた。私たちが暮らすのは四国の山間部で坂ばかりの田舎町、一体どこで履くのやらと内心思ったが、あまりに嬉しそうに話すので、そんなことはどうでもよくなった。

 厚底ブーツと並ぶ当時のギャルの必須アイテムと言えばルーズソックス。ゆっこは「高校生だったら制服着てルーズソックス履けるのに」と歯がみをしていた。私たち田舎の小中学生は、通学は行きも帰りも体操服である。ルーズソックスが似合うわけがない。仲良く同じ高校に進学した頃には、すっかりルーズソックスの流行は終わっていて、制服はセーラー服だった。「やっぱりブレザーやないとギャルって感じせんよな」と二人で腐(くさ)した。

『GALS!』が変えた恋愛観


直江あきさんGALS


直江あきさんGALS


直江あきさんGALS


直江あきさんGALS

 『GALS!』の一番の見所は女どうしの友情だとは思うが、衝撃を受けたのは恋愛面だった。なんと主人公の蘭が、物語の中盤で突如現れたチャラい男・タツキチといきなり付き合うのだ。第1話から登場しているクールなイケメンではなく、町田のパラパラキングだぞ……!?

 少女漫画における恋愛といえば、第1話で登場する男の子とヒロインが話数を重ねるごとに惹かれ合っていき、最終的にお付き合いすることになるというのが典型である。その男の子は、大抵の場合最初は素っ気なくて、ちょっとぶっきらぼうなところもあるけど、実はとても優しく、「ったく、しょーがねーな」と言いながら問題を一緒に解決してくれるのである。

 そのようなベタベタな展開に憧れていた小学生の私には、タツキチの登場は“こんなアホみたいな奴おる!?”という感じで、まさに晴天の霹靂だった。だって、パラパラキングである。少女漫画の相手役にしては愉快すぎる。

 恋愛沙汰にそこまで興味がなかったゆっこさえ「なんで蘭はあんな変な男と付き合うんやろ」と、タツキチの存在を疑問視しており、幼い我々の間でも物議を醸した。

 夜を徹した激論の末、破天荒な蘭にはあれぐらいノリノリな奴のほうが一緒にいて楽しいのであろうという結論に至ったのであるが、この出来事は、自らの恋愛観にも影響を与えたと思う。私のようなふざけたオタクは、同じようにふざけたオタクと付き合った方が楽しい人生を送れるのではないか――。現に私は、クールでぶっきらぼうな男ではなく、いつも歌って踊っているような変な人と結婚して、それなりに楽しくやっている。

ゆっことの再会


直江あきさんGALS


直江あきさんGALS


直江あきさんGALS


直江あきさんGALS

 高校を卒業すると、ゆっこはすぐに上京した。私も数年間フラフラした後に東京に住むことになったので、彼女と連絡を取り合い、久しぶりに会うことになった。待ち合わせ場所に指定された新宿のマルイにどうしてもたどり着けず、通行人に訪ねたら「○I○I」と書かれたビルを指差された。あれはオイオイじゃなかったのか。こんな難しい場所を待ち合わせ場所にするなんて、ゆっこもすっかり都会の女である。

 ほどなくして現れた彼女の姿には目を見張った。金髪につけまつげ、カラコン、耳にはもちろんヘソにもピアスをつけていた。服のことはよくわからないがとにかく洒落ていることだけはわかった。「めっちゃオシャレやん」と方言丸出しの大きな声で褒める私に対し、「あきちゃんは変わらないね」と標準語でクールに返され、私はますます彼女の都会人ぶりに動揺した。

 ゆっこはいま、新宿でショップ店員をしているという。「そうかそうか、それでこんなにオシャレなのか」とその活躍ぶりを呑気に聞いていると、「あきちゃんがあの時、『GALS!』を貸してくれたから、今の私がある」と言い出したので仰天した。「え、あの『GALS!』?」と久しく触れていなかったその単語に戸惑う私に対し、「『GALS!』を読んでギャルになろうと思ったし、今は新宿に配属されたけど、いつか絶対渋谷で働きたい」と熱く語った。

 彼女があの漫画にハマっていたのは知っていたが、まさかここまでだったとは……。責任の重さを感じおののいている私に対し、いい話風に話してくれる彼女。でも、遠慮がちなお嬢様だったゆっこが今こんなに生き生きとしているなら、オタク趣味の押しつけも悪くなかったのかもしれない。

 それから数年後、彼女は念願の渋谷で働き、店長にまでなって立派につとめているそうだ。

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.

昨日の総合アクセスTOP10
  1. /nl/articles/2409/04/news128.jpg 義母「お米を送りました」→思わず二度見な“手紙”に11万いいね 「憧れる」「こういう大人になりたい」と感嘆の声
  2. /nl/articles/2409/03/news141.jpg 母に「メイクしてはだめ」と言われ悩み続けた40代女性、“変わりたい”とプロに依頼し…… 表情も激変の結末に「エッ女優さんみたい!」
  3. /nl/articles/2409/07/news021.jpg 水族館「装置が故障しました」→しかし…… “そうはならんやろ”な苦肉の策に12万いいね 「嘘やろwww」
  4. /nl/articles/2409/07/news036.jpg そうはならんやろ! ガンダムがかっこよく発進→よく見たら…… “シュール過ぎる絵面”にネット爆笑 「反則でしょwww」
  5. /nl/articles/2409/07/news025.jpg 「これいいな〜」 フリーザーバッグを“意外な形”で再利用→まさかのアイデアに「さっき捨てたの拾って来よう」
  6. /nl/articles/2409/06/news021.jpg 【今日の難読漢字】「泰」←何と読む?
  7. /nl/articles/2409/06/news108.jpg 33歳の「西郷どん」二神光さん、バイク転倒事故での急逝に衝撃 1年前の共演者は“願い”明かし「叶わないなんて」
  8. /nl/articles/2409/03/news122.jpg 【追記あり】人気実況者グループ、突然のアカウント名変更にファン戸惑い 事情説明に「いつまでも待ってます」
  9. /nl/articles/2409/07/news043.jpg 「すげぇ安かった!」 お父さんが“でっかい巨峰”と思って買ってきた結果→まさかのミスも意外な結末に……
  10. /nl/articles/2409/07/news046.jpg “100均アイテム”でガンプラの洋上戦闘ジオラマを作る人が現れる 「レジン使わず水中表現?」「天才かよ」の声
先週の総合アクセスTOP10
  1. 「しまむら」に行った58歳父→買ってきたTシャツが“まさかのデザイン”で3万いいね! 「同じ年だから気持ちわかる」「欲しい!」
  2. 「地獄絵図」「えぐすぎやろ……」 静岡・焼津市の地下歩道が冠水 “信じられない光景”にネットあぜん
  3. 「なんで欲しいと思ったんですか?」 酔った勢いで購入 → 後日届いた“まさかの商品”に反響 「理性あったら買わないw」
  4. 友人にメダカと睡蓮をあげる→3年後に見に行くと…… 想像を超える“楽園”に「こんなに……!?」「めちゃくちゃ綺麗」
  5. 犬が同じ場所で2年間、トイレをし続けた結果…… 笑っちゃうほどの変貌が379万表示「そこだけボッ!ってw」 半年後の現在について聞いた
  6. 「24時間テレビ」ラストスパートでのやす子へのわいせつ行為に非難 「胸触りにいってる」「気持ちが悪い」
  7. 「これ600円なの?」 大谷翔平が長く愛用しているデコピンの“おやつ入れ”、始球式で注目「おそろだった」「真美子さんが選んだのかな」
  8. 明石家さんま、69歳バースデー迎え長男から幸せ呼ぶ“輝かしいプレゼント” 同席した元妻・大竹しのぶは「最高の笑顔でした」
  9. 300円で購入した格安熱帯魚を、1年じっくり育てたら……宝石に化けた「価格に見合わない」激変に「ダイヤ感出て綺麗」「ラメがすごい」
  10. 「米国人には想定できない」 テスラが認識できない日本の“あるもの”が盲点だった 「そのうちアップデートでしれっと認識しそう」
先月の総合アクセスTOP10
  1. 釣れたキジハタを1年飼ったら……飼い主も驚きの姿に「もはや魚じゃない」「もう家族やね」 半年後の現在について飼い主に聞いた
  2. 「もうこんな状態」 パリ五輪スケボーのメダリストが「現在のメダル」公開→たった1週間での“劣化”に衝撃
  3. 「コミケで出会った“金髪で毛先が水色”の子は誰?」→ネット民の集合知でスピード解決! 「優しい世界w」「オタクネットワークつよい」
  4. 庭で見つけた“変なイモムシ”を8カ月育てたら…… とんでもない生物の誕生に「神秘的」「思った以上に可愛い」
  5. 「米国人には想定できない」 テスラが認識できない日本の“あるもの”が盲点だった 「そのうちアップデートでしれっと認識しそう」
  6. ヒマワリの絵に隠れている「ねこ」はどこだ? 見つかると気持ちいい“隠し絵クイズ”に挑戦しよう
  7. 「昔はたくさんの女性の誘いを断った」と話す父、半信半疑の娘だったが…… 当時の姿に驚きの770万いいね「タイムマシンで彼に会いに行く」【海外】
  8. 鯉の池で大量発生した水草を除去していたら…… 出くわした“神々しい生物”の姿に「関東圏では高額」「なんて大変な…」
  9. 「ごめん母さん。塩20キロ届く」LINEで謝罪 → お母さんからの返信が「最高」「まじで好きw」と話題に
  10. 「なんでこんなに似てるの」 2つのJR駅を比較→“想像以上の激似”に「駅名だけ入れ替えても気づかなそう」