ユリ王国は極東にあり! 日本の山野は美しい自生ユリの宝庫だった
6月終盤、梅雨もそろそろ後半にさしかかります。ハナショウブやアジサイなどの梅雨時の人気者の花に隠れて、ゆっくりと大きくなってきたユリの蕾が花開きはじめています。現代、世界にはさまざまなユリの園芸品種がありますが、これらの多くが日本列島自生の固有種のユリが輸出されて作出されたもの。西洋の花のイメージが強いユリですが、実はその故郷はこの日本なのです。
19世紀から20世紀。ユリにとって大きな変化が生じた時代だった
植物分類学は、19世紀末から21世紀初頭にかけて、大きな変更・書き換えが何度も行われました。単子葉植物についても、1985年に単子葉植物の専門家であるロルフ・ダールグレン(Rolf Martin Theodor Dahlgren)が、共同研究者らとともにユリ目(Liliales)・ユリ科(Liliaceae)の分類を大きく変更するダールグレン体系(Dahlgren system)を提唱。
ダールグレンの分類法は現在の植物分類学で主流となったAPG体系(Angiosperm Phylogeny Groupによって分子系統解析に基づく被子植物分類体系)にも影響を与えるもので、これにより、ユリ目・ユリ科に含まれる顔ぶれは、古典的な新エングラー体系とはがらりと変わってしまうことになりました。
かつてユリ科は多系統(少なくとも五系統の別起源の種)を含むごった煮のような一大グループでした。ネギやにんにくの仲間やスズランやヒヤシンス、アロエやヤマイモなどもユリ科に含まれていたのです。これらは今では別科に移されています。また、花はいかにもユリとしか見えないワスレグサの仲間、ノカンゾウやヤブカンゾウ、キスゲなどのいわゆるヘメロカリス類もユリ科から外されてしまいました。
現代の植物体系では、ユリ科にはカタクリやエンレイソウ、ウバユリ、ホトトギス、チューリップなどが含まれ、これが広義のユリの仲間となります。
さらにその下位にユリ属があります。一般的に「ユリの花」と言われるのはこのユリ属の仲間で、これが狭義のユリとなります。ユリ属は世界に約130種、北半球のユーラシア大陸、特にアジアにその半数以上が分布します。極東の日本にも15種が分布、その多くが日本特産種です。
ユリは、多年草で地中には肉厚の鱗片葉が何層にも重なってタマネギやにんにくのように鱗茎(球根)を作り、ここから直立茎をすっくと立ち上がらせます。地上葉は互生もしくは輪生で茎に沿ってはしご状についてゆき、単子葉類としては独特の形状となります。
花は、単子葉植物の特徴である三数性(3の倍数で構成される構造)がもっとも単純・明確に見て取れ、三枚の外花被片と三枚の内花被片、合計六枚の花びらが六芒星形をなします。その内側に六本の雄しべ、さらにその内側の花の中心部に長い花柱が一本。ただし、先端に付いた柱頭は浅く三裂し、かまきりの頭のような三つの円が融合したような三角形をしています。子房も三室に分かれていて、それぞれの室内に多数の胚珠を備えています。
ユリ属は多雨と酸性土壌を好むため、多雨で酸性の日本の土は生育に適し、日本をユリ王国たらしめたのです。
ユリの季節到来。絢爛華麗な日本特産ユリの豊かな世界を楽しみましょう
日本の美しい特産自生ユリの中で、もっとも大きく、代表選手と言ってもいいのがヤマユリ(山百合 Lilium auratum)。花径は20cm近く、時に25cmほどにもなり、1〜1.5mほどの茎の上部一帯から、数個から20個以上の花をつけます。六枚の花弁は外側にカーブしながら反り返り、真っ白に真っ赤な斑が入り、中央部分には鮮やかな黄色の筋が入るために英語圏ではgolden lilyと呼ばれます。六本の雄しべの朱色の葯と、上向きに反り返る雌しべが、ヤマユリの豪華さを引き立てます。また、野山では花を見つける前に漂う香りに気づくほど、その甘い芳香は強烈。伊豆諸島には、ヤマユリの亜種のサクユリ(作百合 Lilium auratum var. platyphyllum)が分布しますが、花径30cm以上と世界最大のユリで、2m近くなる草丈も雄大そのものです。
ササユリ(笹百合 Lilium japonicum)も、学名に日本と付くことからも、日本特産ユリの代表です。東日本に多いヤマユリに対応するように、本州中部以西に集中的に分布し、多くの地方亜種があります。ユリの仲間では比較的早く、6月初旬ごろから咲き始め、梅雨の季節を濡れそぼりながら咲きつぎます。花は薄桃色にほのかな斑が入り、雄しべの葯の朱色との対比が愛らしく、可憐さが際立ちます。葉は互生して細長く、ササの葉に似るために「笹百合」と呼ばれます。日本には西洋のような百合信仰や偏愛はほとんど見られませんが、奈良市の率川(いさがわ)神社に伝わる6月半ばに行われる三枝祭(さいくさのまつり)では、祭神の姫蹈鞴五十鈴姫命(ひめたたらいすずひめのみこと)に捧げる酒蚘(しゅそん)にそえる神饌に狭韋(さゐ)、つまり笹百合の花を飾り、巫女がササユリを手に持ち舞いを奉納する、特異なササユリ信仰が見られます。
このササユリとよく似て、東北地方の山岳地帯特定で分布するのがオトメユリ(乙女百合 Lilium rubellum)、別名姫小百合です。その名にたがわぬ愛らしいユリです。葯がヤマブキ色で、朱色のササユリと区別できます。花期は6月から8月ごろ。
スカシユリ(透百合 Lilium maculatum Thunb.)は、磯の崖地や砂浜などの海浜地帯に分布し、ユリの中では唯一、近代以前から栽培品種としても育成されてきました。このため自生種をイワトユリ、栽培種をスカシユリ、と区別する場合があります。ヨーロッパに渡ってもスカシユリはさまざまな交配の母種として珍重されてきました。燃えるような濃いオレンジの花を、真夏の太陽をものともせず上向きに咲かせます。「透かし」という名前は、花弁の基部付近の幅が細くなり、花弁と花弁の間にすき間ができる形状に由来します。葉は互生でびっしりと密に付き、直立します。男性的な力強さを感じさせるユリです。
カノコユリ(鹿の子百合 Lilium speciosum)は、西南日本、とりわけ九州に多く自生する日本特産種で、花弁の縁が白く、中央は鮮やかなピンク、そして濃い赤の斑が入ります。この斑を小鹿に見立てて「鹿の子」とつけられました。ヨーロッパの園芸品種作出のためにも盛んに使われました。ヒメユリ(姫百合 Lilium concolor var. partheneion)とともに、日本産ユリの中でも一、二を争う美女中の美女と言えるかもしれませんが、今や自生の個体は滅多に見られなくなりつつあります。
伝説の夢魔「リリス」とユリは関係があった?
日本では古来、ユリは食用として利用され、花のほうは美しさこそ感じていたものの、ユリの花特有の強い芳香や色の濃い大量の花粉などが、若干敬遠されていたようです。
ヨーロッパでは、ユリはバラについで愛される花でしたが、ヨーロッパ全体で自生するユリは9種ほどしかなく、19世紀に日本産のユリが渡来して知られるようになるまでは、品種作出もほとんど行われてこなかったようです。
しかし、江戸時代末期の文政12(1829)年、フランツ・フォン・シーボルトが日本のカノコユリとテッポウユリ(鉄砲百合 Lilium longiflorum)の球根を持ち帰ると、愛らしいカノコユリはもちろん、純白で豪華なテッポウユリは、めぼしいユリといえばマドンナリリーくらいだったヨーロッパで大流行し、復活祭の祭壇を飾るイースター・リリーとして定着します。そして、明治6(1873)年のウィーン万国博覧会で日本の自生ユリの数々が持ち込まれて紹介されるや、熱狂的なブームが起こります。日本中の山野から大量の自生ユリの球根が掘り出されて輸出され、絹につぐ第二位の主要輸出品目となりました。
西洋では日本産のユリから、次々に美しい園芸品種が生み出されています。スカシユリとオニユリ(鬼百合 Lilium lancifolium)から鮮やかな紅色のアジアティック・ハイブリッド、カノコユリとヤマユリ、ヒメサユリの交雑からは、カサブランカなどの品種で有名な、豪華絢爛なオリエンタル・ハイブリッド、テッポウユリとスカシユリの交雑から花色も姿も豊富で明るいLAハイブリッドと、世界のユリの園芸産業は、日本産ユリを基にして、一気に「花開いた」のです。これらの花が日本のユリを基にして作られたのは誇らしい反面、そのために全国からユリが掘りつくされ、今や絶滅危惧種が多くなってしまったことは、やはり残念に感じます。
「ゆり」という花の名は、これほど目立つ野の花にも関わらず変化・異例・方言は少なく、極めて安定した単語で、それはこの言葉の起源の古さを示唆しています。「ゆり」には「後に」「将来」といった意味があったことから、その枕詞として「ゆり」という言葉も使われました。語源については諸説ありますが、「ゆら」「ゆれ」「ゆる」など、大きな花が茎の上部で風に大きくゆらぐさまから来ているという説が有力です。
古代シュメールの三大神の一柱、「神々の王」「国々の王」エンリルは、洪水と暴風を巻き起こし、人に罰を与える神であり、「風の主」とも言われていました。この風の主エンリルは、旧約聖書のイザヤ書やユダヤ教のタルムード(モーセ口伝律法)に記載が見られる夜の夢魔で男性を誘惑する悪魔として描き出され、アダムの最初の妻とも伝わるリリス(Lilith またはリリト/Lilit)の父神とも伝わります。リリスにまつわる逸話・歴史的経緯はきわめて興味深いのですが、その論考はいずれの機会に譲りたいと思います。
リリス自体も「風の女」の異名があり、ユダヤ伝承に見られるリリスのふるまいも、まさにつむじ風のよう。風を通じてユリとリリスはつながります。もしかしたらこの「世界で最初に生まれたと言われる女性」の名が、遠い史前にこの国にも伝わり、「ゆり」という名になったのかもしれません。
関連リンク
関連記事
- 「観葉植物を世話しておいて」→同居人が植物と読書やカードゲームで遊ぶ様子が送られてくる
“お世話”のクセが強い。 - 「ヤギまみれの木」に「血まみれのキノコ」……? 奇妙な植物を紹介する『誰かに話したくなる あやしい植物図鑑』発売
“あやしい”植物や菌類96種を記載した図鑑。くわしい解説や生息地のマップもついています。 - 「観葉植物と暮らす上で大切なたった2つのこと」 育てるコツを漫画で優しく解説
シンプルだけどとても大切なこと。 - クソリプが飛んできても完全撃退できそうな植物が話題に
追加効果:ダメージ反射。 - 「山奥で雪見だいふく採取してた」 白くてふわふわな植物「ユキモチソウ」がかぶりつきたい雪見だいふくっぷり
ただし有毒。
Copyright (C) 日本気象協会 All Rights Reserved.
-
新1000円札を300枚両替→よく見たら…… 激レアな“不良品”に驚がく 「初めて見た」「こんなのあるんだ」
-
「博物館行きでもおかしくない」 ハードオフ店舗に入荷した“33万円商品”に思わず仰天 「これは凄い!!」
-
家の壁に“ポケモン”を描きはじめて、半年後…… ついに完成した“愛あふれる作品”に「最高」と反響
-
「マジかーーー!」 新札の番号が「000001」だった…… レア千円を入手した人が幸運すぎると話題 「555555」の人も現る「御利益ありそう」「これは相当幸運」
-
浅田真央、男性と“デート” 驚きの場所に「気づいた人いるかな?」
-
身内にも頼れず苦労ばかりの“金髪ギャルカップル”→10年後…… まさかまさかの“現在”に「素敵」「美男美女でみとれた」
-
海岸で大量に拾った“石ころ”→磨いたら…… 目を疑う大変貌に「すごい発見!」「石って本当にすてき」【カナダ】
-
トイレットペーパーの芯を毛糸でぐるっと埋めていくと…… 冬に大活躍しそうなアイテムが完成「編んでるのかと思いきや」【海外】
-
生後1カ月の保護子猫、後頭部を見るとあのアルファベットが……→9カ月の現在にびっくり 「プレミアム猫」「本当にPですね」
-
辻希美、17歳長女・希空に「ダサすぎるって」とツッコんだ格好
- ザリガニが約3000匹いた池の水を、全部抜いてみたら…… 思わず腰が抜ける興味深い結果に「本当にすごい」「見ていて爽快」
- ズカズカ家に入ってきたぼっちの子猫→妙になれなれしいので、風呂に入れてみると…… 思わず腰を抜かす事態に「たまらんw」「この子は賢い」
- フォークに“毛糸”を巻き付けていくと…… 冬にピッタリなアイテムが完成 「とってもかわいい!」と200万再生【海外】
- 鮮魚スーパーで特価品になっていたイセエビを連れ帰り、水槽に入れたら…… 想定外の結果と2日後の光景に「泣けます」「おもしろすぎ」
- 「申し訳なく思っております」 ミスド「個体差ディグダ」が空前の大ヒットも…… 運営が“謝罪”した理由
- 「タダでもいいレベル」 ハードオフで1100円で売られていた“まさかのジャンク品”→修理すると…… 執念の復活劇に「すごすぎる」
- 母親から届いた「もち」の仕送り方法が秀逸 まさかの梱包アイデアに「この発想は無かった」と称賛 投稿者にその後を聞いた
- ある日、猫一家が「あの〜」とわが家にやって来て…… 人生が大きく変わる衝撃の出会い→心あたたまる急展開に「声出た笑」「こりゃたまんない」
- 友人のため、職人が本気を出すと…… 廃材で作ったとは思えない“見事な完成品”に「本当に美しい」「言葉が出ません」【英】
- セレーナ・ゴメス、婚約発表 左手薬指に大きなダイヤの指輪 恋人との2ショットで「2人ともおめでとう!」「泣いている」
- 「何言ったんだ」 大谷翔平が妻から受けた“まさかの仕打ち”に「世界中で真美子さんだけ」「可愛すぎて草」
- 「絶句」 ユニクロ新作バッグに“色移り”の報告続出…… 運営が謝罪、即販売停止に 「とてもショック」
- 「飼いきれなくなったからタダで持ってきなよ」と言われ飼育放棄された超大型犬を保護→ 1年後の今は…… 飼い主に聞いた
- アレン様、バラエティー番組「相席食堂」制作サイドからのメールに苦言 「偉そうな口調で外して等と連絡してきて、」「二度とオファーしてこないで下さぃませ」
- 「明らかに……」 大谷翔平の妻・真美子さんの“手腕”を米メディアが称賛 「大谷は野球に専念すべき」
- 「やはり……」 MVP受賞の大谷翔平、会見中の“仕草”に心配の声も 「真美子さんの視線」「動かしてない」
- ドクダミを手で抜かず、ハサミで切ると…… 目からウロコの検証結果が435万再生「凄い事が起こった」「逆効果だったとは」
- 「母はパリコレモデルで妹は……」 “日本一のイケメン高校生”グランプリ獲得者の「家族がすごすぎる」と驚がくの声
- 「ごめん母さん。塩20キロ届く」LINEで謝罪 → お母さんからの返信が「最高」「まじで好きw」と話題に
- 「真美子さんさすが」 大谷翔平夫妻がバスケ挑戦→元選手妻の“華麗な腕前”が話題 「尊すぎて鼻血」