実は親和性の高いトランプ氏とGAFA〜リベラルとは程遠いシリコンバレーの実情
シリコンバレーで何が起きているのか、佐々木俊尚氏が解説。
ニッポン放送「飯田浩司のOK! Cozy up!」(8月19日放送)にジャーナリストの佐々木俊尚が出演。アメリカのソフトウェア企業のオラクルが中国のTikTok買収に参戦したニュースについて解説した。
アメリカのソフトウェア大手オラクルがTikTok買収に参戦か
イギリスの「フィナンシャル・タイムズ」は8月17日、アメリカのソフトウェア大手オラクルが、中国の動画投稿アプリ「TikTok」の一部事業の買収について事前協議を行ったと報じた。TikTok買収については、マイクロソフトが交渉を進めている状況である。
飯田)マイクロソフト以外に、ツイッターも出ていましたよね。
佐々木)オラクルで3社目です。オラクルの社長であるラリー・エリソンさんは、シリコンバレー有数の大金持ちで有名ですが、トランプ支持者です。アメリカのIT企業で、トランプ支持者は少しだけいます。有名なのは、ペイパルという決済サービスの創業者であるピーター・ティールさんです。
GAFAはリベラルを自称しているので、トランプ支持ではありません。しかし、本当にGAFAがリベラルでトランプさんに反対なのかと、必ずしも言えないねじれた構造が裏側にはあります。
トランプ大統領は新自由主義的なところが発祥〜本当はシリコンバレーと親和性が高い
佐々木)アメリカの民主党のようなリベラルの勢力は、やたらとLGBTや移民のことを取り上げますが、中西部の白人貧困層は相手にしていません。そういうことに対する怒りがトランプさんを当選させたと、前回の大統領選では言われました。トランプさんは白人貧困層の味方だと言っていますが、自身は大金持ちです。
実はトランプさんは、白人貧困層を包摂して支えるというよりも、新自由主義的に、自由な資本主義で稼ごうというところが発祥の人です。選挙に勝つために、白人貧困層の味方と言っていたところがあります。
新自由主義的な思想で言うと、アメリカのシリコンバレーはまさしく新自由主義です。
飯田)規制はどんどんなくした方がいい。
佐々木)お金を稼いで国を豊かにするので、政府は何もしなくていいから我々に任せて、という発想が根本にあります。
本当はトランプさんとシリコンバレーは親和性が高いはずですが、あえてGAFA側は言わないで来ました。なぜなら、シリコンバレーはリベラルで自由な民主党的なものの味方だと訴えて来たからです。
飯田)カリフォルニアは民主党の強固な地盤ですからね。
足元の貧困を見ずに豊かな生活をするGAFAの欺瞞〜リベラルのメッキが剥がれて来た
佐々木)そこが欺瞞だと思うのです。シリコンバレーのネット企業はLGBTや移民など、民主党寄りの話を言っていますが、足元の貧困にまったく目を向けていない。シリコンバレーに行くとアップルなどの本社が並んでいて、最上階のカフェでお酒を飲み、ジャズを聴いている。広大な緑地のなかにあるキャンパスと呼ばれる場所では、おいしいものが食べ放題で、豊かな生活をしています。
そこでLGBTや地球温暖化などと言っていますが、本社から一歩出ると、そこにはホームレスがあふれています。しかも、裕福なGAFAの社員たちが住んでいるせいで家賃が上がっていて、普通の人が住めなくなっています。
サンフランシスコのワンルームの家賃は30万円ですよ。そんなところに日本人は住めません。ところが彼らは、足元の貧困についてはまったく何も言いません。
法人税を上乗せしてホームレス対策をする法案を提出したマーク・ベニオフ
佐々木)最近、「セールスフォース」というシリコンバレーで有名なBtoBの会社がありますが、社長のマーク・ベニオフさんが『トレイルブレイザー』という本を出しました。彼はそういう風潮が嫌で、カリフォルニアの法人税を何%か上乗せしてあげて、そのお金でホームレス対策をするという法案をつくって提出したのです。そうしたら、シリコンバレーのネット企業はこぞって反対しました。
飯田)法人税は払いたくないということですね。そもそもタックスヘイブンを使って、ほとんど法人税を払っていないのに。
佐々木)それは欺瞞ではないですか。そういう状況のなかで、私たちはリベラルではなく、民主主義でもなく、新自由主義であり、「だからトランプさんと仲よくするのだ」と言ってしまうペイパルのピーター・ティールさんのような人が出て来ます。身もふたもないですが、真っ当だと思います。
飯田)そちらの方が、主張がすっきりしていますよね。
佐々木)正直ですよね。ラリー・エリソン氏がなぜトランプ支持なのかを調べましたが、あまり明快なことは言っていません。「現在の政権を支持するのが我々の仕事だ」と言っているだけで、政治思想については語っていませんでした。
シリコンバレーでも、拠って立つリベラリズムが何なのかが崩れるなかで、正直な姿勢を見せる人が出た感じがします。
飯田)ビジネスの世界で、「お金は正直」というところがありますよね。それでやっていた人たちが欺瞞だということになって来たのは、リベラルのメッキが剥がれて来ているようですね。
GAFAのような富裕層からの税金の分配を考えるべき〜アメリカの分断は広がるばかり
佐々木)GAFAのような会社が巨大化し、お金持ちになるなかで、格差は広がっているわけです。日本とは比べ物にならないくらい、富裕層への資産集中が起きています。しかも、コロナ禍で一般労働者の給料が減っているにも関わらず、アメリカでは富の集中がさらに激しくなっています。
この前もニュースで観ましたが、アメリカで高級ヨットやクルーザーが売れまくっていると。なぜいま10億円ほどかけて買うかというと、3密を避けて暮らせるからだそうです。
飯田)海の方が風が吹くし、ウイルスはいないと。
佐々木)経済学者のトマ・ピケティ氏は『21世紀の資本』で、「資本収益の方が労働で得られる給与より増えて行く」と言っています。いかにGAFAのようなところから税金を取って分配するかを、国際社会は考えなければいけないのですが、それにGAFAは答えず、一方で「我々はリベラルだ、民主党だ」と言っている。
この問題を解消しない限り、アメリカの分断の問題は解決しないと思います。(radikoのタイムフリーを聴く)
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