DV被害相談に「大袈裟」「ウソ」――cakes人気連載“炎上”の背景と再発防止策をnote社に聞いた(1/2 ページ)
DVやモラハラ被害者への二次被害ではないかと指摘されていました。
写真家の幡野広志さんによるデジタルコンテンツプラットフォーム「cakes」上での人生相談連載「幡野広志の、なんで僕に聞くんだろう。」が物議をかもし、cakes編集部(note社)と幡野さんが謝罪声明を発表しました。
「幡野広志の、なんで僕に聞くんだろう。」は送られてきた相談に対して、幡野広志さん(以下、幡野さん)が回答する人生相談。相談者に対して必ずしも共感を表さないスタイルや、ざっくばらんな語り口、ストレートで強い言葉などで支持を得ていました。
相談者に「大袈裟」「ウソ」
今回問題となったのは、10月19日に掲載された「大袈裟もウソも信用を失うから結果として損するよ」(現在は削除)です。相談者は、夫による深夜まで説教というモラハラ、実家に帰ろうとすると夫の実家に引きずって行かれたというDV行為、未明まで遊び歩いた上での事故などに苦しむ20代の女性。子どもがいて離婚の決心がつかない――という内容でした。
幡野さんは相談者の発言内容が事実ではないとし、「大袈裟にいってない?」「あなたのウソは相手を陥れるものだからちょっと悪質だとおもうよ」と“指摘”。また、相談者が母親であることから、子どもに父親を悪く言うことで印象操作する「大袈裟ママ」というニックネームまで登場します。
そして、大袈裟に話を盛ってしまうのは相談者が孤独であるからだとし、「旦那さんのことは一度忘れて自分のことを考えてみましょう」と回答をしめくくっていました。
著名人、医療関係者が賛同。二次被害だという批判も
上記の回答をもとにした記事は、「夫からDVとも言える仕打ちを受けているという今回の相談者。ただ、違和感のある相談文に、幡野広志さんは何を感じたのでしょうか」というリード付きで掲載。記事には著名なコピーライターや医療関係者などが、幡野さんの回答に肯定的なコメントを寄せていました。
一方でDV被害を告白した人を嘘つきと断定することは二次被害であると抗議する声や、「#DVや性被害を嘘だというのはやめてください」というハッシュタグ投稿も広がりました。なかには自身や家族が被害に遭っていたという人からの声も。その後、幡野さんとcakes編集部は相談者を嘘つきと決めつけたことについて謝罪した上(10月19日に公開された幡野広志氏の記事に関するお詫び/10月19日に公開されたぼくの記事について)、22日に記事を削除しました。
幡野さんは10月26日にあらためて掲載した記事で「19日に公開された記事が発端でDV被害の二次被害を増長させてしまったこと、DV被害の経験者の方を苦しめてしまったこと、DV被害について無知であるにも関わらずウソと決めつけて記事を書いたことを、深くお詫びします」と謝罪。
いったん相談者を名乗る人物(のちになりすましと判明)からの依頼に従って記事を削除し、後日本物の相談者からあらためてメッセージがあり、記事の削除や掲載は編集部の判断にゆだねるが、削除に至った経緯は説明してもらいたいという依頼があったとしています。
相談者と何度かやりとりをする中で、「それ(※ねとらぼ注:DV被害の実態)を踏まえて読み返してみても、ぼくの回答は全く的外れと反省しました。そしてDVについて無知であるにもかかわらず、回答をしたことを申し訳なく感じています。みきさんとメッセージのやりとりをして、たくさんの人に指摘をしてもらって、すこしだけ勉強もしはじめて、今はみきさんがウソをついているとはおもっていません。本当にごめんなさい」と重ねて謝罪しています。
どうしてこのようなことは起こってしまったのか。相談者や同様の被害を受けていて記事を読んでしまった人へのフォローはないのか。cakesを運営するnoteのPR担当者に話を聞きました。
DV被害者への二次被害、事前に防ぐことはできなかったのか
――今年に入って、芸能人などが誹謗中傷で自殺に追い込まれたことで、SNS上での攻撃が大きなダメージを与えることが認識されつつあります。質問者は匿名のため、個人への攻撃は起こり得ませんが、被害の訴えに対して否定的な本文・およびリード文の記事が拡散されることが、質問者や同じ境遇にある女性に精神的な苦痛を与えてしまうことを予想されなかったのでしょうか。
PR担当者:認識不足や相談者への配慮不足により、掲載当初は予想できておりませんでした。現在はことの重大さを担当者はじめ全社で共有しており、これ以上の二次被害を防ぐために元の記事は削除しております。相談者様、DV・モラルハラスメント被害者の皆様に改めてお詫び申し上げます。
SNSでの誹謗中傷にはとても心を痛めており、だれもが安心して使えるものにするために感情的なコメントを未然に防ぐための様々な取り組みをおこなってきました(コメント前の確認画面掲示など)。ただ、そのようなスタンスにありながら、今回の件を引き起こしてしまったことを深く反省しております。
――cakesでは記事の一部が有料会員向けとしており、記事の途中から有料になるものも多数存在します。今回の幡野さんの記事も回答の半ばで有料となり、その先は会員しか閲覧できない構成に。しかし、掲載途中で無料の閲覧可能部分が少なくなり、回答の冒頭までしか読めなくなっていた期間がありました(現在はいずれも削除)。Twitter上では批判をかわすためではないかという声もありましたが。
PR担当者:無料で閲覧可能な箇所の変更は、本記事だけでなく、すべての記事に対して閲覧状況を見ながら調整を行っております。そのため、特別な意図はございません。
――cakes編集部は相談者に対してDV相談やシェルターなどを紹介するといったフォローはしたのでしょうか。また、相談者と同様の立場にある読者へのフォローをする予定はあるでしょうか。
PR担当者:幡野さんと相談者で個別にやり取りをして、ご本人の意思で安全な場所に避難したことを確認しております。同様の立場にある読者へのフォローとしては、近日中にcakes編集部から改めての謝罪と私たちがやるべきことについて、文章にしてご報告する予定です(ねとらぼ編集部注:10月27日に掲載)。
――どのようなスタンスで幡野さんに回答してもらう相談を選んでいるのでしょうか。編集部が選んでいるのか、それとも幡野さんが選んでいるのでしょうか。
PR担当者:著者本人に選定をしていただいています。
――コンテンツを通して、誰かや一部の属性に対して非難が集中しないために、再発防止策を取る予定はありますか。
PR担当者:多様性を重視して、特に弱い立場の方が声をあげて届けられるような社会を促進するべき私たちが起こしてしまった責任は非常に重いと捉えています。あってはならないことでした。今後、専門家や当事者の方がたから学び、多様性ある社会へと前進させるため、cakes上での具体的なアクションを続けていく予定です。
人気連載のあやうさ
今回問題となった「幡野広志の、なんで僕に聞くんだろう。」は、多くの読者に支持され、書籍化も果たしている人気連載です。記事を引用したツイートからは、相談内容に出てきた子どもに幼少期の自分を重ねて、相談者への叱咤に「救われた」とコメントする人や、言い回しや表現にユーモアを感じた人、相談者への鋭い指摘に爽快感を覚える人がいたことがわかります。
ただ今回に限らず、相談者の発言を「ウソ」とする回答があったり、cakes編集長との対談(なんで恋愛のことをぼくに聞くんだろう?/HSPの良い面がたまたまこの連載で出ているだけ)では「たくさんの相談文に目を通してると嘘かどうかが自然とわかる」という発言があり、編集長も同調しています。以前から断定的な傾向があり、回答に対するブレーキやチェックが働きにくい体制だったことがうかがわれます。
幡野さんは謝罪文のなかで「DVについて無知であるにもかかわらず、回答をしたことを申し訳なく感じています」と述べており、多くの人からの指摘を受けDVについて調べたと言います。note社の回答を踏まえると、その状態でたくさんの相談の中から「大袈裟ママ」と言いたくなるような相談を自らチョイスしたことや、質問者への対応を幡野さん1人に任せることにはいまだ疑問や懸念が残ります。
今回の“炎上”には、謝罪文にあるように幡野さんやcakes編集部それぞれに問題はあると思われますが、ウェブ上のコンテンツを楽しむ読者にとっても、書かれていることをうのみにして拡散しないリテラシーの大切さや、実在する人や物事について語られるとき「すっきり」させてくれるような物言いを求める危険性を実感させる出来事になったのではないでしょうか。
当初の記事に同調して拡散した人とともに、DV被害についての理解を深められることを期待します。
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